影の遺族

しまおか

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第十七章

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「頼む! 殺さないでくれ!」
 平成二年五月、榎木光五郎は東京地裁の一室で河原源蔵に懇願していた。本来なら今調べている事件によって河原源蔵を裁く立場にある光五郎は、この時は源蔵に頭を下げるしかなかった。
「駄目ですね。すでにあの組の人達は今、あなたの大事な人を殺すための計画を立てているようですよ。もう私には止めることはできない」
「俺は降りる! この事件から降りる! だから殺さないでくれ! あの暴力団達にそう言って止めてくれ!」
「殺されたくないならちゃんと警察に言って守ってもらえばいいじゃないですか。家族を守ってくれって。殺すと脅されているからって。警察はちゃんと守ってくれますよ。あなたの本当の奥さんと子供達はね」
 源蔵は柔らかいソファの上で踏ん反り返って足を組みながら意味深な言葉を吐いた。源蔵の言う意味を理解している光五郎は唸りながら次の言葉が出てこない。源蔵はうすら笑いを浮かべ、そんな光五郎を蔑んだ目で見ていた。何も言えず、青ざめた顔で俯く光五郎に源蔵はさらに告げる。
「まあ、そんな事をすれば愛人とその子供が殺されることになるでしょうね。それとも警察には、愛人とその子供も守ってください、とでもお願いしますか」
 源蔵はそう言って大声を出して笑った。
「愛人がいるなんて言えないですよね。しかも自分のマンションの近くにいるなんてね。愛人の住んでいる近くにマンションを購入して引っ越して、さらに自分の子供の通う幼稚園に愛人の子供まで通っているなんて知ったら世間はどう見るんでしょう」
 光五郎は、暴力団多賀見組の起こした事件における裁判の中で、外務官僚である河原源蔵と多賀見組との間に違法取引の関係があることを追求する立場にあったが、光五郎の愛人がいることを知られ脅されていたのだ。
 源蔵は体を起こして座り直し、真っ直ぐ姿勢を正して、今度は真剣な顔で榎木を睨んだ。
「榎木さん。もうこの事件はあなたが降りるだけでは済まないんです。私と多賀見だけの問題ではないんですよ。この件に関しては、今後誰も触れてはいけない。そう。警察や検察、裁判所や政治家達に知らしめるためにも、もう戻れないところまで来てしまったんです。あなたに選択できるのはただ一つ。家族を守るか、愛人を守るか、だけなんですよ」
 源蔵の言葉に光五郎は血の気が引いた。とんでもない事件に関わってしまった。後悔しても遅いが、もはや光五郎にはどうしようもできない。藪をつついたら蛇どころか大蛇、いやヤマタノオロチが出てきてしまったようだ。源蔵の後ろにはまだまだ大きな裏の組織が存在しているようだ。
 その触れてはいけないものに関わったため、この事件の幕引きをするために多賀見組が見せしめのため、別の事件にみせかけて光五郎の家族または愛人を殺すといっている。そうすることによって源蔵が関わるこの件に誰も触れてはいけないという事を改めて知らしめるという結論が源蔵達のいる裏の組織が決断したのだ。
「あなたの中ではもう決まっているんでしょう?」
 源蔵はまた表情を和らげ、光五郎に聞いた。愕然とした。女との会話なども全て聞かれているのか! 妻子と別れて愛人と暮らしたいと思っていることを源蔵達は掴んでいるのだ。まだ何も言えずにいる光五郎に源蔵は決断を促した。
「もう逃げられないんですよ、あなたは。だったら後は奥さんと子供を不幸な事件によって偶然失う事で失意のあなたはこの事件から自然に手を引くことができ、そして晴れて愛人と一緒に生活をする、というのは今のあなたにとっては願ってもない条件ではないですか。そして我々は裏であなたの家族は見せしめのために殺されたという情報をばらまけば、この件に触れるバカな奴らはいなくなり、私の周りの人達も安心できる。一石二鳥です。いいですか? ターゲットはあなたの奥さんと子供二人、です。愛人には手は出しません。いいですね」
 源蔵に言い含められ、光五郎は頷いてしまった。
「それでいいんです。それで。では私は失礼しますよ」
 源蔵は席を立ち、ゆっくりと歩いて部屋を出て行った。その間、光五郎はずっとうなだれて下を向いたままだった。知らぬ間に目には涙が溢れ、床を濡らした。どうしようもない自分の無力感と、妻子を裏切った自責の念が光五郎の心を苦しめた。源蔵に、もう決まっているんでしょうと言い当てられた時、光五郎の心臓は一瞬動きを止めたように感じられ、その後吐き気を催した。
「すまない……秀子……」
 光五郎は絞り出すように呟いていた。
 その後事件は起こるのだが、全くの偶然により多賀見組の仕掛けた犯人が、秀子達だけでなく、居合わせた光五郎の愛人まで殺してしまったのだ。秀子達を殺す日程や方法などはまったく光五郎は知らされてなかった。そのため彼女に気をつけるように注意する事もできなかった。源蔵には後日、約束が違う、愛人には手は出さないと約束したではないかと言い寄ったが、彼女が殺されたのは源蔵達にも予期しないことだったため、光五郎にはどうすることもできなかった。
 そんな光五郎に、『セイフプレイス』という組織から仲間にならないかと声を掛けられた。源蔵に強い恨みを持つ光五郎は、仲間に入ることを承諾したのだ。
 それから二十年以上が経って『セイフプレイス』は河原源蔵をターゲットにする作戦を立てはじめたため、光五郎は智子を使ってまで積極的に『セイフプレイス』の作戦を支援し深く入り込む一方で、源蔵達を敵視する別の勢力を使って彼を抹殺する計画を立てたのだった。
 
 
「そうだ。あいつらは許せなかった。それはお前も同じだろう、涼介。お前の親父さんもあの事件に巻き込まれて殺されたんだからな」
 光五郎は殺された愛人、そして秀子と光男のことを思い浮かべた。
「あの事件のことは、私も調査に加わっていたからよく判っている。あいつらを許せないのは私も同じだ。しかし『セイフプレイス』は彼らの処分を『抹殺』ではなく、社会的追放、後に彼らの持っている薄汚れた裏の情報と不正に蓄えた莫大な財産を奪うことと決めたはずだ。あなたも幹部としてそれに一度は賛同したはずだ」
「納得したわけではない! 私はあの時、あれほど『抹殺』を主張したじゃないか!」
 光五郎は涼介に対して怒鳴り、周りいる他の幹部を睨みながら見渡した。
「しかし、その案は却下された。安易に『抹殺』をすべきではないという組織の原則に従い、限りなく組織に属する被害者全ての感情、利益を優先して源蔵達の処分を決定したはずだ。その組織の決定に最初から不服だったあなた達は、組織の立てる計画に賛同する振りをして積極的に絡むことで、計画が最終を迎える頃に組織を裏切り、源蔵を『抹殺』せざるを得ないように仕組んだ」
 涼介の言葉に光五郎は黙った。代わりに智子が口を開いた。
「涼介さんは本当に納得していたの? 源蔵を『抹殺』せざるを得なくなった、と言ったけど本当はその方が涼介さんにとっても良かったんじゃないの?」
 涼介は首を横に振った。
「智子、この件に関しては何度も話をしたはずだ。俺もあいつらを憎んでいた。しかしだからと言って復讐の心を先走らせてターゲットを『抹殺』することは誤っているって言っただろう。何のための『セイフプレイス』なんだ。何のための組織なんだ。お前達は最後までその事を理解できなかったんだな。残念だよ」
 智子に代わって光五郎が涼介に噛みついた。
「私達のような『隠された被害者』を救うための組織じゃないか! その為には法に背いてでも目的を達成するのが組織じゃないか! 私や智子はその為に組織の力になってきた。今回だって、河原家の財産を奪うために河原圭に近づき、その男の子供を智子は産んだんだぞ! あの憎い河原源蔵の血を引いた子供を! その孫を! どれだけ辛い思いをしたのか判っているのか!」
