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第七話 庭師の青年
しおりを挟む孤児院から戻ってきた私は、8歳のアミュちゃんから貰ったお花の冠を机の上に置いた。
そして気づく。私の部屋には花が飾られていない。今まで大して気にしなかったけれど、何だか無性に花瓶に花を添えて飾りたいと思ってしまった。
運動にもなるし、行ってみようかしら·····?
まだ帰ってきたばかりだったけれど、私は庭に向かって歩き出していた。
「王女殿下、お供します」
「ええ、よろしくね、セリィ」
─────────────────────
そう言えば、最後に庭に来たのは何時だったかしらと、私はぼんやりと思い出した。
確か、幼い頃に、薔薇の花を取ろうとして、顔に蝶が止まったことがあって·····、それで、びっくりして転んで、今度は顔に土がついて·····
ああ、何となくだんだん思い出してきたわ。確かそのあと私はついムカついてしまって、1部の薔薇を全部売り払うように言ったのよね·····。
それ以来、私はここには来ていなかった。
こうして見ると本当に久しぶりだわ。
私は美しく整えられた庭園を見渡した。さて、どのお花にしようかしら?
「王女殿下、もし宜しければ庭師の方を呼んできましょうか?」
「庭師?」
「はい。もしお嫌でしたら、他の騎士をお呼びします」
「いいえ、その庭師を呼んでくれる?」
「·····分かりました」
お花を貰いに来たんだもの。騎士なんか役に立つか分からないわ。
そう思い私はそう口にした。
一瞬、セリィが驚いた顔をしていたけれど、何かあるのかしら?
それから花を眺めながら待っていると、セリィが庭師を探しに行った反対方向から、全身土だらけの長身の青年がやって来た。
もしかしてこの人が庭師の方?
セリィとは入れ違いになってしまったのかしら?
「御機嫌よう」
私はまだ少しだけ離れたところにいる青年に出来るだけ大きな声で話しかけた。──しかし
「·········」
青年は私の方を一度確かに見たのにも関わらず、そのままプイッと顔を背けてしまった。そしてそのまましゃがみ込み、土の状態を確認している。
ちょっと!何よその態度は!いい度胸ね
私を誰だと思っているのかしら?
私は一瞬にしてムカついた。
「御機嫌よう!」
私は青年の真後ろに立ち、声を荒らげた。
そしてやっと青年はこちらを見た。
ちょっと何よその、鬼にでもあったような顔はっ、··········ん?
「貴方、名前は·····?」
「··········です」
「聞こえないわ、何?」
青年は小さな声で何かを呟いた。私はそれを聞き取ることが出来なかったので聞き返した。それでも聞こえなかったので思わず声を荒らげてしまった。
「···············ル、です」
「·····っ、あのねぇ、自分の名前くらいはっきり、堂々と言いなさい!」
「!!!·····す、すみまっ、すみません!」
青年はそう言って怯えた様子で頭を下げる。私はもう一度名前を聞いた。
「貴方の名前は?」
「トオルです·····」
「トオル·····?」
「は、はい」
「·····そう、トオルと言うのね」
(家名は、無いのかしら·····?)
私はそう言いながら、トオルを上から下まで見定めるように見つめた。トオルは相変わらず怯えた様子で私の事を見つめてくる。
「あ、あの·····」
「何をしていたの?」
「えっ」
「ああ、いえ。やっぱりいいわ。」
私は一度首を振り、要件だけを話すことにした。
「·····トオル、貴方ここに居るということは庭師か何かなのでしょう? 」
「え、あ、あの」
「部屋に花を飾りたいの。頼まれてくれるかしら?」
私のその言葉を聞いた瞬間、トオルは何故か驚いたように目を見開いた。
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