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山と花火と恋模様!

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「巴先輩はどうします?」
「僕はすこし疲れちゃったから休んでるよ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう、みつ君」

そう言ってほほ笑みを浮かべる巴先輩に笑顔を返すと、先輩はじゃあ休んでくるね…と言って寝室のほうへ歩いてった。

俺はソレを見送ってから、わんこくんと一緒にバルコニーに向かう。
バルコニーにつづくガラス扉を開いて外に出れば、心地よい風が頬を叩いた。

「気持ちいい風だねぇ~」
「ん…」

目の前に広がる壮大な自然と、そんな景色を邪魔しないようにデッキタイルとかで作られたオシャレなバルコニーにおもわずため息が出る。

せっかくだし、ゆっくりしようかなぁ~。

「ねぇ、わんこくん。ちょっとゆっくりしない?」
「ん…す、る…」

わんこくんが小さくうなづいたのを見て、俺はわんこくんを連れて近くにあったウッドチェアーに座った。

「あぁ~、癒される~」

耳をくすぐる小鳥のさえずりとときどき吹く気持ちいい風に、俺たちを照らすぽかぽかとあたたかい太陽の光。
そんな自然に囲まれて過ごすゆっくりとしたやさしい時間と、隣にいる可愛いわんこくんのおかげで、新歓の準備やらなんやらで疲れてた心がスッゴい癒されてく。

それからしばらくのあいだ、ドコから取りだしたのかわんこくんから口元に差しだされるお菓子を食べたりしながらまったりしてると、バルコニーの端のほうからガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてきた。

「なんだろ? 見に行ってみよっか、わんこくん」
「…ん」
「よ~し、レッツゴ~♪」

気になった俺は返事を返してくれたわんこくんの手を取って、声が聞こえてきてるバルコニーの端まで足を運ぶ。

「なにしてんのかな~?」

声のする下を覗きこむように手すりに乗りあげて確認すると、ソコには花見の準備をしてる別荘のスタッフと一足先に花を楽しんでる風紀の人がいた。

「うわぁ~、花見の花って藤の花だったんだ…」
「…き、れい……」

会長に秘密だっていわれたから気になってたんだよねぇ。

ソレは花見を…というだけあって、定番の紫だけじゃなくて、白やピンクとか色々な種類の藤が咲きみだれてた。
その眺めは華やかだけどドコか慎ましい雰囲気もあって、あまりに見事な光景に花見といえば桜っていう考えがどこか薄れてく。

「もっと近くで見てみよっかな~。わんこくんも行く?」
「ここ…いる…」
「そっか、ココいい場所だもんね」
「ん…」
「じゃあ、行ってくるねぇ~」

バイバイと手を振って見送ってくれるわんこくんに手を振りかえして、藤の花を見に行くために外に向かった。
そんでたどり着いた藤の前。

「うわぁ~、近くで見ると迫力あるなぁ~」

いくつも垂れさがる藤の花とその花の甘い香りに、俺はおもわず感嘆のため息をはきながら藤波のなかを歩いてく。

そうするコト数分。
もうそろそろ花見がはじまる時間だし、もと来た道を戻ろうと振りかえったら、肩を叩こうとした状態で固まってる遥伽先輩がソコにいた。

こんなに近くにいたのに気づかないなんて、藤の花に見とれすぎだろ俺;

そう内心苦笑しながら、固まったままの遥伽先輩にやさしく声をかける。

「えと、俺になんか用ですか? 遥伽先輩」
「いや、えっと、みつクンがいるのが見えたから…」
「そうですか」

そう笑顔でいう遥伽先輩に、それで声をかけてくれようとしたのか…なんて思ってたら、遥伽先輩は突然シュンとしてうつむいちゃった。

「え? どうし──「ごめん、ウソ。…聞きたいことがあったから、ついて来ちゃったんだ」

両手を合わせて首をかしげながら苦笑して、ゴメンね…とあやまる遥伽先輩に、俺は思わずキュンとする。

さすが双子、小悪魔なトコもソックリだね!

