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第四章~⑦
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「倉田誠さんは、どのようにして亡くなったと聞いていますか」
祖父は絞り出すように、告白をし始めた。
「君が予想していた通り、彼は由子さんを脅していた。しかも一人でいる時に襲われたそうだ。それを止めさせようと、近くにあった包丁で刺してしまったらしい。それで殺してしまったと、駐在所に連絡をした。決して最初から隠そうとした訳ではないと、私は聞いている。彼女は自首するつもりだった。もちろん正当防衛だと、主張するつもりだったらしい」
「ではそこに駆け付けた宗太郎さんが、遺体を隠して失踪した事にしようと持ち掛けたのですか」
「そうらしい。自首すると言った彼女に、こんな誰もいない状況で正当防衛を主張するのは難しい、と言ったようだ。認められれば無罪だが、そうでなければ傷害致死の罪に問われる。しかも裁判となれば、それまでに起きた事故についても、再捜査されてしまうとまずい。もし誠さんが、何か証拠になるものを残していたら危険だ。そう考えたと説明された」
宗太郎に説得され、死体は一度離れた場所の山の中に埋めたという。その後彼が居なくなったと近所の人が言い出し、何食わぬ顔をして、家の中を捜索したようだ。そこにはやはり、それまで起きた事故に関わることを書いた日記が隠されていたらしい。
それを手にした宗太郎が、彼は借金から逃れる為に夜逃げしたと言いだし、失踪届を出したという。村で長い間治安を守り、慕われてきた駐在員が言うのだ。間違いないと皆は納得したのだろう。やがて彼の失踪は既成事実となった。
そうして落ちついた頃を見計らい、一九七八年の宮城県沖地震を受け一九八一年に建築法が改正されたことを理由に、由子は築二十九年の木造家屋を耐震性の高い重量鉄骨造りの家に建て替えた。
その時、基礎を作る前に以前埋めた死体を家の下へと埋め直したという。その上にコンクリートで固めた土台を組めば、二度と発見され無いと考えたようだ。
大貴が疑問に思った点を質問した。
「警察官である宗太郎さんが、死体遺棄の罪になるような真似をしたのはどうしてだと聞いていますか」
「由子さんは、自分を助けるつもりだったと思うけれど、それ以上に磯村家による経済的な支援を期待していたのかもしれないと言っていた。当時警察の定年制が開始され、その年に六十歳を迎え退職する予定だったらしい。しかも八十二歳になる母親が、その時病で寝込んでいた。磯村家は圭子さんが事故死してから、ずっと経済的支援をしてきた経緯があったからな」
「継続して貰う為にも、恩を売っておきたかったというのですか」
「その可能性は否定できない。ただ同じ年に母親は病死してしまったから、結果的にお金はそれほど必要なかった。自身の退職金と年金で、十分暮らしていけたはずだ」
「宗太郎さんから、由子さんがお金をせびられていたという事実は無かったのですか」
「そんな人じゃなかったから、由子さんも信頼していたんだと思う」
「では話を遡りますが、先程名前が出た圭子さんの話をしましょう。彼女が単独で事故を起こし亡くなった事になっていますが、真相はどうだったと聞いていますか」
祖父は躊躇しながらも、正直に話しだした。
「君達が目を付けたように、あれが磯村家にとって不幸の始まりだった。だからこそ、倉田家の呪いと言われ続けたんだ」
「圭子さんの車に同乗していたのは、当時由子さんのご主人だった真之介さんで間違いないですか」
「そう聞いている」
「由子さんからですね。どのように説明されましたか」
病に倒れ死期を悟った彼女は、隠してきたこれまでの秘密を彼に全て打ち明けたという。その最初が、圭子の死に真之介と倉田誠が絡んでいることだったらしい。
泊が集めて来た情報通り、圭子は弟の光二朗と結婚する前から真之介に好意を持っていた。さらに大貴の想像通り、子供を産んだばかりだったにも拘らず、彼女は真之介の事を諦めていなかったようだ。それがあの日の事故に繋がったようだ。
