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第一章 出逢ってから、奪われるまで
D.E.R─2 朝比奈瑠美『ねぇ、何を捨てれないの?』
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「ねぇ、何を捨てれないの?」
「えっ?!」
後ろから不意に問いかけられた翔はドキッとして、その声の方にクルッと顔を振り向けた。
するとその瞬間、翔の瞳に飛び込んできた。
きょとんとした表情で自分の事を見つめている、メチャメチャ可愛い女子高生の姿が。
そよ風に揺れるサラサラのセミロングの髪に、クリッとしたネコ目。
そして、可愛く着こなしたブレザー。
売れない作家である翔は、読者モデルや有名インフルエンサーなんて会った事は無い。
けど、もし実際会ったらこんな感じかもしれないと思わせるレベルだ。
───なっ、何だこの激カワな子は?!
翔はどぎまぎしながらも、サッと姿勢を正して片手でクシャクシャッと頭を掻いた。
こんな可愛い子に自分の心の叫びを聞かれたかと思うと、翔は本当にメチャメチャ恥ずかしかったのだ。
───や、やっちまったか?
「あーーえっと……もしかしてキミ、俺の言った言葉、聞こえちゃってた?」
「アハハッ♪そりゃ聞こえてるよー♪あーんな大きな声で『俺は捨てれないんだよっ!』なんて叫んでたら♪」
翔の言葉を強調しながら、屈託ない笑みを浮かべる彼女。
むしろ、本当は聞かせたかったんじゃないの?ぐらいの言い方だ。
なので翔は、自分の情けなさがより一層際立った気がして心の中で悶絶した。
───やっぱりかーー!まったく、なんつー日だ。神様、俺をイジメて楽しいっすか?
勝手に神様に文句を言う翔。
こんなん神様もいい迷惑だし、そんなん知ったこっちゃないだろうが、翔にとっては赤っ恥だ。
「ハァッ……キミみたいな女の子がいるのも気づかず叫んじゃうなんて、俺マジでもう、末期症状だな……」
あーもう終わったわという顔してボヤく翔に、彼女は可愛い顔を近づけたまま不思議そうな目で見つめてくる。
嫌みとかじゃなく、本当に分かんないって顔をしながら。
「えーーっ、末期症状?お兄さん、凄く元気そうだけど?」
「はっ?これのどこが元気そうなんだよ。俺は色々あって、今、凄ーーく落ち込んでるの」
「ふーん、そうなんだ?」
「いやむしろさ、俺のどこを見て元気に見えた訳?」
くたっと肩を落として、やれやれのポーズを取った翔。
まあそんな事をしなくても、翔からは充分にくたびれているオーラが溢れているのだが。
そんな翔の目の前で、彼女は人差し指を自分の下唇に当て斜め上に視線を向けながら軽く唸る。
「うーんとね……」
───ったく。可愛い子は、悩んでいても可愛いな。よれたジャケットを着て思い悩んでる俺の姿とは、大違いだわ。同じ人類とは思えない……宇宙人さん、人類の代表はこっちの子です。間違えないで下さいませ。
翔がそんな下らない事を考えていると、彼女は翔に向かってパッと明るい笑顔を向けた。
「そう!なんかね、戦ってボロボロなのに……今から、また戦おうとしてる感じがしたから♪」
「えっ?」
翔はハッとして、思わず大きく目を見開いた。
その言葉は、翔が心の中でいつも思っていた言葉の一つだったから。
日々、書けども書けども認められず上手くいかない作家活動の中で、翔は常に戦っていた。
負けてたまるか。諦めてたまるかと。
それを今出会ったばかりの彼女から言われ、翔はビックリしたけど嬉しかったのだ。
「ハハッ……それなら確かに、元気に見えたかもな」
「でしょ?私の目は誤魔化せないよっ♪」
どんなもんだい、というような顔をしながらエッヘンと胸を張る彼女。
翔は本当に嬉しかったけど、すぐに表情を元に戻して少し目を伏せた。
ドライなようだが、そんな風に言ってもらえても結局現状は何も変わりはしないからだ。
自分の小説が売れていない事に、何の変りも無い。
「でも、落ち込んでるのは本当だ」
「ふーん、そうなんだ……ってかそう!さっき言ってたアレ、何を捨てれないの?」
───おーい、結局そこに戻るのかよ。
翔は参ったなという顔をしながら、再び片手で頭をクシャクシャっと掻いた。
何か頭が痒い人みたいだ。
「えっ?それ言わなきゃダメ?」
「そりゃダメでしょーここまで話したんだから♪」
「いや、でもまだキミとは出会ったばっかだし、別に俺とキミとは友達でもないし」
友達でもないから、そこまで話さないという、一見完璧な返しをした翔に彼女はニコッと笑う。
その顔は確かに可愛い。
けどその笑顔はただ可愛いだけじゃなく、何か企んでる雰囲気が滲み出ていた。
「じゃーご飯奢って♪」
「はい?なんで俺が、キミにご飯をおごるの??」
「えっ?だって、一緒にご飯食べたら友達でしょ♪」
───ん?友達ってそんな風に作るんだっけ?
