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恋模様はペンタゴン!

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◇◇◇

渡された書類をファイルにしまって一息つく。

コレでやっと、やっと──

「お、わったぁー!」

俺が担当してる仕事はぜ~んぶおわった。
巴先輩もわんこくんもとっくにおわって、悦たちも仕事をおえて帰ってきてる。

あ・と・は~。

「会長、あとどれくらいでおわりそうですか? 手伝えるのあります?」
「もうおわるから大丈夫だ」

ホントかどうか心配になって手元を覗くけど、会長はものすごい速さで書類を仕上げてってる。

タイピングはっや! 
コレならホントにすぐおわっちゃうね。

そう感心して眺めてると、会長がふいに手を止めて顔を上げた。

「お前ら、明日は本番だ。待っていなくてもいいから──「よーっす、お前ら準備はおわったかー」

なんだろうと思って聞く姿勢だったんだけど、ソレを遮ってダレかが生徒会室のなかに入ってきた。
入りながらかけられた声にはイヤというほど聞きおぼえがある。

この声は──

「お、俺様ホスト教師!」
「彰先生だろー、みつ?」

おもわずそう叫ぶと、怖いくらいの笑みを浮かべたセンセーに頬をギューっと引っぱられながら訂正された。

「いひゃい! いひゃいえふ、へんへーっ!」

ちょっ、おもいっきり力入ってないっすかセンセー!?
俺、ちょっと涙目っすよ!

訴えるようにジっと見つめるけどせんせーはやさしく笑って、今度はつまんだ頬をグリグリ回すように引っぱった。

「彰先生なー?」
「あひらへんへー!」

頬の痛みに言われたとおり素直に言葉をくり返す。
そしたらセンセーは満足そうに笑って、俺の頬から手を離した。

「うぅ~、俺の頬がぁ~」
「まったく、いつもそれくらい素直だったらよかったんだけどな…」
「ん? センセー今なんか言った?」

ボソボソっと聞こえた気がしたんだけど。

「なにも言ってねーよ。それより、先生じゃなくて彰先生な?」
「はい、彰センセー!」

まだ引かない頬の痛みに、そくざにそう返事をする。

この状態でまた頬を引っぱられるのはイヤだからね!

そんな俺にセンセーは楽しそうに笑ってる。
でもその笑いはすぐに引っこんだ

どうしてかっていうと──

「可愛いみつ君をイジメる彰ちゃんはー」
「ボクたちがお仕置きだー」
「「とりゃー♪」」

そう叫んだ双子先輩がセンセーに向かっておもいっきり飛びついたからだ。
飛びつかれた瞬間、センセーはなんともいえない声を出しながらも双子先輩たちを受けとめた。

けっこうスゴいいきおいだったのに…
センセーったらやるね!

絶対倒れると思ったから感心して見てると、ふいに頬をやさしく撫でられた。
ビックリして手のほうを見ると、ソコにいたのは心配そうな顔をしたわんこくんで──

「い…たい…?」

わんこくんが、心配してくれてる…!

「ううん、もう痛くないよ」

そう答えると、わんこくんは安心したように小さく笑った。

かっ、可愛い! 
て、天使が、天使がココにいるよ!!

って、つい和んじゃってたけどセンセーのほうはどうなって──

「た、鷹島先生、大丈夫ですか…?」
「すみません先生。南先輩方が…」
「いいですか先輩方! いつも言っていますがもうすこし落ちつきというものをですね!」
「「はーい、ごめんなさーい」」
「災難だったねぇ、彰ちゃん」

よかった。
センセーのほうは会長たちが気にしてくれてたみたい。

まだぶつかったトコを押さえてるけど大丈夫そうだね。

「あー、酷い目にあった…お前ら、差しいれを持ってきた顧問にタックルはねぇだろ」
「差し入れ?」
「持ってきてくれたの?」

まったく、と言うようにセンセーがつぶやくと、その声に双子先輩たちの目が光った。
つぎの瞬間、ぴったりそろったキレイな謝罪が。

「「大変申しわけありませんでしたっ!」」
「しかたねぇから許してやるよ。ほら、持ってけ」
「「わーい♪」」

センセーのお許しに、双子先輩は差しいれの入った袋をいそいそと広げはじめる。
ソコにわんこくんがつられて行って、会長たちはそんな双子先輩たちを嗜めたり先生にあやまったりと忙しそう。

そんななか俺はというと、いまさら知った事実にびっくりしてた。

「センセーって、生徒会の顧問だったの?」
「あぁ、そうだぞ。言ってなかったか?」

いや、ひとっことも聞いてないっすから。

「それなら、忙しいとき手伝ってくれればよかったのに」
「甘えるなバーカ。オレができんのは、お前らを見守ることとこれくらいだ」
「…ふーん。じゃあ、俺も遠慮なく差しいれ頂いてこよっかな」

さっさと行ってこいっていうセンセーの声にうなづいて、みんなが並べてくれた差しいれを見に行く。

「けっこう色々あるねぇ。ドレにしようか迷っちゃうなぁ~」

冷えた飲みものに美味しそうな料理やお菓子。
ついつい迷って視線をうろつかせてると、悦の帰りを告げる声が聞こえてきた。

「悪いけど、俺は先に帰るねー」

えっ、悦帰っちゃうの?

