【第一章完結】D.E.R─ 最愛の彼女を取り戻す為、俺は悪魔に魂を捧げた

ジュン

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第一章 出逢ってから、奪われるまで

D.E.R─8 ルミ、翔とケンカする

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「いいの。あんな親……」

今までニコニコ笑ってたのに、急に険しい表情になったルミ。
これまで翔の前で何度か顔を膨らませた事はあったけど、今回は今までの比ではない。

───思春期だし、親とはワケありかー?

そう思った翔は、翔自身の思春期を振り返ってみた。

翔は親への反抗というのは、正直あまりなかった。
けど、翔の周りの奴らは結構親に反抗してたし、翔自身は親には無かったものの世間に反抗してた。

翔は素直だし人当たりも良かったから、周りとはそれなりに上手くやってこれたけど、世の中の風潮とは、どーしても昔から相容れない性格だった。
それが大きければ大きい程。

もしそれが親に対してのモノなら、お互い辛いだろうなと思った翔は、一旦ルミのワガママを受け入れる事にした。

「ハァッ……分かったよルミ。じゃあ、もう少しだけな」

その瞬間ルミは険しい表情から一転し、パッと笑顔を輝かせた。

「わあっ、翔っ!ありがとう♪」

翔の優しさが本当に嬉しくて、思わず翔にバッと抱きついたルミ。
翔のガッシリした身体に、ルミの華奢で柔らかい身体の感触が伝わってくる。

「おっと……ルミ」
「ん?どーしたん?」

上目遣いで翔を見上げてくるルミの事を、翔は正直メチャメチャ可愛いと思った。
けど翔はルミの両肩を掴んで、グッと引き離した。

「ルミ、近すぎだ」

もーちょっとハグしていれば、翔は流石に理性を抑えられそうになかったから。

「あっ……♪」

さっきのが勢いなのかワザとだったのか分からないが、ルミは頬を赤くしてうつむいた。
その顔もメチャメチャ可愛かったから、翔も照れてそっぽを向きながら片手で頭をポリポリ掻く。

「あーー喉乾いた。茶でも入れよっか」
「そ、そーだね翔っ。私もほしいな」

翔はドキドキしながら台所にサッと行き、気持ちを落ち着かせるようにお茶をゆっくり注いでいる。

───茶道の天才、千利休先生。俺が今入れてるのは安っすいスーパーの麦茶だけど、茶道の精神を私めに教えてください。

けれど、そんな無茶苦茶な要望に千利休が答える訳もなく、翔の心はドキドキしっぱなしだ。
でも、ここは年上の自分がしっかりせなと思い、翔は千利休のサポート無しで何とか気持ちを落ち着かせた。

そして、それはルミも一緒だった。
ドキドキしっぱなしで、心はメッチャ混乱している。

───ど、どーしよ!半分勢いもあったんだけど、翔に嫌われちゃたかなぁ。あーーーん、もうヤバい。

ルミは翔が戻って来るまでに、何とか気持ちを落ち着かせようと思って、何か気持ちを紛らわせる物はないかと、部屋をキョロキョロ見渡した。

すると、ふと目に止まった。
床に倒れたまま置かれている翔のバッグに、原稿らしき物がチラッと出ているのが。

ちょうどその時、翔が両手にお茶を持ってやってきたので、ルミは翔のバッグを指差した。

「翔。もしかして、あのバッグから見えてるのって、翔が新しく書いた小説?」
「ん?ああ、そうだよ」
「アレも読みたい!」
「いや、やめとけよ。アレは、どこに持ち込んでもボツにされた小説なんだから」
「いいの!アレだけ読ませて。お願い」

翔の断りを押し退け、ルミは強く頼んだ。
その小説が、どうしても気になったから。

もちろん翔は気が進まない。
けど夜も近くなってたので、翔はルミにその小説を見せる代わりに提案をする事にした。

「分かった。じゃあ読んでもいいけど、それ読んだら帰れよ。約束な」
「……分かったよ翔」
「よし。じゃあ、俺執筆に戻るから、読み終えたら教えて。後、これお茶な」
「ありがとう」

そこから三十分ほどすると、ルミは興奮しながら翔の背中へ声をかけてきた。

「翔っ!」
「おおっ、ビックリした。まさか、もう読んだの?」

顏を振り返らせ目を大きく開いた翔に、ルミはキラキラした瞳を向けてくる。
全身からパァッと明るいオーラを放ちながら。

「翔、こっちメチャメチャおもしろい!新人賞のは普通に面白かったけど、こっちのは段違いで面白いよ!」
「えっ、マジで?!」
「うん♪だから一気に読んじゃった。やっぱ翔は凄いよっ♪」

