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うわさ話にご用心!

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 あのあと気持ちを落ちつけたいっていうひなたちゃんとは別々に登校して、俺は気を紛らわすために仕事へ没頭するコトにした。

「会長、なんか俺にできることありませんか? 俺、今すっごい仕事したい気分なんです!」
「あ、あぁ。じゃあ、この書類の確認を──「もっとっ!」
「…あの書類も、仕分けを頼めるか?」
「まかせてください!」

俺のあまりのいきおいに押されたのか、ちょっと動揺しながらも会長は仕事をいっぱいくれた。

自分のもともとあった仕事に加えて追加で仕事をもらえたから、よけいなコトを考えなくてもいいようにさっさとソレを片づけてく。

そんなコトをつづけてたら、ふいにポケットに入れてたスマホが鳴った。

「あっ、電話だ。ちょっとすみません;」
「ちょうどいい、ついでに休憩行ってこい」
「はい、ありがとうございます」

会長がそうすすめてくれたから、電話がてら休憩に行くことにした。

そうして部屋から出てすぐに電話へ出れば相手はのんちゃんで、電話じゃ話しにくいからと食堂通路にある個室で話すコトになった。

ココを使うのは3回目だけど、特別な個室で内装とか家具とかいろいろ気をつかってるから庶民派の心がソワソワする。

そんな心を注文したアイスティーを飲んでなんとか落ちつかせながら、のんちゃんが早くくるコトを祈った。 

「僕が呼んだのに待たせてごめんね、みつ君」

そうこうしてると、ウェイターさんに案内されてのんちゃんが入ってきた。

久しぶりにこうしてゆっくり会うからかそれとも他の理由か、のんちゃんは妙に緊張してるみたい。

のんちゃんの注文を受けて出ていくウェイターさんを見送って、ふたりのあいだにすこしの沈黙がおりる。

「ははっ、なんか告白でもしそうな雰囲気だねぇ~」
「ふふっ、僕にはあの人がいるからありえません」

あまりの様子におかしくなってそう言えば、のんちゃんも落ちついたのか笑ってかえしてくれた。
それからしばらく他愛もない話をして、注文したものを持ってきてくれたウェイターさんが出てったのを皮切りに本題に入る。

「それで、電話で話せないコトってどうしたの?」
「えっと…それが、ですね…」
「えっ、そんな言いにくい話し?」

なんかやけに言いずらそうにしてるな。
まさか、さっき妙に緊張してたのってそのせい?

「…はい、僕たちにとっては」
「っ」

その一言で、どんな話かだいたい予想がついた。

その瞬間心が冷えて重くなり、それにつられて顔がゆがむ。
それでもすぐに取りつくろってほほ笑みを浮かべ、のんちゃんに話をうながす。

「それで?」
「彼がおしえてくれたんですけど……緋炎が、戻ってきてるって噂が流れはじめてるんです」
「な…っ」

予想よりも大きな出来事に、思考が一瞬止まる。

え…
ちょっと待って…

「緋炎って!」

緋炎と陽炎は切りはなせない関係だ。
もちろん、ソレは俺にとっても同じで…

「落ちついてください、みつ君」
「あ…ごめん…」

おもわずのんちゃんに詰めよりそうになったけど、ソレを冷静だけど強い言葉で抑えられた。

ダメだな。
このコトとなるとつい過剰に反応しちゃう。

気をつけないと…

自分の至らなさに落ちこんでため息が出た。

「いえ、しょうがないですよ……それで、細身の男が足技一発だけで人を沈めたのを見たからとか色々ありますが噂はあいまいで…彼は、本物をおびきよせるための罠なんじゃないかって言ってます。だからみつ君、きみは──「ご、ごめん! そのウワサの原因、俺かも;」
「えっ!?」

のんちゃんの言った言葉に思いあたりがありすぎて、申しわけなさで一気に羞恥心がわいてくる。

コレ、アレだ。
美少年助けたときのアレですよ。

あのとき、本気を出してたワケじゃないけど足技つかって暴れちゃったからなぁ~;
緋炎といえば特徴的で強烈な足技が有名だから、きっと相手したヤツらか偶然見たヤツにでもウワサされちゃったんだろなぁ~。

「みつ君、緋炎のかっこうして出歩いたんですか!?」
「へ?」
「え?」

あれ?
なんかちょっと、違うっぽい?

だって、あのときはマットブラウンのウィッグを被ってたもん。
緋炎は足技と同じくらい、燃えるような赤い色をした長い髪が特徴だからね。

「えっと、どんなウワサがあるのか詳しく聞いてもいい?」

そうして話を聞いていくと、やっぱりウワサの原因は俺じゃないってコトがわかった。

いや、ちょっとはあるかもしれないけどね;

そもそもが、緋炎のかっこうをしたヤツがいろんなトコで緋炎みたいな足技でケンカしまくってるのが原因らしいからね。うん。

俺じゃないってコトで!

