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第一章~⑥
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いつものように朝刊を開いた藤子は、広告欄にある週刊誌の見出しに目を奪われた。そこで慌てて外出しコンビニに向かい、当該雑誌を購入し帰宅すると即座に記事の内容を読んだ。
そこには暴露記事が掲載されていた。
“今話題の芥山賞作家がテレビの生放送でコメントした死亡男性は、なんと実の弟だった! しかも他人の戸籍を使い生活しており、何らかの犯罪に関わっていた疑いが浮上!”
その上他人事のような見解を述べた藤子に対し、非難する内容の記載もあった。
「巻き込まれお怪我をされた方にとっては、本当にお気の毒な事でした。お見舞い申し上げます」
とあの時述べた言葉を取り上げ、それだけで済ませ未だ被害者に会っていない、と責める内容の記事が書かれていたのだ。
これには藤子も唖然とした。面会していないのは事実だが、実際は弁護士を通し示談を進めている最中だ。しかも報告によればこちらの謝罪意志は先方に伝えており、治療費の実費は全額支払うことで了承を得ている。慰謝料についても法に定められた範囲で概算の金額は提示済みだ。それでほぼ承諾を得て、特に揉めていないと美奈代から聞いていた。
だが治療が完全に終わらなければ、最終的な賠償額は確定されない。よって正式な示談はその後になってしまう。ただそれだけなのだ。
また藤子など親族による謝罪についても話がついている。兄が海外にいて、藤子も世間の注目を浴び一躍有名になった人物という事情を加味して頂いた。よってお互いに落ち着いてから、と流れが決まっていたのだ。刑事責任も問わないとまで告げられていた。
それなのに、雑誌ではまだ会って直接謝罪していない点だけを取り上げ攻撃していた。さらにはその後の意見についても叩かれた。
「また男性の行為が自殺だったとしたら、とても悲しい事件です」
との生放送でのコメントを指し、実の弟がどういう状況だったかも知らないで、作家のくせに安易な言葉を使っていると咎められた。その上、
「もし私の作品を読んで頂いていたなら、違った形になっていたかもしれない。そう思うのは傲慢でしょうか」
と口にした点については、傲慢どころか本の宣伝をしたいが為の、自分本位な発言だと謗られた。旬の人物として世間に持ち上げられ注目されていた分、そのスキャンダルは手の平を返したように、恰好の餌食となったのである。
ただでさえデビューしたての新人が大きな賞を獲ったことで、嫉妬を含んだ悪意に晒されていた。それでも新人賞を獲った後、二十歳も年下である担当の中川から、
「作家自身がSNSで宣伝を兼ねたアピールをしなければ、今の時代は小説など売れません。それにあなたの容姿は絶対に世間受けします。だからどんどんネットに書き込んだり画像をアップしたりして、更新回数を増やしましょう」
と、それまで全くしていなかった行動を、半強制的にやらされていた。これまで受けた取材やテレビへの出演の様子はもちろん、その時食べた食事などを写真で取って掲載していたのである。
それらが災いした。ネット上では調子に乗っている、作家のくせにタレント気取りだ等と誹謗中傷が殺到。批難はエスカレートし、手がつけられない程の炎上状態に陥ったのだ。
デビューして半年の間とは違った種類の騒動に巻き込まれた藤子は、自宅まで特定された。当然のように多くの記者達が押し寄せ、藤子のコメントを取ろうと躍起になった。何度もチャイムを鳴らされるので電源を一時オフにしたが、悪質な人達は周囲の迷惑も顧みず叫んだ。
「弟さんが他人名義を使っていたのは、何か犯罪に手を染めていたからではないですか」
「過去に補導歴があるようですね。その当時から問題がある弟さんだったのですか」
「怪しい店に出入りするのを見たとの目撃情報もありますが、あなたはご存知でしたか」
「白井先生は、弟さんの正体を知っていたんじゃないですか」
「あなたも犯罪に関わっているんじゃないでしょうね」
容赦なく常軌を逸した失礼な質問を浴びせられ、藤子は耐え切れなくなった。その為急遽出版社が用意したホテルへ、避難せざるをえなくなったのである。
また意図的に伏せていたプロフィールまでもが公になった。おかげで悪意を持った学生時代の同級生達が持つアルバム等により、幼い頃から太っていた姿や現在とは全く違う、決して見栄えが良いとは言えない顔立ちもバラされたのだ。
その為喧騒は別の方向にも飛び火し、ブーイングがなかなか治まらない状況に追い込まれた。それは外出がままならなくなっただけでなく、仕事にまで影響した。雑誌の取材やテレビ出演のオファーは当然無くなった。その上エッセイの掲載や作品の執筆依頼までもが一時見送りとなり、全て凍結状態になってしまったのである。
そうしてホテルに籠っている間、美奈代と連絡を取ったところで驚くべき事実を知った。どうやら情報の一部は、彼女がリークしたと分かったのだ。
