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第2章 波乱のギルド検定試験

cys:28 レイの運命の人とぶつかる魂

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 レイの切なく甘い記憶……

 スマート・ミレニアム軍の中でも強く美しい王宮魔導士のレイは、子供の頃からその美貌で周りを魅了してきた。

 もちろん、男達からは性的な目で見られ、女達からは憧れと同時に嫉妬もされる。

 けれど、やはりその分レイの言う事は他の子よりも優先されたし、魔力が元々飛び抜けて優れていたレイは、クラスのカーストの中では常に最上位だった。
 それを失いたくないからこそ、自分の美しさにより磨きをかける。
 レイが美しさにこだわり力とみなすのも、そんな幼少期と決して無縁ではない。
 
 それにより、レイの美しさは日に日に高まっていった。

『私の美しさに、全ての男達はひざまづくの♪』

 そう思っていたし、実際男はもちろんの事、女もレイの高貴な美貌にひれ伏していた。

 ただそんなレイでも、1人だけ思い通りにならなかった男がいる。
 かつて自分を誘拐犯から救い出してくれた上に、その後自分を弟子にしてくれたスマート・ミレニアム最強の勇者だ。

 その男はレイに言い寄ってこないばかりか、レイが気のある素振りをしてもぶっきらぼうな態度を崩さない。
 けれど、揺るぎない強さと優しさが自然とレイを包んでいく。

 レイはその男に夢中になり、今まさにその男を嬉しそうに見つめながら話している。

「ねぇ、もっとこっち向いてよ」
「今、本を読んでんだ。見りゃ分かるだろ」
「本なんかよりも、レイを見て♪」
「無理」
「ねぇっ、なんで」

 レイは可愛く甘えた顔で、口を尖らして話を続ける。

「みんなレイに夢中なのに、オカシイよ」

 すると、男はメンドクサそうに呟く。

「悪いが、ガキには興味がない」
「なによ、レイは子供じゃないわ! もう大人よ。付き合ってくれたっていいじゃない」
「ハァッ。お前はまだ、見た目も中身もガキだ」
「酷いっ! みんなはレイの事、綺麗とか可愛いって言ってくれるのに……」

 レイが悔しさと怒りに涙を滲ませ軽くうつむくと、男は分厚い本をパタンと閉じてレイの方へ静かに振り向き、透き通った艶のある瞳で見つめる。

「レイ、真の美しさは見えるモノじゃない。感じるモノだ」
「感じるモノ? 何よそれ。分からないわ」
「フッ。もしいつか、それをお前に分からせるヤツが現れたなら……レイ、それがお前の運命の相手だ」

◆◆◆

 切なく甘い記憶を振り返ったレイは、ノーティスの事を睨みながら苛立ち身体を震わせる。

「なんで……なんでアナタなんかが同じ事を言うの?! 私の愛するあの人と同じ事を!」
「あの人……?」
「許さない……! もういいわ。絶望に染まって存在ごと消えなさい!」

 レイはノーティスをギッと睨み怒鳴りつけると、手の平の上の不死鳥をより輝かせた。
 その輝きがレイの美貌と交わり、神々しい輝きを周囲に溢れさせていく。

 けれど、ノーティスは臆する事無くそれを見据えたまま、心の中でアルカナートに誓う。

───師匠、今こそアナタから授けてもらったひかりを示します!

「光のクリスタルの名の元に、輝け! 俺のクリスタルよ!!」

 その瞬間、ノーティスのクリスタルから白く鮮やかな『白輝びゃっき』の光が眩く輝き、その煌めきがノーティスの全身を包み込んだ!

 その輝きに照らされ、美しい目を大きく開いたレイ。

「ノーティス、アナタの魔力クリスタルは無色のハズじゃ……!」
「……師匠から教えてもらったんだ。勇者の光を発揮させる為には、他の色よりも心の力が必要なのさ」
「なんですって?!」
「だから、一見無色の魔力クリスタルにしか見えないし、心を輝かせなきゃ無色のままなんだ」
「そんな……」

 ノーティスから無色のクリスタルの秘密を聞かされたレイだが、どうしても納得出来ない事があった。

「でも、どうやって……アナタは無色の魔力クリスタルのせいで、これまで散々苦しめられてきたハズよ。なのになぜ……心が闇に染まらなかったの!」

 大きく叫んだレイに、ノーティスは必殺剣の構えのまま凛とした瞳で答える。

「……レイ、言っただろ。俺の心には大切な人達が宿ってるって」
「くっ……そんな事認めないわ! これで終わりよ! 『ディケオ・フレアニクス』!!」

 ノーティスに向かい、巨大なエネルギーで作られた不死鳥が襲いかかる。
 けれどノーティスはその不死鳥を真正面から見据え、より白輝の煌めきを輝かせた。

「だから、俺はこの技でキミに答える……全ての絶望を斬り裂く、数多の流星の斬撃『メテオロン・フォーススラッシュ』!!」

 その瞬間、まるで流星群のような輝きを放つ数多の光の斬撃が、レイの放った不死鳥に飛び向かっていく。
 
 神々しく輝くレイの不死鳥と、闇を切り裂くようなノーティスの流星。
 それは正に、レイとノーティスの魂その物に思える。

 その両者は空中でぶつかると、カッ!! とした眩い閃光が走り辺りを白く激しく照らす。
 そして、レイの不死鳥は空中で斬り刻まれ、虚空にバシュンッ!! と、激しく消し飛んだ。

 それにより起こった凄まじい衝撃波と斬撃がレイを襲う。

「キャーーーーっ!!」

 レイは大きく吹き飛ばされ背中から地面に倒れると、悔しそうに顔をしかめながら上半身を起こし跪いた。
 傷付いた体に片手を添えたまま。

「くっ……そんな。私の不死鳥が破られるなんて……! しかも、今の光と技は、間違いなく私が愛してるあの人の……」

 嘆きを零しながら戸惑うレイに、ノーティスがゆっくりと近づいてくる。

───ううっ、このままじゃ、やられる……

 レイが悔しさでその瞳に涙を滲ませた時、試験場のドアがバンッと勢いよく開かれ、そこからレイに駆け寄ってくる男がいた。
 それは何と、あのエミリオだ。

 エミリオは傷付き跪いているレイの側に駆け寄ると、レイの両方に手を乗せ心から心配している顔で見下ろす。

「姉さん! 大丈夫?!」
「エミリオ……アナタなぜ……」

 レイが少し呆然とした顔で問いかけると、エミリオはレイの前に背中を向けてバッと立ち、ノーティスに向かい両手を広げた。

「姉さんはボクが守る! ノーティス、お前なんかに姉さんは殺させない!!」

 レイを倒したノーティスの力に恐怖しながらも、それよりも遥かに強い気持ちでレイを守る為に、エミリオはその身を盾にして立ち塞がった。

 すると、エミリオに遅れ、なんとルミも入口から駆け込んできた。
 ルミは息をハアハア切らせて駆け寄り、ノーティスの事を見つめる。

「ノーティス様っ、ご無事ですか! さっきの爆発音が気になってしまって……!」

 ルミから心配されたノーティスだが、ノーティスはその瞬間ニヤリと笑う。

「フッ、ルミ。何も心配する事はない。今からこの女にトドメを刺すだけだからな」
「ノ、ノーティス樣……?」

 ルミはギョッとして見つめた。
 邪悪な笑みを浮かべ、エミリオとレイを見下ろすノーティスの横顔を……
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