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プロローグ 追想そして追放
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今から五年前、ある時はダンジョン、ある時は戦地で噂された二人組の冒険者がいた。
人々は顔も年齢も、何もわからないそれらの噂を来る日も来る日も話した。
それらは、神に悪魔に時に英雄に姿を変えながら、人々の口をつたっていく。
* * *
噂が広まり三年。
静かな部屋、恐らく宿屋だろう。質素なベットが横並びに二つあり、間には木の古びたサイドチェストが置いてある。
向き合うようにベットに座った二人は、静かに口を開く。
「今日でもう終わりだ、お前は好きじゃないけど良いコンビだったと思う」
「私もそう思うよ」
サイドチェスト上の小窓からは面白味のない月光が赤目灰髪の”少年”と青目金髪の”少女”を照らす。
二人とも十七から十八歳ぐらいだろう、少年は立ち上がると筋肉質な体が床を軋ませながら歩く。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
ベットに座ったまま少女は、目を向ける。
「行く当てはあるの?」
「あぁ、トップクランに声をかけてもらってる。もちろん、バレてない」
「私も似たような感じだから、そのうち会うかもね」
目線を下げ名残惜しそうに部屋を出ていく。
* * *
そして現在。
「大将、もう一杯ぐれぇー!」
「もう酒が残って無いんだ、やけ酒もそのぐらいにして帰ったらどうだ」
街の中央から少し外れた酒場、よく冒険者が使う静寂だけを切り取って捨てた、そんな場所で男は酒を煽る。
「隣の姉ちゃんもだ、昼に喧嘩しながら二人で入ってきたと思ったらずっと居座って」
「このっ、男と一緒にしないでくれます!」
刺さるんじゃないかという勢いで指を指す。
* * *
遡ること十二時間前。
アルジャ王国、王宮にある王の広間、賞の授与などに使われるだだっ広い部屋には王国五大クランの主要メンバーが顔を合わせる。
壁際には、ピカピカの鎧を着た近衛兵が等間隔に並び、部屋は緊張と静寂に支配されこれから起こる悪夢を待つ。
「ゴホン」
これから話し始めるぞと合図を出すように咳払いをしたのは、玉座に座り小太りで白いひげを蓄え王冠を頭にのせた――正真正銘、国王である。
「今日集まっていもらったのはもちろん、追放式のためである。」
唾を飲み込む音が聞こえる。名の通りこの式は五大クランに相応しくないと判断されたメンバーが”追放される”式だ。
「悲しいことに二つのクランリーダーから申し出があった」
言葉と表情は真逆でニヤリと薄ら笑いを浮かべる。
「では、追放者の名を読み上げる!」
嫌らしく着飾った紙を広げ、祝い事のように喜々として読み上げる。
「まず、ジェルフ・クレム!次にノレス・ミレア!前へ」
ステンドグラスからは虹色の太陽光が”赤目灰髪の男”と”青目金髪の女”を照らす。
先に呼ばれた男――クレムは、腰に付けた本の表紙を震えた指で何度もなぞる。呼吸が荒く、目の焦点が合わない。うつむきつつ前に出る。
「若いな、ふぅん二十歳か今まで名誉も金も……その顔なら女も好きに出来ただろ今日で終わりだ!」
語気を強め、憎しみを込めて吐き捨てる。
(あいつだ、ゼスの野郎!自分が少し長くいるからって……!)
「女、お前も来い」
全身を舐め回すように見る。
「お前も若いな……同い年か顔も良い、どうだ六番目の妻として置いてやる退屈はさせないぞ」
「そう……」
(ミレア、そんな……)
クレムは絶望の表情を浮かべる、追放に対してか、女――ミレアに対してかは明白である。
「はぁ?キモイのよあんた。じゃあ、行かせてもらうからそこの間抜け面の男も行くわよ」
あっけにとられる、この王国の王に対して「キモイ」そう確かに言った。頭がおかしい、そうとしか思えない。普通であれば極刑だろうしかし、堂々とした振る舞いに、誰も何も言えない。
王の広間から出て数秒、首根っこを掴まれ引きずられているクレムはやっと口を開く。
「は?ちょっと待て、おい、離せお前と罪をかぶって死ぬなんて嫌だぞ!おい」
「ちょっと静かにして」
「なんだよ今更!」
「震えが止まらないの!」
生まれたての小鹿のように足を震わせている。それもそうだろう、王に、国に喧嘩を売ったも同然なのだから。
「走れ」
「だかr」
「いいから走るぞ!」
ピカピカの鎧を着た近衛兵が王国トップクランの主要メンバーが最高戦力たちが、この二人を殺すために追いかけてくる。
全速力で並走するクレムとミレア。
「二年前、お前と別れたのはこういうのが嫌だからだ!」
「はぁぁあ、こっちもよ、何が”好きじゃないけど良いコンビだった”よ恥ずかしっ」
「お前なんて六歳まで漏らしてたくせに!」
「あんたなんて、野良犬に囲まれて泣いてたじゃない確か十歳の時よ!」
「その時は俺の本からスモークスカンクを出して逃げただろお前も一緒に!」
「そうよその臭い煙のせいでお気に入りの服捨てたのよ!」
「でもそれがなきゃ逃げれなかった!」
『……それだ!』
顔を見合わせお互い同意する。
クレムは、腰に付けた古びた本を取り出し、開くと魔法を使う。
「出てこい、スモークスカンク!」
本が発光し、文字が浮かび上がると空中で混ざり合いスカンクの形を成していく。
