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新たな出会い(望の視点)~③
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望を電話の向こうで脅していた男を中心に、なんだ、なんだと騒ぐ声がする。おそらくジュン達に向かって叫んでいるのだろう。だが彼らの声は聞こえてこない。
「あ? なんだ?」
ドスを利かした声がする。おそらくスマホを持ったまま、向こうのリーダー格がすごんでいるようだ。しかし僅かに先程までの迫力より、トーンダウンしている気がした。
少して、黒人らしき男の声が聞こえた。ジュン達の声は一切聞こえない。
「その女を離せ。こっちにも用があるんだ」
「なんだ、てめぇ。日本語が喋れるのかよ」
「は、な、せ、と言っているんだ。ここで誰かが警察を呼んだら、困るのはお宅らとその子だけだ。俺達には何の損もない。よく考えろ。どっちが得か。」
黒人の男の迫力とジュン達の人数が勝っていたからか、絵里の拘束が弱まったようだ。彼女はジュン達の元に駆け寄ったらしい。黒人の男は怖いだろうが、絵里がジュンの顔を覚えていたら、自分を助けてくれると判ったはずだ。
「こら、てめえ、逃げるな」
向こうの男達の声がした。けれど無言を貫くジュン達に守られているらしい。しばらく集団同士での睨み合いが続き、沈黙の時間が流れた。
「私のスマホを返して」
絵里がそう言ったため、向こうの男が握っている携帯が彼女のものだと判ったのだろう。
「返せ。人のものを勝手に使うんじゃない。それだけで犯罪だ」
黒人の迫力のある低い声が響く。それでも相手がなかなか渡さないのか、しばらく時間がかかった。だが結局向こうも諦めたらしく、スマホを返したようだ。
「最初からそうしてくれたら良かったんだ。じゃあな。あんたの上の方には、逃げられたとでも言っておけばいい」
そう言い残した黒人は彼らから遠ざかり、望のいる方へと戻ってくるようだ。その様子は黒人がスマホを手にしても通話を切らずにいたため、手に取るように判った。
後ろで絵里達に絡んで来ていた男達が、くそっと悔しそうにしながら行くぞと誰かがいい、遠ざかって行く声も拾っていた。
しばらくして望のいる路地の近くまで辿り着き、後ろを振り向いて大丈夫だと確認した黒人とジュン達は、素早く望のいる場所まで駆け寄ってきた。
絵里は望の姿を見つけ、驚いた顔をしていた。口に人差し指を当てて静かにするよう合図をした後、望は無事だった彼女に抱きついた。ホッとしてそこでやっと安心できたのだろう。彼女は静かに泣きじゃくり始めた。
「感動の再会もいいが、ここから早く離れた方がいい。サジの家に戻ろう」
黒人が先程までの威勢は消え慌てた調子で言うと、ジュンが他の仲間に声をかけた。
「じゃあ、サジと俺と彼女達は先に戻るから。ああ巧も目立つから一緒にいた方がいいな。お前らはさっき言っていた買いだしを頼む。急いで来いよ。あいつ等の仲間が追いかけてきたら、すぐバラバラになって逃げろ。最悪、戻ってこなくてもいい」
「判った。行ってくるよ」
他の男の人達は駆けだして路地を曲がり、反対方向へ走って行った。
「じゃあ、こっちだから」
ジュンが路地の奥の方を指さす。望が坐りこんでいた時に、黒人達が歩いてきた方向へ戻るようだ。黙ってその後ろについて行き、着いた先のオートロック付きのマンションの一室へと望達は入った。
そこがサジという男の家だという。今日は彼の両親がいないからという理由で彼の部屋に仲間が集まり、ゲームなどをして遊んでいたらしい。その途中でお腹が空いたから何かお菓子や飲み物を買い出しに行こう、と全員で外に出たところで望の姿を見つけたという。
サジはあだ名で、名前を佐藤次郎、略してサジと呼んでいると教えられた。また黒人と思っていた人は飯岡巧という名の、日本人とブラジル人のハーフの父を持つ日本生まれ日本育ちの日本人らしい。
ただお爺さんがブラジル人だから、厳密に言うとクオーターだ。隔世遺伝でこんな黒人のような顔をしているという。
「芸人でもそう言う奴がいるだろ。俺も英語なんか全く喋られないからね。というかブラジルの言葉は英語じゃないけど。それに見た目は怖いけど俺、本当は超ビビリだから」
これは鉄板ネタらしく、流暢に話す日本語に望と絵里も笑った。その後は無事買い出しに行った他の友人達が戻り、自己紹介をしながら楽しく時を過ごすことができた。
ただ望と絵里がしていた話題になった時、きつく叱ってくれたのが巧だった。この日の出来事があってから、二人はその後危ないバイトを辞めた。これが彼との出会いである。
しばらくは別の真面目なバイトをしながら、望達はジュンを介して巧達のグループと一緒に遊ぶようになった。その後ジュンは中学を卒業し、車の整備工場で働きながら夜間の定時制高校へ通っていたことを知る。
あの時いた中には、同じ定時制に通う成人の社会人もいたようだ。ただサジや巧などはジュン達とは同じ高校でも、昼間の普通科に通う高校生と聞かされ驚いた。巧の風格から、望と同い年の高校生だとは思いもよらなかったからだ。
絵里はその仲間達と仲良くなる内に、夏前にはジュンと付き合うようになった。しかし望が巧に好意を寄せるようになった高二の夏、彼は突然ジュン達と付き合うことを辞め、望達の前から消えたのだ。
ジュンに聞くと、元々巧は幼い頃からキーパー一筋のサッカー少年だったらしい。しかし自分の限界を知り、高校入学と同時にサッカーから離れてサジのような帰宅部とつるんで遊ぶようになったという。そこでジュン達と知り合い、見た目の印象を利用して少しばかりやんちゃな遊びを覚えたそうだ。
それでも彼はサッカーが忘れられなかったのか、今度はフットサルのクラブチームに参加し、そこで再びキーパーをやるようになったらしい。ジュン達はそんな巧を陰ながら応援しているという。
そこで望はジュンに巧が所属するチームを教えて貰い、その練習や試合を見に行き始めてからフットサルというスポーツに嵌ったのだ。
八千草にあるフットサルチームはとても強かった。国内のリーグ戦で何連覇かしている強豪であり、まだ若手の巧がレギュラーの試合に出ることはまずなかった。
それでもチームのサポーターとして応援し続けたのは、いずれ彼がこのチームの正GKとして活躍し、やがて日本代表に選ばれるほどの逸材になるのではないかという希望があったからだ。
巧は高校を卒業してもそのままクラブに在籍し、スポンサーである企業に就職した。望も高校を卒業して、彼と同じ企業の就職試験も受けたが採用されなかったが、別の企業への就職が決まった。
そこで社会人として働きながら、家計を助けつつ彼のクラブを応援し続けていた。望はずっと巧の背中を追いかけてきた。やがて彼は強豪チームである八千草のクラブで第二GKの位置を獲得し、時折公式戦に出るようになった。
彼の所属するチームの正GKは、日本代表選手でもあった。その為このまま頑張れば若い彼なら将来日本代表になる日も近く、W杯に出て活躍することも夢ではないとまで言われる選手に成長していったのだ。
そんな彼を追いかけ続けていた望は、自分にはできない大きな夢を彼に託し、応援することで自分の夢を叶えようとしていた。もちろんそれだけでは無い。一人の男性として、好意を抱いていたことは間違いなかった。
「あ? なんだ?」
ドスを利かした声がする。おそらくスマホを持ったまま、向こうのリーダー格がすごんでいるようだ。しかし僅かに先程までの迫力より、トーンダウンしている気がした。
少して、黒人らしき男の声が聞こえた。ジュン達の声は一切聞こえない。
「その女を離せ。こっちにも用があるんだ」
「なんだ、てめぇ。日本語が喋れるのかよ」
「は、な、せ、と言っているんだ。ここで誰かが警察を呼んだら、困るのはお宅らとその子だけだ。俺達には何の損もない。よく考えろ。どっちが得か。」
黒人の男の迫力とジュン達の人数が勝っていたからか、絵里の拘束が弱まったようだ。彼女はジュン達の元に駆け寄ったらしい。黒人の男は怖いだろうが、絵里がジュンの顔を覚えていたら、自分を助けてくれると判ったはずだ。
「こら、てめえ、逃げるな」
向こうの男達の声がした。けれど無言を貫くジュン達に守られているらしい。しばらく集団同士での睨み合いが続き、沈黙の時間が流れた。
「私のスマホを返して」
絵里がそう言ったため、向こうの男が握っている携帯が彼女のものだと判ったのだろう。
「返せ。人のものを勝手に使うんじゃない。それだけで犯罪だ」
黒人の迫力のある低い声が響く。それでも相手がなかなか渡さないのか、しばらく時間がかかった。だが結局向こうも諦めたらしく、スマホを返したようだ。
「最初からそうしてくれたら良かったんだ。じゃあな。あんたの上の方には、逃げられたとでも言っておけばいい」
そう言い残した黒人は彼らから遠ざかり、望のいる方へと戻ってくるようだ。その様子は黒人がスマホを手にしても通話を切らずにいたため、手に取るように判った。
後ろで絵里達に絡んで来ていた男達が、くそっと悔しそうにしながら行くぞと誰かがいい、遠ざかって行く声も拾っていた。
しばらくして望のいる路地の近くまで辿り着き、後ろを振り向いて大丈夫だと確認した黒人とジュン達は、素早く望のいる場所まで駆け寄ってきた。
絵里は望の姿を見つけ、驚いた顔をしていた。口に人差し指を当てて静かにするよう合図をした後、望は無事だった彼女に抱きついた。ホッとしてそこでやっと安心できたのだろう。彼女は静かに泣きじゃくり始めた。
「感動の再会もいいが、ここから早く離れた方がいい。サジの家に戻ろう」
黒人が先程までの威勢は消え慌てた調子で言うと、ジュンが他の仲間に声をかけた。
「じゃあ、サジと俺と彼女達は先に戻るから。ああ巧も目立つから一緒にいた方がいいな。お前らはさっき言っていた買いだしを頼む。急いで来いよ。あいつ等の仲間が追いかけてきたら、すぐバラバラになって逃げろ。最悪、戻ってこなくてもいい」
「判った。行ってくるよ」
他の男の人達は駆けだして路地を曲がり、反対方向へ走って行った。
「じゃあ、こっちだから」
ジュンが路地の奥の方を指さす。望が坐りこんでいた時に、黒人達が歩いてきた方向へ戻るようだ。黙ってその後ろについて行き、着いた先のオートロック付きのマンションの一室へと望達は入った。
そこがサジという男の家だという。今日は彼の両親がいないからという理由で彼の部屋に仲間が集まり、ゲームなどをして遊んでいたらしい。その途中でお腹が空いたから何かお菓子や飲み物を買い出しに行こう、と全員で外に出たところで望の姿を見つけたという。
サジはあだ名で、名前を佐藤次郎、略してサジと呼んでいると教えられた。また黒人と思っていた人は飯岡巧という名の、日本人とブラジル人のハーフの父を持つ日本生まれ日本育ちの日本人らしい。
ただお爺さんがブラジル人だから、厳密に言うとクオーターだ。隔世遺伝でこんな黒人のような顔をしているという。
「芸人でもそう言う奴がいるだろ。俺も英語なんか全く喋られないからね。というかブラジルの言葉は英語じゃないけど。それに見た目は怖いけど俺、本当は超ビビリだから」
これは鉄板ネタらしく、流暢に話す日本語に望と絵里も笑った。その後は無事買い出しに行った他の友人達が戻り、自己紹介をしながら楽しく時を過ごすことができた。
ただ望と絵里がしていた話題になった時、きつく叱ってくれたのが巧だった。この日の出来事があってから、二人はその後危ないバイトを辞めた。これが彼との出会いである。
しばらくは別の真面目なバイトをしながら、望達はジュンを介して巧達のグループと一緒に遊ぶようになった。その後ジュンは中学を卒業し、車の整備工場で働きながら夜間の定時制高校へ通っていたことを知る。
あの時いた中には、同じ定時制に通う成人の社会人もいたようだ。ただサジや巧などはジュン達とは同じ高校でも、昼間の普通科に通う高校生と聞かされ驚いた。巧の風格から、望と同い年の高校生だとは思いもよらなかったからだ。
絵里はその仲間達と仲良くなる内に、夏前にはジュンと付き合うようになった。しかし望が巧に好意を寄せるようになった高二の夏、彼は突然ジュン達と付き合うことを辞め、望達の前から消えたのだ。
ジュンに聞くと、元々巧は幼い頃からキーパー一筋のサッカー少年だったらしい。しかし自分の限界を知り、高校入学と同時にサッカーから離れてサジのような帰宅部とつるんで遊ぶようになったという。そこでジュン達と知り合い、見た目の印象を利用して少しばかりやんちゃな遊びを覚えたそうだ。
それでも彼はサッカーが忘れられなかったのか、今度はフットサルのクラブチームに参加し、そこで再びキーパーをやるようになったらしい。ジュン達はそんな巧を陰ながら応援しているという。
そこで望はジュンに巧が所属するチームを教えて貰い、その練習や試合を見に行き始めてからフットサルというスポーツに嵌ったのだ。
八千草にあるフットサルチームはとても強かった。国内のリーグ戦で何連覇かしている強豪であり、まだ若手の巧がレギュラーの試合に出ることはまずなかった。
それでもチームのサポーターとして応援し続けたのは、いずれ彼がこのチームの正GKとして活躍し、やがて日本代表に選ばれるほどの逸材になるのではないかという希望があったからだ。
巧は高校を卒業してもそのままクラブに在籍し、スポンサーである企業に就職した。望も高校を卒業して、彼と同じ企業の就職試験も受けたが採用されなかったが、別の企業への就職が決まった。
そこで社会人として働きながら、家計を助けつつ彼のクラブを応援し続けていた。望はずっと巧の背中を追いかけてきた。やがて彼は強豪チームである八千草のクラブで第二GKの位置を獲得し、時折公式戦に出るようになった。
彼の所属するチームの正GKは、日本代表選手でもあった。その為このまま頑張れば若い彼なら将来日本代表になる日も近く、W杯に出て活躍することも夢ではないとまで言われる選手に成長していったのだ。
そんな彼を追いかけ続けていた望は、自分にはできない大きな夢を彼に託し、応援することで自分の夢を叶えようとしていた。もちろんそれだけでは無い。一人の男性として、好意を抱いていたことは間違いなかった。
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