圭子が何かしらの理由を付け、真之介を呼び出しベビー用品や食料品の買い出しの為に誘い、助手席へ座らせたという。誠は前年に怪我をして無職だったこともあり、彼女から孫の世話をするよう金を渡され無理やり押し付けられていたのだろう。
しかし彼らが一緒に車で出かける様子を偶然見かけ、何かあると思い、孫を乗せ車で追った。酒癖が悪かった彼の妻は、圭子が幼い頃に子供を置いたまま逃げている。それでしょうがなく林業で生計を立てながら、周囲の人達の力を借りて彼女を育てていた。
といっても助けてくれたのは、圭子を不憫に思った女性達であり、誠の為では無かったようだ。そういう環境で育てられたからか、圭子と誠の関係は、相当悪かったらしい。娘がようやく結婚し手元から完全に離れた際は、安堵していたという。けれども彼女の気質を、良く知っていたのだろう。そこで勘が働いたようだ。
そんな事など気付かない圭子は、車の中で真之介に迫った。それから逃れる為に、彼女と少し揉みあいになった。拒否されカッとなった彼女は、発作的に無理心中を図ろうとしたらしい。道路からはみ出しそうになった為、真之介は咄嗟に助手席のドアを開け、道へ転がり無事脱出した。彼女は咄嗟にブレーキを踏んだが間に合わず、そのままガードレールを突き破り、転落してしまったという。
それを呆然と眺める真之介を見つけたのが、追ってきた誠だった。彼から事情を聞き、咄嗟にその場を立ち去ろうと提案したようだ。二人で車に乗っているのを見た者は、誰もいないはずだと聞いたから余計だろう。またまず助からない自分の娘より、資産家に嫁いだ真之介を庇えば、磯村家から金を引き出せると考えたに違いない。
現に彼はその後、磯村家から口封じという名目で少なくない金を受け取ったようだ。その為彼は圭子が事故死した際、家で孫と真之介の三人でいたと証言したのである。さらにあの事故を単独事故として処理するよう手伝ったのが、宗太郎だ。彼は自分の息子を庇う為にも、そうせざるを得なかったのだろう。
実際の事故の目撃者より先に誠から連絡を受けた彼は、脅されていたと由子は後に聞かされたらしい。
「その二年後に、今度は真之介さんが山道から滑落し、亡くなっています。あれは光二朗さんの犯行だったのですか」
「圭子さんの死の真相を知った彼は、復讐する為犯行に及んだようです。ただその裏で、誠さんが唆していたと由子さんは後に知ったそうです」
金遣いの荒かった誠は、事故で受け取った労災と磯村家から貰ったお金を、二年で使い果たしてしまったらしい。そこで新たに金を引き出す計画を立てた。それが光二朗に圭子の死の真相を告げ、真之介を事故死に見せかけることだったという。
光二朗には真之介が亡くなれば圭子の敵を取るだけでなく、上手くいけば由子と結婚して、磯村家の婿になれるかもしれないと煽ったようだ。アリバイは誠が証明することにして、宗太郎にも事故と見せかけるよう脅迫したらしい。言う通りにしなければ、圭子の事故の際に工作した件をばらすとでも言ったのだろう。
そのおかげで誠の計画は予定通りに進み、真之介の代わりに光二朗は息子と一緒に東京へ呼ばれ、由子の世話を頼まれたのだ。それ以前の圭子の事故死から彼らは経済的支援を受けていた為、そうなることは自然な流れだったと思われる。
但し由子はあくまで家事手伝いとして雇っただけで、結婚するつもりはなかったようだ。それでも光二朗は磯村家から十分な報酬を受け取り、その中から誠に渡すお金を捻出していたという。
「光二朗さんが同じ場所で事故死したのは、どうしてですか」
ここで口調が鈍った。それはそうだろう。大貴の推測では、ここから祖母が関わってくるからだ。楓はそれを察し、声をかけた。
「隠さなくていいよ。お祖母ちゃんが突き落としたんだよね」
祖父は力なく頷き、再び絞り出すように経緯を説明してくれた。
どうやらこの事故の裏にも、誠が関わっていたようだ。真之介の事故から四年経っても由子が光二朗と結婚しなかった為、彼は苛立ったらしい。二人が結婚すれば、もっと多くの金が手に入ると期待していたからだろう。さらに光二朗が払う額では満足できず、もっと寄こせと要求したが断わられたようで、邪魔になったと思われる。
そこで真之介は事故死でなく、光二朗が殺したと由子に耳打ちした。嘘だと思うのなら、宗太郎に聞けばいい。彼なら真之介が、圭子の事故死との関係も教えてくれる。そう言ったようだ。