「それで、聞きたいことなんだけど…」
「はい、なんですか?」

必然的に上目づかいになるその視線に内心萌えながら、俺は素知らぬ感じでつづきを促す。

「あのね…最近、彼方の様子が変なんだ。特に一昨日なんかすっごい変だった」
「一昨日、ですか…」

あぁ~、ソレって彼方先輩が告白してきた日だし、十中八九ソレが原因だよねぇ…

「それでなんだけど…みつクン」
「なんですか?」
「彼方と、なにかあった?」
「えっ」

そう聞いてくる遥伽先輩はまっすぐ俺の目を見てきて、視線をそらすコトができない。

あまりにまっすぐな視線にウソをつくコトも、ましてや告白されましたなんて真実をいうワケにもいかなくて、言葉を発するコトもできなかった。

でもなんもいわないのもなにかありましたっていってるようなもので、どうしようかどんどん焦ってく。

そんなとき、俺の前に救世主が現れた。

「ふたりとも、こんなところでなにやってるの?」
「あ、彼方…」
「っ、彼方先輩!」

ピンチなときに声をかけてきてくれたのは話題にあがってた彼方先輩で、本人はそんなつもりはないだろうけど、結果的に助けられた俺は満面の笑みを彼方先輩に向けた。

「え、どうしたのみつクン?」
「いえ、なんでもないです」

俺の満面の笑みに不思議そうにした彼方先輩にキッパリそう言うと、ドコか腑に落ちない顔をしながらも、彼方先輩はそう? といって納得してくれた。

ありがとうございます、彼方先輩!

「で、こんなところでなにやってたの?」

心のなかで感謝をしていると、彼方先輩がさっき言ってたコトをあらためて聞いてきた。

なにやってって…
彼方先輩のコトを話してたんだけど、コレって素直に答えたらダメなヤツだよね;

そう思ったからどう答えるか迷ってたんだけど、迷ってるあいだに遥伽先輩がペロっとウソをついて彼方先輩に答えた。

「なにもしてないよ。どれだけの種類の藤があるか気になって見てたら、たまたまここでみつクンと会ったんだ♪」
「そうですよ。俺は藤の花を近くで見たくて歩いてたら、ね。偶然だねって話してたんです」
「ふーん。まぁ、すごいきれいだもんね、この藤」

彼方先輩は笑って、垂れさがってる藤を指先でつつく。
信じてくれたかどうかはわかんないけど、変に追及されるコトはなくて遥伽先輩とふたりして安堵した。

でもいつ気が変わるかわかんない。
俺と遥伽先輩はアイコンタクトして、すみやかに場所を移動してわかれるコトに決めた。

「そういえば、もう花見をはじめる時間だね♪ 早く行こう、彼方!」

すぐに行動に移した遥伽先輩は、心底楽しみって感じの声で彼方先輩にそう言って花見会場のほうへ走ってく。

「早くー!」

けど着いてこない彼方先輩に気づいたのか、拗ねたように彼方先輩を呼ぶ遥伽先輩に胸がキュンとした。

あぁ、小悪魔ってイイな…

「すぐ行くー!…じゃあね、みつクン」
「はい、また後で」

彼方先輩はそう言うと、遥伽先輩の元へ走りだした。
けど、ちょっと行ったトコロ でふと止まって俺のほうを振りかえる。

「そうだ、みつクン」
「はい?」

どうしたんだろうと不思議に思って彼方先輩をうかがい見れば、にっこりと可愛く笑う彼方先輩と目が合った。

「ボク、諦めないから」
「え…っ」

俺は彼方先輩から言われたおもいもよらない言葉におどろきの声をあげて、彼方先輩をぼうぜんと見つめる。
そうしてるあいだに彼方先輩は遥伽先輩のトコロまで走ってって、合流したふたりは楽しそうに話しながら花見会場のほうに歩いていっちゃった。

「諦めないって言われちゃったよ…」

コレ、ホントどうすればいいの…?




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