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退っ引きならない事情にて!

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◇◇◇

穏やかな日曜日の朝。
暖かい布団のなかでユルユルと微睡んでると、ちょっと遅めに設定した目覚ましのアラームが鳴った。

「ん~」

布団から手だけ出してアラームを止める。
いつもならこのまま二度寝をするトコだけど、今日はそういうワケにはいかない。

「ふぁ~…起きるかぁ~」

のそのそとベットから出て、出かけるための準備をはじめる。

それから数十分。
準備をすませて部屋から出ると、ちょうど浴室から出てきた上半身裸の不良くんとかち合った。

不良くんったら、俺が土日は起きるの遅いから油断してたんだねぇ~。

「…っ」

不良くんはビックリしながらも、すぐに警戒して俺を睨んでくる。

まったく、そういう反応は逆効果だって何回いったら理解するんだか…

「不良くん。俺、出かけてくるねぇ~」
「──へ?…あ、おぅ」

俺は小さく笑って、ヒラヒラと手を振りながらさっさと部屋から出た。
不良くんは予想外の展開に、変な顔をしてその場で固まる。

「な、んだ…?」

さっさと部屋を出た俺には、困惑気味につぶやかれた不良くんの言葉が届くことはなかった。

そんなこんなで、お寝坊な俺がわざわざ早起きして来たのはとあるマンション。
昨日思い出したせいで、どうしても来たくなっちゃったんだよね。

俺は苦笑して、目の前の扉を見つめる。

この部屋の扉を開ける瞬間は、いつも緊張するんだよね。
結果はわかりきってるのに、もしかして…って思っちゃう。

そう期待しちゃう心を抑えて、俺は部屋の扉を開けようと手をのばす。

「──っ」
「…‥」

けどその瞬間、隣の部屋から人が出てきた。
出てきたのは、所々に白のメッシュが入ったセミロングの黒髪に、口元の左側にあるホクロがちょっと色っぽい男の子。

口元の左側にホクロなんて、パ──父さんを思い出しちゃうなぁ…

そんなコトを考えてたら、ちょっと長めの前髪からのぞく丸っこいネコ目と目が合ったから挨拶したんだけど──

「こ、こんにちはぁ~」
「…‥」

返事がない。
しかも異様なくらいジっと見られてるよ;

え、俺どっか変なトコでもある?!

「あ、あのぉー…」
「アンタ、ここに住んでんの?」
「え?」

なにかと思ってたら、お隣さんはぶっきらぼうにそう聞いてきた。
突然の質問に聞きかえすと、お隣さんは同じ質問をくり返す。

「ここに住んでんの?」
「いや、違うけど…」
「──そう」

俺はとまどいながら質問に答えたんだけど、答えを聞いたことで興味がなくなったのか、そう返事をして行っちゃった。

「なんだったんだろ?」

美少年だったから目の保養になったし、まぁいっか。

変な緊張もなくなったし、気を取りなおして扉に手をのばす。
カギを外して、ゆっくりと扉を開いてなかに入った。

必要最低限のシンプルな家具と、閉じたままのカーテン。
ひとつだけある色の違う小さな棚の上には、思い出の詰まったものとかが置かれたままで──

「なにも、変わってない…」

俺はそうつぶやいて、小さく息を吐いた。

なにも変わってないのは悲しいけど、いつまでもこうしてるわけにはいかないよね。

「よし、掃除でもするか!」

ずっと来ていなかったからか、だいぶほこりがたまってた。
せっかく来たんだから、徹底的にキレイにしてこっかな。

「──あ~、疲れたぁ~」

あれから時間をかけてキレイに掃除をして、今は空気を入れかえつつベランダでくつろぎちゅう。
季節特有の暖かくてやわらかい風に当たりながら空を眺める。

晴れやかな空を見ながら思い出すのは、短いあいだだったけどとっても楽しかったあの時間。

バカなコトして笑いあったり、すこし乱暴に頭を撫でられたり、あたたかい腕に抱かれて眠ったり…
やさしさに包まれてた、特別だった時間。

悲しいコトばっかり思い出してもしかたないもん。
笑ってるほうがいいって、あの人もいってたし。

「俺、ちゃんと笑ってるよ。ひ──せっちゃん」

どんなに想っても届かないけど…
それでも、呆れられないように前を向いてくって誓ったから。




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