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親衛隊パニック!

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◇◇◇

食堂に行くと、入り口に弥尋ちゃんがいた。

「弥尋ちゃん待っててくれたの? ありがとぉ~」
「…‥」

そう声をかけたけど…

あれ? 
反応がない。

固まってるのかな?

「弥尋ちゃん?」
「はっ、すみません! とてもめずらしい光景に言葉を失ってました;」
「めずらしい?」

なにがめずらしいんだろ?

「あ、はい…書記補佐様は人見知りで、人と行動することはまずありませんし、学食を使われることもないので……」
「へぇ~」

そんなめずらしい人が来てるんだぁ。
ドコにいるんだろ?

それらしい人がいないかまわりをキョロキョロ見る。

そしたら、可愛い子と目が合った。
手ぇ振っちゃえ。

「あの、揚羽様…?」

手を振ってたら、おずおずと弥尋ちゃんが見あげてきた。

「え、なに?」

手ぇ振っちゃいけなかったかな?

「揚羽様の隣にいる方が…その、書記補佐様です」
「隣?」

俺の右隣はだれもいない。
ってことは──

「…わんこくん?」
「……」

隣にいるわんこくんを見あげる。
わんこくんは目線をそらして、無表情のまま黙りこんだ。

イヤなのかな? 
目線合わせてくれないし、きっと聞かれたくないんだろうなぁ。

ならいっか、聞くのやめよ。
わんこくんはわんこくんだし。

「弥尋ちゃん、席に案内してくれるかな?」
「あ、はい! こちらです」

そう言って歩きだした弥尋ちゃんについてく。
そのとき、繋いでた手がギュって握られた。

「あ…」

振りかえると、わんこくんのほころんだ瞳と視線が合う。

ドーベルマンかと思いきや、素顔は柴犬だったみたい…
可愛くて、おもわず笑いながら頭を撫でる。

「──揚羽様?」
「あ、ごめん!」

ついてくの忘れてたよ;
今度はちゃんとついてきます!

俺は握られた手を握りかえして歩きだした。

「ここです、揚羽様」
「おぉ~」

やっと着いた目的の場所は、観葉植物がならんでてホントにまわりから見えない。

いい場所だねぇ。

「みんな、お待たせ」
「お待たせしましたぁ~」

弥尋ちゃんにつづいてそういうと、みんなの視線がいっせいに集まる。

反応が早くてちょっとビックリしちゃった;

わんこくんもビックリしたみたいだね。
身体を跳ねさせて、俺の後ろに引っこんだもん。

隠れてるみたいだけど、身長差があるからほとんど見えてるよ…ぷぷっ。

「わ、わんこくん…」
「……」

笑ったのバレたみたい;
ジト目でコッチ見てきてる。

「あー…ごめん、そんな顔しないでよ~」
「手…後、ろ…」

手と、後ろ?
──あぁ!

「そのままでいいよ」
「……」

あ、機嫌なおったみたい。
よかった。

「あの、揚羽様…」

安心してたら、弥尋ちゃんに呼ばれて前を向く。

「ごめんねぇ、勝手に話しこんじゃって…あ;」

み、みんなの視線が痛い。
さっきもこんなコトあったよね;

「いや、あの…ホントに悪いと──『さすがです、揚羽様!』
「え?」

な、なにがさすが?

「人見知りの書記補佐様と仲よくなれるなんて!」
「素敵です!」
「手までつながれて…」
「眼福ですー」

みんなニコニコ笑いながら口々にいう。

えっと、喜んでる…んだよね? 
ならいっか。

「うん! 仲よしだよねぇ~、わんこくん♪」
「……ん…」

あ、わんこくんが返事してうなづいてくれた。

「えへへー」
「……」

嬉しくておもわず笑う。

うなづくだけじゃなくて返事してくれたんだもん。
笑顔になっちゃうよね!

「あとは席についてからにしましよう。注文もしてしまわないと…」
「そうだね。わんこくん、座ろ」
「……」

笑いあってたら、弥尋ちゃんにうながされて席につく。
右に弥尋ちゃん、左にわんこくんで両手に花状態。

まわりにも可愛い子がいっぱいいるし…
俺、すっごい幸せ。

「あー、おなか空いた」
「……」

注文をすませて一息つく。
わんこくんが俺の言葉にうなづいた。

あ、そっか、お菓子買ったけど食べてないもんね!

