音が光に変わるとき

しまおか

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転機~①

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 二〇十五年はブラサカ日本代表にとっては正念場の年だった。来年開かれるリオパラリンピック出場権をかけて行われる九月のアジア最終予選の開催地が、日本に決定したからだ。
 リオの次は東京で大会が開かれる。その自国開催の前に一度もパラリンピックの切符を手にしたことない日本代表は、是が非でもその切符を手に入れようと必死になっていた。
 千夏と巧が参加した合宿の翌週には日本代表合宿が行われ、その翌週にコロンビア代表が来日し親善試合が行われた。
 結果は1対0と見事に勝利を収めた日本代表は、その後も代表合宿を経て五月中旬に韓国開催の国際大会へ出場したが結果は五位。さらに六、七月の代表強化合宿に続き、七月から八月にかけてスペイン遠征が組まれた。
 そこで親善試合を六試合行い、パラリンピック予選に出場できる代表の最終メンバーが発表されたのだ。
 スペイン遠征は二勝二敗二分で終え、FP八名、GK二名の代表メンバーが決定し、その後八月には三日間の強化合宿を行い、九月二日からいよいよアジア最終予選が始まった。
 パラリンピックへの出場権を得るためには、日本は最終予選で六チームによるリーグ戦を戦って、上位二チームに残らなければならない。だがアジアでは中国とイランが強敵だ。
 それでも開催地がホームである日本は、多くのサポーターが会場である国立代々木競技場に押し寄せ、初めてのパラリンピック出場を夢見てサポーター達が大きな声援を送った。
 しかし最大の強敵である初戦の中国に0対1、次の対イラン戦は0対0に終わり、序盤から苦しい戦いを強いられた。
 三試合目の韓国戦は2対0、次の対インド戦は5対0、最終戦の対マレーシア戦では2対0と日本は勝利した。だがその時点で中国とイランが上位二チームに入り、日本はリーグ戦三位となり、ブラサカ日本代表はパラリンピックの切符を手にすることができなかったのだ。
 日本代表が厳しい戦いを行っている間に、千夏達の動きも並行して活発になっていた。女子ブラサカ練習会は四月、十月、十二月と開かれ、彼女は順調にブラサカの技術を磨いていた。
 一方で巧の所属するフットサルチームは、例年六月から翌年二月まで開かれているリーグ戦の開幕戦が五月に前倒しとなった。翌年二月にW杯予選を兼ねたアジア選手権が開かれるためだ。その為十二月までの約八ヵ月間のシーズンを戦った。
 チーム成績はリーグ一位を逃して僅差の二位に終わり、年明けの上位チームによるプレーオフでは決勝に進出した。だがそこで敗退したため、昨年まで八連覇を続けていたチームは優勝を逃してしまったのである。巧が所属してから初めての出来事だった。
 巧個人の成績は先発で六試合、途中交代で六試合と全試合の約三分の一にしか出場できなかった。けれど昨シーズンよりは良い成績を残したと自負もしていて、シーズン終了後も監督やコーチからは高い評価の言葉を貰った。
 しかし日本一決定戦のプレーオフでは出場する機会がなく、また二月のアジア選手権に参加する日本代表にも選出されなかった。
 その為巧の今年度におけるシーズンは、実質一月で終わった。これからは来季に向けて再び体作りから始め、シーズン開始までの準備に取り掛かることになる。
 同じく代表選出されなかった選手達の中にはチーム契約から外されたり、他のチームへの移籍を打診されたりという動きがあるなど、クラブとしても他からの選手補強を考える時期に入っていた。
 そんな中で巧は正式な形では無かったが、シーズン終了後に来季もよろしく頼むという言葉をかけられた。少なくとも今期でチームから首を切られる心配をしなくて済みそうだった。
 それどころか日本代表選手でもある田上さんがチーム優勝を逃したため、アジア選手権出場後に来シーズンから他チームに移籍するのでは、という噂が飛び交ったのだ。
 それが現実となれば、巧が正GKになるチャンスにもなる。また選手補強のために、まだ若い巧に正GKとして他のチームから声がかかる可能性さえあった。 
 だが巧は来年度に向けて全く別の選択肢を選び、年が明けた一月のプレーオフが終わった後、自分の決意を会社に告げたのだ。
「おい、飯岡。辞めると聞いたが一体どういうことだ? 他から声でもかかったのか?」
 職場の上司には事前に伝えてあったので、巧は彼とともにクラブの監督室に呼び出されていた。
 部屋へ入るとソファに座るよう言われ、監督やコーチ陣に取り囲まれてそう問い詰められたのだ。
「いえ、他のチームとは一切接触していません。それに僕はフットサル自体を辞めようと思っています。この会社には、クラブに所属することを前提で在籍しています。ですから会社自体も辞めなければならないことは覚悟の上です。チームには五年、会社には三年の間でしたが、今まで大変お世話になりました」
 席を立って巧は神妙に頭を下げた。横にいた上司は渋い顔をして腕を組んで黙っている。彼には辞める理由を説明していたが、クラブには自分の口から詳しく話せと言われていた意味がそこで理解できた。
 彼は巧が辞めると言い出したとしか、監督達に伝えていなかったようだ。
「まあ座れ。フットサル自体を辞めるなんてどこか怪我でもしたのか。それとも病気か」
 コーチの一人が心配してそう尋ねてきたが、巧は一度席に座り直して首を横に振った。
「いえ、怪我も病気もしていません。そうではなく、僕は今後フットサルを辞め、ブラインドサッカーのキーパーとして、日本代表を目指したいと思っています。ですからクラブと会社を三月末で辞めさせてくださいとお願いしに参りました」
 クラブはオフに入っている為辞めるのはいつでも良いのだが、職場の方はそう簡単にいかない。新年度が始まる前にけじめをつけるとなれば、三月末かまたは引き継ぎのことを考慮すれば四月末になる可能性もあると思い、巧は早めに退職の意思を告げたのだ。
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