「その役目を引き受けて実行に移したのは智子自身ですよ。嫌ならいつでも組織の他の女性が、その役目をしても良かった。あなた達は被害者であることを強く主張しているが、加害者でもあるんだ。さらにその被害者の立場を利用して、自らの復讐という個人の思いを先に立たせ、また河原源蔵の財産や秘密に真っ先に接することができる立場を利用してそれを私的に利用しようとした。私利私欲の為に犯罪に手を染めることは、組織の意向に反する。それどころかあなたは組織自体をも欺いたんだ。その行為は私達組織の敵に回したということであり、河原源蔵達と同じ穴のムジナだということにまだ気づかないのか!」
 涼介は光五郎と智子に向かって怒鳴った。短くなったタバコを一口吸って大きく煙を吐き出した後、携帯灰皿を取り出して煙草の火を消し、クルーザーの上から水面に浮かぶゴムボートの中の榎木親子を見つめていた。
 光五郎は項垂れながら呻いた。死を覚悟したのかもしれない。
「俺達を殺すということは……圭一の母親である智子を殺すことは、圭一という二重三重の『隠された被害者』をつくることになることになるが、それは組織としてどう考えているんだ……」
「それは命請いのつもりか。それとも単なる組織の考え方に対する疑問か」
 涼介は冷たく光五郎に言い放った。彼は顔をあげ、涼介の顔を見た。その顔はもう逃れられないことを覚悟しながらもまだすがるような目つきをしていた。
「……その両方だ」
 涼介はその問いに答えた。
「そういう矛盾は過去にも組織として何度も経験してきている。だからといって組織としてそれを良しとしている訳では無い。どんな理由があったとしても人を殺す、という十字架は一生組織全体として背負わなければならない。ただ私利私欲の為に人を殺し、平然とこの社会に生きる人間は決して許さない。それが組織だ。修羅を殺すには修羅になることは覚悟の上だ」
 涼介は言い終わると、他のメンバーの顔を一人一人見渡した。「藤堂」や阿川、恵子達も誰一人として涼介の言葉に異を唱える目をしている者はいなかった。
 それを確認した涼介は一人頷き、兼次に合図を送った。
 涼介の合図を受け、兼次はクルーザーのエンジンをかけた。するともう一隻の譲二のクルーザーのエンジン音も唸りだした。
 それまで波の音しか聞こえていなかった穏やかな海の上は途端に騒がしくなった。
 そして二隻のクルーザーは、ゴムボートに乗せられた榎木親子を残して、その場からゆっくりと離れていった。
 その姿をぼんやりと見ていた光五郎は、遠ざかっていくクルーザーに向かって怒鳴った。
「このまま放置する気か! 海の上で野垂れ死ぬまでこのままでいろというのか! そんな拷問の様な殺し方をお前達はするのか!」
 怒鳴る光五郎の背に、智子は黙って目を瞑った。既に死を覚悟していた。
 涼介は二人を放置して殺すようなことはしないと判っていた。このまま放置しておけば何らかの形で他の船に発見されてしまえば、生き延びる可能性がある。
 また仮に二人が餓死したとしてもこのままであれば、死体は残ってしまう。海に誤って落ちて死んでも同じことだ。そんな真似を涼介達がする訳がない。
 人を始末する時には、隠された犯罪者達が行ったように、完全な事故死、または自殺などとして組織と結びつくような殺し方は決してしない。
 今、榎木親子はゴムボートの上で身動きできないように縛られているだけだ。それに先ほど睡眠薬を飲まされている。このまま死体が見つかれば必ず殺人として捜査されてしまうはずだ。
 そうなると残るは、死体自体を発見させないことだ。死体が発見されなければ事件にはならない。榎木親子が行方不明となって捜査されることはあってもこの日本では行方不明になって失踪している人間は数多く、例え最高裁判事の榎木光五郎であっても弁護士の智子であってもしばらくは騒がれるだろうが、時間が経てば終息してしまう。