彼女は話している内にポロリと本音が出て、こう言った。
「雄太さんの過去や別名義を使用していた理由を探って欲しいなんて藤子さんが言うから、リサーチ会社の人達は相当苦労していたみたいよ。でもマスコミが動いてくれたおかげで、かなり調査がやりやすくなったって聞いたわ。有名人のあなたが偶然にもテレビであんな発言をしてくれていたから、上手くいったみたい。騒がれて大変かもしれないけど、悪い事ばかりではなかったようね」
その口調に違和感を持った為、厳しく問い質すとしどろもどろになり、色々と言い訳を並べ始めた。
「遺産については絶対に口外しないでくれと言ったわよ。それと例の件についても、慎一郎さんに関わってくるから絶対に言ってない。容姿等に関しての記事は私のせいじゃないわ。あなたの昔の知り合いが勝手に騒いだだけだから。話したのはほんの少しだけよ」
辻褄の合わない点もあったがそれらの話を繋ぎ合わせて推測するに、どうやら今回の騒ぎの発端は、雄太の過去の調査に行き詰まったリサーチ社が立てた策だったようだ。事件が大きく世間に扱われればマスコミも探り出すはずだと考え、彼女を唆し藤子の個人情報の一部を聞き出して意図的に流したという。
その理由の一つとして、騒ぎが起きたマンションの管理会社が一括し他のマスコミも含めた窓口となり、住民達に箝口令を引いた点が挙げられる。その為情報が一切入らなかったらしい。
その上勤務先も含め調査したが、これと言った話を聞けず難航していたようだ。よって何か突破口がないかと模索した結果が、こういう状況をもたらしたのである。
藤子は腸が煮えくり返ったけれど後の祭りだ。後悔先立たず。疑いつつもあんな女に任せるという過ちを犯した、自分自身を恨むしかなかった。その為に長い間、部屋の一室で息を潜めて暮らす日々が続いたのだ。
しかしこの世の中、悪事を働いた者がのうのうと暮らせる一方、良からぬ行為をすればいつか大きなしっぺ返しを食らう場合もある。今回藤子はそう思い知った。というのも、
“保曽井雄太が死亡した場合、遺産の全額は姉の保曽井藤子に渡す”
と記入された、雄太の遺書が見つかったのだ。
美奈代達の雇った弁護士は、雄太が二年前の二〇二〇年九月に「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた事実を突き止めたらしい。
遺言書は本人が自筆で作成する際自宅に保管していると、紛失や盗難、偽造や改ざんのおそれがあったり、せっかく書いても発見されなかったりする場合がある。そこで大切な遺言書を守る為に二〇二〇年七月一〇日から導入されたのが、法務局で保管する制度だ。
保管費用は掛かるが、自筆証書遺言書は遺言者自らの手書きで作成でき、紙とペンや印鑑さえあれば、特別な費用もかからず一人で完成させられるという。その為遺言者が都合の良い時に書いて保管しておくと、相続開始後に相続人等が発見し遺言内容を実行できるらしい。また相続財産の詳細については、パソコンで作成した目録や預金通帳のコピーなどでも認められるという。
この制度の利用メリットは、法務局の保管所で遺言書の原本と画像データが保管される為、紛失や盗難のおそれが無い点だ。それに遺言者の生存中は、本人以外が遺言書を閲覧できないので、偽造や改ざんの恐れもない。
その上遺言書の原本を保存する際、スキャナーで読み込んだ画像データも一緒に保管される。よって保管手続きをした遺言書保管所以外でも、全国の遺言書保管所でモニターを使い閲覧ができるのだ。
さらにはこれまで遺言者が亡くなった後、公正証書遺言書を除く自筆証書遺言書を開封する際は、偽造や改ざんを防ぐ為に家庭裁判所で検認を受ける必要があった。つまり勝手に中身が見られない上、検認を受けなければ当該遺言書に基づく不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができないのである。
だがこの制度を利用すれば検認が不要となり、相続人等が速やかに遺言書の内容を実行できると言うのが大きな利点だった。
弁護士が兄と藤子の委任状を持ってその遺言書を取り寄せた所、先に述べた驚くべき事実が書かれていると判明したのだ。それを知った美奈代は激怒した。
少なくとも一億円以上は受け取れると期待していた所、一銭も貰えないと分かったからだろう。何故なら両親や配偶者または子供がおらず兄妹のみが遺産を受け取る場合、異議を唱えることで法定相続分の二分の一は保障される遺留分が、遺言書のあるケースだと一切認められないからだ。
しかも目録等によれば、遺産の総額は予想をやや超えた三億円弱あると明らかになった。その為彼女はこれまでの苦労や目論見が全て無駄になり、馬鹿らしくなったらしい。よって兄と相談した結果、今後全ての手続きは藤子に託すと決め、これ以上の調査を放棄すると宣言したのである。
そこには暴露記事が掲載されていた。
“今話題の芥山賞作家がテレビの生放送でコメントした死亡男性は、なんと実の弟だった! しかも他人の戸籍を使い生活しており、何らかの犯罪に関わっていた疑いが浮上!”
その上他人事のような見解を述べた藤子に対し、非難する内容の記載もあった。
「巻き込まれお怪我をされた方にとっては、本当にお気の毒な事でした。お見舞い申し上げます」
とあの時述べた言葉を取り上げ、それだけで済ませ未だ被害者に会っていない、と責める内容の記事が書かれていたのだ。
これには藤子も唖然とした。面会していないのは事実だが、実際は弁護士を通し示談を進めている最中だ。しかも報告によればこちらの謝罪意志は先方に伝えており、治療費の実費は全額支払うことで了承を得ている。慰謝料についても法に定められた範囲で概算の金額は提示済みだ。それでほぼ承諾を得て、特に揉めていないと美奈代から聞いていた。
だが治療が完全に終わらなければ、最終的な賠償額は確定されない。よって正式な示談はその後になってしまう。ただそれだけなのだ。
また藤子など親族による謝罪についても話がついている。兄が海外にいて、藤子も世間の注目を浴び一躍有名になった人物という事情を加味して頂いた。よってお互いに落ち着いてから、と流れが決まっていたのだ。刑事責任も問わないとまで告げられていた。
それなのに、雑誌ではまだ会って直接謝罪していない点だけを取り上げ攻撃していた。さらにはその後の意見についても叩かれた。
「また男性の行為が自殺だったとしたら、とても悲しい事件です」
との生放送でのコメントを指し、実の弟がどういう状況だったかも知らないで、作家のくせに安易な言葉を使っていると咎められた。その上、
「もし私の作品を読んで頂いていたなら、違った形になっていたかもしれない。そう思うのは傲慢でしょうか」
と口にした点については、傲慢どころか本の宣伝をしたいが為の、自分本位な発言だと謗られた。旬の人物として世間に持ち上げられ注目されていた分、そのスキャンダルは手の平を返したように、恰好の餌食となったのである。
ただでさえデビューしたての新人が大きな賞を獲ったことで、嫉妬を含んだ悪意に晒されていた。それでも新人賞を獲った後、二十歳も年下である担当の中川から、
「作家自身がSNSで宣伝を兼ねたアピールをしなければ、今の時代は小説など売れません。それにあなたの容姿は絶対に世間受けします。だからどんどんネットに書き込んだり画像をアップしたりして、更新回数を増やしましょう」
と、それまで全くしていなかった行動を、半強制的にやらされていた。これまで受けた取材やテレビへの出演の様子はもちろん、その時食べた食事などを写真で取って掲載していたのである。
それらが災いした。ネット上では調子に乗っている、作家のくせにタレント気取りだ等と誹謗中傷が殺到。批難はエスカレートし、手がつけられない程の炎上状態に陥ったのだ。
デビューして半年の間とは違った種類の騒動に巻き込まれた藤子は、自宅まで特定された。当然のように多くの記者達が押し寄せ、藤子のコメントを取ろうと躍起になった。何度もチャイムを鳴らされるので電源を一時オフにしたが、悪質な人達は周囲の迷惑も顧みず叫んだ。
「弟さんが他人名義を使っていたのは、何か犯罪に手を染めていたからではないですか」
「過去に補導歴があるようですね。その当時から問題がある弟さんだったのですか」
「怪しい店に出入りするのを見たとの目撃情報もありますが、あなたはご存知でしたか」
「白井先生は、弟さんの正体を知っていたんじゃないですか」
「あなたも犯罪に関わっているんじゃないでしょうね」
容赦なく常軌を逸した失礼な質問を浴びせられ、藤子は耐え切れなくなった。その為急遽出版社が用意したホテルへ、避難せざるをえなくなったのである。
また意図的に伏せていたプロフィールまでもが公になった。おかげで悪意を持った学生時代の同級生達が持つアルバム等により、幼い頃から太っていた姿や現在とは全く違う、決して見栄えが良いとは言えない顔立ちもバラされたのだ。
その為喧騒は別の方向にも飛び火し、ブーイングがなかなか治まらない状況に追い込まれた。それは外出がままならなくなっただけでなく、仕事にまで影響した。雑誌の取材やテレビ出演のオファーは当然無くなった。その上エッセイの掲載や作品の執筆依頼までもが一時見送りとなり、全て凍結状態になってしまったのである。