「楽しみだね」
「……」

うなづくわんこくんに笑いかける。
と、弥尋ちゃんに声をかけられた。

「あの、揚羽様」
「なぁに? 弥尋ちゃん」
「今回は僕たちのためにわざわざ来ていただき、ありがとうございます」
『ありがとうございます』

みんな改まって、ペコリと頭を下げる。

「いいよ、いいよ。むしろ可愛い子たちと一緒にご飯なんて役得だし」

そう言ってにっこり甘くほほ笑むと、みんな顔を真っ赤にして照れたり、嬉しそうに笑った。

もう、胸がキュンキュンするよ!

「すみせん揚羽様。その、あまりほほ笑まれると…」
「ん?」
「なかには倒れてしまう子もいるので;」
「へっ?!」

あ、ホントだ! 
右側のチワワくんが机にバッタリ倒れてる。

「あー…気をつけます;」
「すみません、お願いします」

笑っただけで倒れるって、あの子うぶだったのかな? 
びっくりした。

「それでは、改めて紹介を。僕は親衛隊隊長の、2年S組、井関いせき 弥尋と申します」
「──え?」

弥尋ちゃん、今2年って言った? 
俺、同い年だと思ってめっちゃタメ口だったんだけど!

驚いてると、弥尋ちゃんにつづいてつぎつぎとみんなが自己紹介してく。
1年生から3年生までいるけど、全員敬語。

ずっと気になってたんだけどね…
うん、決めた!

「自己紹介がおわったところで、俺からお願いしてもいいですか?」
「はい、揚羽様。どうぞ」
「敬語と様づけで呼ぶの、やめてもらいたいです」
「えっ!?」

そう言った瞬間、みんなざわめいた。

「揚羽様、それは──「お願いします。先輩もいるし…敬語だと、なんか寂しいじゃないですか。だから、ね? お願いします」
「あ、ぅ…」

弥尋ちゃ──
あ、年上だってわかったんだから弥尋先輩って呼ばなきゃね;

俺は弥尋先輩の言葉を遮っていう。
だって、断られそうだったんだもん。

弥尋先輩は黙ったまま答えてくれない。

そしたら──

「井関隊長、揚羽様のお願いですし」
「でも、様づけが駄目って…」
「そんなの無理です~;」
「でも、揚羽君とかいいかも!」

みんなそれぞれの想いを口にする。

う~ん、やっぱり反対する人はいるかぁ。
でも、ちゃんといったらきっとわかってくれるはず!

「すぐにやめろとはいいません。徐々に慣れてってくれれば…せっかく俺の親衛隊になってくれたんだから──」

見つめるだけじゃなくて。
憧れるだけじゃなくて。

「みんなと、ちゃんと仲よくなりたい。だから、まずは様づけと敬語をなくして、普通の友だちみたいに…ね?」
「揚羽様…‥」

弥尋ちゃ…先輩が俺の名前をポツリと呼んだ。

ダメかな? 
ほとんど俺のワガママだもんね;

「井関隊長、3年の親衛隊員は揚羽様…いえ、揚羽君の意志に従います」

そういったのは3年生の代表者。
揚羽君って呼ばれて、俺は嬉しくてほほ笑んだ。

でも、弥尋先輩は焦ったように声をかける。

「先輩、ちょっと待ってください!」
「あのっ! 2年の親衛隊も同じ意見です。いいよね? みんな」
『うん!』
「揚羽様…じゃなくて、揚羽君のお願いですし」
「1年の親衛隊も同意します!」
『お願いします!』

3年生がいうと、2年、1年ってつぎつぎつづいてく。

あ、なんか今…
青春してますって感じだなぁ。

「みんな……」

弥尋先輩は困ったような顔をしてたけど、みんなを見て、覚悟を決めたようにうなづいた。

「みんなの気持ちはわかりました。……揚羽様、本当にいいんですか?」
「はい!」
「そう、ですか。なら…お言葉に甘えさせてもらうね、揚羽君」
「はい、甘えまくっちゃって下さい♪」
「もう、揚羽君ったら」

まわりからクスクスと笑い声が聞こえる。
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