翔の頭の中に、はてなマークが幾つか浮かんだ。
「ハァッ……てかさ、なんでそれで名前も知らないキミに、俺が飯を奢らなきゃいかんの?オカシーだろ」
翔は何だかよく分からなくなってきたし、何となくこの子とは気が合いそうだったからこそ、彼女にクルッと踵を返した。
「まあ、こんな末期症状の男と話しててもいい事ないぜ……ただ、面白い見方をしてくれたのはありがとさん」
翔は背を向けたまま、右手をヒラヒラと振って彼女にそう言った。
今言ったのが、翔の本心だったから。
翔は、出会ったばかりなのに自分の事を分かってくれた可愛い子を、自分みたいな売れない貧乏作家と関わらせたくなかったのだ。
けれど彼女は、去っていく翔の背中に向かって声を投げかけた。
ここから去らないで欲しいという気持ちが、凄く伝わってくる声で。
「ルミ!『朝比奈 瑠美』よっ!」
「へっ?」
その想いがこもった声を、背中からバンッとぶつけられた翔は思わず振り向き、間の抜けた声を漏らしてしまった。
その瞬間、ルミはすかさず笑顔で翔に言葉を投げかける。
「私の名前、朝比奈瑠美!みんなルミって呼んでるから、ルミでいーよ♪」
「いや、なんでいきなり名前なんか……」
「だって、お兄さんが言ったんでしょ?名前も知らないヤツに飯は奢れないって」
「いやま、アレはそーゆー意味じゃなくてだな……」
翔はボヤきながらルミの方へ体を振り返らすと、なーんなんだよという顔をして斜め上を向きながら、再び片手で頭を掻いた。
───本当によく頭を掻かせる女だ。ちなみに、毎日風呂には入ってますからね。誤解しないで下さいませ。てかそれより、俺この子にペース飲まれてない?
何かヤベーなと思う翔をルミは見つめながら、可愛く頬を膨らませた。
「えー!なにそれ?じゃあ、お兄さんの名前は?」
「俺?」
「そう、お兄さんの名前。私だって言ったんだから、ちゃんと教えてよ。早くっ」
「えーーーまぁ……」
翔はちょっと躊躇ったが、自分の名前をルミに教える事にした。
もちろん、何かペース飲まれてたし気は乗らない。
けど、強引でも相手から聞いてしまった以上、自分も言わないとフェアじゃないと一瞬思ってしまったのだ。
「……俺は翔。空見翔だ」
「えー!かけるって言うんだ。カッコいい♪じゃー宜しくね、翔さん♪」
「おおっ、宜しく……って、どゆこと?」
翔は軽く戸惑った。
ノリで宜しくと言ってしまったものの、何が宜しくなのかさっぱり分からないから。
でも、そんな軽く戸惑う翔をよそに、ルミは嬉しそうに微笑んだ。
「ニヒヒッ♪」
してやったりな雰囲気で。
「じゃーーーお互いの名前も知ったし、ご飯行こー♪」
「あっ……そっか、や・ら・れ・たー!」
「アハハッ♪じゃ、ご飯、よろしくでありますっ♪翔隊長!」
可愛くピシッと敬礼したルミに対し、今の話で引っかかるとか、俺マジでバカだなーーと頭を抱える翔。
そしてこうなった以上、翔の今日の夕飯は100円のサバ缶とあんパンだけでは収まらない事が決定した。
───俺の日々の食費を浮かしてくれる、サバ缶とあんパンよ。今日は会えねーなー。悲しいっ。
翔の、男としてヒジョーに残念な心の嘆きはさておき、こうして翔とルミは出会った。
この先二人に、とんでもない運命が待ち受けている事も知らずに……
「えっ?!」
後ろから不意に問いかけられた翔はドキッとして、その声の方にクルッと顔を振り向けた。
するとその瞬間、翔の瞳に飛び込んできた。
きょとんとした表情で自分の事を見つめている、メチャメチャ可愛い女子高生の姿が。
そよ風に揺れるサラサラのセミロングの髪に、クリッとしたネコ目。
そして、可愛く着こなしたブレザー。
売れない作家である翔は、読者モデルや有名インフルエンサーなんて会った事は無い。
けど、もし実際会ったらこんな感じかもしれないと思わせるレベルだ。
───なっ、何だこの激カワな子は?!
