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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:112 禍々しい超越者と守るべき者

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「な、なんだこれは?!」

 ノーティスは片膝をついて彼女を抱きかかえたまま、ギョッとした表情で周りを見渡した。
 異様な黒い紫色の磁場に覆われている世界を。
 その雰囲気は、異次元空間に作られた牢獄のようだ。

「これは、一体……」

 そう零した瞬間、天空から巨大な白く神々しい光がサアアッと降り注がれ、その光の中から降臨してきた。
 この世の者とは思えない5人の巨大な超越者とも呼ぶべき存在達が。

「なんだあれは!!」

 ノーティスは、驚愕に目を大きく開き見つめた。
 まるで、世界の終わりを告げてくるような恐るべき存在である彼らの姿を。

 そんな彼らは、邪悪その物であると同時に神の如き絶大なオーラを放ちながらノーティスを見下ろし、神々しさと禍々しさを交叉させた声で告げてくる。

「光の勇者エデン・ノーティス。これはお前の夢……しかし、同時に現実でもある」
「夢であり現実? どういう事だ!? 何よりお前達は一体……」

 その瞬間、ノーティスの頭に凄まじい痛みが走る。
 まさに字の如く、頭がはち切れそうな痛みが。

「うっ……! くっ、こ、これは……!」

 脳内を駆け巡っていく痛みと、それに伴って溢れ出てくる大量の記憶。

 ノーティスは両手で頭を抱えて顔をしかめる中で、全てを思い出した!
 なぜ今自分がここにいて、彼らが誰で、これまで何をしてきたのかを!
 そこから、全身に駆け巡っていく。
 彼らへの激し過ぎる怒りが……!!

 それと共に頭痛が収まると、ノーティスは彼女を抱えたままギリッと歯を食いしばり、悲壮な想いと共にゆらっと立ち上がった。
 
 そんなノーティスをを嘲笑うかのような表情で、ニタニタしながら見下ろしてくる5人の超越者達。

「クククッ……」
「ウフフッ……」
「キシシシシッ……」
「ハハハハハッ……」
「グフフフフッ……」

 彼らから伝わってくるのは、この世の邪悪を全て集め濃縮したような、漆黒よりもさらに暗くおぞましく禍々まがまがしさに満ち溢れたオーラだ。

 それにより、あらゆる負の感情がノーティスにドクドクと流れ込んでくる。
 普通の人間ならば、一瞬で精神が闇に犯され崩壊してしまうだろう。

 だが、ノーティスはそれらを全てバシュッ!! と、全て弾き飛ばし、彼らを下からキッ!! と、睨みつけた。
 ノーティスがかつて誰にも見せた事のない、焼け焦げるような怒りに満ちた瞳を向けて。

「お前達のせいで俺は……いや、俺達は皆……!!」

 しかし、ノーティスのその怒りを嘲笑うかのように、彼らはその瞳を邪悪な光で煌めかせた。

「我らの鍵であり同時に仇名すその女。どこに行こうとも…どの世界に転生しようとも、決して逃さぬ」
「そうよぉ♪ 決して逃さないから」
「ヒヒヒヒヒッ♪ 逃さなーーーーい」
「それに光の勇者、オマエもだ。オマエの魂の逃げ場など、どこにもありはしない」
「所詮、我らの因果律から逃れる事など出来ぬ運命……諦めるがいい」

 ノーティスは完全に分かっていた。
 この世界を破滅させる事を悦ぶおぞましき存在達である彼らは超越者であり、凄まじく絶大な力を持っている事を。

 けれどノーティスは鞘から剣をスッと抜くと、彼らに臆することなく剣を構え、精悍な眼差しで正面から向き合った。
 師であるアルカナートが、そうしてきたように。

───師匠。俺は……

 ノーティスはアルカナートに想いを馳せながら、彼らを決意と共に睨みつけた。

「因果律? 逃げ場? 諦める? お前らの勝手な基準で俺の……いや、俺達の人生を勝手に決めるなよ……俺達はお前らの玩具おもちゃじゃない! 命を……生きる事を侮辱するな!!」