これまでの関係もあり、信じられなかった由子は宗太郎に真実を話すよう迫った。すると彼は白状したのだ。しかし実は誠が裏で操っていたことを隠して告げたらしい。その結果夫を殺された憎しみから彼女は宗太郎に協力を依頼し、光二朗を山道に呼び出し二人がかりで崖に突き落としたのだ。
いくら磯村家の頼みだといっても、実の息子を殺さなければならなかった宗太郎の心中を考えれば、想像を絶する。しかし彼は光二朗が、由子の夫で実の兄でもある真之介を殺したことを隠す手助けをしていた。よって隠蔽した罪に苛まれ、由子の指示に従ったのかもしれない。
誠にはその間、子供達の様子を見て貰っていた。子供といっても真之介の死から四年経っており、もう十三歳と六歳だ。誠にはただ念の為、留守番を頼んでいたに過ぎない。
宗太郎は当時母親と家に居たことになっていたが、八十一歳と高齢で体調を崩しがちで、昼間も寝ている事が多かったようだ。実際その翌年に病死している。そこでアリバイ作りに利用したという。
その後一旦家に戻り、誰かが光二朗の滑落を発見し、報告が来るまで待っていたらしい。もちろん連絡を受け現場に駆け付ける前に、彼らが突き落とした証拠は消していた。その上で状況から事故だと判断し、本部へ報告を上げた為に事件性はないとされたのだ。
ここまでの経緯を聞くと細かい点は異なるが、大まかな流れは大貴や泊が想像していた通りだった。そこで最後の件に話が移った。
光二朗の死をネタに、誠は由子から金を強請り始めたという。光二朗から金を受け取れなくなった為、彼にとっては当然だった。圭子の事故の際にも支払っていた為、由子はやむを得ず口止め料として、まとまったお金を支払ったという。
その翌年に事件が起きた。お金だけでは飽き足らなくなった誠は、由子の体までも要求し始めた。それを拒絶して襲われた結果、刺し殺してしまったらしい。
その後の流れは先ほど話した通りなのだろう。全てを語り尽くしたからかぐったりとしていた祖父に、楓は申し訳なく思いながらも尋ねた。
「お祖父ちゃんはお祖母ちゃんが病に倒れてから、今までの話を初めて聞いたの」
祖父は絞り出すように、告白をし始めた。
「君が予想していた通り、彼は由子さんを脅していた。しかも一人でいる時に襲われたそうだ。それを止めさせようと、近くにあった包丁で刺してしまったらしい。それで殺してしまったと、駐在所に連絡をした。決して最初から隠そうとした訳ではないと、私は聞いている。彼女は自首するつもりだった。もちろん正当防衛だと、主張するつもりだったらしい」
「ではそこに駆け付けた宗太郎さんが、遺体を隠して失踪した事にしようと持ち掛けたのですか」
「そうらしい。自首すると言った彼女に、こんな誰もいない状況で正当防衛を主張するのは難しい、と言ったようだ。認められれば無罪だが、そうでなければ傷害致死の罪に問われる。しかも裁判となれば、それまでに起きた事故についても、再捜査されてしまうとまずい。もし誠さんが、何か証拠になるものを残していたら危険だ。そう考えたと説明された」
宗太郎に説得され、死体は一度離れた場所の山の中に埋めたという。その後彼が居なくなったと近所の人が言い出し、何食わぬ顔をして、家の中を捜索したようだ。そこにはやはり、それまで起きた事故に関わることを書いた日記が隠されていたらしい。
それを手にした宗太郎が、彼は借金から逃れる為に夜逃げしたと言いだし、失踪届を出したという。村で長い間治安を守り、慕われてきた駐在員が言うのだ。間違いないと皆は納得したのだろう。やがて彼の失踪は既成事実となった。
そうして落ちついた頃を見計らい、一九七八年の宮城県沖地震を受け一九八一年に建築法が改正されたことを理由に、由子は築二十九年の木造家屋を耐震性の高い重量鉄骨造りの家に建て替えた。
その時、基礎を作る前に以前埋めた死体を家の下へと埋め直したという。その上にコンクリートで固めた土台を組めば、二度と発見され無いと考えたようだ。
大貴が疑問に思った点を質問した。
「警察官である宗太郎さんが、死体遺棄の罪になるような真似をしたのはどうしてだと聞いていますか」
