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戦後編そして

戦後編そして・霧・第271章・天王星開拓民

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西暦2089年

天王星圏

太陽系大戦が終結した

地球連邦政府は火星共和国と日本台湾連合諸国に降伏した

天王星には地球系火星系日本系の開拓民が入植していた

それまで地球連邦政府の経済支援で成立していた

天王星圏の開拓民達は窮地に陥る

それまで天王星圏に行われて来た地球連邦系銀行からの融資がストップ

農業・畜産・鉱山開発それに伴う

輸出用の加工工場すべてが止まった

火星系開拓者は火星本星へ引き上げ

日本系開拓民には日本圏からの経済支援が行われたが

地球系移民のジョナサン・Aには地球圏からの支援は打ち切られ

自分の農場で生産した農産物は売れず

収穫する事無く枯れる様を見て居るしか無かった

地球系開拓者の大半が同じ状況に陥る

彼は29歳になる同い年の妻ターニャと10歳の息子ブルーと9歳の娘アンの4人家族

火星事変の後

彼の両親は地球から天王星に移民した

移民当初の天王星は重力鉱石がまだ発見されておらず

地球と違う重力下で多くの移民が体調に異変を起こした

衛星軌道上のコロニーは地球上と同じ1Gの重力を発生させている

そこで初期症状の者は治療を受けて回復するが

ジョナサンの父は重力症を悪化させて亡くなった

遺言で生まれ故郷の地球ではなく

天王星に埋葬する事を望んだ

妻のマリーは夫の意思を引き継ぎ天王星で開拓を続ける事を決意

しかし開拓を続けるには土地が必要だが

一人息子のジョナサンはまだ幼く妻のマリーだけでは

開拓を続ける事は出来ず開拓の再開はジョナサンが成人するまで待つ必要が在ったが

3年以上開拓が放棄された土地は政府から没収される

それを逃れるには毎年莫大な違約金を支払う必要が在った

父の死後ジョナサンの母親マリーは鉱山から産出される鉱物の加工工場で働いた

有害物質で汚染された工場は防護服を着ても

少しづつ体に汚染物質が入り込む

その為工場は当初ヒューマノイドAIが働いていたが

鉱物資源を加工する段階で出る未知の放射線などで

AIが誤作動を起こし

どうしても一部は人間が行う必要に迫られ

高給の報酬で工場労働者を募り

ジョナサンの母親マリーは

開拓地の違約金と息子を育てる為に有害物質に汚染された工場で働く

息子の成長と引き換えに

3年が限界とされる工場勤務を15年もの間働き続けた

ジョナサンが成人して再び開拓を始めた年

マリーの体は長年の工場勤務で病床に就き

その姿は70歳の老婆の様に衰えていたが

マリーは息子が父親の遺志を継ぎ開拓を始めた事に満足し

一人息子に看取られ夫の元に旅立った

母親は父親の墓に葬られ

彼は両親の遺志を継ぎ開拓を続けた

幼馴染のターニャを妻とし二人の子供を授かり

全てが順調に思えた

しかし

西暦2089年地球連邦が敗北した事により

彼は両親が残した開拓地を失い

残された家族を守る為に

地球系移民は地球に戻る連絡船に乗るしか無かった

遠ざかる天王星圏の衛星に馳せる思いは様々

天王星の開拓地で生まれ育った者達に取り

故郷を離れる事は身を切られる思いしか無く

彼らに取り両親の生まれた故郷だが

地球は見知らぬ別世界で

只々不安でしか無かった

それとは違い

地球圏で生まれ育った世代に取り

もう生きて見る事が無いと思っていた

地球に帰る事が出来る希望に胸を膨らませていた

地球を肉眼で見るまでに近づくと

青く輝くその星の姿に

誰もがその場に泣き崩れた

第三次世界大戦が終結してから半世紀が過ぎ

地球はその青さを取り戻しつつ在った

皮肉にも人類が居なくなった事が原因で

天王星生まれのジョナサン・Aは

妻のターニャと息子のブルーと娘のアンの4人で

両親の故郷の地球圏のコロニーに初めて訪れた

地球圏では父親の兄である彼の叔父を頼り

コロニー第22を訪れたが