翔はどぎまぎしながらも、サッと姿勢を正して片手でクシャクシャッと頭を掻いた。
こんな可愛い子に自分の心の叫びを聞かれたかと思うと、翔は本当にメチャメチャ恥ずかしかったのだ。
───や、やっちまったか?
「あーーえっと……もしかしてキミ、俺の言った言葉、聞こえちゃってた?」
「アハハッ♪そりゃ聞こえてるよー♪あーんな大きな声で『俺は捨てれないんだよっ!』なんて叫んでたら♪」
翔の言葉を強調しながら、屈託ない笑みを浮かべる彼女。
むしろ、本当は聞かせたかったんじゃないの?ぐらいの言い方だ。
なので翔は、自分の情けなさがより一層際立った気がして心の中で悶絶した。
───やっぱりかーー!まったく、なんつー日だ。神様、俺をイジメて楽しいっすか?
勝手に神様に文句を言う翔。
こんなん神様もいい迷惑だし、そんなん知ったこっちゃないだろうが、翔にとっては赤っ恥だ。
「ハァッ……キミみたいな女の子がいるのも気づかず叫んじゃうなんて、俺マジでもう、末期症状だな……」
あーもう終わったわという顔してボヤく翔に、彼女は可愛い顔を近づけたまま不思議そうな目で見つめてくる。
嫌みとかじゃなく、本当に分かんないって顔をしながら。
「えーーっ、末期症状?お兄さん、凄く元気そうだけど?」
「はっ?これのどこが元気そうなんだよ。俺は色々あって、今、凄ーーく落ち込んでるの」
「ふーん、そうなんだ?」
「いやむしろさ、俺のどこを見て元気に見えた訳?」
くたっと肩を落として、やれやれのポーズを取った翔。
まあそんな事をしなくても、翔からは充分にくたびれているオーラが溢れているのだが。
そんな翔の目の前で、彼女は人差し指を自分の下唇に当て斜め上に視線を向けながら軽く唸る。
「うーんとね……」
───ったく。可愛い子は、悩んでいても可愛いな。よれたジャケットを着て思い悩んでる俺の姿とは、大違いだわ。同じ人類とは思えない……宇宙人さん、人類の代表はこっちの子です。間違えないで下さいませ。
翔がそんな下らない事を考えていると、彼女は翔に向かってパッと明るい笑顔を向けた。
「そう!なんかね、戦ってボロボロなのに……今から、また戦おうとしてる感じがしたから♪」
「えっ?」
翔はハッとして、思わず大きく目を見開いた。
その言葉は、翔が心の中でいつも思っていた言葉の一つだったから。
日々、書けども書けども認められず上手くいかない作家活動の中で、翔は常に戦っていた。
負けてたまるか。諦めてたまるかと。
それを今出会ったばかりの彼女から言われ、翔はビックリしたけど嬉しかったのだ。
「ハハッ……それなら確かに、元気に見えたかもな」
「でしょ?私の目は誤魔化せないよっ♪」
どんなもんだい、というような顔をしながらエッヘンと胸を張る彼女。
翔は本当に嬉しかったけど、すぐに表情を元に戻して少し目を伏せた。
ドライなようだが、そんな風に言ってもらえても結局現状は何も変わりはしないからだ。
自分の小説が売れていない事に、何の変りも無い。
「でも、落ち込んでるのは本当だ」
「ふーん、そうなんだ……ってかそう!さっき言ってたアレ、何を捨てれないの?」
───おーい、結局そこに戻るのかよ。
翔は参ったなという顔をしながら、再び片手で頭をクシャクシャっと掻いた。
何か頭が痒い人みたいだ。
「えっ?それ言わなきゃダメ?」
「そりゃダメでしょーここまで話したんだから♪」
「いや、でもまだキミとは出会ったばっかだし、別に俺とキミとは友達でもないし」
友達でもないから、そこまで話さないという、一見完璧な返しをした翔に彼女はニコッと笑う。
その顔は確かに可愛い。
けどその笑顔はただ可愛いだけじゃなく、何か企んでる雰囲気が滲み出ていた。
「じゃーご飯奢って♪」
「はい?なんで俺が、キミにご飯をおごるの??」
「えっ?だって、一緒にご飯食べたら友達でしょ♪」
───ん?友達ってそんな風に作るんだっけ?
