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第一章
セイラの湖(1)
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お父様からお兄様の呪いについて話を聞いた後、私はフラフラとおぼうがない足取りで部屋に戻った。そう言えば、お父様からもわたくしに何か話があると言っていた気がするけど、その時のわたくしはもうその事を覚えていなかった。
ベットに横になってもなかなか寝れなくて、おかげで今日は少し寝不足気味だ。それに、昨日は夢見が悪かった。
原因は昨日のお父様との話の内容のせいだ。
夢とはいえ、お兄様が目の前で死ぬ夢を見た。夢の中なのに妙にリアルで気持ちが悪かったし、起きた今でも忘れることなく覚えている。
お父様から聞いたお兄様の事については正直まだ信じきれていない部分がある。
けど、お父様は嘘をついているようには見えなかった。
もしも、本当にお兄様が呪いにかかっていたとして、この世界のヒロインであるあの子が巫女なら、私に出来ることはあるのだろうか。
いくら前世の記憶を持っていたって、それを抜いてしまえば私は普通の子供だ。
「はぁ、呪いなんて本当にあると思わなかったわ」
今日何度目かのため息をついた。
せめて、ゲームを全クリしてたら何か方法があったのではないか、と結局何度も同じことを考えてしまう。
最初は自分が悪役令嬢だと知って、なんて嫌な役に転生してしまったんだろうなんて考えていたのに、お兄様に比べれば全然マシだった。
私は前世の記憶を思い出したから、このままではダメだと思って破滅回避のために頑張ることが出来るけど、お兄様はどう足掻いてもどうにもならない。
またため息が出そうになった時、コンコンとノックの音が聞こえてきた。誰だろうと扉に目を向けるとアンジェ?と呼ぶお兄様の声が聞こえてきた。
そのままお兄様を部屋に招き入れると、エリナに頼んで紅茶を入れてもらった。
「お兄様、どうかしたのですか?」
「その、アンジェは、昨日父上から、聞いたんだよね。僕の病気の・・・呪いの事。」
「はい、お聞きしましたわ。」
「・・・あんまり気にしなくていいよ。」
「え?」
「アンジェが気に病むことじゃないから。」
「っ、!」
つん、と鼻の奥が痛くなった。
この人は、お兄様は、また、自分の事よりも私の事を心配しているのだろうか。
私でさえ、近い将来、お兄様が呪いのせいで死んでしまうと聞いて、どうしようもないくらいの怒りと悲しみと自分の未熟さを悔いてぐちゃぐちゃなのに。
気を使わないで欲しい。
私じゃ、頼りないかも知れないけど、思っていることがあるなら言って欲しい。
どうして自分だけなんだとか。
死ぬのが怖いとか。
何でもいいから、私は、気を使われるよりそっちの方がいい。
何も出来なくても、隣にいてあげることは出来るから。
なんて、自分の妹に弱いところなんて見せるのは嫌だよね。
分かってるよ。でも、私は普通の子供じゃないからさ、気持ち的にはお兄様より年上になった気分なんだよ。
だから、わたくしはわたくしの出来ることをする。
うん。思いっきり甘えよう。あんまりキャラじゃないけど、残り僅かなこの時間をちゃんと覚えておきたいから。
それに、今の私は結構な美少女だ。ぶりっ子・・・は難しいけど、出来る範囲で甘えてみよう!
