戦いたくない二人の勇者と、魂を殺す二人の刃『シャイニング・ブレイド』

ジュン

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交わる剣と、スレ違う想い

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 今、戦場で二つの国家が互いに総力を上げ、激しい戦闘を繰り広げている。
 鎧を纏った戦士達や魔装束に身を包んだ魔道士達が、自らの想いを力と技に込め、全力でぶつけ合いながら。


 ワァーーーーー!!

 ガキン! ガキン! ズシャッ!!

 ぐはっ!!

 ドオンッ!! バチバチバチッ!!

 ううっ! あぁっ……

 勇敢な咆哮ほうこうと悲しい悲鳴が交叉し、重火器と激しい攻撃魔法によりブワッと大きく舞い上がった、血と悲しみの混じった砂塵さじん
 それが、燦々さんさんと照りつける太陽の強い日差しを覆い隠す。
 まるで、心が悲しみで覆われていくように。

 そんな戦場で、それぞれの国の勇者である二人の少年『エデン・ノーティス』と『アルベルト・シド』は、遂に出会ってしまった。
 互いを見据え合う二人。
 もう、引き返す事は出来ない。

 戦いは始まってしまったから。
 この戦場で誰よりも激しく剣と剣。技と技。
 そして、魂同士を交叉させて……

「ハァァァァァッ!!」
「オォォォォォッ!!」

 ガキインッ!!

 凄まじい音と共に互いの刃がぶつかり合い、二人の勇者は互いに歯を食いしばりながら鍔迫つばぜり合いを始めた。

「シド……!」
「ノーティス……!」

 互いに睨み合い全力で押し合う剣が、ギリギリと音を立てて揺れ、髪がブワッと波打つ。

 その状態を暫く続けた後、二人はギリィィィンッ!! と、剣を滑らすように弾かせ、互いに後ろにバッと飛び退いた。
 二人の剣の威力により、飛び退いた足元にズザァァァッ! と大きなくぼみが作られる。
 
「くっ……!」
「チッ……!」

 互いの力は拮抗しているのは明らかだ。

 そんな中、ノーティスは剣を片手でサッと逆手に構え上半身をグッと後ろにじると、シドを強く見据えたまま、まばゆい闘気をたぎらせてゆく。

「輝け! 俺のクリスタルよ!!」

 その咆哮と共に、自らの額に埋め込まれている『魔力クリスタル』を輝かせ、そこから放たれた白く輝くオーラを全身にまとわせていった。

 その姿からは、一目見て分かる高い戦闘力と神々しさが立ち昇り、ノーティスの周囲の光景が揺らめいて見える。


 それを目の当たりにしたシドは、ギリッと歯を食いしばりノーティスを鋭く睨みつけた。

「これが貴様の力……『白輝びゃっき』の光か……!」

 鋭い視線で見据えたまま、シドは怒りと切なる想いと共に、片手をサッと天に掲げ詠唱を行う。

───俺はこの戦い、決して負ける訳にはいかないんだ……!

「精霊といにしえの神々よ! 我に宿り、共にその力を示せ!」

 その直後、シドは全身から高貴な銀色の闘気をブワッと立ち昇らせた。
 纏っている鎧が、銀色の光に照らされ染まってゆく。

 そして、片手に持った剣をビュッと前に突き出し、鋭く光る剣先と共に相手を見据えた。
 軽く揺れた銀髪の奥から覗かせるクールな瞳に、熱く譲れない想いを宿して。
 
「偽りの輝きをまとう勇者エデン・ノーティス。俺は、お前には決して負けない!」
「シド……違う! 俺の光は偽りなんかじゃない! 今まで仲間達と歩んできた道は決して……」

 ノーティスがそこまで言った時、シドはキッ! と睨み言葉を断ち切った。

「黙れ! 貴様らが……貴様らの国スマート・ミレニアムが……俺達にどれだけの事をしてきたと思っている!」
「違うんだシド! 分かってくれ……! 全て誤解なんだ! 俺達は……」
「くどいっ!」

 シドは、ビュッと剣を振りノーティスの言葉を再び断ち切ると、腰を落とし剣を上段突きの形に構えて必殺技の態勢を取った。
 シドの剣が、ゆっくりと銀色の光に満ちてゆく。
 そして、その光が剣先まで満ちキラッと光った時、シドは瞳にキッと力を込めた。

「真実を覆い隠す、偽りの光と歴史にまみれた国の哀れな勇者ノーティスよ……喰らえ! ケトゥス・一乃牙いちのきば神狼翔牙じんろうしょうが』!!」」

 怒りと共にシドが突き放った剣先から、銀色の鋭い牙のような閃光が襲いかかる。

 それを真っ直ぐに見据えるノーティス。
 身を包む白輝びゃっきの輝きがより強く立ち昇ってゆく。

「くっ……シド、俺も負ける訳にはいかないんだ。この光と共に歩んできた仲間達の為にも! 『バーン・メテオロンフォース』!!」

 ノーティスの振り抜いた剣から数多あまたの流星のような斬撃が放たれ、シドの技を迎え撃った。

 ドガァァァンッ!!

