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第三章 美央高1・紗栄子高2

17 困らせないで

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 県大会の2日後、水泳部の練習が再開された。
「こんにちはー。」
「おつかれー、美央。昨日は遊んだ?」
「はい、カラオケ行きましたよ。紗栄子先輩は?」
「友達とファミレスで超しゃべりまくっちゃった。」
昨日は、『一緒に帰ろう』という拓海の誘いを断って、無理やりひとみやクラスの子達とカラオケに行った。たまには部活からはなれて楽しみたいという気持ちもあったけど、それよりなにより拓海と顔を合わせるのが恥ずかしかったのだ。
「ところでさ、美央。大会のあと、大丈夫だった?」
「え?」
「礼子先輩が来てさ、拓海、不機嫌だったじゃない?」
「ああ、まあ…。」
「礼子先輩、マネとしては最高の人だから。今も清徳大学のマネやってるし。」
「そうなんですか。筋肉のこととかマッサージの仕方とか、すごい詳しいですもんねえ。」
「でも今カノの立場としては、美央は複雑なところだろうし…。なにかあったら言ってね。」
「…はい。」
 プールサイドに向かうと、続々部員が集まってくる。その中の、俊一が小走りに美央に駆け寄ってきた。
「昨日ひとみと遊んだんだって?」
「え?うん。」
「ひとみのこと誘ったら今美央とクラスの子と一緒だよってメッセージ来たからさ。たまには俺らとも遊ぼうぜ。」
 なぜか俊一は辺りを見回しながら、小声だ。その様子が奇妙で、美央は戸惑う。
「う、うん。そうだね。」
「俺も悠季もカラオケ超うまいからさ。な?」
「へえ。俊一はわかるけど、悠季、カラオケうまいんだ。意外。嫌いそうなのに。」
「そうなんだよ、その意外性がウケるんだよ女の子に。バラードとか歌わせらんねえ。うますぎて。」
「なにそれー。」
 俊一と笑いながらも、美央はすごく緊張していた。拓海と顔を合わせて、今まで通り何気なく接する自信がない。いつ来るかいつ来るかと身構えている。そして集合時間まで、あと5分と迫ったとき。
「ちはー。」
 練習開始ぎりぎりで、ご登場。当然ドキッと美央の心臓がはねる。
「なによー、拓海。大あくびしてー。」
「授業の内容がかったるくて。」
 ちらっと振り返ると、拓海は練習用の水着の上に着古したTシャツを着ていた。
「お願いしまーす。」
 勢いよく選手たちが水の中へ飛び込んでいき、ウォームアップが始まる。今日の練習は休み明けだからほんの少しだけ軽めだ。練習メニューが進んでいき、美央はようやく雑念から開放され、波に乗れた。
 練習が終わったのは、いつもより30分ほど、早かった。
「美央っ。」
 着替えにも行かず、拓海が呼び止める。
「今日は、一緒に帰れる?」
 びっしょり濡れた拓海の体が目の前にあって、思わず目を伏せる。
「何でわざわざ聞くんですか?」
 明らかに顔を真っ赤にして声を震わせる美央を見て、拓海は嬉しくもなんとなく意地悪な気持ちになるのを感じていた。
「だって、昨日は断られたからさ。」
「昨日は、別の約束があったからですよ。」
「なあんだよ、そんなおっかない顔して。真っ赤だし。俺のナイスバディに見惚れた?」
 美央の顔はますますゆでだこのようになり、‘こんなところで’とか‘やめてください’とか、あしらう様子が見られない。その様子を、何人かの部員達が目に留め、やがてひそひそと声を立てながら部室へ戻っていく。
さすがにこれ以上は酷かな、と判断した拓海は、わざとおちゃらけて、両手で彼女の両頬をぐりっと握られた。
「せんふぁい、いひゃいれす。」
「変な顔―。」
 げらげらと拓海は笑った。びっくりしてみんながこっちを見る。春菜や紗栄子は、苦笑いだ。
「いつものところで待ってる。」
 拓海は満足そうに笑って、部室のほうへ駆け出した。