翔はちょっと呆気に取られてしまった。
メッチャ興奮してるルミに、いい意味で気圧(けお)されたから。
でも同時に、信じられない気持ちもあった。

「いや、ルミからそう言われたら嬉しいけど、それはないだろ。最初のは新人賞取った作品だけど、今ルミが読んでくれたのは、どの編集者にもボツにされて、web小説サイトでも全然反応無かった作品だぞ」
「えっ?ウソ!なんで?こっちの方が断然面白いよ!」

ビックリして片手を口に当てたルミの瞳を、翔はパチクリしながら見つめた。
ルミの瞳からはお世辞とかではなく、本心からそう思っている事が伝わってきたからだ。

「ありがとう。ルミがそう言ってくれるのは、マジでスッゲー嬉しいよ。書いて良かったって思える」
「翔♪」
「けど……時代に合わないのさ。俺の作品は」
「えーーっ、なんでよ?そんなん、おかしいっ!」
「悔しいけど、結果が全てなのさ。新人賞のはさ、売れてる小説のテンプレを使って書いてみたんだ。それがヒットしたけど、俺が書きたい作品は全然別だった。だから、それからは自分のオリジナルで書いたんだけど、自分のオリジナルで書くようになってからは全然売れないのさ……」

翔は寂しそうにそう呟いた。
ルミが面白いって言ってくれたのが本心のように、翔が今言ったのも本心であり本当の事なのだ。

本来小説とかは、オリジナリティが出てる方が面白い。
でも、今の時代はそうでなく、テンプレートに沿った物がいいとされる事が多々あるのだ。
理由はシンプルで、今の世の中に余裕が無いから。

昔みたいに時間に余裕がある生活かというと、今の時代はそうでない人が圧倒的に多い。
そうなってくると、エンタメを楽しむ時間も少なくなる。
だから、面白いかどうか分からない作品よりも、テンプレに沿った分かりやすく面白さが分かる作品が好まれるのだ。

ちなみにこれは小説だけでなく、漫画や動画でも徐々に広がってきている。
翔が変えたいのはそこなのだが、なかなか大変なのだ。
だからこそ、ルミが認めてくれた事は翔にとって凄く嬉しかった。

「でもルミ、ありがとう。ルミがそう言ってくれたから、俺また頑張る気力が沸いてきたわ。俺が書いてる主人公みたいに、最後まで諦めずに書いていくわ!」
「翔……」
「だから、ルミもちゃんと家に帰って、また明日から頑張ろう。今日は出会えてよかった。元気でな」

翔からそう言われたルミは、急に捨てられるペットのような表情を浮かべた。
今の翔の言葉に込められた想いがルミに伝わり、ルミの胸はせつなさでギュッと締め付けられたから。

「なんで?なんでそんな風に言うん?翔にまた、会いに来ちゃダメなん?」
「いやルミ……そういう事じゃなくてさ、ルミはまだ若いんだから、俺みたいな奴と関わってちゃダメだよ。ちゃんと幸せにならなきゃ」

翔はルミを愛おしいと思う心を押し殺して、ルミを突き放す。

本当は自分の作品を心から褒めてくれたルミと、もっと一緒にいたかった。
許されるのなら、この場でルミを思いっきりハグしたい。
出会ってまだ数時間だったが、ルミの心の綺麗さと天真爛漫な明るさに、翔の心は救われていたからだ。

───でも、だからこそ……

翔は思っているのだ。
ルミは自分なんかと関わらず、幸せになるべき人間だと。

けれど、ルミは悲しくて辛くて胸が苦しい。
翔の言いたい事は分かるけど、突き放された事には変わりないから。
また何より、ルミも翔に気持ちが救われてたのだ。
でも、その気持ちは翔には届かない。
皮肉にも、ルミを大事に想ってくれてるからこそ……

だからルミは叫んだ。
その綺麗な瞳に涙を浮かべ、悲しみと怒りを込めて。

「翔のバカっ!ひどいよ!」

ルミは翔に踵を返し勢いよく家のドアを開けると、そのまま泣きながら走り去っていった。
その後、自然にパタンと閉まった扉を前に、翔はため息を零しながら立ち尽くしている。

「フウッ……これでいいのさ。ごめん……でも、ありがとうルミ。元気でな」

翔はそう呟くと、心の中からポッカリ何かが抜けた気がした。
そして、部屋に戻り窓をガラガラッと開けタバコを吸うと、まるで翔の心を移すように、紫煙が虚空に消えていった。
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