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第7章 記憶の旅路
cys:168 溶け合う二人の別れ
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───疲れた。凄く……
身体ではなく、精神が疲れ果てたノーティスは、家に帰るとそのまま部屋へ直行し、ベットにドサッと仰向けになった。
けれど、目を閉じても一向に寝付けない。
───ハァッ、寝る事も出来ないか。まぁ、ちょうどいいか……
ノーティスはベットから身を起こすと、部屋を見渡し荷物の整理を始めた。
ここに来てまだ日は浅いが、色んな想いが部屋にこもっている。
───アネーシャ。キミに出会ってから俺は……
様々な感情が入り交じる中で荷物の整理をしていると、部屋の扉がコンコンッ……と、静かにノックされた。
「ノーティス……」
「ア、アネーシャ?」
「うん。入って、いい?」
「……いいよ」
ノーティスが扉を見つめながら静かに答えると、ガチャッという音と共に扉が開いた。
「アネーシャ……」
「ごめんなさい、ノーティス。こんな遅くに」
すまなそうに軽く瞳を伏せて告げてきたアネーシャの姿が、月の光に照らされ切なさが醸し出される。
無論、時間の事だけでなく、さっきの事がその切なさの要因だ。
「いや……別にいいよ。今ちょうど、キミの事を考えてたから」
「私の?」
「あぁ」
優しさと切なさを纏い静かにそう答えると、ノーティスはアネーシャにスッと背を向け窓辺に佇んだ。
窓から差し込む月の白く柔らかい光が、ノーティスを照らす。
その姿がアネーシャをハッとさせ、胸をギュッと締めつけた。
ノーティスのその行動と、そこから醸し出される儚げな雰囲気がシドに重なったから。
───シド……
心で思わずそう零したアネーシャに、ノーティスは背を向けたまま夜空を眺め静かに口を開く。
「綺麗な星と優しい月だな」
「えぇ、そうね……」
後ろ姿を見つめたまま、静かに答えたアネーシャ。
本当はもっと話をしたいのに、上手く言葉が出て来ない。
そんなアネーシャを背に感じたまま、ノーティスは静かに零す。
「こんな夜空を見上げてると、何か分からないけど不思議な気持ちなる」
「不思議な?」
「なんだろう……上手く言えないけど、大切な人と見た気がするんだ」
「そう……きっと、そうなのかもしれないわね」
アネーシャの中に、切ない感情が小さく渦巻く。
それは小さな嫉妬の気持ち。
その気持ちを置き去りにするかのように、アネーシャがスッと前に進んだ時、ノーティスは哀し気な瞳を静かに揺らした。
脳裏に、さっきアネーシャと共に見た女神の記憶を浮かべながら。
「それに、俺は信じたくない。こんな綺麗な世界で、あんな事があったなんて」
「ノーティス……」
「けど、女神の記憶もライトの事も間違いなく起こった事だし、俺がここにいれば、きっとまた悲劇が起こる」
そこまで零すと、ノーティスはスッとアネーシャの方へ振り向き、凛とした眼差しを向けた。
「ごめんなアネーシャ。俺がいたせいで、キミに消えない傷を負わせてしまった」
「違うの……」
「いや、違わない。謝って済む事じゃないけど、本当にすまなく思ってる。ただ、キミと過ごした日々は決して忘れない」
「……ノーティス」
「心配しなくていいよ。俺はこれから、どこかでひっそりと暮らすさ」
アネーシャを澄んだ瞳で見つめながら、ニコッと優しく微笑んだノーティス。
皮肉でも強がりでもなく、アネーシャに心配をかけたくないのだ。
アネーシャには、その気持ちがヒシヒシと伝わってくる。
それに我慢出来なくなったアネーシャは、飛びつくように無言でギュッと抱きついた。
「ア、アネーシャ?!」
急に抱きつかれ、ビックリしながら顔を赤くしたノーティス。
けれど、アネーシャは抱きついたままだ。
「ノーティス、私は……私は……貴方に出て行ってほしくないの……!」
「アネーシャ……」