翔の頭の中に、はてなマークが幾つか浮かんだ。
「ハァッ……てかさ、なんでそれで名前も知らないキミに、俺が飯を奢らなきゃいかんの?オカシーだろ」
翔は何だかよく分からなくなってきたし、何となくこの子とは気が合いそうだったからこそ、彼女にクルッと踵を返した。
「まあ、こんな末期症状の男と話しててもいい事ないぜ……ただ、面白い見方をしてくれたのはありがとさん」
翔は背を向けたまま、右手をヒラヒラと振って彼女にそう言った。
今言ったのが、翔の本心だったから。
翔は、出会ったばかりなのに自分の事を分かってくれた可愛い子を、自分みたいな売れない貧乏作家と関わらせたくなかったのだ。
けれど彼女は、去っていく翔の背中に向かって声を投げかけた。
ここから去らないで欲しいという気持ちが、凄く伝わってくる声で。
「ルミ!『朝比奈 瑠美』よっ!」
「へっ?」
その想いがこもった声を、背中からバンッとぶつけられた翔は思わず振り向き、間の抜けた声を漏らしてしまった。
その瞬間、ルミはすかさず笑顔で翔に言葉を投げかける。
「私の名前、朝比奈瑠美!みんなルミって呼んでるから、ルミでいーよ♪」
「いや、なんでいきなり名前なんか……」
「だって、お兄さんが言ったんでしょ?名前も知らないヤツに飯は奢れないって」
「いやま、アレはそーゆー意味じゃなくてだな……」
翔はボヤきながらルミの方へ体を振り返らすと、なーんなんだよという顔をして斜め上を向きながら、再び片手で頭を掻いた。
───本当によく頭を掻かせる女だ。ちなみに、毎日風呂には入ってますからね。誤解しないで下さいませ。てかそれより、俺この子にペース飲まれてない?
何かヤベーなと思う翔をルミは見つめながら、可愛く頬を膨らませた。
「えー!なにそれ?じゃあ、お兄さんの名前は?」
「俺?」
「そう、お兄さんの名前。私だって言ったんだから、ちゃんと教えてよ。早くっ」
「えーーーまぁ……」
翔はちょっと躊躇ったが、自分の名前をルミに教える事にした。
もちろん、何かペース飲まれてたし気は乗らない。
けど、強引でも相手から聞いてしまった以上、自分も言わないとフェアじゃないと一瞬思ってしまったのだ。
「……俺は翔。空見翔だ」
「えー!かけるって言うんだ。カッコいい♪じゃー宜しくね、翔さん♪」
「おおっ、宜しく……って、どゆこと?」
翔は軽く戸惑った。
ノリで宜しくと言ってしまったものの、何が宜しくなのかさっぱり分からないから。
でも、そんな軽く戸惑う翔をよそに、ルミは嬉しそうに微笑んだ。
「ニヒヒッ♪」
してやったりな雰囲気で。
「じゃーーーお互いの名前も知ったし、ご飯行こー♪」
「あっ……そっか、や・ら・れ・たー!」
「アハハッ♪じゃ、ご飯、よろしくでありますっ♪翔隊長!」
可愛くピシッと敬礼したルミに対し、今の話で引っかかるとか、俺マジでバカだなーーと頭を抱える翔。
そしてこうなった以上、翔の今日の夕飯は100円のサバ缶とあんパンだけでは収まらない事が決定した。
───俺の日々の食費を浮かしてくれる、サバ缶とあんパンよ。今日は会えねーなー。悲しいっ。
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