上 下
73 / 133
退っ引きならない事情にて!

3

しおりを挟む

あれから何時間たったのか。

「期限のあるものはおわったな。今日はこれで終わりにしよう」

副会長によって山のように増やされた仕事を馬車馬のごとく片づけてると、会長から助けの声がかかった。

「週明けからまた忙しくなる。明日は休みにするから、しっかり休んで当日まで頑張れるよう鋭気を養ってくれ」
「え…?」

や、すみ? 
早く帰れるだけじゃなくて、明日も休みになるの?

「そうですね。まだまだやることはたくさんありますから、休めるときに休んでおかないと」
「それじゃあ、解散。あとは帰るなりお茶を飲むなり、好きにしてくれ」
「やったぁ~♪」

一生懸命、頑張ったかいがあったよ!
うわぁ~、このあとなにしよっかなぁ~♪

「「僕たちはのんびりお茶でも飲もうかなぁ」」
「では私が紅茶を淹れてきましょう」
「オレは帰るわー」
「恋、俺のぶんも頼む」

みんなはもうどうするか決めたみたい。
俺はどうしよ。

このまま残ってみんなでまったり過ごすのもいいし、早く帰ってダレかを誘って楽しむのもイイかも! 
うぅ~ん、迷うなぁ~。

「あの…みつ、君…」

そんなコトを考えながら荷物を片づけてると、巴先輩から遠慮がちに声をかけられた。

「あ、巴先輩。どうしました?」
「えっと、このあとの予定、決めちゃった…? まだだったら、すこし時間が欲しいんだけど──」

上目づかいでおずおずと言う巴先輩が可愛くて、特にやりたいコトもなかった俺はふたつ返事で誘われるままにいつも先輩がいるあの庭へ行った。

「お待たせみつ君。はい、メープルティーだよ」
「ありがとうございます。こうやってココでお茶するのも久々ですね」
「そう、だね」

そうして定番にありつつある、巴先輩の淹れてくれたメープルティーを飲む。

声をかけてきたときの様子からいって、なんか用があって呼んだんだと思うんだけど…
なんだろう?

もしかして、昨日のコトで相談とか?

「あ、クッキーもあるから、よかったら食べて?」
「おっ、美味しそうですね! じゃあ、いただきまぁす♪」

そうして進められるままにお茶を楽しんでたんだけど、まったりとした時間が進むだけで話を切りだす様子が見えない。

でもなにかいいたげではあるんだよねぇ。
もしかして、切りだしにくいのかな?

だったら…よし!

「あの、巴先輩。どうして今日、俺を誘ったんですか? なにか用でもあったんじゃ…」
「あ…うん。言おうと思ってたんだけど、なかなか言いだせなくて…なんか気を使わせちゃったみたいだね、ごめんね?」

そう言って、巴先輩は申しわけなさそうにあやまってきた。

昨日の今日で落ちこんでるんだろうに、コッチのコトまで考えて──

なんていえばいいんだろう。
巴先輩は、優しすぎる。

もうちょっとワガママっていうか、自分のコトを考えてもいいと思うのに。
なんか、ちょっともどかしいな。

「気にしないでください。俺が勝手にしたコトですから」

俺は感じたもどかしさをごまかすように巴先輩に笑いかける。
巴先輩はいつもみたいにやさしく笑いかえしてくれる、かと思ったんだけど──

「みつ君はやさしいね。やさしいから、ついつい甘えちゃう」
「巴先輩…?」

そう言ってうつむいちゃった。
うつむいてるから、巴先輩が今どんな表情をしてるのかわかんない。

どっ、どうしたんだろう。
俺、なんかしちゃったかな?!

「今日みつ君を呼んだのは、昨日のことをしっかりあやまりたかったからなんだ」
「昨日?」

昨日って、ふたりがケンカしたときのコトかな?
あやまられるようなコトあったっけ?

「昨日、急に抱きついちゃったでしょ? きっとわけもわからずに困ったよね…本当に、ごめんなさい」

巴先輩はうつむいてた顔を上げて、そうあやまってくれた。
泣いちゃったりしてないか心配だったんだけど、目ぇ潤んでないし大丈夫みたいだね。

でも、やっぱりどこかツラそうで…
相談されるまではって思ってたけど、このままにしておくなんでできないよ。

「あやまらなくていいですよ、俺には役得だったんで♪ それより…‥巴先輩、大丈夫ですか?」
「えっ、だ、大丈夫って? もう、みつ君ったらなに聞いて──」

ソコまで言ったトコロで、巴先輩の瞳からポロリと涙が零れた。
それを皮切りにつぎつぎと涙がこぼれ落ちてく。

「巴先輩…」
「っ、ごめん、なんでもないから」

その涙を拭おうと手をのばすけど、その手が届く前に顔を伏せてそらされちゃった。
巴先輩はごまかすように笑いながらそう言うけど、涙は止まらないのか、声が震えてる。

「あの、巴せんぱ──「大丈夫、だから…っ」
「でも…」

目の前で泣いてるのにほっとけないよ。
そう思って声をかけたんだけど──

「大丈夫だって言ってるでしょう!?」
「っ!」

大きな声で怒られちゃった。
突然のコトにビックリして固まってたら、すぐに我に返った巴先輩があやまってくる。

「ごめん、みつ君…ごめん、なさい…っ」
「ツラいコトがあったら、しかたないですよ」

あやまりながらますます涙を溢れさせる巴先輩をそのままにしておけなくて、涙が伝う頬に手をのばす。
今度はそらされるコトもなくて、そっと涙を拭った。

巴先輩はその指をぼんやりと見つめながらポツリと言葉を漏らす。

「悦と…」
「え?」
「悦と初めて会ったのは、僕が中学一年生のときなんだ」

それからゆっくりとふたりのコトを話しはじめた。

病気で学校に行けない巴先輩のために、両親が話し相手として紹介してくれたのがきっかけだったとか。
遊びざかりの悦を自分に縛りつけるのがイヤで突きはなしたけど、悦は毎日来てくれたとか。

「悦との時間全部がキラキラしてて、悦といるだけで世界が何倍もきれいに見えた」

そう話す巴先輩の瞳は雄弁で──

「悦は、僕にとってただひとりの…太陽みたいな存在なんだ」

愛しい。
ただ愛しいと、そう語ってた。

そして巴先輩は笑顔を浮かべて幸せそうに話してくれた。
でも──

「だから…なくしたく、ない」

そう言って、ツラそうに顔を伏せる。
見えなくても、巴先輩が泣きそうになってるのがわかった。

ただひとりの、太陽みたいな存在。

悦のコトをそういった巴先輩。
ソコまでいえるほど、巴先輩は悦が好きなんだ。

すこし、羨ましいな…

俺は小さく震える体を抱きしめながら、そう思った。




.
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

生徒会会長と会計は王道から逃げたい

玲翔
BL
生徒会長 皇晴舞(すめらぎはるま) 生徒会会計 如月莉琉(きさらぎりる) 王道学園に入学した2人… 晴舞と莉琉は昔からの幼馴染、そして腐男子。 慣れ行きで生徒会に入ってしまったため、王道学園で必要な俺様とチャラ男を演じることにしたのだが… アンチ転校生がやってきて!? 風紀委員長×生徒会長 親衛隊隊長×生徒会会計 投稿ゆったり進めていきます!

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...