叔父夫婦は彼らを歓迎する処か煙たがり関わり合いになる事を避け

一刻も早くジョナサン一家を追い出そうとした

唯一の肉親が何故そんな事をしたか直ぐに理解した

地球圏に戻った開拓民を待っていたのは

ただでさえ敗戦により経済が困窮している所に

いきなり人口が2倍になり

住居も食料も不足し更に失業率も増加

住む所が無い者達は公園や歩道にさえテントを張り暮らしていた

ジョナサン一家も同じ天王星圏の出身者が

多く集まる公園の一角にテントを張り

日雇いの肉体労働で生活費を稼ぎ暮らしていたが

周辺の住民は彼らと関わる事を避けられ

次第に子供達が学校に通う事も様々な理由を付けられて断られ

帰還者は次第に地球圏社会で孤立して行き

互いに不信感が根付きそれが敵意に変わり始めた頃

犯人が不明の事件が次々と起き

治安が悪化する中で

露骨な開拓民排除の暴動が発生する

ジョナサン一家はそれまで住んでいたテントを焼かれ

全てを失い路頭に迷う4人は敵意に満ちた

連邦市民に取り囲まれる

暴徒は口々にここは地球人のコロニーだ

開拓星生まれの他者はここから出て行けと叫ぶ

ジョナサンは思うもはや地球は安住の地ではない

開拓民は出て行けと叫ぶ暴徒の後ろから

【お前ら何をしている夜間外出は禁止されている】

そこに暴動鎮圧の占領軍部隊が現れた

【地球人以外は出て行けだ?

それは占領軍の火星や日本生まれの事か?】

暴徒はさっきまでの勢いは無くなり

借りてきた猫の様に大人しくなり

<私たちは占領軍の方の事ではなく

この忌々しい開拓地帰りの奴らの事を言っているで

決して火星人や日本人に出て行けなど言って居ません>

【つまり開拓星生まれに出て行けと言っているので間違いないな?】

<はい・・・>

【本来なら注意で見逃す所だが・・・

全員逮捕だ】

<そ・そんな・・・

わ・私はこのコロニーに駐留している占領軍の司令官ゴンドウにコネが在る>

【あーゴンドウ司令官なら昨日付けで解任されたよ

袖の下を取りすぎてな

今日からこのサトウがこのコロニー駐留軍司令官だ

そして俺は天王星生まれの開拓民出身だ

ここに居る部下も全員開拓星出身でな諦めろ

昨日までのやりたい放題は

俺の目の黒い内は許さねえ】

連行されて行く暴徒達

周りの開拓民から一斉に歓声と拍手が

ジョナサンは家族を抱きしめ涙を流した

コロニー中の開拓民が軍の駐屯地に集められ

住居と食事を与えられ

病人やけが人は軍医が診察をした

基地司令官は

【地球圏に開拓民の方達が来て1年が過ぎました

殆どの方はテントに住み収入は日雇いなど経済的にも苦しい状況で

体調を崩している方もおられるでしょう

もう地球に住みたくない故郷に帰りたいと殆どの方は思っているのでは?】

開拓民の中から鳴き声が洩れる

【今開拓星には日本人の移民による開拓が始まっています

しかし彼らは全くの素人で開拓の指導してくれる者が必要です

その指導をあなた達にお願い出来ませんか?】

開拓民がざわめく

ジョナサンが立ち上がり

『私は親や周りの大人に教えられた事しか出来ないが

それでも構いませんか?』

司令官はジョナサンの手を取り

【それで十分です

入植者達を宜しくお願いします】

そう答えた

歓声と涙が会場を包み

1か月後ジョナサン達を乗せた宇宙船は天王星圏へと向かった

それを見送るサトウ司令官とその副官ブラウン

【彼らを救うのに1年も掛かってしまったが

ようやく肩の荷が降ろせる

我々の勝利の陰で

彼らが30年を賭けて開拓して来た星を追われたと聞いた時

これ程悔やんだ事は無かった】

「しかし司令はこの1年彼らを救う為の奔走しておられました

そして彼らは故郷に戻れたのです」

【だが植民星の新しいスポンサーは

月面政府の息の掛かった企業だ

あいつらが何を企んでいるのか気になる

しかし彼らをこのまま地球圏に置くより遥かにいいのだが

今後彼らに何か在った時は

私の力が及ぶ限り彼らを援助したい・・・】

「司令・・・」
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