「由子さんは、自分を助けるつもりだったと思うけれど、それ以上に磯村家による経済的な支援を期待していたのかもしれないと言っていた。当時警察の定年制が開始され、その年に六十歳を迎え退職する予定だったらしい。しかも八十二歳になる母親が、その時病で寝込んでいた。磯村家は圭子さんが事故死してから、ずっと経済的支援をしてきた経緯があったからな」
「継続して貰う為にも、恩を売っておきたかったというのですか」
「その可能性は否定できない。ただ同じ年に母親は病死してしまったから、結果的にお金はそれほど必要なかった。自身の退職金と年金で、十分暮らしていけたはずだ」
「宗太郎さんから、由子さんがお金をせびられていたという事実は無かったのですか」
「そんな人じゃなかったから、由子さんも信頼していたんだと思う」
「では話を遡りますが、先程名前が出た圭子さんの話をしましょう。彼女が単独で事故を起こし亡くなった事になっていますが、真相はどうだったと聞いていますか」
祖父は躊躇しながらも、正直に話しだした。
「君達が目を付けたように、あれが磯村家にとって不幸の始まりだった。だからこそ、倉田家の呪いと言われ続けたんだ」
「圭子さんの車に同乗していたのは、当時由子さんのご主人だった真之介さんで間違いないですか」
「そう聞いている」
「由子さんからですね。どのように説明されましたか」
病に倒れ死期を悟った彼女は、隠してきたこれまでの秘密を彼に全て打ち明けたという。その最初が、圭子の死に真之介と倉田誠が絡んでいることだったらしい。
泊が集めて来た情報通り、圭子は弟の光二朗と結婚する前から真之介に好意を持っていた。さらに大貴の想像通り、子供を産んだばかりだったにも拘らず、彼女は真之介の事を諦めていなかったようだ。それがあの日の事故に繋がったようだ。
圭子が何かしらの理由を付け、真之介を呼び出しベビー用品や食料品の買い出しの為に誘い、助手席へ座らせたという。誠は前年に怪我をして無職だったこともあり、彼女から孫の世話をするよう金を渡され無理やり押し付けられていたのだろう。
しかし彼らが一緒に車で出かける様子を偶然見かけ、何かあると思い、孫を乗せ車で追った。酒癖が悪かった彼の妻は、圭子が幼い頃に子供を置いたまま逃げている。それでしょうがなく林業で生計を立てながら、周囲の人達の力を借りて彼女を育てていた。
といっても助けてくれたのは、圭子を不憫に思った女性達であり、誠の為では無かったようだ。そういう環境で育てられたからか、圭子と誠の関係は、相当悪かったらしい。娘がようやく結婚し手元から完全に離れた際は、安堵していたという。けれども彼女の気質を、良く知っていたのだろう。そこで勘が働いたようだ。
そんな事など気付かない圭子は、車の中で真之介に迫った。それから逃れる為に、彼女と少し揉みあいになった。拒否されカッとなった彼女は、発作的に無理心中を図ろうとしたらしい。道路からはみ出しそうになった為、真之介は咄嗟に助手席のドアを開け、道へ転がり無事脱出した。彼女は咄嗟にブレーキを踏んだが間に合わず、そのままガードレールを突き破り、転落してしまったという。
それを呆然と眺める真之介を見つけたのが、追ってきた誠だった。彼から事情を聞き、咄嗟にその場を立ち去ろうと提案したようだ。二人で車に乗っているのを見た者は、誰もいないはずだと聞いたから余計だろう。またまず助からない自分の娘より、資産家に嫁いだ真之介を庇えば、磯村家から金を引き出せると考えたに違いない。
現に彼はその後、磯村家から口封じという名目で少なくない金を受け取ったようだ。その為彼は圭子が事故死した際、家で孫と真之介の三人でいたと証言したのである。さらにあの事故を単独事故として処理するよう手伝ったのが、宗太郎だ。彼は自分の息子を庇う為にも、そうせざるを得なかったのだろう。
実際の事故の目撃者より先に誠から連絡を受けた彼は、脅されていたと由子は後に聞かされたらしい。
「その二年後に、今度は真之介さんが山道から滑落し、亡くなっています。あれは光二朗さんの犯行だったのですか」
「圭子さんの死の真相を知った彼は、復讐する為犯行に及んだようです。ただその裏で、誠さんが唆していたと由子さんは後に知ったそうです」
