上 下
99 / 100
第三章 美央高1・紗栄子高2

23 中学時代の生徒会

しおりを挟む
<夏休み中に元・生徒会で会いましょう!>
 美央のもとに、中学時代の生徒会役員だった優花からのメッセージが来た。メンバーの顔が浮かぶ。いつもにぎやかで明るい、副会長の衣川章吾。手早く処理してくれる、書記の大塩知幸。積極的で面倒見のいい、江戸川優花。物静かな越路聖子。そして…。
 人当たりがソフトでさわやかで、でも真面目すぎない、頼りになる生徒会長、藤塚直哉。バレー部でもエースアタッカーで、大活躍だった。
 2年の秋から3年の秋までの1年間、美央は副会長としてみんなといつも顔を合わせていた。美央は、直哉のことが好きだった。でも田舎の中学ではみんなが奥手で、付き合うとか告白とか、美央には勇気が出なかった。
 会うのは5ヶ月ぶりだろうか。みんな変わっているだろうか。
<絶対行くね。部活で遅れたらごめんなさい。>



「美央チャンは俺に隠れて初恋の男と再会かあ。」
「別に隠れてないじゃないですか。」
 約束の場所までついて来ると言うので、美央は拓海を引き連れて、駅近くのファミレスに急いでいた。なぜか横には蓮もいる。
「なんで俺まで…。」
「だって、美央の初恋の男を見て俺が逆上したらどうすんだよ。羽交い絞めにしてくれ。」
「ばっかじゃねえの。」
 ファミレスを覗き込むと、すでに5人が揃っているようだった。美央が手を振ると、優花が振り返す。
「じゃあ、先輩また明日。」
「ええ!?追い払うのかよ。」
「だって食事もしないで中に入っちゃ駄目でしょ。」
「~~~。」
 どうにか拓海を説き伏せ、美央はみんなのもとに向かった。
「や~~ん、美央、久しぶり~。」
「優花~みんなも~!…って、大塩君は違うか。」
「違うとか言うなよ。」
「だって今も同じ学校じゃん。」
「あはは、そうだよね。あたしも直哉とはそうだから。」
 振り向くと、中央高校の制服を着て、卒業式の時より少しだけ大人っぽくなった藤塚直哉がいた。視線が合い、少し顔が赤くなるのを感じる。
「久しぶり、橘。」
「うん、藤塚君、元気そうだね。」
 なんともいえないぎこちない雰囲気が漂う。お互いが、お互いを思い切り意識している独特の空気。
「ねえ美央、さっき男の人二人と一緒にいたけど、どっちが彼氏?」
「ええ?」
「あ、やっぱりそうなんだ~。どっちどっち?って、大塩は知ってんだろ?」
「うん、なんかやたら派手な顔立ちの方。」
 身もふたもない表現だが、とてもわかりやすくはある。
「あ、やっぱり?」
「水泳部の2年生で藤堂拓海っていう人なんだけど、あの通り超イケメンだし超有名人なんだ。うちの学校じゃあもう橘も有名人だよ。」
「なんで大塩君が説明するのよう。」
「美央がぼさっとしてるからでしょうが。」
「え?美央ちゃんて水泳部なの?」
「マネージャーなの。泳ぐなんて、選手だなんてとんでもない。」
「でもさっきの人、美央ちゃんのイメージと違うね~。あ、気ィ悪くしたらごめん。」
「いいのいいの。よく言われる。」
「うーん、なんかさー、こういっちゃなんだけどイケメンで顔が派手すぎて、真面目系の美央と雰囲気が違うよね。」
「おーい、橘が好きで付き合ってんだからあんまりそういうこというなよー。」
 さらっとこういうことを言ってくれるのが、直哉なのだ。
「いいのいいの。本当によく言われるから。」
 その後は中学時代の話で大いに盛り上がった。
「じゃあねーまた遊ぼうねー。」
 自転車で家の近くまで来て、一人ずつ散っていく。
 直哉は相変わらず爽やかでいい人だ。美央はふっと笑って、家の中に自転車を入れた。



「じゃあ美央、楽しかったんだね。良かったね。」
「はい。みんな元気そうでよかったです。」
 翌日の練習前。着替え終わった紗栄子はニコッと笑って女子更衣室の出入り口に向かった。
 胃のあたりが重くて、ふうっと息をつく。夏バテだろうか。なんだか今日は体調が悪い。
 ———みんな頑張ってるのにそんなこと言ってられない。
 紗栄子は気合を入れなおして更衣室から出た。