「みつ君じゃないとすると、やっぱり…」
「そう、だね」

アイツの予想どおり本物をおびき寄せるためか、それとも──

「──みつ君、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫だよ、のんちゃん」
「なら、よかったです」

よほど変な顔をしてたのか、心配そうに声をかけてきたのんちゃんに笑顔で返事をして安心させる。

せっかく話してくれたんだもん、心配させちゃダメだよね。

「それでですね、今日は金曜だからあの人が迎えにきてくれるんですけど…一緒に街へ行きますか? お願いしたら、一緒に調べてくれるかもしれません」
「そう、だね。アイツにお願いしといてくれる?」
「わかりました。じゃあ、決まったら連絡しますね」
「うん、よろしくね」

そう話をまとめて、俺たちはいったん別れるコトにした。
アイツのコトだからのんちゃんの連絡にはすぐ気づくだろうし、決まるのはそう遅くならないだろう。

ひとりで調べるとなるといろいろ大変そうだし、オッケーが出るといいなぁ~。

それから返事を待ちつつ生徒会の仕事に没頭してると、思ったよりも早くオッケーの連絡が。
抱えこんだ大量の仕事をハイスピードでさばいて一足先に帰らせてもらって、いろいろと準備をして待ちあわせの裏門へ行く。

「あっ、みつくん。こっちです!」

そう言って黒ワゴン車の助手席から手を振るのは、ちょっとぶかぶかな休日のさえないお父さんみたいなやぼったいカッコをしたのんちゃん。
その隣には、のんちゃんにやぼったいカッコをさせてる張本人である独占欲の固まりなアイツが乗ってた。

「待たせちゃった?」
「いいえ、今来たところです」
「ならよかった。のんちゃんを待たせるなんてそんなコト、後悔してもしたりないからね…」
「み、みつ君…」
「悪いけど、俺の嫁とデートっぽい会話しないでくれますかね~?」

のんちゃんとじゃれるように喋りながら車に乗りこむと、嫉妬深い恋人さまからツッコミが。

「はいはい、すいませんね。……久しぶり、零一」

どれくらいぶりだろうか、他人のいる場所では嫌がるからめったに言えないその名を呼べば、アイツは懐かしそうな表情でやわらかいほほ笑みを浮かべた。
陽炎でよく見たその笑みに、おもわず胸が熱くなる。

「おう…思ったより元気そうじゃん」
「ははっ、ソレ電話でも聞いた」
「ふはっ、そうだな」

そうして笑いあったあと、片手でハイタッチをしてそのままグッと手を握る。

「今回のコト、よろしく」
「あぁ、頼まれた。さっそく行こう」
「うん」
「はい」

そう返事をしたら車は目的地に向かって動きだして、俺は変装用に持ってきた格好に着替えたりしてった。
そうこうしてるうちに目的地について、俺とのんちゃんたちは二手に分かれてウワサのコトについて調べはじめる。

けど──
 
「全部ハズレ、か」
「こんなに探してるのに、残念です」

暗くなるまで調べまわっても、今持っている以上の情報は得られなかった。

「やっぱり、ウワサは罠なのかな…?」
「みつ…」
「みつ君…」

進展のなさに落ちこんでついそう呟けば、ふたりとも気づかわしげに俺の名前を呼ぶ。

ふたりは、今の俺の気持ちがわかる数少ないひとだもんね。
いつまでも心配させておけないや。

「まだ決まったワケじゃないし、また探せばいいよね」

そう言って笑えばふたりはホッとしたよう笑いかえして、俺を元気づけてくれる。

「そうです。また探しましょう!」
「だな」

きっとひとりで探してたら、落ちこんだまま過ごしてたとおもう。
やさしいふたりに感謝だね。

「さっそく明日はどう?」
「悪い、明日はやることあるから一緒に探せねぇんだ」

明日も一緒にって思ったけど、やることあるならしょうがないよね。
なら、明日はひとりで──

「言っとくけど、ひとりでやるなよ?」
「…じゃあ、つぎはいつ調べる?」

つぎの予定は決めておかないとね。
こんな宙ぶらりんのままじゃ、ちょっと落ちつかないもん。

「あとで予定を調整してから早めに連絡するわ」
「わかった」
「おぅ。じゃあ、帰るか」
「うん」
「はいは~い」

今日は収穫がなかったけど、そんなに早く見つかるとは思ってない。

まぁ、ちょっとは期待しちゃってたけどね。

明日・・のためにも、今日は早めに寝よ~っと。
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