ノーティスの心にアネーシャの想いが染み渡り、胸の奥がググッと押し潰されそうになってしまう。
想われる気持ちと、だからこそ一緒にいてはダメなんだという気持ちが、嵐のように駆け巡るから。
だからこそ、ノーティスはその想いをグッと抑え、瞳を閉じてアネーシャを両手で抱きしめた。
「アネーシャ……気持ちは嬉しいけど、俺はきっとキミを不幸にしてしまう。それだけは、したくないんだ……!」
心から声を振り絞るように告げてきたノーティス。
その胸の中で、アネーシャはギュッと目を閉じ涙を流す。
アネーシャにとってノーティスは、愛するシドを奪った憎い仇。
けれど、同時に溢れてくるのだ。
ノーティスと一緒に過ごした短くも穏やかで幸せだった日々が、まるで泉から湧き出てくるように。
「私は、それでも……貴方を愛してる」
「アネーシャ……」
ノーティスはアネーシャをさらにギュッと抱きしめると、スッと両手で横に抱きかかえた。
「えっ?!」
思わず小さく声を上げたアネーシャの鼓膜を、ノーティスの心臓の鼓動が低音で揺らす。
そしてそのままベットに置き、ノーティスは顔を火照らせるアネーシャの脇に両手をつくと、切ない愛を浮かべ見つめた。
「……俺には、こうする事しか出来ない」
「ノーティス、それで充分よ……」
見つめながら、片手をそっとノーティス頬に添え優しく微笑んだ瞬間、二人は口づけを交わした。
奇しくも、同じ事を思いながら。
───本当は、ずっと一緒に……
その想いと共に、二人は熱く切なく溶け合った。
◆◆◆
深く眠っているノーティスの側で、アネーシャはそっと起きると服を着て静かに見つめた。
───ノーティス……貴方はシドを奪い、私の心を憎しみの炎で焦がした人。けど、本当の貴方は誰よりも優しい。だから……
アネーシャは心でそう告げると、ノーティスに背を向けドアの前に立ち、スッと瞳を閉じる。
───貴方を……貴方の大切な人達と戦わせたりしない。私が、ケリをつけるわ。
静かにドアを開け、部屋の外に出たアネーシャは感じた。
目の前に広がる真っ暗な廊下が、これからの道を示しているようだと……
身体ではなく、精神が疲れ果てたノーティスは、家に帰るとそのまま部屋へ直行し、ベットにドサッと仰向けになった。
けれど、目を閉じても一向に寝付けない。
───ハァッ、寝る事も出来ないか。まぁ、ちょうどいいか……
ノーティスはベットから身を起こすと、部屋を見渡し荷物の整理を始めた。
ここに来てまだ日は浅いが、色んな想いが部屋にこもっている。
───アネーシャ。キミに出会ってから俺は……
様々な感情が入り交じる中で荷物の整理をしていると、部屋の扉がコンコンッ……と、静かにノックされた。
「ノーティス……」
「ア、アネーシャ?」
「うん。入って、いい?」
「……いいよ」
ノーティスが扉を見つめながら静かに答えると、ガチャッという音と共に扉が開いた。
「アネーシャ……」
「ごめんなさい、ノーティス。こんな遅くに」
すまなそうに軽く瞳を伏せて告げてきたアネーシャの姿が、月の光に照らされ切なさが醸し出される。
無論、時間の事だけでなく、さっきの事がその切なさの要因だ。
「いや……別にいいよ。今ちょうど、キミの事を考えてたから」
「私の?」
「あぁ」
優しさと切なさを纏い静かにそう答えると、ノーティスはアネーシャにスッと背を向け窓辺に佇んだ。
窓から差し込む月の白く柔らかい光が、ノーティスを照らす。
その姿がアネーシャをハッとさせ、胸をギュッと締めつけた。
ノーティスのその行動と、そこから醸し出される儚げな雰囲気がシドに重なったから。
───シド……
心で思わずそう零したアネーシャに、ノーティスは背を向けたまま夜空を眺め静かに口を開く。
「綺麗な星と優しい月だな」
「えぇ、そうね……」
後ろ姿を見つめたまま、静かに答えたアネーシャ。
本当はもっと話をしたいのに、上手く言葉が出て来ない。
そんなアネーシャを背に感じたまま、ノーティスは静かに零す。
