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退っ引きならない事情にて!
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しおりを挟むあれから何時間たったのか。
「期限のあるものはおわったな。今日はこれで終わりにしよう」
副会長によって山のように増やされた仕事を馬車馬のごとく片づけてると、会長から助けの声がかかった。
「週明けからまた忙しくなる。明日は休みにするから、しっかり休んで当日まで頑張れるよう鋭気を養ってくれ」
「え…?」
や、すみ?
早く帰れるだけじゃなくて、明日も休みになるの?
「そうですね。まだまだやることはたくさんありますから、休めるときに休んでおかないと」
「それじゃあ、解散。あとは帰るなりお茶を飲むなり、好きにしてくれ」
「やったぁ~♪」
一生懸命、頑張ったかいがあったよ!
うわぁ~、このあとなにしよっかなぁ~♪
「「僕たちはのんびりお茶でも飲もうかなぁ」」
「では私が紅茶を淹れてきましょう」
「オレは帰るわー」
「恋、俺のぶんも頼む」
みんなはもうどうするか決めたみたい。
俺はどうしよ。
このまま残ってみんなでまったり過ごすのもいいし、早く帰ってダレかを誘って楽しむのもイイかも!
うぅ~ん、迷うなぁ~。
「あの…みつ、君…」
そんなコトを考えながら荷物を片づけてると、巴先輩から遠慮がちに声をかけられた。
「あ、巴先輩。どうしました?」
「えっと、このあとの予定、決めちゃった…? まだだったら、すこし時間が欲しいんだけど──」
上目づかいでおずおずと言う巴先輩が可愛くて、特にやりたいコトもなかった俺はふたつ返事で誘われるままにいつも先輩がいるあの庭へ行った。
「お待たせみつ君。はい、メープルティーだよ」
「ありがとうございます。こうやってココでお茶するのも久々ですね」
「そう、だね」
そうして定番にありつつある、巴先輩の淹れてくれたメープルティーを飲む。
声をかけてきたときの様子からいって、なんか用があって呼んだんだと思うんだけど…
なんだろう?
もしかして、昨日のコトで相談とか?
「あ、クッキーもあるから、よかったら食べて?」
「おっ、美味しそうですね! じゃあ、いただきまぁす♪」
そうして進められるままにお茶を楽しんでたんだけど、まったりとした時間が進むだけで話を切りだす様子が見えない。
でもなにかいいたげではあるんだよねぇ。
もしかして、切りだしにくいのかな?
だったら…よし!
「あの、巴先輩。どうして今日、俺を誘ったんですか? なにか用でもあったんじゃ…」
「あ…うん。言おうと思ってたんだけど、なかなか言いだせなくて…なんか気を使わせちゃったみたいだね、ごめんね?」
そう言って、巴先輩は申しわけなさそうにあやまってきた。
昨日の今日で落ちこんでるんだろうに、コッチのコトまで考えて──
なんていえばいいんだろう。
巴先輩は、優しすぎる。
もうちょっとワガママっていうか、自分のコトを考えてもいいと思うのに。
なんか、ちょっともどかしいな。
「気にしないでください。俺が勝手にしたコトですから」
俺は感じたもどかしさをごまかすように巴先輩に笑いかける。
巴先輩はいつもみたいにやさしく笑いかえしてくれる、かと思ったんだけど──
「みつ君はやさしいね。やさしいから、ついつい甘えちゃう」
「巴先輩…?」
そう言ってうつむいちゃった。
うつむいてるから、巴先輩が今どんな表情をしてるのかわかんない。
どっ、どうしたんだろう。
俺、なんかしちゃったかな?!
「今日みつ君を呼んだのは、昨日のことをしっかりあやまりたかったからなんだ」
「昨日?」
昨日って、ふたりがケンカしたときのコトかな?
あやまられるようなコトあったっけ?
「昨日、急に抱きついちゃったでしょ? きっとわけもわからずに困ったよね…本当に、ごめんなさい」
巴先輩はうつむいてた顔を上げて、そうあやまってくれた。
泣いちゃったりしてないか心配だったんだけど、目ぇ潤んでないし大丈夫みたいだね。
でも、やっぱりどこかツラそうで…
相談されるまではって思ってたけど、このままにしておくなんでできないよ。
「あやまらなくていいですよ、俺には役得だったんで♪ それより…‥巴先輩、大丈夫ですか?」
「えっ、だ、大丈夫って? もう、みつ君ったらなに聞いて──」
ソコまで言ったトコロで、巴先輩の瞳からポロリと涙が零れた。
それを皮切りにつぎつぎと涙がこぼれ落ちてく。
「巴先輩…」
「っ、ごめん、なんでもないから」
その涙を拭おうと手をのばすけど、その手が届く前に顔を伏せてそらされちゃった。
巴先輩はごまかすように笑いながらそう言うけど、涙は止まらないのか、声が震えてる。
「あの、巴せんぱ──「大丈夫、だから…っ」
「でも…」
目の前で泣いてるのにほっとけないよ。
そう思って声をかけたんだけど──
「大丈夫だって言ってるでしょう!?」
「っ!」
大きな声で怒られちゃった。
突然のコトにビックリして固まってたら、すぐに我に返った巴先輩があやまってくる。
「ごめん、みつ君…ごめん、なさい…っ」
「ツラいコトがあったら、しかたないですよ」
あやまりながらますます涙を溢れさせる巴先輩をそのままにしておけなくて、涙が伝う頬に手をのばす。
今度はそらされるコトもなくて、そっと涙を拭った。
巴先輩はその指をぼんやりと見つめながらポツリと言葉を漏らす。
「悦と…」
「え?」
「悦と初めて会ったのは、僕が中学一年生のときなんだ」
それからゆっくりとふたりのコトを話しはじめた。
病気で学校に行けない巴先輩のために、両親が話し相手として紹介してくれたのがきっかけだったとか。
遊びざかりの悦を自分に縛りつけるのがイヤで突きはなしたけど、悦は毎日来てくれたとか。
「悦との時間全部がキラキラしてて、悦といるだけで世界が何倍もきれいに見えた」
そう話す巴先輩の瞳は雄弁で──
「悦は、僕にとってただひとりの…太陽みたいな存在なんだ」
愛しい。
ただ愛しいと、そう語ってた。
そして巴先輩は笑顔を浮かべて幸せそうに話してくれた。
でも──
「だから…なくしたく、ない」
そう言って、ツラそうに顔を伏せる。
見えなくても、巴先輩が泣きそうになってるのがわかった。
ただひとりの、太陽みたいな存在。
悦のコトをそういった巴先輩。
ソコまでいえるほど、巴先輩は悦が好きなんだ。
すこし、羨ましいな…
俺は小さく震える体を抱きしめながら、そう思った。
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