【第一章完結】D.E.R─ 最愛の彼女を取り戻す為、俺は悪魔に魂を捧げた

ジュン

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第一章 出逢ってから、奪われるまで

D.E.R─22 ルミの正体……

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「翔……実は私ね」

ルミがそこまで言った時、翔の心臓の鼓動は加速度的に高まった。
ルミの言葉と表情から直感的に感じた、とてつもなくイヤな予感と共に。
けれど、覚悟をしてルミに相槌を打つ。

「うん……」

翔の声と表情から気持が痛い程伝わってきたルミは、意を決した表情で翔に思ってる事を伝えようとした。
けれど一呼吸置いて、一つ話を挟む事にした。
ルミ自身、本当に言いにくい話だから。

「ごめん翔。その前に、少しだけ話していい?」

ルミにそう告げられた翔は、もやっとした何とも言えない気持ちになった。
早くルミからちゃんと聞きたいという気持ちと、まだ聞かなくてよかったという安心感とが、心の中でせめぎ合ってるいからだ。

「……あぁ。いいよ、ルミ」
「ありがとう翔。私ね、翔が元カノさんにああいうフラれ方したのを聞いて、前に泣いちゃったでしょ。翔と初めて出会った日に」
「あーーあったよな。俺が光太とセイントごっこした日だろ?」
「そう♪その日」

そう言って、少し笑みを浮かべたルミ。
ルミは泣いてしまった自分を元気づける為、翔と光太がセイントごっこをした事を思い出し、なんだかとても懐かしい気持ちになったのだ。

「まあ、あれは光太が余計な事を言うからいけない訳で……まあ、セイントごっこはちょっと楽しかったけど」
「アハハ♪翔と光太さん、けっこーノリノリだったもんね。私が泣いてたのに」
「悪ぃー悪ぃ」

ルミは軽く頬を膨らませた後、スッとせつない表情に戻り翔に話を続けた。

「翔、私ね……あの時、凄く気持ち分かっちゃったの」

切ない表情を受けべながら話すルミに、翔は問いかける。

「ん?分かっちゃったっていうのは、元カノの気持の事?」
「ううん、違うよ。翔の気持だよ」
「俺の?もしかして、ルミも好きなヤツにフラれたのか?」

翔はルミにそう問いかけながら、納得していた。
だから自暴自棄になって、俺なんかとこんな関係になってるんだと。
だから、傷が癒されれば去っていくんだろうと思った。

───ハハッ、そーだよな。じゃなきゃルミみたいな子が、俺を好きになる訳ねーよな。まあ、いい。いつもの事さ……

心でそう呟き、これから言われるであろう事を受け入れる準備をした翔。
けれど、ルミの答えは違った。

「ううん翔、全然違うよ。翔は薄々気付いてるかもしれないけど、私ね……実は財閥の娘なの」

ルミの予想外の答えに、翔は思わず目を丸くした。

「ざ、財閥っ?!」
「そう。多分、日本人なら誰でも知ってる財閥。私、そこの娘なの」

───日本で誰でも知ってる財閥って言えば、あっ!なんで気付かなかったんだ。

「ちょっと待って……もしかしてルミ、あの朝比奈財閥の娘なのか!?」

ルミは翔の驚いた顔を見つめたまま、コクンと頷いた。

───マジか!メッチャビックリしたわ。けど確かに……

普通に聞けば突拍子もない話だが、翔は意外にストンと腹落ちした。
ルミの今までの行動を思い返したからだ。

女子高生なのにお金を持ってる事や、翔のボロアパートをアトラクションに乗るような目で見ていた事。
また、ルミは天真爛漫で可愛いけど、外の子とは違う上品さがある事。
それにあの迎賓館での違和感の無さ。
そのどれもが、ルミの今の話を裏付けていた。

「そうなのか……まあ、でもルミと一緒にいて、そんな感じはしてたよ。まさか財閥の娘までとは思わなかったけどさ」
「そっか……さすが翔だね」

ルミは翔に哀しそうな顔をしたまま、話を続ける。

「ちなみに、財閥の娘ってどんな暮らしだと思う?」
「財閥の娘の暮らし?」

翔は自分とはまるで縁のない世界の事を、頑張って想像してみた。

「う~ん、そうだな……なんか使用人とかSPとか付いてて、豪華な衣食住がある感じ?」
「うん……まあ、そんな感じかな」
「スゲーじゃん。俺なんか一回も味わった事のない生活だ。何でもあるって凄いわ。俺なんか、なーんもねぇからさ。家の鍵すらかけねーし。ノーロック男よ」