「こんな夜空を見上げてると、何か分からないけど不思議な気持ちなる」
「不思議な?」
「なんだろう……上手く言えないけど、大切な人と見た気がするんだ」
「そう……きっと、そうなのかもしれないわね」
アネーシャの中に、切ない感情が小さく渦巻く。
それは小さな嫉妬の気持ち。
その気持ちを置き去りにするかのように、アネーシャがスッと前に進んだ時、ノーティスは哀し気な瞳を静かに揺らした。
脳裏に、さっきアネーシャと共に見た女神の記憶を浮かべながら。
「それに、俺は信じたくない。こんな綺麗な世界で、あんな事があったなんて」
「ノーティス……」
「けど、女神の記憶もライトの事も間違いなく起こった事だし、俺がここにいれば、きっとまた悲劇が起こる」
そこまで零すと、ノーティスはスッとアネーシャの方へ振り向き、凛とした眼差しを向けた。
「ごめんなアネーシャ。俺がいたせいで、キミに消えない傷を負わせてしまった」
「違うの……」
「いや、違わない。謝って済む事じゃないけど、本当にすまなく思ってる。ただ、キミと過ごした日々は決して忘れない」
「……ノーティス」
「心配しなくていいよ。俺はこれから、どこかでひっそりと暮らすさ」
アネーシャを澄んだ瞳で見つめながら、ニコッと優しく微笑んだノーティス。
皮肉でも強がりでもなく、アネーシャに心配をかけたくないのだ。
アネーシャには、その気持ちがヒシヒシと伝わってくる。
それに我慢出来なくなったアネーシャは、飛びつくように無言でギュッと抱きついた。
「ア、アネーシャ?!」
急に抱きつかれ、ビックリしながら顔を赤くしたノーティス。
けれど、アネーシャは抱きついたままだ。
「ノーティス、私は……私は……貴方に出て行ってほしくないの……!」
「アネーシャ……」
ノーティスの心にアネーシャの想いが染み渡り、胸の奥がググッと押し潰されそうになってしまう。
想われる気持ちと、だからこそ一緒にいてはダメなんだという気持ちが、嵐のように駆け巡るから。
だからこそ、ノーティスはその想いをグッと抑え、瞳を閉じてアネーシャを両手で抱きしめた。
「アネーシャ……気持ちは嬉しいけど、俺はきっとキミを不幸にしてしまう。それだけは、したくないんだ……!」
心から声を振り絞るように告げてきたノーティス。
その胸の中で、アネーシャはギュッと目を閉じ涙を流す。
アネーシャにとってノーティスは、愛するシドを奪った憎い仇。
けれど、同時に溢れてくるのだ。
ノーティスと一緒に過ごした短くも穏やかで幸せだった日々が、まるで泉から湧き出てくるように。
「私は、それでも……貴方を愛してる」
「アネーシャ……」
ノーティスはアネーシャをさらにギュッと抱きしめると、スッと両手で横に抱きかかえた。
「えっ?!」
思わず小さく声を上げたアネーシャの鼓膜を、ノーティスの心臓の鼓動が低音で揺らす。
そしてそのままベットに置き、ノーティスは顔を火照らせるアネーシャの脇に両手をつくと、切ない愛を浮かべ見つめた。
「……俺には、こうする事しか出来ない」
「ノーティス、それで充分よ……」
見つめながら、片手をそっとノーティス頬に添え優しく微笑んだ瞬間、二人は口づけを交わした。
奇しくも、同じ事を思いながら。
───本当は、ずっと一緒に……
その想いと共に、二人は熱く切なく溶け合った。
◆◆◆
深く眠っているノーティスの側で、アネーシャはそっと起きると服を着て静かに見つめた。
───ノーティス……貴方はシドを奪い、私の心を憎しみの炎で焦がした人。けど、本当の貴方は誰よりも優しい。だから……
アネーシャは心でそう告げると、ノーティスに背を向けドアの前に立ち、スッと瞳を閉じる。
───貴方を……貴方の大切な人達と戦わせたりしない。私が、ケリをつけるわ。
静かにドアを開け、部屋の外に出たアネーシャは感じた。
目の前に広がる真っ暗な廊下が、これからの道を示しているようだと……
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