 練習メニューが一区切りの時だった。
 ざばっと勢いよく音を立てて蓮がプールから上がる。
「紗栄子!しっかりしろ!」
 顔面蒼白の紗栄子が目をつぶって必死に立っている。
 自分の体が濡れているのも構わず、蓮は紗栄子の体を抱き上げた。
「大丈夫…。ちょっと貧血…。」
「大丈夫に見えねえよ!」
 蓮ほど慌てた様子を見せず、拓海もプールから勢いよく上がる。部長らしい顔をして、美央の方を振り返る。
「美央。練習仕切って。紗栄子のことはこっちで対応するからみんなは練習続けて。」
「は…はい!」
 美央とて紗栄子が心配だったが、みんなで練習を中断したところで紗栄子の役に立つものでもなさそうだ。
「よし、拓海たちに任せて続けよう!」
「美央、次の練習メニュー!」
 二年生の治弥、一臣が元気よく声を出す。
「はい!」
 そんな頼もしい声を、紗栄子は横になってかろうじて聞いていた。いつも蓮が横になってメンテナンスを受けるマットの上で。
「ごめん…。練習止めて…。」
「止まってない。気にすんな。…気持ち悪い?」
「うん、ちょっと…。」
 表情と顔色からはとても“ちょっと”ではなさそうで、蓮と拓海は顔を見合わせる。
「休んで落ち着いたら家族の人に迎えに来てもらおう。」
「ケータイ、持ってくるか。」
 蓮は紗栄子から女子更衣室の鍵を預かると、中に誰もいないことを確認し、室内の様子をあまりじろじろ見ないようにしながら紗栄子の荷物を取り出した。
「でも…ちょっと横になったら楽になったよ。」
「そう思ってまた普段通りにしてるとぶり返すかもしんない。しばらく休んでろ。」
「部長としても同意見だよ。」
 部長である拓海がどうこう言う前に蓮があれこれと言ってくれるので、拓海はちょっと苦笑いだ。
 ———他の女の子でも同じようにするのか?
 という言葉はさすがに飲み込んだ。
 紗栄子の様子が少し落ち着いたので、拓海と蓮は練習に戻った。みんな紗栄子のことは気になりながらも一生懸命に練習を続ける。
 予定通り練習を終えると、みんなが紗栄子の様子を見に来る。
「とりあえず落ち着いたら俺が送っていくからさ。みんな帰っていいよ。」
 蓮は頭と体をしっかり拭いて、水着の上からTシャツと短パンを着た。紗栄子の側から離れたくないので着替えは後回しらしい。
 後ろ髪をひかれつつ、みんな引き上げていく。美央が後片付けを済ませて最後にプールサイドから出て行った。
「蓮、着替えてきなよ。水着着たままだと気持ち悪いでしょ。」
「目を離した隙にお前が一人で帰りそうで心配だ。」
「信用ないなー…。」
「頑張り屋だから心配なんだよ。」
 そっと紗栄子の手を握る。冷たい。
「大志、午前練習かな。」
「うん。まだまだ終わらないんじゃない?」
 紗栄子の声の調子が少し戻っているので蓮はホッとする。
「まあ一応メッセージ送っとくか。」
「いいよ、心配かけたくない。」
 紗栄子の意見は無視で、蓮はさっさと大志に現状を知らせることにした。
 着替え終わった拓海や久美子や美央が、もう一度プールサイドに顔を出し、蓮に任せて帰っていく。
「ちょっと起き上がってみるね。」
「ゆっくりな。」
 よいしょ、と掛け声をつけながらゆっくり紗栄子が起き上がる。まだ顔色はよくないが、だんだん回復してきている。
「起きてられそう?」
「うん。このまま起きてられるか様子見てみる。…今日はメンテナンスできないね。ごめんね。」
「謝ることねえよ。」
 しばらく二人で話しているうちに、紗栄子はだんだんと会話量も増えていく。
「だいぶ落ち着いてきたな。」
「うん。ありがとう。」
「でも自転車で帰るのはやめとけよ。お母さんにきてもらえるか?」
「自転車おいてくのメンドイ…。」
「明日は送ってもらえばいいだろ。今、無理すんのは俺が許さない。」
 蓮の剣幕はすごくて、紗栄子はため息をついて自転車をあきらめることにした。ケータイで母親に電話をし、迎えに来てもらいたいがゆっくりでいいことを伝えた。
「失礼します!」
 紗栄子の母親がつく前に、すごい勢いでプールサイドのドアが開いた。
「紗栄子、大丈夫か?」
 汚れに汚れた練習着で大志が現れた。
「あー、汚れ払ってから入って来て…。」
「今そんなこと気にしてる場合かよ。マネージャーバカも大概にしとけよ。」
 大志の手が、愛おしそうに紗栄子の顔を撫で、手を握る。嫌がる余裕がなくて、紗栄子はされるがままだ。
「おまえ、今生理だろ?それで具合悪いんじゃん?」
 蓮の胸の奥がざらっとする。
「蓮の前でそういうこと言うのやめてよ…。」
「は?別にエロい話でもねえし。おまえの体調の話だから。」
 確かに大志は蓮の前でマウントをとったりするつもりではなく、純粋に心配して言っている様子だ。
 それでも、紗栄子の“周期”を把握しているのは“エロいこと”が理由でもあるだろう。そう思うと蓮はどんどん心がザラザラする。
「ハグでもなんでもお好きにどうぞ。紗栄子のお母さんが迎えにきたら後片付けしなきゃだから二人きりにできなくて悪いな。」
「ハグなんてしないよー…。」
「いや、したいけど。」
「バカ…。」
 やがて紗栄子の母が現れて、何度も礼を言って紗栄子を連れて行った。
「ありがとな。蓮がついててくれて助かった。」
 言いつつ、大志は———こういう時は、女子のチームメイトや部長の拓海が付き添うわけじゃないのかよ———と思ってもいた。
「いや。たいしたことないといいな。」
 ———“大志の彼女”の面倒を見たつもりじゃない。紗栄子は大事なマネージャーだから———と思いつつ、蓮も口にしなかった。
 表面上はおだやかに二人は別れた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

青春 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:8

【完結】目覚めたら、疎まれ第三夫人として初夜を拒否されていました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,597pt お気に入り:3,044

やらかし婚約者様の引き取り先

恋愛 / 完結 24h.ポイント:34,811pt お気に入り:235

パパのお嫁さん

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

婚約破棄をされたら、お兄様に溺愛されていたと気付きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:2,801

帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:2,169

前世は魔王の俺ですが、今は気ままに猫やってる

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

処理中です...