 死体さえ見つからなければ。
 組織の幹部はいつ何があるかわからないため、身の回りに組織に関するものは簡単には見つからないようにされている。幹部の身に何かあった時はすかさず組織の人間がその情報を消去したり処分したりする手筈が整えられているのだ。
 今回の幹部だけ集まる会合に関しても、行き先などは全くカモフラージュされていて、その身に何かあったら失踪または自殺を匂わせるようなものを置いて集まることが義務付けられている。
 だから涼介達は榎木親子の処刑をこの会合で行うことにしたのだ。
 二人の裏切りに関しては、かなり前から涼介達は気づいていた筈だ。それを何故今まで生かされていたのか。それはこのタイミングを待っていたからだ。
 幹部が集まる会合で処刑すれば、失踪、または自殺という形で榎木親子の捜査はすぐに終わってしまうだろう。現に光五郎は、いつものように仕事に疲れた、という遺書のようなものを書いて残しているそうだ。今までそうやって会合に出席するものだということも智子は父から教えられたのだ。
 智子もまた、子供の育児生活に疲れている日記を残しており、育児疲れで発作的に自殺したか失踪したかをほのめかすように細工している。二年前に参加した幹部会の時には仕事に疲れたという文章を智子は残した。
 かつて幹部会でそのような処刑をされたという話を智子は聞いたことが無かった。光五郎も知らないはずだ。知っていたら今回呼び出しを受けた時、自分達の身が危ないと気づいたはずである。智子は組織への裏切りを決めてからは、いつばれて処刑されるかいつも心を悩ましていた。
 しかし智子達が裏切りを始めてから数年は経っており、河原の財産が自由になって一部を細工してからすでに一年は経っていた。涼介達が裏切りに気付いていたのはもっと前からだったはずだ。それでも智子達はそのまま何事もないように過ごしていた。
 そのため二人は今回の幹部会には全く疑いを持たなかった。完全に油断していた。だからこそ、このタイミングだったのだ。
 今更ながら涼介や組織の恐ろしさを智子は痛感していた。この幹部会で死ねば、榎木親子に対する騒ぎは最小限に食い止められ組織が表に出ることはない。
 死体さえ見つからなければ。
 智子は死を覚悟していた。光五郎もそうなのであろう。しばらく叫んでいたが今は静かにじっとしているがかすかに震えているようだった。その震えが背中合わせにされている智子にも伝わってくる。
 後悔は無かった。自分をここまで育ててくれた光五郎の思いを叶えたのだ。そしてあの事件で自分の母親を目の前で殺されたことにより、河原源蔵を恨む気持ちは光五郎に負けないほど持っていた。
 智子は光五郎と秀子の間にできた子供ではない。光五郎と秀子の娘、友美は事件の日に偶然マンションの人が預かってくれていたため殺されることから免れたのだ。しかし、事件からほどなく病気によって彼女は亡くなった。
 殺された光五郎の息子、光男と同じ幼稚園に通っていた智子は、あの事件で母親を目の前で殺された。あの時、テルユキに殺された人は榎木秀子、光男親子と涼介の父の他のもう一人いた。それが光五郎の愛人でもあった智子の母親だったのだ。
 母は智子をかばって男に刺された。
「智子、逃げて!」
 母があの時叫んだ声は、今でも耳に残っている。智子をかばいながら母は男に二度刺され、地面に倒れた。
 足がすくんで動けなかった智子も男に二度切りつけられ、母に覆いかぶさるようにその場に倒れた。激しい痛みを感じながらも恐怖で声が出せなかった。
 体から血がどんどん出ていくのが判った。智子の傍にいた母の体からも血があふれ出ている。
「お母さん……」
 もう声にならない声で母を呼んだが、もう智子を見てくれはしなかった。母の目は恐怖に慄いて見開いたまま、あらぬ方向を向いていた。
 激しく降り注ぐ雨に打たれながら、智子は意識を失った。
 気がついた時は、病院のベッドだった。体中に色んな管をつけられたまま身動きできず、横たわっていた。後から聞いたが、保育園の先生がもう一人同じように重傷で入院していたという。しかし母はそこにはいなかった。
 しばらく経って母が死んだという事を誰かに教えられたが、それを受けいれるまでかなり時間がかかった。
 智子には父親がいないことになっていた。母子家庭であった智子は一人になってしまったのだ。そんな智子を「藤堂」達が組織で面倒を見てくれるようになった。そして短い間に家族全員を失った光五郎は、本当は自分の愛人に産ませた子である智子を養女として迎えてくれたのである。
 そして中学生になった時、父から本当のことを教えてもらった。病気で亡くなった友美の呼び名、トモは、愛人の子供である智子から名付けた、と父は言っていた。父は、秀子との長男、光男が秀子のお腹の中にいた頃母と知り合い、深い仲になったという。そして智子を生んだのだ。
 父は母と一緒に暮らしたいとずっと思っていたが、妻の秀子と別れることができず、また思いがけず二人の間に女の子ができてしまった。父は母と少しでも長くいられるようにと母と智子の住む場所の近くにマンションを購入して引っ越してきてくれた。
 そして父は、河原源蔵の関わる事件で身の危険を感じ、母と智子を守るためにそして一緒に新しい生活を始めるために、自分の妻の秀子と光男と友美を犠牲にしてくれたのだが、あの事件で誤って母まで殺されてしまった。
 父はせめて何とか生き残った私と一緒に暮らせるようにと、偶然生き残った友美を病気に見せかけて殺してさえくれた。あの時点で父は友美と暮らすこともできたはずなのに智子を選んでくれたのだ。
 智子はとても可愛がってくれる光五郎の様な立派な人になりたいと必死に勉強した。
 一人ぼっちになった智子を支えてくれた光五郎に少しでも認めてもらいたいと思ったからだ。智子は光五郎と同じように司法試験を受け、判事にはなれなかったが、弁護士になった。その後は光五郎とともに組織のため尽くしてきた。
 智子の一生は組織の為と言うより光五郎の為にあったと言っても良かった。だから、一度は反対したが結局光五郎の言う通りにし、圭に近づき子供まで産んで組織を裏切ったのだ。
 智子は圭一のことを考えた。あの子はしばらく生き残るのだろう。しっかりと成人するまで組織が面倒を見てくれるはずだ。成人した圭一はどうやって生きていくだろう。組織とどうやって関わっていくのだろうか。
 圭一は父親を殺された『隠された被害者』として組織の一員になることは間違いない。そんな彼は同時に、父親側の祖父母にあたる河原源蔵と花江を、また母親である智子とその養父の光五郎もその組織によって殺されている。
 大人になった圭一は組織によって『隠された被害者』になった我が身をどう思うのか。そもそもその事実を組織から知らされるのであろうか。知らされずに組織に従うのか、知らされて組織に従うのか。それとも組織に逆らって智子達のように消されていくのだろうか。
「圭一……」
 そう呟く智子の頬は知らず知らずのうちに涙で濡れていた。
 突然の赤い閃光が智子達を包んだ。熱い、と感じる間もなくすさまじい爆発の中、二人はこの世に塵も残さないまま消えた。
 気化爆弾の光と遠くから聞こえる爆音を背に、涼介達の乗ったクルーザーは海の中を走っていた。涼介も含め恵子や譲二達は誰一人振り向くことなく、船の先端を静かに見つめていた。皆が厳しい顔をしている。恵子の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「まだまだ俺達のやるべきことはたくさんある」
 そう呟いた涼介の声も濡れていた。 (了)
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