11 / 15
第二章 吸血鬼と少年
4、怪物が怪物たる理由
しおりを挟む葦野森学園。二ノ宮東洲が学長を務める小中高等部の一貫教育校。四十年前に開校したというその学舎は人間のためのものだけではなく、この地域の吸血鬼の子息を守るための機能も果たしている。
といっても、そんなに吸血鬼の比率は高くなく十年に一人、二人が入学するくらいである。ただ、現在は二人在学しているという話を事前にイヴ達は聞いていた。
東洲と出会った翌日、早速イヴは高等部へ登校した。オッドアイで目立たぬよう、片目は度のないカラーコンタクトを入れて、両目を緑に色を揃えた。また金色の髪も校内では黒髪のウィッグを着けることにした。
校内に入ってすぐイヴは視線を感じた。それも殺気立った視線。
雪斗を狙っているのか自分を狙っているのか判断が付かなかったが、この学園にも自分達と対立しうる存在がいることが明確だと感じた。
「どこでも安全は保証されないな」
昼休み、不意にアナウンスが鳴る。
「一年三組、神代イヴさん。学長先生がお呼びです。学長室までお願いします」
初日から校内アナウンスで呼び出されてしまったイヴ。雪斗に断りをいれ、一人学長室に向かった。
「やあ。呼び出してすまなかったね」
東洲は紅茶片手にイヴの前に座った。前回とは香りの異なる茶葉だった。
「学長、用件はなんですか?休み時間も残り少ないので手短に願います」
「わかった。一つ頼み事がしたくてだね」
「頼み事ですか?」
「近頃、生徒が吸血鬼に襲われる案件が学区内で多発しているんだ。」
「ほう」
「今のところ少し血を吸われただけで犠牲者は出ていないが、警察が騒ぎ始めていてな」
「犯人を特定しろということですか?」
「まあそんなところだな。それにもしかしたら雪斗君のアダムズコードが狙われている可能性もある」
「なるほど。貴方にはボクも恩がありますから」
「引き受けてくれるかい?」
「ええ。分かりました。ただ一つボクからも質問を」
「なんだい?」
イヴは木製のロッカーを指差す。
「そこに隠れている生徒……いや、死体はボディガードか何かですか」
バンっとロッカーの扉が開く。そのまま拳はイヴに向かって放たれた。イヴは相手の動きを見切ってかわし、低い姿勢から足を狙う。思いっきりの力で相手のバランスが崩れるように蹴りを入れた。普通の人間ならこの時点で吹き飛んでいるが、「それ」はびくともしなかった。
「硬いっ!?」
思わずイヴは距離を取った。
「そこまでだアルマ」
「はい、先生」
「アルマ……?」
よく見ると「それ」は、ウェーブがかった黒髪の、顔立ちはすこし大人びた少年だった。目は青と黒のオッドアイ、精悍な顔立ちをしていたが、イヴはその存在から生気を感じることができなかった。
「紹介しよう。私の助手をやってもらっているアルマだ。因みに君と同じクラスの生徒だからね」
「よろしく……」
アルマは小さな声で答えた。
「死体が動くのか……今日一日感じていた殺気はこれか」
「いや、彼は怪物といった方が正しいかな。聞いたことはないか?フランケンシュタインの怪物」
「この前本で読みました。人の死体を使って作られた人工的な命を持つ怪物の話ですよね」
「昔、ある外国の研究者が禁忌を犯して作った。もう二百年もこうして存在している。アルマは歳もとらないし、半永久的な命を持っているんだ。今は主がいないから許可を得て、私の側にいてもらっているのだがね」
「その怪物さんがボクと何か関係が?」
「流石に力を制限されているイヴくんにだけ任すのも申し訳ないからね。一応サポートにアルマをつかせよう」
「お気遣い痛み入ります」
「アルマに今の状況のくわしい資料を渡しておいた。二人で協力してくれ」
昼下がりの廊下を歩く二人。垂直に位置する太陽の光は室内に漏れてはこない。外からも他の音は聞こえず、むしろしんとした静寂の中に二人の足音だけが響く。
「お前の主は……死んだのか?」
先に口を開いたのはイヴだった。
「もう四十年程前の話だよ」
「そうか、ボクは三百年も前だ。勝手に巻き込んで勝手に死んで、ボクは結局一人残されたんだ」
イヴが吐き捨てるように言った。
「そう……僕はまた主と出会えるまで待つだけだから」
「それは命が永遠だから言えるのだろう?ボクには人間より長いとはいえリミットはある」
「リミットがある方が幸せだと思うけどね。でも、最初の主は僕に身体をくれた。そして二番目の主は僕に心をくれたんだ。次会うとき、次はどんなものを与えて貰えるのか楽しみで仕方ない。彼女といる時だけ僕は怪物からヒトになれるのだから」
アルマは穏やかな顔つきで愛しそうに言った。
「そうか……それならボクは未だに怪物なのかもしれないな。いや……怪物でいないといけないのかもしれない。今度こそ守らないといけないんだ」
境遇の異なる二人の怪物はまた沈黙して、教室に戻っていく。
静けさに割ってはいるように予鈴が鳴り、短い昼の休み時間が終わりを告げた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
IO-イオ-
ミズイロアシ
キャラ文芸
◆あらすじ
ロゼとマキナは、エリオ、ダグラス、ポールと共に娯楽施設へ向かう途中、道端で子どもらにいじめられるロボットを助ける。そのロボットは名を「イオ」と言い、彼らに礼を言うと、その場で別れた。皆がゲームに夢中になる中、ダグラスは彼が気になるようで、ホーボットの話題を持ち出す。所有者のいないロボット通称ホーボットは、いわゆる社会現象だ。世間ではある噂が広がっていた。
◆キャッチコピーは「感情解放ーー想いを爆発させろ」
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~
美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。
母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。
しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。
「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。
果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?
迷家で居候始めませんか?
だっ。
キャラ文芸
私、佐原蓬(さはらよもぎ)は、京都の不動産屋で働く22歳会社員!だったのに、会社が倒産して寮を追い出され、行くあてなくさまよっていた所、見つけた家はあやかしが住む迷家!?ドタバタハートフルコメディ。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
骸街SS
垂直二等分線
キャラ文芸
ーーまた明日も、日常(ふくしゅう)が始まる。ーー
○概要
"骸街SS(ムクロマチエスエス)"、略して"むくえす"は、歪められた近未来の日本を舞台として、終わらない少年青年達の悲劇と戦いと成長、それの原動力である苦悩と決断と復讐心、そしてその向こうにある虚構と現実、それら描かれた作者オリジナル世界観ダークファンタジーです。
※小説としては処女作なので、もしも設定の矛盾や面白さの不足などを発見しても、どうか温かい目で見てください。設定の矛盾やアドバイスなどがあれば、コメント欄で教えていただけると嬉しいです。
※なろう・ノベルバでも投稿しています!
○あらすじ
それは日本から三権分立が廃止された2005年から150年後の話。政府や日本国軍に対する復讐を「生きる意味」と考える少年・隅川孤白や、人身売買サイトに売られていた記憶喪失の少年・松江織、スラム街に1人彷徨っていたステルス少女・谷川独歌などの人生を中心としてストーリーが進んでいく、長編パラレルワールドダークファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる