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巧の挑戦~⑫
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巧が正男さんに謝ると、先ほどの松岡がまた声をかけてきた。
「いいですよ。二人の会話が漫才みたいでなかなか面白くて、みんな楽しんでいますから」
すると一斉に周りの選手達やアテンドしている人達がそうそう、と相槌を打つ。
「え? そんなに面白いですか?」
千夏が驚いて誰とは言わずそう聞き返すと、松岡とは違う別の若い女性選手が口を開いた。年齢は巧達と同じ二十歳くらいだろうか。女子の参加者は千夏とその人の二人だけらしい。あとの五、六人は中学から高校生くらいの男子達で、二十歳を過ぎている成人男性らしき人が二人いた。
「面白いですよ。以前、里山さんと一緒の女子の練習会に参加した時は、こんなに喋る面白い人だって知らなかったから」
「そうそう。あんまり喋んなかったよね。だから私もびっくりした」
相槌を打っていたのは、隣に座っていた保護者らしき女性だ。
「里山さんは関西のチーム練習に参加しているって聞いていたから、もっとノリがいい人だと想像していたんですよ。でも前に私達と話す言葉は、基本的に標準語でしたよね。でも今の飯岡選手との話を聞いていると、普段はやっぱり関西弁なんですね。前の印象とは違っていたから、なんか安心しました」
そこで一斉に車内に笑いが起こった。他の男子の選手だけでなくコーチやスタッフまでが、それぞれ千夏に対する今まで持っていた印象を言い出した。どうも聞いていると、千夏は千夏でマスコミから必要以上に注目を浴びてしまったために、女子の練習会でも他の選手に気を遣っていたらしく、チーム内では猫を被っていたようだ。
それで周りの人達も、千夏のことはマスコミに注目されているすごい選手だし、テレビや雑誌などで聞く限りでは美人で大人しいと思っていたようだ。しかもコミュニケーションが取りづらい人かと誤解していたという。
それがバリバリの関西弁で話していたのだから、彼らが驚くのも無理はない。
「全くそんなことないですよ。千夏は小学校の時から男子に交じってサッカーをやっていたから、すごく負けん気が強いです。男っぽいし、ノリは完全に関西です。マスコミが盲目のなでしことか持ち上げていましたけど、中身は完全な男ですからね。まあ皆さんはその取り繕った外面が見えないから、もっと長く接してみたら言っていることが本当だと判ると思いますよ。幼馴染の僕が言うんですから間違いないです」
「ちょっと巧、それ言いすぎ。あんたやって、私とずっと一緒におったわけやないやん」
「それはそうだけど、千夏がブラサカを始めてから、どれだけ練習に付き合わされていると思ってんだよ。小学校の時もクラブの練習が終わった後とか早朝の学校へ行く前とか、毎日のようにサッカーの練習に付き合わされていたけど、あの時とあんまり変わんないよ、言っとくけど」
「なんやて? 巧は無理して練習に付き合ってたって言う訳? 小学校の時は巧が苛められとったから、少しでも上手くなれるようにって一緒に練習してあげとったんやないの。おかげで今はフットサルチームのキーパーで活躍できとるんとちゃうの? あれ? 小さい時に私と練習していたおかげで、今の自分があるって言っとったけど、あれは嘘なわけ?」
「い、いやそれは嘘じゃないけど、」
「それに今のブラサカの練習かて、ええトレーニングになるって巧が言うからやっとるんやないの。嫌ならもうやめようか?」
「こら、千夏、止めなさい。それは言いすぎだぞ。昔はどうであれ、いまは巧君が千夏の練習に付き合ってくれている意味が判らないお前じゃないだろ。皆さん、すいません、こんな気の強い子で申し訳ありません」
最初はいいテンポで会話をしているのを、周囲は好意的に受け取っていた。だが後半の方で少し緊張した空気が流れ始めたところを、正男さんが間に入ったことで和らいだ。おかげでまた小さな笑いが起き始めた。千夏もそのことに気づいたらしく、
「すいません、こんな中身が男のような私ですけど、よろしくお願いします」
と自虐的な笑いを取りに行ったので、さらに雰囲気は軽くなったようだ。
「でも大変だね。飯岡選手は昔から多分、里山さんの子分みたいに扱われていたんだろうなあって、今の話を聞いていても判るもんな。ご愁傷さま」
松岡がさらに混ぜ返すので、さらに車内の笑いが大きくなった。
「そうなんだよ。判ってくれる? 僕も千夏って呼び捨てしているけど、学年は一個上の先輩だし、小学校からの力関係は同じなんだよね。小学校で一つ上っていうと大きいだろ。体だって今はずっと僕の方が大きいのに、そんなの全く関係ないからね」
「そりゃそうやろ。昔は巧も私と同じチビやったし、私より大きくなったのは、目が見えなくなってからやから知らんわ」
「だから、そう言うブラックな自虐ネタを言うんじゃないよ」
巧がそう突っ込むと、思った以上に車内ではウケた。視覚障害者達の前では晴眼者の巧達にとってかなり微妙な話題に思えるのだが、本人達にとってはあるあるのネタらしい。
「そうそう、目が見えていた時のことをなまじ覚えていると、その印象が強くてそのギャップに困る時ってあるよね」
「俺なんかも視力があった小学校の頃は痩せていて格好良かった友達が、今ではすごく太ったらしくて周りからデブデブ言われて辛いって愚痴を聞かされてもこっちは見えないし、細くて女子からモテていた頃のお前しか知らねえ、って言ったらすごく喜ばれたことがあるな。見えなくていいこともあるんだって。なんだそれ、意味が違うだろって言ってやったけど」