 二人の必殺技が激しくぶつかり、凄まじい衝撃波とまばゆい閃光が周囲にブワッ! と広がる。

 周囲にいる者達は片腕で顔を覆いガードした。
 この二人の戦いには、他の誰も入ってはいけない。
 ただ、見つめるのみ。

 そんな激しい技の応酬を続けながら、ノーティスとシドは互いの事を魂で感じ認めてゆく。
 皮肉にも、命を賭けた戦いこそが互いを一番理解し合えるからだ。

 けれど、それゆえに二人は苦しくなっていた。
 互いの吐息が強くなる。
 剣によって負う傷よりも、魂が負う傷によって。

───シド……間違いなく、キミは気高い戦士の誇りを持っている。だから敵じゃなく、本当は友として横に並びたい……!

───おかしい……これが俺達を永きに渡り残虐非道な手口で蹂躙してきた、卑劣な国の勇者だというのか……! この男からは、誇りある剣聖のような澄んだ想いが伝わってくる。くそっ……なぜだ……なせだっ!


 この二人は互いに心で認め合いながらも、どうして剣を交えなければいけないのか?
 それは二人の国が敵対関係にある事に加え、互いの生い立ちにある。


 魔力クリスタルを使い繁栄を極める、超魔法国家
 スマート・ミレニアム
 その国の勇者である主人公の少年
 『エデン・ノーティス』


 彼は幼い頃、自身の持つ魔力クリスタルが、自分だけ無魔力である『無色の魔力クリスタル』と判明し、クラスメイトからはもちろん、親や兄弟からも蔑まれ追放されてしまった。
 あの時の絶望は、筆舌に尽くしがたい。

 だがそんな絶望の中、無力であるにも関わらずモンスターから少女を救おうとした時、彼の真の魔力が覚醒した。
 そして、そこから伝説の英雄との出会いを通じ勇者に。

 無論、勇者になっても驕ることなく、むしろ、常に自分より人を救う事を優先する。
 また、彼と戦った敵はただ敗れるだけでなく、その戦いの中で大切な気持ちを思い出してしまう。
 それは、彼が人の痛みを知ってるから。

 絶望の中にいたからこそ、彼の手は温かい。

 けれど今、ノーティスは攻め入ってきている敵国から皆を守る勇者として、どんな相手とでも真正面から戦わなければいけないのだ。
 魔力クリスタルの力を最大限に輝かせて……!


「シド……目を、さませっ!」
「目を醒すのは貴様だ、ノーティス!」


 逆に、その魔力クリスタルを用いる事を断固拒否する国家
 トゥーラ・レヴォルト
 その国の勇者である少年
 『アルベルト・シド』



 彼はクールだが、ノーティスと同じく元々は心優しく思いやりのある少年だ。

 しかし、尊敬する父を敵国スマート・ミレニアムに惨殺され、そこから復讐の為だけに誰よりも強さを欲し剣の腕を磨いてきた。
 修行に魂を注いできた手は、少年のものとは思えない程ボロボロだ。

 その為、彼の優しさは普段はその鋭さに隠されてしまっているが、愛する彼女には時折優しく微笑む。
 
 けれど、彼は普段滅多に笑わない。
 復讐を果たし父の仇を取るまでは、自身を抜き身の刀でいると決めているからだ。

 そんなシドは、怒りにワナワナと体を震わせノーティスを睨みつけている。
 ノーティスから、戦う理由が国と大切な者達を守る為だと聞いたからだ。

「守る為に戦うだと……ふざけるな……ふざけるなよノーティス! 俺の守りたかったモノを奪い、蹂躙してきた国はお前達のくせに!!」

 シドの怒りと切なさが交叉する魂からの怒声を、その身で受け止めたノーティス。
 

「シド……!」

 ノーティスは、分かってもらえない悔しさにグッと歯を食いしばり全身をブルブル震わすと、片手をバッとを大きく横に振った。

「違うんだ! 俺達はそんな事をしていない!」
「黙れノーティス! 真実の歴史を知らぬ愚か者がっ!!」

 互いの切なる想いは決して交わらない。

 そんなニ人が戦場で向かい合っている。
 互いに譲れない、どこまでも純粋で真っ直ぐな想いと共に。
 ニ人から立ち昇るオーラは、それを表すかのようにどこまでも気高く美しい。

 けれど、間違いなく消えてしまうのだ。
 この戦いで、どちらかが。

 その気高く美しい想いと共に……!


「シド、俺はキミと……!」
「ノーティス、戦場に余計な情は無用だ。いかなる時もクールに徹しろ」
「けど、俺達きっと本当は……」

 ノーティスの魂が叫ぶ。
 シドは敵ではなく、本当はかけがえのない友になれる相手だと……!
 なのに、戦わなければならない運命。
 その運命に、悔しさと哀しさの入り混じった顔で身を乗り出したノーティスを、シドは冷徹に見据えた瞳で制した。

「……もういい、話は終わりだ。俺は、お前とお前の師、イデア・アルカナートを倒すためだけに生きてきたんだ! これで終わらす!!」

 シドはそう叫ぶと、剣を斜め横に構え真っ直ぐ飛びかかった。
 それを、悲壮な想いと共に迎え撃つ構えに入ったノーティス。

「くっ……! シド……!!」

 その瞬間、二人の瞳と心、そしてその想いを込めた剣先が切なくキラリと光った。
 まるで、その先にある結末に涙を零したかのように。



───人はなぜ、戦わなければならないのか……!

 二人の剣と煌めく魔力クリスタルが、その答えを知っている。
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