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第2章 波乱のギルド検定試験

cys:8 決別の光

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「なっ?!」

 ディラードはあまりに予期していなかったノーティスの言葉に、一瞬われを失った。

───ありがとうだと? コイツは、一体何を言っているんだ?!

 両親があれほど罵倒し、さらに自分がトドメを刺すような言葉を言ったのに、ノーティスから怒りでも嫌味でも悲しみでもなく、優しくありがとうと言われたからだ。

 そんな中、ノーティスは父親と母親の方を振り向くと、ディラードに向けたのと同じ瞳で2人を見つめる。

「ありがとう。父さん、母さん」
「なっ……!」
「なんなの……」

 まるで、不審者を見るような目でノーティスを見返している父親と母親。
 もちろん側でそれを見ているルミも、なぜノーティスが彼らに礼を言うのか分からず、思わず驚きに目を丸くした。

「ノ、ノーティス様、なぜあの方々に礼を?」

 すると、ノーティスはルミにチラッと優しい眼差しを向けてから、ディラードと両親に向かい微笑んだ。

「父さん、母さん。そしてディラード。アナタ達のお陰で俺は今幸せです」

 ノーティスがそう言うと3人とも、コイツは何を言ってるんだ? という顔をしてきたが、ノーティスは構わず話を続けていく。

「もしアナタ達がこうでなかったら、俺は師匠にもセイラにも、そして、今隣で俺の身を案じてくれるルミにも、きっと出会えていなかったから」

 ノーティスはそう言って一呼吸置くと、一瞬悲しそうに笑って顔を軽く斜めにうつむかせた。

───ノーティス様……!

 その悲しげな笑みを見て、切なさに胸がキュッと締め付けられたルミ。
 ノーティスの気持が痛い程伝わってきたから。

 そんなルミの側で、ノーティスはディラード達を再び澄んだ瞳で見つめる。

「そして、変わってくれてなくて感謝してる。これで心置きなく決別出来るよ。父さん、母さん、ディラード……これが、感謝とさよならの光です」

 ノーティスはそう告げた瞬間、額の魔力クリスタルを一瞬だけキラキラと輝かせた。
 もちろん、本気でも何でもないので詠唱も行わずに。

 けれど、そこから溢れ出した白輝の光は3人を強く照らし、そのまばゆい輝きに照らされた3人は、思わず片腕で顔を覆った。

「くぅっ!」
「きゃぁっ!」
「うわっ!」

 そして、輝きをスッと収めたノーティスは彼らにサッと背を向けると、そのまま颯爽とその場を後にした。
 また、ルミは歩き出したノーティスを見てハッとし、その背中をタタッと小走りで追いかける。

「ノーティス様ーー! 待って下さい。私もやっぱり一緒に行きます!」
「えーーっ、いいよ一人で」
「ダメです。私はノーティス様の執事なんですから♪」
「んーーーまあ、そうなんだけどさ」
「はい、じゃあ一緒に行きましょう♪」

 ディラードはその姿を唖然あぜんとした顔で見つめていたが、ハッと我に返ると怒りに心を沸騰させ、ギリッと歯を食いしばりながらノーティスの後ろ姿を睨みつけた。

「あんなの……あんなの何かの間違いに決まってる! インチキだ……クリスタルに何か細工をしたんだ!」

 怒りに震え片足でダンッ! と、地面を踏みつけたディラードは、父親と母親の方にバッと振り向き賛同を得ようとした。

「そうですよね! お父様、お母様!」

 けれどその時瞳に映ったのは、顔を真っ青にしたまま目を大きく開き、頭を両手で押さえガタガタと震えている父親の姿だった。

その姿を見て、ギョッとしたディラード。

「お父……様?」
「アナタ、一体どうしたのよ?」

 ディラードの母親も不安そうな顔をしながら、父親の顔を下から覗き込んだ。
 父親の表情があまりにも異常だったから。 

 すると、父親はガタガタ震えたまま言葉を零す。

「み、見間違える訳がない……アレは、あの輝きは……」

 父親が何を言ってるのか分からず苛立ったディラードは、父親に向かいイラッとした顔を向けた。

「お父様、アレは一体何なんですか?」

 すると、父親は恐る恐る口を開く。

「私もかつて、冒険者を目指した事のある男だ。その中で知らない者はいない。あの魔力クリスタルの輝きは、全冒険者の憧れそのモノであった伝説の勇者……剣聖イデア・アルカナート様の光だ!」

 すると母親も、驚きに目を丸くしながらいぶかしむ顔をした。

「アルカナートって、私も知ってるわ。最高の功績を遺した後、突如消えたあのアルカナート様でしょ?」

 そう零す母親の目の前で、父親は両手で頭を抱えたままうつむいた。

「そうだ……しかし、なぜアイツがアルカナート様と同じ輝きを……! アレは訓練して出来る物ではない。そもそも、無色の魔力クリスタルのヤツがなぜ? こんな事はありえん……いや、あってはならないのだ!!」

 それを聞いた母親は瞳を絶望に染め、金切り声で叫びを上げる。
 自分達が罵倒し蔑み捨て去った子が、本当はディラードなどとは比べ物にならないほど、最高の人物だと知ったからだ。

「そんなの嘘よ……もし、もし本当にそうなら私は何て事を……あっ……あっ……そんなの、いやぁーーーーーーーーーっ!!」

 母親は自分の愚かさを呪ったが、もう今さら遅すぎる。
 ただただ、凄まじい後悔の念が全身を駆け巡る中を、絶望の念に悶え苦しんで生きていくしかないのだ。

「うわぁぁぁぁっ!!!!」
「いやーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 地べたにへたり込み泣き崩れ、怒りと絶望に打ち震える二人。

 ディラードは、そんな父親と母親を見限るようにクルッと背を向けると、心の中でノーティスにドス黒い怒りの炎をメラメラと燃やす。

───認めない……認めないぞ! アンタが俺より凄いだなんてある訳がないし、あっていけないんだ!! この、クソ野郎が!!

 そして、その気持ちと共に黒い誓いを心に打ち立てる。

───ここからの試験で、必ず化けの皮を剥いでやる。アンタは地べたで這いつくばり、俺がそれを見降ろす。そう、それこそが正しい姿なんだから……!
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