他の選手もその話題に乗っかり、バスの中は様々な視覚障害者あるあるの話題に切り替わり、笑い声が絶えないバス移動となっていた。
「いいですよ。二人の会話が漫才みたいでなかなか面白くて、みんな楽しんでいますから」
すると一斉に周りの選手達やアテンドしている人達がそうそう、と相槌を打つ。
「え? そんなに面白いですか?」
千夏が驚いて誰とは言わずそう聞き返すと、松岡とは違う別の若い女性選手が口を開いた。年齢は巧達と同じ二十歳くらいだろうか。女子の参加者は千夏とその人の二人だけらしい。あとの五、六人は中学から高校生くらいの男子達で、二十歳を過ぎている成人男性らしき人が二人いた。
「面白いですよ。以前、里山さんと一緒の女子の練習会に参加した時は、こんなに喋る面白い人だって知らなかったから」
「そうそう。あんまり喋んなかったよね。だから私もびっくりした」
相槌を打っていたのは、隣に座っていた保護者らしき女性だ。
「里山さんは関西のチーム練習に参加しているって聞いていたから、もっとノリがいい人だと想像していたんですよ。でも前に私達と話す言葉は、基本的に標準語でしたよね。でも今の飯岡選手との話を聞いていると、普段はやっぱり関西弁なんですね。前の印象とは違っていたから、なんか安心しました」
そこで一斉に車内に笑いが起こった。他の男子の選手だけでなくコーチやスタッフまでが、それぞれ千夏に対する今まで持っていた印象を言い出した。どうも聞いていると、千夏は千夏でマスコミから必要以上に注目を浴びてしまったために、女子の練習会でも他の選手に気を遣っていたらしく、チーム内では猫を被っていたようだ。
それで周りの人達も、千夏のことはマスコミに注目されているすごい選手だし、テレビや雑誌などで聞く限りでは美人で大人しいと思っていたようだ。しかもコミュニケーションが取りづらい人かと誤解していたという。
それがバリバリの関西弁で話していたのだから、彼らが驚くのも無理はない。
「全くそんなことないですよ。千夏は小学校の時から男子に交じってサッカーをやっていたから、すごく負けん気が強いです。男っぽいし、ノリは完全に関西です。マスコミが盲目のなでしことか持ち上げていましたけど、中身は完全な男ですからね。まあ皆さんはその取り繕った外面が見えないから、もっと長く接してみたら言っていることが本当だと判ると思いますよ。幼馴染の僕が言うんですから間違いないです」
「ちょっと巧、それ言いすぎ。あんたやって、私とずっと一緒におったわけやないやん」
「それはそうだけど、千夏がブラサカを始めてから、どれだけ練習に付き合わされていると思ってんだよ。小学校の時もクラブの練習が終わった後とか早朝の学校へ行く前とか、毎日のようにサッカーの練習に付き合わされていたけど、あの時とあんまり変わんないよ、言っとくけど」
「なんやて? 巧は無理して練習に付き合ってたって言う訳? 小学校の時は巧が苛められとったから、少しでも上手くなれるようにって一緒に練習してあげとったんやないの。おかげで今はフットサルチームのキーパーで活躍できとるんとちゃうの? あれ? 小さい時に私と練習していたおかげで、今の自分があるって言っとったけど、あれは嘘なわけ?」
「い、いやそれは嘘じゃないけど、」
「それに今のブラサカの練習かて、ええトレーニングになるって巧が言うからやっとるんやないの。嫌ならもうやめようか?」
「こら、千夏、止めなさい。それは言いすぎだぞ。昔はどうであれ、いまは巧君が千夏の練習に付き合ってくれている意味が判らないお前じゃないだろ。皆さん、すいません、こんな気の強い子で申し訳ありません」
最初はいいテンポで会話をしているのを、周囲は好意的に受け取っていた。だが後半の方で少し緊張した空気が流れ始めたところを、正男さんが間に入ったことで和らいだ。おかげでまた小さな笑いが起き始めた。千夏もそのことに気づいたらしく、
「すいません、こんな中身が男のような私ですけど、よろしくお願いします」
と自虐的な笑いを取りに行ったので、さらに雰囲気は軽くなったようだ。
「でも大変だね。飯岡選手は昔から多分、里山さんの子分みたいに扱われていたんだろうなあって、今の話を聞いていても判るもんな。ご愁傷さま」
松岡がさらに混ぜ返すので、さらに車内の笑いが大きくなった。
「そうなんだよ。判ってくれる? 僕も千夏って呼び捨てしているけど、学年は一個上の先輩だし、小学校からの力関係は同じなんだよね。小学校で一つ上っていうと大きいだろ。体だって今はずっと僕の方が大きいのに、そんなの全く関係ないからね」
「そりゃそうやろ。昔は巧も私と同じチビやったし、私より大きくなったのは、目が見えなくなってからやから知らんわ」
「だから、そう言うブラックな自虐ネタを言うんじゃないよ」
巧がそう突っ込むと、思った以上に車内ではウケた。視覚障害者達の前では晴眼者の巧達にとってかなり微妙な話題に思えるのだが、本人達にとってはあるあるのネタらしい。
「そうそう、目が見えていた時のことをなまじ覚えていると、その印象が強くてそのギャップに困る時ってあるよね」
「俺なんかも視力があった小学校の頃は痩せていて格好良かった友達が、今ではすごく太ったらしくて周りからデブデブ言われて辛いって愚痴を聞かされてもこっちは見えないし、細くて女子からモテていた頃のお前しか知らねえ、って言ったらすごく喜ばれたことがあるな。見えなくていいこともあるんだって。なんだそれ、意味が違うだろって言ってやったけど」
他の選手もその話題に乗っかり、バスの中は様々な視覚障害者あるあるの話題に切り替わり、笑い声が絶えないバス移動となっていた。
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