4 / 7
4.僕が代わりになったろか
しおりを挟むピーンポーン
「おう」
チャイムを鳴らせば出てくる顔は思ってたより機嫌が悪くて。なによりその格好は予想をしていなかった。
白いシャツのボタンは全開で、肌が見え、下はパンツを一枚履いただけの状態。
部屋に通されれば、そこは客人を受け入れる準備など微塵もできてはいなかった。
机の上に広がるのは食べかけのイタリアンたち。そして、ワイングラスがふたつ。レイのために用意されたものなどない。片方のグラスに付いた口紅はレイの想いを塗りつぶす。
乱れたベッドはいつもなのか。
「わるい。すぐ片付けるから。適当に座って待っとって」
そう言いながら、部屋を見渡してどこから手を付けたらいいのかわからなくなっているリク。動揺しているのはわかる。そうでなかったらこの状態の部屋に相方を呼び出したりはしないだろうから。
「彼女さん?」
この部屋に入らせたのだから、レイにもこのぐらいは踏み込む権利もあるだろう。
「いや…あー…そう。付き合っとった。別れた」
「いま?」
「いま」
「なんでなん?」
「…いい感じやってん。なのに、その子ベッドの中で急に父親の話はじめたんよ…。その子のお父さん不倫が原因で、彼女がちっさい頃に離婚してて連絡も取ってなかったらしいねん。やけど、そんなお父さんから今日連絡あってんねんて。具合良くないらしい。入院してるから来てほしいって。でも断ってんて。断って俺んとこ来たんやて。だから俺言うてん。それは間違っとるって。お父さんに会えるの最後かもしれんねん。やから、会いに行ったりって言うてん。そしたら…あんたには父親に対する恨みとかわからんやろって。あんたになにがわかるんって言われて...」
リクは冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出すと水を喉に流し込んだ。
「そんなんわからんよ。わからんけど、そんなわからんやつにじゃあ言うなよ。俺に背中押したりしてほしかったんやないん?言うってことは自分のなかでも迷いがあるってことやん。迷ってるなら行ったほうがいいやん。って言ったんよ」
「...言ったんや」
リクの言うことは正論やった。
「そう…。そしたら泣かれた。なんで私がそんな怒られなアカンのって言われて。別れるって言って出ていかれたわ」
きっとリクは怒ったつもりはないだろう。だけど真剣な口調はときに誤解を与える。言ったことは至極正しい。ただ、そのとき彼女に必要だったのは正論ではなく、優しさであった。優しく抱きしめて、「大変やったな」と言うだけでよかったのだ。
また、リクはひとりだった。
もう一口、水を飲み、自分の前髪をグシャリと握り、うつむくリク。
「…俺、間違っとるか?」
顔を歪ませる。きっとこの状況で最も傷ついているのはリク自身。哀しいまでに正しく相手を想った、自分勝手。
リクもこんな顔するんだ。
そう思ったとき。
「僕が代わりになったろか?」
口をついて出た言葉。 見開かれるリクの目。
「今日だけ僕を好きに使ってええよ」
苦しむリクを見てられなくて、言ってしまった言葉に自らの耳が赤くなるのを感じた。
「ごめん、やっぱ今のなし。忘れて」
「いやや」
撤回の言葉にくい気味に打ち消し。
空になったペットボトルを潰して捨てると、ベッドの上に座るレイに近づいてきた。
そして、右隣に座ったと思ったら抱きしめられる。その身体は思ったよりも冷えていた。
「誰でもええねん。そばにおってほしい…」
耳元でそう囁かれて身体に哀しく、熱が昂る。
目があって、
3秒。
キスが落ちてきた。
20
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
私はあなたの何番目ですか?
ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。
しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。
基本ご都合主義。R15は保険です。
最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜
恋音
ファンタジー
『目的はただ1つ、1年間でその喋り方をどうにかすること』
辺境伯令嬢である主人公はそんな手紙を持たされ実家を追放された為、冒険者にならざるを得なかった。
「人生ってクソぞーーーーーー!!!」
「嬢ちゃんうるせぇよッ!」
隣の部屋の男が相棒になるとも知らず、現状を嘆いた。
リィンという偽名を名乗った少女はへっぽこ言語を駆使し、相棒のおっさんもといライアーと共に次々襲いかかる災厄に立ち向かう。
盗賊、スタンピード、敵国のスパイ。挙句の果てに心当たりが全くないのに王族誘拐疑惑!? 世界よ、私が一体何をした!?
最低ランクと舐めてかかる敵が居れば痛い目を見る。立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、味方から「敵に同情する」と言われながらも、でこぼこ最凶コンビは我が道を進む。
「誰かあのFランク共の脅威度を上げろッッ!」
あいつら最低ランク詐欺だ。
とは、ライバルパーティーのリーダーのお言葉だ。
────これは嘘つき達の物語
*毎日更新中*小説家になろうと重複投稿
Owl's Anima
おくむらなをし
SF
◇戦闘シーン等に残酷な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。
高校生の沙織は、4月の始業式の日に、謎の機体の墜落に遭遇する。
そして、すべての大切な人を失う。
沙織は、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◇この物語はフィクションです。全29話、完結済み。
I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜 人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった 被害者から加害者への転落人生
某有名強盗殺人事件遺児【JIN】
エッセイ・ノンフィクション
1998年6月28日に実際に起きた強盗殺人事件。
僕は、その殺された両親の次男で、母が殺害される所を目の前で見ていた…
そんな、僕が歩んできた人生は
とある某テレビ局のプロデューサーさんに言わせると『映画の中を生きている様な人生であり、こんな平和と言われる日本では数少ない本物の生還者である』。
僕のずっと抱いている言葉がある。
※I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜
※人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった
金犀学園は秘密の花園!?
城山リツ
BL
私立金犀学園は寮完備の男子校
この学校には秘密がある
それは、校門をくぐったら最後
誰でもオトコに目覚めてしまうのである…
これは、そんな男だらけでイヤンな環境に身を置く男子高◯生達の恋愛模様集♡
◎ DK中心のオムニバス集です。
◎ 更新は不定期です。
◎ 本文中の「☆ BONUS TRACK ☆」からエッチな表現があります。
虹ノ像
おくむらなをし
歴史・時代
明治中期、商家の娘トモと、大火で住処を失ったハルは出逢う。
おっちょこちょいなハルと、どこか冷めているトモは、次第に心を通わせていく。
ふたりの大切なひとときのお話。
◇この物語はフィクションです。全21話、完結済み。
◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる