この婚約破棄は運命です

朝比奈

文字の大きさ
上 下
3 / 26
一度目の人生

出会いは最悪でした(2)

しおりを挟む


   私は目の前で大きな叫び声をあげ気を失った少年⋯⋯フィンセントの前に座り込みつんつんとその頬をつついた。

「やりすぎちゃったかしら⋯⋯」

  いくら意地悪をしたかったと言ってもまさか、気を失うとは思っていなかったのだ。

(まさか、虫を見せただけでこんなにビックリするなんて⋯⋯)

   いつも、フォリス男爵家の近くにある森に行っては木に登ったり、虫を捕まえたりしているクリスティーナからすればダンゴムシやミミズは小さなお友達だったが、それらが一般的に気持ち悪がられるのも知っていた。

「もう、嫌われちゃったかしら⋯⋯」

   クリスティーナは初めてお友達になれそうだった子を目の前に、もう謝っても怒って友達になってくれないかもしれない、と目に涙をにじませた。

   そもそもクリスティーナはショックを受けていたのだ。目の前の少年に無視された事に傷ついていた。

   やがて、とうとうクリスティーナの我慢していた涙はぽたぽたと床に落ちた。

   そしてちょうどその時、部屋の扉が開きクリスティーナの見慣れた顔が現れた。

「お父様ッ!」

「クリスティーナ!?  それに、フィンセント君もどうしたんだい!?」

   クリスティーナは思わず父親に抱きついた。

   後から、フィンセントの父親⋯⋯マースリー伯爵も部屋に入って来て急いでフィンセントにかけよった。そして、近くに落ちてる大量の虫に目を向けた。そして小さく驚いていたが、クリスティーナ達には聞こえていなかった。

   フォリス男爵は涙を流している娘を抱き上げて事情を聞いた。

「どうしよう⋯⋯お父様。私、フィンセント君に嫌われたかもしれないわ」

「クリスティーナ。何があったんだい?」

   クリスティーナはやっと落ち着いてきた涙を手で拭いながら、父親とマースリー伯爵に事情を説明した。

   要約するとこうだ。
────普通に話しかけても無視されたので、ちょっとだけ意地悪しようと思って虫を集めてみせたらびっくりしたフィンセントが気を失った。

   最初は倒れているフィンセントと泣いているクリスティーナに何事かと心配していた二人は事情を聞くと顔を見わあせて笑った。

「じゃあ、クリスティーナはフィンセント君が心配で泣いていたのかい?」

   クリスティーナはその質問に首を横に振った。

「いいえ、お父様。フィンセント君が私の事を嫌いになったから⋯⋯、もう、お友達になれないって思ったら、悲しくなったの⋯⋯」

「それはフィンセント君から聞いたのかい?」

「え⋯⋯?」

「大丈夫だよ。クリスティーナがきちんと謝れば、きっとフィンセント君も許してくれる」

「⋯⋯ほんとに?   お友達になれる?」

「ああ。きっとなれるよ」

   その言葉にクリスティーナの顔はパァっと明るくなった。

「じゃあ、私、フィンセント君に謝るわ!そして、友達になってもらうようお願いするわ!」

   クリスティーナが明るくなったことに、マースリー伯爵とフォリス男爵は優しい笑みを浮かべていた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


   それからクリスティーナは気を失ったフィンセントの隣に居座った。目を覚まして一番に謝ると言って譲らない娘に男爵も苦笑しながらも了承した。

   隣にいるマースリー伯爵は何故かニヤニヤしていたがこの時のクリスティーナには自分がどう見られているのかは分からなかった。

   やがて、フィンセントが起きるのをベットの傍に椅子をくっつけて見ていたクリスティーナはフィンセントの寝顔になんだか眠たくなってそのままベットに突っ伏したまま眠ってしまった。

   そんなクリスティーナをフィンセントの隣に寝かせてあげたのは男爵か伯爵か⋯⋯。

   クリスティーナは何も知らずすやすやと熟睡した。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

処理中です...