「ボッフゥ」
スカンクの形を成すと同時に煙幕を出す。それは、臭いと煙で、二人の姿を追ってから隠す。
人々は顔も年齢も、何もわからないそれらの噂を来る日も来る日も話した。
それらは、神に悪魔に時に英雄に姿を変えながら、人々の口をつたっていく。
* * *
噂が広まり三年。
静かな部屋、恐らく宿屋だろう。質素なベットが横並びに二つあり、間には木の古びたサイドチェストが置いてある。
向き合うようにベットに座った二人は、静かに口を開く。
「今日でもう終わりだ、お前は好きじゃないけど良いコンビだったと思う」
「私もそう思うよ」
サイドチェスト上の小窓からは面白味のない月光が赤目灰髪の”少年”と青目金髪の”少女”を照らす。
二人とも十七から十八歳ぐらいだろう、少年は立ち上がると筋肉質な体が床を軋ませながら歩く。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
ベットに座ったまま少女は、目を向ける。
「行く当てはあるの?」
「あぁ、トップクランに声をかけてもらってる。もちろん、バレてない」
「私も似たような感じだから、そのうち会うかもね」
目線を下げ名残惜しそうに部屋を出ていく。
* * *
そして現在。
「大将、もう一杯ぐれぇー!」
「もう酒が残って無いんだ、やけ酒もそのぐらいにして帰ったらどうだ」
街の中央から少し外れた酒場、よく冒険者が使う静寂だけを切り取って捨てた、そんな場所で男は酒を煽る。
「隣の姉ちゃんもだ、昼に喧嘩しながら二人で入ってきたと思ったらずっと居座って」
「このっ、男と一緒にしないでくれます!」
刺さるんじゃないかという勢いで指を指す。
* * *
遡ること十二時間前。
アルジャ王国、王宮にある王の広間、賞の授与などに使われるだだっ広い部屋には王国五大クランの主要メンバーが顔を合わせる。
壁際には、ピカピカの鎧を着た近衛兵が等間隔に並び、部屋は緊張と静寂に支配されこれから起こる悪夢を待つ。
「ゴホン」
これから話し始めるぞと合図を出すように咳払いをしたのは、玉座に座り小太りで白いひげを蓄え王冠を頭にのせた――正真正銘、国王である。
「今日集まっていもらったのはもちろん、追放式のためである。」
唾を飲み込む音が聞こえる。名の通りこの式は五大クランに相応しくないと判断されたメンバーが”追放される”式だ。
「悲しいことに二つのクランリーダーから申し出があった」
言葉と表情は真逆でニヤリと薄ら笑いを浮かべる。
「では、追放者の名を読み上げる!」
嫌らしく着飾った紙を広げ、祝い事のように喜々として読み上げる。
「まず、ジェルフ・クレム!次にノレス・ミレア!前へ」
ステンドグラスからは虹色の太陽光が”赤目灰髪の男”と”青目金髪の女”を照らす。
先に呼ばれた男――クレムは、腰に付けた本の表紙を震えた指で何度もなぞる。呼吸が荒く、目の焦点が合わない。うつむきつつ前に出る。
「若いな、ふぅん二十歳か今まで名誉も金も……その顔なら女も好きに出来ただろ今日で終わりだ!」
語気を強め、憎しみを込めて吐き捨てる。
(あいつだ、ゼスの野郎!自分が少し長くいるからって……!)
「女、お前も来い」
全身を舐め回すように見る。
「お前も若いな……同い年か顔も良い、どうだ六番目の妻として置いてやる退屈はさせないぞ」
「そう……」
(ミレア、そんな……)
クレムは絶望の表情を浮かべる、追放に対してか、女――ミレアに対してかは明白である。
「はぁ?キモイのよあんた。じゃあ、行かせてもらうからそこの間抜け面の男も行くわよ」
あっけにとられる、この王国の王に対して「キモイ」そう確かに言った。頭がおかしい、そうとしか思えない。普通であれば極刑だろうしかし、堂々とした振る舞いに、誰も何も言えない。
王の広間から出て数秒、首根っこを掴まれ引きずられているクレムはやっと口を開く。
「は?ちょっと待て、おい、離せお前と罪をかぶって死ぬなんて嫌だぞ!おい」
「ちょっと静かにして」
「なんだよ今更!」
「震えが止まらないの!」
生まれたての小鹿のように足を震わせている。それもそうだろう、王に、国に喧嘩を売ったも同然なのだから。
「走れ」
「だかr」
「いいから走るぞ!」
ピカピカの鎧を着た近衛兵が王国トップクランの主要メンバーが最高戦力たちが、この二人を殺すために追いかけてくる。
全速力で並走するクレムとミレア。
「二年前、お前と別れたのはこういうのが嫌だからだ!」
「はぁぁあ、こっちもよ、何が”好きじゃないけど良いコンビだった”よ恥ずかしっ」
「お前なんて六歳まで漏らしてたくせに!」
「あんたなんて、野良犬に囲まれて泣いてたじゃない確か十歳の時よ!」
「その時は俺の本からスモークスカンクを出して逃げただろお前も一緒に!」
「そうよその臭い煙のせいでお気に入りの服捨てたのよ!」
「でもそれがなきゃ逃げれなかった!」
『……それだ!』
顔を見合わせお互い同意する。
クレムは、腰に付けた古びた本を取り出し、開くと魔法を使う。
「出てこい、スモークスカンク!」
本が発光し、文字が浮かび上がると空中で混ざり合いスカンクの形を成していく。
「ボッフゥ」
スカンクの形を成すと同時に煙幕を出す。それは、臭いと煙で、二人の姿を追ってから隠す。
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