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第一章

セイラの湖(3)

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馬車から見る景色はとても楽しかった。
お兄様と仲良くお喋りしながらだったので二時間なんてあっという間だった気がする。

(うぅ、でもお尻は痛い。)

それはそうと、ここからは馬車が通れない道なので少し歩く事になった。

「アンジェ大丈夫?」

「えぇ、お兄様、全然っ、平気、ですわ」

肩で息をしながら何とか答えると、お兄様が手を繋いで少しペースを落として歩いてくれた。

そうして、やっと着いたセイラの湖はとても美しかった。まさに神秘的な場所だ。なるほど、確かに、精霊がいると言われても納得してしまう。

セイラの湖は聞いていた通り森の中にあった。湖の周りには、白からピンク系の可愛い花がたくさん咲いており、私は興奮のあまりお兄様の手を引いて走り出す。

「お兄様っ!ここは、とっても、とっても素敵ですわねっ!わたくし、ここがとても気に入りましたわっ!」

「わっ!アンジェっ!急に走ったら危ないじゃないかっ!ふふっ、アンジェが気に入ってくれて良かった」

「ねぇ、お兄様っ!もっと奥の方に行ってみましょう?なんかあっち、キラキラしてて素敵ですわ!」

「え?あっ!アンジェ!落ち着いてっ!」

わたくしはお兄様の制止の声を聞かずに私は一人駆け出した。

(すごい!すごい!とってもきれいっ!)

本当、現実にこんな場所があるなんて、とアンジェリカは感動していた。だから、気付かなかったのだろう、アンジェリカはそこで男の子とぶつかってしまった。

「うわっ!」

「きゃっ!ご、ごめんなさいっ!」

アンジェリカは慌てて謝罪をした。
そして、その男の子の顔を見て固まった。
それは、男の子も同じだった。

「え、あ、アレクシス・・・」

「え?な、なんでっ、あ、あなたは、」

と、そこでわたくしを追いかけてきたお兄様がやってきた。

「アンジェ、大丈夫っ!?そこの君も立てる?」

そして、お兄様もその男の子の顔を見た瞬間固まった。

それもそうだろう、その男の子は父とそっくりだったのだから。綺麗な黒髪に赤い瞳。お父様と同じ色を持つ、わたくしにもどことなく似ている男の子。

お兄様もこの男の子が弟とは分からなくても、血縁である事には気付いたんじゃないだろうか。

「君、名前は?」

三人で固まっていると先に動いたのはお兄様だった。

男の子はわたくしとお兄様を、交互に見ておずおずと自分の名前を名乗った。

「ア、アレクシスです。あの、ぶ、ぶつかって、ごめんなさい。」

「いえ、わたくしこそ、前を見ていなくて・・・。怪我はしていない?えと、貴方の親はどこにいるの?」

「あの、僕、親、いない。かあさんが、死んでから、孤児院で暮してる、です。」

その言葉に、わたくしとお兄様は顔を見合わせて頷き合う。

「あの、もし良かったら一緒に遊ばない?今日はここにピクニックしに来たの。美味しいサンドイッチもたくさんあるのよ?」

わたくしの言葉にアレクシスはぱっと笑顔になった、そして少し迷った後、ふるふると首をふって拒否した。

「僕、孤児院から、黙って出てきたから、そろそろ帰らないと、いないってことが、バレちゃう。」

「ふふっ、大丈夫だよ、あとから僕らも一緒に謝りに行くから、お腹すいてるんじゃない?遠慮しなくて良いよ。」

そう言ってお兄様はアレクシスの頭を撫でた。
結構、アレクシスは迷った末に、食欲が勝ったのか一緒にピクニックをする事になった。

(まさかアレクシスに会えるとは思っていなかったけれど、やっぱり、もう、お母様はしんでいたのね。)

お母様がどうやって死んだのかは分からないが、記憶にない実の母の死を知って泣きたくなった気持ちを見ないフリしてわたくしはアレクシスに手を差し伸べた。

「初めまして、わたくしの名はアンジェリカ、アンジェリカ・ガートンよ。ふふっ、お姉様って呼んでもよろしくってよ!アレクシス。」

「僕は、シャンス・ガートン、アンジェの兄だよ。僕の事もお兄様って呼んでいいからねっ!」

わたくしとお兄様の満面の笑みを真正面から受けたアレクシスは顔を真っ赤にして固まってしまった。
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