ルミ寂しそうな顔をしながらも微かに笑った後、翔に質問した。
今の話をしていて、フッと尋いてみたいと思ったから。

「翔はそういう豪華な生活してみたい?だから小説頑張ってるの?」

けれどルミは言った瞬間後悔した。
今自分が翔にした質問を。

───きっとそうだよね。あぁもう!なんでこんな意地悪な質問しちゃったんだろ……最低だ、私。

けれど翔の答えは、ルミの予想とは全く違った。

「いや、ルミには悪いけど、そういうのはいいかな」
「なんで?」
「ん?いや、こんな状態のオッサンが言っても、ただの負け犬の遠吠えに聞こえるかもしれないけど、見えなくなりそうだから」
「えっ?」
「いや、金とか地位とか増えてくるとさ、それに群がってくる人も自然と増えるだろ。そーなるとさ、どうしてもいろんな人達から、フィルター越しにしか見てもらえなく気がするからさ」
「翔……」

ルミは驚いた。
翔の答えが予想外だったのはもちろん、翔の声に何の見栄や嘘も感じなかったから。
そして翔は、ルミがさらに好きになる事をサラッと自然に言ってくる。

「まあ、俺が新人賞取った時は少しだけそんな感じだったからさ。自分じゃなくて、新人賞を取った人って見られ方でさ。別に、俺自身は何も変わっちゃいねーのにさ」

ルミは思わず翔にギュッと抱きついた。
そうせずにはいられなかった。

「翔でよかった……♪」
「ん、どーゆ―事だ?」

ルミは翔を見つめて話す。
翔がいいのにと思いながら。

「私ね、今翔が言った通りなの。私、周りの誰からもずっと財閥の娘として扱われるから、誰も私の事をそのまま見てくれる人なんていないの」
「あっ、そういう事か……」
「うん、全部親が決めた通り。それに、寄ってくるのは私の事を、財閥の娘として利用しようと考えてる人達だけ。もしくは、ただの身体目当ての男とか」
「ルミ……ルミはいっぱいいいとこあるし頑張ってるのに、ルミ自身を見てもらえなかったんだな」

哀しそうな顔を向ける翔に、ルミは心から幸せそうな顔を向けた。

「でも翔は違った。私がお金ある素振り見せても利用しようとしなかったし、襲ってもこなかった。むしろ、私の事を想って突き放したでしょ」
「いやまあ、ルミは明るくて元気だし、何より人の為に泣く事の出来る女の子だから、幸せになってほしいと思ったから」

その瞬間、ルミは翔の名前を繰り返し呼びながら、ギュッと顔をしかめて抱きついた。
翔の事が愛おしくてたまらないから。
自分の事をちゃんと見ててくれて、大事にしてくれてる事が嬉しすぎて。

「翔ー翔ーー♪」

でも同時に、ルミは今から言わなきゃいけない事が辛すぎて、涙が溢れそうになる。
けれど、その涙をグッと堪えて翔の胸の中で懺悔した。

───ごめん翔……後ちょっとだけ。ちょっとだけでいいからこうさせて。

「ルミ」

翔はそんなルミを愛おしく抱きしめながらも、ハッと気付いてしまった。
今ルミが言った、全部親が決めた通りという言葉から。

「ルミ……って事は、もしかして……」

翔はルミ胸の中で抱きしめながらも少し離し、ルミを凛とした瞳で見つめた。
するとルミは翔の胸の中で涙を流していた。

ルミは涙でボロボロになった顔を翔に向け、懺悔の表情を浮かべた。

「うん……翔。わたしね、婚約者がいるの……!」

ルミから告げられた瞬間、翔はヒシヒシと感じた。
暖かい布団の中にいるにも関わらず、あまりの悲しさで、自分の全身が急速に冷え切っていくのを。
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