「そうか…じゃあこれだけでも持ってけ。お前の好きなやつだろ?」
「ありがと、彰ちゃん」
「彰先生な」

悦はセンセーから差しだされたものを受けとって、さっさと生徒会室から出てった。
すこし静かになるなか、生徒会のムードメーカー双子先輩がその空気を吹きとばした。

「ひとり足りないけど」
「盛りあがっちゃおう」
「「前祝いだーっ!」」

双子先輩の声にみんな笑って返事をして、テーブルの上に並んだ料理やお菓子に手をつけていく。
だけどひとりだけ、端のほうですこし浮かない顔をしてる人が…

「お疲れさまです、巴先輩」
「みつくん…お疲れさま」

笑ってはいるもののどこか寂しげな巴先輩につい心配になって声をかける。

やっぱり悦がいないのが寂しいのかな。

「悦、帰っちゃいましたね」
「そう、だね」

俺の言葉に巴先輩は悦の出ていった扉をツラそうに見つめる。
そんな顔させたままなんてできなくて、俺は巴先輩の手を取って盛りあがってる輪の中心に連れてく。

せっかくの前祝いなんだもん、楽しまなきゃ!

「み、みつくん!?」
「今は思いっきり楽しんで、あとで篠井会計に自慢してやりましょう!」
「…うん、そうだね」
「ってコトで、コレどうぞ。この料理すっごい美味しかったですよ♪」

はい、あーんと料理を差しだして、なかば強引に巴先輩へ料理を食べさせる。

巴先輩に『あーん』なんて、こんなコトがなかったらできないよなぁ…
なぁんて思いながら様子を見てると、巴先輩の顔がふんわりやさしくほころんだ。

「本当だ、すっごく美味しい」
「でしょ?」
「「ともっち~!」」
「これも美味しいよ♪」
「はい、食べてみて♪」

それじゃあつぎのオススメをって料理を取ろうとしてたら、俺たちの話を聞いてたのか、双子先輩たちが料理を持ってあいだに入ってきた。

「ん、これもすっごく美味しい!」
「「でっしょ~?」」
「椎名先輩、これも美味しいですよ」
「椎名、飲み物はこれが美味しいぞ」
「先輩、これもどうぞ」
「…ん」

双子先輩を皮切りに、他の人たちもオススメの料理を巴先輩に差しだしてく。
巴先輩はそんなみんなにすこし困ったように笑ってるけど、さっきの寂しげな顔がウソだったみたいに楽しそうにしてる。

笑顔が戻ってよかった…

巴先輩の笑顔を見ながら俺はホッと息をつく。
そしたらソレとほぼ同時に、同じようにダレかが息をつくが聞こえた。

ダレだと思って視線をさまよわせると、相手も同じように思ってたのか視線がカチリと合った。
そしてつづけて送られてくるうかがうような視線に、俺はほぼ確信をもって口を開く。

「…会長も、巴先輩が心配だったんですか?」
「まぁ…いつも世話になってるからな」

俺の問いにすこし視線をはずし照れたように答える会長の目には、仲間を思いやるあたたかい光が浮かんでた。

「他のやつらもそうだと思うぞ」

そう言う会長の言葉にふたたび巴先輩たちに目を向けると、その言葉がホントだっていうのがわかった。
あの副会長でさえ、巴先輩の笑顔にホっとしたような感じがしてるもん。

巴先輩の人徳ってすげぇ…
てか生徒会に入るときにも感じたけど、みんなけっこう仲いいよねぇ。

ほほ笑ましくなって俺はおもわずクスリと笑う。

仲間っていいよなぁ。

不意によみがえる懐かしい記憶。
ジワリと広がる懐かしさとすこしの寂しさを振りはらうように目を閉じて、ふっ切るために気合を入れる。

「──よし!」
「ん、どうした揚羽?」
「みんなでおもいっきり楽しみましょーう!」
「…そうだな」

会長と笑いあって、騒いでるみんなのトコにふたりして突っこんだ。

こんなに騒いではしゃいで楽しんだのは久々だったかもしれない。
でもみんな知ってるように、楽しい時間ってのは早くすぎるもんで…

「もういい時間だし、そろそろお開きにするぞー」
「「えぇ~っ!!」」
「つづきは行事がおわったあとな。ほら、さっさと片づけろー」

センセーの一言で前祝はおわって、みんなはワイワイと片づけに入った。

「それじゃあ、しっかり休んで明日は頑張ってくれ」

片づけおわった俺たちは会長のその言葉にそれぞれ返しながら自分の部屋へと戻りはじめる。

みんなでワイワイ騒いだあとだからか、ドコか寂しさが拭いきれない。
なごり惜しくて最後まで部屋に残ったから余計そう感じるのかも。

会長はああいったけど、ダレかに声かけて慰めてもらおっかなぁ~。
でも明日に支障を出すのはイヤだし…

そんな都合のいい子いないだろうし、どうしたもんかな~と思いながら寮への道を歩いてると、ふいに後ろから肩を叩かれる。

「やっほ~、みつクン」
「か、彼方先輩!」

なにかと思って振りむくと、ソコにいたのは先に帰ったはずの彼方先輩だった。

「寂しそうなみつクンの背中が見えたから…声かけちゃった♪」
「そんなに寂しそうに見えました?」
「まぁね。ねぇ、慰めてあげよっか…?」

彼方先輩は俺にそっと寄りそいながら、小悪魔なほほ笑みを浮かべてあざと可愛く上目づかいでそう聞いてきた。

明日のコトが脳裏をよぎるけど、ソレは彼方先輩も同じだ。
ソレなら変なワガママいわれたり、面倒くさいコトにはならないでしょ。

「なら、お願いしちゃいましょっか」
「ふふっ、そうこなくっちゃ!じゃあ、ゆっくりできるとこに行こっか」
「はい!」




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