アマノジャク

藍川涼子

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第一部

05 最初の結末 (貴志視点②)

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「キライになりたいなら俺から離れてくれ。」
 飛鳥さんは俺の要求をのまず、やわらかい唇を押しつけてきた。
 ちょっと、たまんないんだけど。
 顔を離すと、飛鳥さんは俺の左手の親指を咥えだした。
「あっ…!?」
 油断したというべきか、飛鳥さんを組み敷いていたはずの俺が、逆に押し倒されている。
 え?押し倒してる?あの飛鳥さんが?俺を?
 理解が追い付かない俺をあざ笑うかのように、飛鳥さんはねっとりとイヤラシイキスをしながらゆるめてあったネクタイを素早く外した。ワイシャツのボタンも外し、胸元に手のひらを滑り込ませる。
「……!?」
 細い指があちこちを撫でるので、ますますたまらない。
 顔を離して体を起こした飛鳥さんは、知的に見える眼鏡をはずして自分のトップスを脱いだ。ブラがあらわになったのを見て俺が手を伸ばすと、パシン!と振り払われてしまった。
「おとなしくしてて?」
 え?こんなことする人なのか?
「あ……!」
 気づいたら飛鳥さんの舌がかたくなった乳首をとらえていた。右手はペニスのあたりを這っている。
 やばい。すげえ気持ちいい。
 純粋な肉体的快楽と、あの飛鳥さんにされているという付加要素とが相まって、俺はしっかりと勃起した。
 ―――このまま気持ちよくされたい。
 カチャカチャとスラックスのベルトを外す音がする。スラックスもボクサーパンツもあっという間に奪われた。
「は…あ…!」
 飛鳥さんの口腔の粘膜が寸分の隙間もなくペニスを覆いつくした。右手は根元をしっかりとつかんでいる。
 吸い上げるようにして唇も舌も根元と先端を往復する。時々先端だけ吸い上げたり、チロチロと舐めたり。
「だめだ、飛鳥さん、イく…!」
 ふふ、とペニスを口に含んだままの笑い声が聞こえた。
 いけないと思いながら、彼女の口の中に射精をしてしまった。
 やばい。むちゃくちゃ気持ちよかった。
 俺が出したものを飲み下して、飛鳥さんは微笑みながらキスを求めてきた。独特な匂いがするけれど、そんなことちっとも不快に感じない。
 舌をからめて。お互いの唇を吸って、甘く噛んで。
 こんなのたまんないだろ。
 さっき出したばかりなのに、またペニスが硬くなる。
「ちょっと…待って…。」
 大事なものについて思い出した俺は、カバンの中に手を突っ込んだ。財布の中にあったはず。
 正方形の袋に包まれた、肝心の物。
 よかった。2,3個はある。
 俺が手に取ったそれをみとめると、飛鳥さんは素早く奪い取った。
 再びペニスを口に含み、そうしながら正方形の袋を開ける。やわらかい髪の毛が、腿のあたりに優しく触れて、それもたまらない。
 だめだ。やられっぱなしだけど、抗えない。壮絶な快楽。
 すっかりいきり立った俺の一部に、飛鳥さんはするすると避妊具を装着させた。ベッドをきしませながら跨り、ゆっくりと腰を落とす。
 不思議なのは飛鳥さんの表情だ。さぞかしだらしのないいやらしい顔つきをしているかと思ったらそんなことはなくて。微かに可愛く笑っている。むしろ無垢な瞳で。
 いや。普通にエロい顔してるより怖くないか?
「触っていい…?」
 手を伸ばしてやわらかい胸に触れると、ようやく拒絶を免れた。ただし、いいとも言われなかったけれども。
「あッ、あッ、あッ。」
 ベッドの軋みと同じリズムで声を上げたのは俺のほうだった。上に乗った飛鳥さんの動きに圧倒されまくりだ。
 再び果てるまであまり時間はかからなかった。体内の異物がしおれるのを感じたようで、飛鳥さんは不服そうに俺に跨るのをやめた。不服そうに、唇を尖らせて、だ。
それも場に不似合いで可愛い。
 俺が荒い息で動けない中、ペニスから避妊具をするすると外し、きゅっと縛って投げ捨てた。
 そして深いキスが繰り返される。
「飛鳥さん。お願い。俺にさせて。飛鳥さんにも気持ちよくなってほしい。」
 今まで女にこんな風に懇願したことなんかない。
 飛鳥さんはじっと俺の顔を見つめた後、ごろりと横に寝転んだ。
「うんと気持ちよくしてね。」
 うぅわ。可愛い。この期に及んで可愛い。
 ようやく主導権をにぎれた俺は、深い深いキスをはじめ、耳に首筋、胸に腰のあたりと、執拗に舐め、触れ、指でもてあそんだ。
 飛鳥さんは抑えた吐息で俺の為すことを受け入れていた。そこには恥じらいよりもある種の余裕のようなものがにじんでいた。
 俺を一度受け入れた彼女の性器は、すでに十分に潤っていたが、そのまま再度挿入するのはあまりにも不服だったので、唇で舌で刺激した。さすがに彼女はシーツに爪を立て、もたらされる快楽と闘っているようだった。
 ぐっと彼女の体に力が入り、ようやく果てたようだった。まだ残っている避妊具を手探りで探し当て、自分にあてがう。
 予想通りスムーズに彼女の中に入ることができた。もう、キスを求めるのはあまりにも自然だ。
「好きだよ。」
 腰をまだ緩く動かしながら囁いた俺の唇を、見つめながら細い指が撫でる。
「私も大好き…。」
 やばい。そんな顔されたら、そんな声出されたら、もたない。まだゆるく動きながら楽しみたかったのに、俺は腰を振るスピードを速くするのを止められない。
 達したときの出る量が多くて、自分の体が信じられなかった。休みなしで三度目だというのに。
 余裕なく飛鳥さんの横に倒れこんで仰向けになった。恥ずかしくて右手の拳で顔を隠す。
 …それがいけなかった。
 避妊具を外した飛鳥さんは、慌てる俺を尻目に、またもやペニスを口に含んだのだ。
 マジかよ。冗談だろ。
 やわらかい舌がペニスの裏を丹念に丹念に舐める。3度果てた後だけに、さすがになかなかかたくならない。
「もう終わりなの?」
 ペニス越しの挑発はなかなか強烈だ。
 口惜しい。こんなに誰かにイかされたことなんかないのに。
 飛鳥さんはやっぱり微笑みながら俺自身を咥えこみ、先ほどより長い時間を要して、結局射精させた。
 耳をなめて、甘く嚙んで、彼女は俺の鎖骨にほほを寄せた。
「課長、可愛かった…。」
 それは…俺が言いたいセリフ…。
 やがて彼女はすうすうと寝息を立て始めた。
 マジかよ。
 これまで何人かの女性と付き合ってきた。たいがいは言い寄られて、それに乗っかる形で付き合いだした。
 俺に抱かれることがうれしくて、適度な恥じらいを見せながら体を開いた女性たちが大半だった。
 こんな…。こんな大胆なことをされるなんて…。
 さっきまで俺を思う存分弄んだのが噓みたいに、飛鳥さんは無垢な顔で眠っている。
 不思議と。彼女に対してがっかりはしていなくて。プライドはズタズタだけどさ。
 そっと彼女の頬を撫でてみる。
 眠ってしまったら。夢と消えてしまうのかな。それは嫌だ。
 俺は彼女にされたことを何度も何度も頭の中で繰り返しているうちに眠りに落ちた。
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