遠慮なんてしないわ。だって、わたくし本当は愛情に飢えていたんですもの。
今まで我慢してきた分、お兄様にたくさん甘えますわ。わがままだって聞いてもらうからね。
せめて、私の前だけでも悲しい事を考えさせないであげたい。いつ死ぬか分からない状況なんて本当は怖くてたまらないだろうけど。
少しでも多く笑っていて欲しいから、無知な子供のふりでも何でもするから、わたくしに振り回されて欲しい。
「お兄様!わたくしピクニックがしてみたいですわ!」
少し涙をためた瞳でお兄様を見つめてニコリを笑った。出来るだけ無邪気に見えるように。
まずは、色んなところに連れ回して見よう。
お兄様の瞳に映る世界が少しでも多く明るいものでありますように。
ベットに横になってもなかなか寝れなくて、おかげで今日は少し寝不足気味だ。それに、昨日は夢見が悪かった。
原因は昨日のお父様との話の内容のせいだ。
夢とはいえ、お兄様が目の前で死ぬ夢を見た。夢の中なのに妙にリアルで気持ちが悪かったし、起きた今でも忘れることなく覚えている。
お父様から聞いたお兄様の事については正直まだ信じきれていない部分がある。
けど、お父様は嘘をついているようには見えなかった。
もしも、本当にお兄様が呪いにかかっていたとして、この世界のヒロインであるあの子が巫女なら、私に出来ることはあるのだろうか。
いくら前世の記憶を持っていたって、それを抜いてしまえば私は普通の子供だ。
「はぁ、呪いなんて本当にあると思わなかったわ」
今日何度目かのため息をついた。
せめて、ゲームを全クリしてたら何か方法があったのではないか、と結局何度も同じことを考えてしまう。
最初は自分が悪役令嬢だと知って、なんて嫌な役に転生してしまったんだろうなんて考えていたのに、お兄様に比べれば全然マシだった。
私は前世の記憶を思い出したから、このままではダメだと思って破滅回避のために頑張ることが出来るけど、お兄様はどう足掻いてもどうにもならない。
またため息が出そうになった時、コンコンとノックの音が聞こえてきた。誰だろうと扉に目を向けるとアンジェ?と呼ぶお兄様の声が聞こえてきた。
そのままお兄様を部屋に招き入れると、エリナに頼んで紅茶を入れてもらった。
「お兄様、どうかしたのですか?」
「その、アンジェは、昨日父上から、聞いたんだよね。僕の病気の・・・呪いの事。」
「はい、お聞きしましたわ。」
「・・・あんまり気にしなくていいよ。」
「え?」
「アンジェが気に病むことじゃないから。」
「っ、!」
つん、と鼻の奥が痛くなった。
この人は、お兄様は、また、自分の事よりも私の事を心配しているのだろうか。
私でさえ、近い将来、お兄様が呪いのせいで死んでしまうと聞いて、どうしようもないくらいの怒りと悲しみと自分の未熟さを悔いてぐちゃぐちゃなのに。
気を使わないで欲しい。
私じゃ、頼りないかも知れないけど、思っていることがあるなら言って欲しい。
どうして自分だけなんだとか。
死ぬのが怖いとか。
何でもいいから、私は、気を使われるよりそっちの方がいい。
何も出来なくても、隣にいてあげることは出来るから。
なんて、自分の妹に弱いところなんて見せるのは嫌だよね。
分かってるよ。でも、私は普通の子供じゃないからさ、気持ち的にはお兄様より年上になった気分なんだよ。
だから、わたくしはわたくしの出来ることをする。
うん。思いっきり甘えよう。あんまりキャラじゃないけど、残り僅かなこの時間をちゃんと覚えておきたいから。
それに、今の私は結構な美少女だ。ぶりっ子・・・は難しいけど、出来る範囲で甘えてみよう!
遠慮なんてしないわ。だって、わたくし本当は愛情に飢えていたんですもの。
今まで我慢してきた分、お兄様にたくさん甘えますわ。わがままだって聞いてもらうからね。
せめて、私の前だけでも悲しい事を考えさせないであげたい。いつ死ぬか分からない状況なんて本当は怖くてたまらないだろうけど。
少しでも多く笑っていて欲しいから、無知な子供のふりでも何でもするから、わたくしに振り回されて欲しい。
「お兄様!わたくしピクニックがしてみたいですわ!」
少し涙をためた瞳でお兄様を見つめてニコリを笑った。出来るだけ無邪気に見えるように。
まずは、色んなところに連れ回して見よう。
お兄様の瞳に映る世界が少しでも多く明るいものでありますように。
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