金遣いの荒かった誠は、事故で受け取った労災と磯村家から貰ったお金を、二年で使い果たしてしまったらしい。そこで新たに金を引き出す計画を立てた。それが光二朗に圭子の死の真相を告げ、真之介を事故死に見せかけることだったという。
光二朗には真之介が亡くなれば圭子の敵を取るだけでなく、上手くいけば由子と結婚して、磯村家の婿になれるかもしれないと煽ったようだ。アリバイは誠が証明することにして、宗太郎にも事故と見せかけるよう脅迫したらしい。言う通りにしなければ、圭子の事故の際に工作した件をばらすとでも言ったのだろう。
そのおかげで誠の計画は予定通りに進み、真之介の代わりに光二朗は息子と一緒に東京へ呼ばれ、由子の世話を頼まれたのだ。それ以前の圭子の事故死から彼らは経済的支援を受けていた為、そうなることは自然な流れだったと思われる。
但し由子はあくまで家事手伝いとして雇っただけで、結婚するつもりはなかったようだ。それでも光二朗は磯村家から十分な報酬を受け取り、その中から誠に渡すお金を捻出していたという。
「光二朗さんが同じ場所で事故死したのは、どうしてですか」
ここで口調が鈍った。それはそうだろう。大貴の推測では、ここから祖母が関わってくるからだ。楓はそれを察し、声をかけた。
「隠さなくていいよ。お祖母ちゃんが突き落としたんだよね」
祖父は力なく頷き、再び絞り出すように経緯を説明してくれた。
どうやらこの事故の裏にも、誠が関わっていたようだ。真之介の事故から四年経っても由子が光二朗と結婚しなかった為、彼は苛立ったらしい。二人が結婚すれば、もっと多くの金が手に入ると期待していたからだろう。さらに光二朗が払う額では満足できず、もっと寄こせと要求したが断わられたようで、邪魔になったと思われる。
そこで真之介は事故死でなく、光二朗が殺したと由子に耳打ちした。嘘だと思うのなら、宗太郎に聞けばいい。彼なら真之介が、圭子の事故死との関係も教えてくれる。そう言ったようだ。
これまでの関係もあり、信じられなかった由子は宗太郎に真実を話すよう迫った。すると彼は白状したのだ。しかし実は誠が裏で操っていたことを隠して告げたらしい。その結果夫を殺された憎しみから彼女は宗太郎に協力を依頼し、光二朗を山道に呼び出し二人がかりで崖に突き落としたのだ。
いくら磯村家の頼みだといっても、実の息子を殺さなければならなかった宗太郎の心中を考えれば、想像を絶する。しかし彼は光二朗が、由子の夫で実の兄でもある真之介を殺したことを隠す手助けをしていた。よって隠蔽した罪に苛まれ、由子の指示に従ったのかもしれない。
誠にはその間、子供達の様子を見て貰っていた。子供といっても真之介の死から四年経っており、もう十三歳と六歳だ。誠にはただ念の為、留守番を頼んでいたに過ぎない。
宗太郎は当時母親と家に居たことになっていたが、八十一歳と高齢で体調を崩しがちで、昼間も寝ている事が多かったようだ。実際その翌年に病死している。そこでアリバイ作りに利用したという。
その後一旦家に戻り、誰かが光二朗の滑落を発見し、報告が来るまで待っていたらしい。もちろん連絡を受け現場に駆け付ける前に、彼らが突き落とした証拠は消していた。その上で状況から事故だと判断し、本部へ報告を上げた為に事件性はないとされたのだ。
ここまでの経緯を聞くと細かい点は異なるが、大まかな流れは大貴や泊が想像していた通りだった。そこで最後の件に話が移った。
光二朗の死をネタに、誠は由子から金を強請り始めたという。光二朗から金を受け取れなくなった為、彼にとっては当然だった。圭子の事故の際にも支払っていた為、由子はやむを得ず口止め料として、まとまったお金を支払ったという。
その翌年に事件が起きた。お金だけでは飽き足らなくなった誠は、由子の体までも要求し始めた。それを拒絶して襲われた結果、刺し殺してしまったらしい。
その後の流れは先ほど話した通りなのだろう。全てを語り尽くしたからかぐったりとしていた祖父に、楓は申し訳なく思いながらも尋ねた。
「お祖父ちゃんはお祖母ちゃんが病に倒れてから、今までの話を初めて聞いたの」
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