 ノーティスは激昂しながらも、自身の心をしっかりと見据えて詠唱を行う。
 必ず勝たなければいけないから。
 この邪神達に、自分だけで……

「ハァァァァッ……! 光のクリスタルの名の下に、限界を超えて輝け!! 俺のクリスタルよ!!!」

 ノーティスは、額の魔力クリスタルから放たれるゴールドの煌めきを全身にまとい、超越者達に必殺剣で突撃していく。

「お前達を倒し……俺は、今こそ全てに決着を付ける!! 闇の彼方へ還れ!! 『アトミック・エクス・ギルスラッシュ』!!!」

 ノーティスは激しすぎる悲しみと怒りに涙をほとばせながら、たった1人で彼らに立ち向かっていった。
 この身が引き裂かれても消えない程の、悲しい記憶と絶望を胸に抱えて。

───ロウ……アンリ……レイ……ジーク……メティア……そして……!

「ハァァァァッ!!!」

───みんな……俺は未来を変えて、今度こそ、みんなとこの世界を……そして……キミを守り抜く!!

 その想いと共に邪神達に立ち向かうノーティスの意識は、漆黒の闇に覆われていった……

◆◆◆

「……様っ」
「……ティス様っ!」
「ノーティス様っ!」
「うわっ!」

 ノーティスが目を覚ましガバっと上半身を起こすと、その目に飛び込んできたのはルミの姿だった。
 駐車中の車の中、心配した顔でノーティスの事を見つめている。

「大丈夫ですか、ノーティス様」
「ん、あぁ……」
「大分うなされていたご様子でしたが……」

 ルミからそう言われ、体中汗をぐっしょりかいている事に気付いたノーティス。

「うわっ、俺ベタベタじゃん」

 そうボヤきながら、どんな夢を見たのか思い出そうとしたが全く思い出せない。
 夢とはそういう物だと分かってはいるが、まるでモヤがかかったように不透明だ。

「ルミ、俺どんな夢見てたんだっけ……」

 片手で頭をクシャっと掻き寝ぼけてるノーティスに、ルミは呆れた顔でやれやれのポーズを取る。

「知りませんよ。さすがに私も、そこまで管理は出来ません」
「まぁそうだよな……けど、何か大切な事だった気がして……」

 少し考え込んでるノーティスを、ルミは何となく不思議そうに見つめた。
 あまり見た事が無い表情だったから。
 もちろん、今までノーティスが考え事をしている顔は幾度となく見てきているが、今日のそれはいつもよりも何か深い事を思い出そうとしているように感じたのだ。

───ノーティス様、どうされたんだろう?

 ルミは心でそう呟くと、ノーティスの事を見つめながらニコッと微笑んだ。

「ノーティス様、そういう時は帰って一緒に美味しい紅茶を飲みましょう♪」
「あぁ、そうだな」

 ノーティスの返事は少し元気が無かったが、ルミはそれ以上考えずに再び運転する事に決めハンドルに手をかけた。
 もちろん、ノーティスの事をこの場で元気に出来れば一番いいのだが原因が夢で、しかもノーティスがその内容を覚えていなのであれば、これ以上考えてもムダだと思ったから。

「ではノーティス様、行きますよ♪」

 そしてノーティスもルミと同じ事を考えていた。

「ルミ、帰ったらとびきり美味い紅茶を頼むよ」
「はいっ、任せてください。私、ノーティス様の執事ですから♪」

 ルミは笑顔でそう言うと、アクセルを目一杯踏んだ。

 ルミの運転は、相変わらず早い上に心地がいい。
 窓の外の景色が静かにドンドン移り変わっていく。
 そんな車に揺られながらノーティスは再び夢の内容を思い出そうとしたが、残念ながら一切思い出せなかった。

───やっぱり無理か。でも……

 ノーティスは、ルミをチラッと横目で見る。
 嬉しそうに運転してくれている、ルミの頼もしく可愛い姿を。

───夢がもし途轍もない悪夢であったとしても、俺はこの現実に感謝してる。

「ルミ、ありがとうな」
「な、なんですか急に」
「フッ、いや別に♪」

 ノーティスは後頭部に両手を添えてシートによたれかかると、嬉しそうな顔をして目を閉じた。
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