 そして、日曜日の午後。
「メシ食って、一緒に俺んちいこ?」
 前日に、
<明日はデートな♪>
と、メッセージをもらっていた。練習後の挨拶が終わるや否や、体の水滴をぬぐうのもそこそこに、拓海は再度確認してきた。日曜は大体いつも練習が午前中で終わりだ。
 お昼を適当に済ませ、拓海の家に向かった。そういえば彼の家に行くのは初めてだ。なにか手土産でもあったほうがいいんじゃないだろうか。
「おおげさだって。友達がうちにくるときなんて何も持ってこないよ。」
 と拓海がしつこく言うので安いプリンを買うことで妥協した。
「まーっ、かわいいお嬢さんねえ。」
「だろ。お陰さまで見る目があるんだよね。」
 拓海の家には両親がいた。控えめに、でも好奇の視線を注がれるのが美央には恥ずかしい。お母さんが飲み物とお菓子を持ってきてくれ、買い物に行ってくるから、と二人で出かけてしまった。
 拓海の部屋は所狭しといくつものメダルや賞状が飾られている。姉も水泳は速かったらしく、一緒に水着で映っている写真を何枚も発見した。今は城北高校を卒業して、東京の国立大学に行っているとのことだ。
「こないだはごめんな?」
 拓海が美央の髪を撫でながら突然呟いた。
「ちょっと余裕なくて、急だったし。」
 髪を撫でていた手のひらが頬を撫でて、かすかに唇に触れる。その仕草がたまらなくて、美央は首を横に振るのが精一杯だった。二人の間の空気が次第に甘くなる。
「怒ってない?」
「…ハイ。」
 満足そうに微笑んで、唇が触れてくる。だんだんとそれは深くなり、口腔内全体をむさぼるように求めてくる。座ったままの姿勢が耐えられなくて、思わずベッドにもたれかかる。
 唇を離すと、拓海はゆっくりと制服のブラウスのボタンをはずし始めた。ブラをつけた胸元があらわになる。その谷間に唇を、舌を這わせる感触がくすぐったい。
「やわらかい…。」
 前回と違い、拓海は余裕を持ってゆっくりと、優しい言葉をかけながら美央の心と体をほぐしていく。
 一方の美央のほうも、二度目ということで、拓海の様子を窺う気持ちの余裕をいくらか持てていた。拓海はゆったりとした笑みをうかべながら、優しく、時として焦らすように美央の体を愛していく。
 拓海以外の男を知っているわけじゃない。でも、拓海の表情や行動から、余裕と自信を感じずにはいられない。いったいどれくらいの人と、何度こんなことをしてきたんだろう。
『安心して。彼はすごく上手よ。なんてったって、私がちゃあんとお世話してあげたから。』
 礼子の言葉が思い出された。礼子の前では、拓海も余裕のない表情をたくさん見せたのだろうか。
 美央がそんなことを考えている間も、拓海の指が、舌が、美央の上で甘く動き回る。何度も高みへと昇らされ、はかないため息が漏れる。
 そんな様子を見て取って、拓海は一度体を離した。必要な準備をして美央の上に跨ると、ゆっくりと唇をふさぐ。しばらくキスを交わしあった後、唇を解放された美央は、起き上がろうとする仕草を見せた。
「美央っ?」
 準備万端の格好のまま、拓海はあとずさった。タオルケットを胸元まで引き上げ、美央は上目遣いに拓海を見つめる。
「あたし、は?」
「ん?」
「どうしたらいいですか?」
「んん?」
 予想外の展開に、さっきまで余裕綽々だったはずの拓海だが、ここへきて少々お間抜けな声を上げている。
「先輩を気持ちよくするには、どうしたらいいですか…。」
 掠れた声でようやくそこまで言うと、美央は拓海を見つめていられずにうつむいた。
 拓海こそこんなのはたまらない。たいがいの女子は拓海とこうなったことに喜び、与えられる快楽にながされ、されるがままになっているだけだからだ。
 ぐ、ぐぐぐぐぐっと、拓海はこの前よりもよっぽど強く、胸の奥を絞られるような感じがした。甘くて強い、痛み。目の前の少女が思った以上に強力な攻撃性を持っていることを、痛感する。おそらく計算ずくではないことを思うと、さらに頭が痛い。
「参ったなあ…。」
 ぼそっと呟いた拓海の声に、美央は顔を上げた。
「えっ?」
「参ったの。」
「え、と…何が、ですか?」
 おずおずと尋ねてくる美央には答えず、ゆっくりと拓海はその体を押し倒した。
「先輩…!」
 勇気を出してたずねたのに、はぐらかされた気がして、美央は抗議の声を上げる。
「美央はなんにもしなくていいよ。」
「でも…!」
「何かされたら俺の身がもたないんだよ。」
 拓海はゆっくりと美央の中に押し入った。
「頼むから、あんまり俺を困らせないでね。」
「あっ…んっ…。」
「俺は美央に夢中なんだから、あんまり健気でかわいい事ばっかりしないでくれよ。」
「やあっ…。」
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