そうしてホテルに籠っている間、美奈代と連絡を取ったところで驚くべき事実を知った。どうやら情報の一部は、彼女がリークしたと分かったのだ。
彼女は話している内にポロリと本音が出て、こう言った。
「雄太さんの過去や別名義を使用していた理由を探って欲しいなんて藤子さんが言うから、リサーチ会社の人達は相当苦労していたみたいよ。でもマスコミが動いてくれたおかげで、かなり調査がやりやすくなったって聞いたわ。有名人のあなたが偶然にもテレビであんな発言をしてくれていたから、上手くいったみたい。騒がれて大変かもしれないけど、悪い事ばかりではなかったようね」
その口調に違和感を持った為、厳しく問い質すとしどろもどろになり、色々と言い訳を並べ始めた。
「遺産については絶対に口外しないでくれと言ったわよ。それと例の件についても、慎一郎さんに関わってくるから絶対に言ってない。容姿等に関しての記事は私のせいじゃないわ。あなたの昔の知り合いが勝手に騒いだだけだから。話したのはほんの少しだけよ」
辻褄の合わない点もあったがそれらの話を繋ぎ合わせて推測するに、どうやら今回の騒ぎの発端は、雄太の過去の調査に行き詰まったリサーチ社が立てた策だったようだ。事件が大きく世間に扱われればマスコミも探り出すはずだと考え、彼女を唆し藤子の個人情報の一部を聞き出して意図的に流したという。
その理由の一つとして、騒ぎが起きたマンションの管理会社が一括し他のマスコミも含めた窓口となり、住民達に箝口令を引いた点が挙げられる。その為情報が一切入らなかったらしい。
その上勤務先も含め調査したが、これと言った話を聞けず難航していたようだ。よって何か突破口がないかと模索した結果が、こういう状況をもたらしたのである。
藤子は腸が煮えくり返ったけれど後の祭りだ。後悔先立たず。疑いつつもあんな女に任せるという過ちを犯した、自分自身を恨むしかなかった。その為に長い間、部屋の一室で息を潜めて暮らす日々が続いたのだ。
しかしこの世の中、悪事を働いた者がのうのうと暮らせる一方、良からぬ行為をすればいつか大きなしっぺ返しを食らう場合もある。今回藤子はそう思い知った。というのも、
“保曽井雄太が死亡した場合、遺産の全額は姉の保曽井藤子に渡す”
と記入された、雄太の遺書が見つかったのだ。
美奈代達の雇った弁護士は、雄太が二年前の二〇二〇年九月に「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた事実を突き止めたらしい。
遺言書は本人が自筆で作成する際自宅に保管していると、紛失や盗難、偽造や改ざんのおそれがあったり、せっかく書いても発見されなかったりする場合がある。そこで大切な遺言書を守る為に二〇二〇年七月一〇日から導入されたのが、法務局で保管する制度だ。
保管費用は掛かるが、自筆証書遺言書は遺言者自らの手書きで作成でき、紙とペンや印鑑さえあれば、特別な費用もかからず一人で完成させられるという。その為遺言者が都合の良い時に書いて保管しておくと、相続開始後に相続人等が発見し遺言内容を実行できるらしい。また相続財産の詳細については、パソコンで作成した目録や預金通帳のコピーなどでも認められるという。
この制度の利用メリットは、法務局の保管所で遺言書の原本と画像データが保管される為、紛失や盗難のおそれが無い点だ。それに遺言者の生存中は、本人以外が遺言書を閲覧できないので、偽造や改ざんの恐れもない。
その上遺言書の原本を保存する際、スキャナーで読み込んだ画像データも一緒に保管される。よって保管手続きをした遺言書保管所以外でも、全国の遺言書保管所でモニターを使い閲覧ができるのだ。
さらにはこれまで遺言者が亡くなった後、公正証書遺言書を除く自筆証書遺言書を開封する際は、偽造や改ざんを防ぐ為に家庭裁判所で検認を受ける必要があった。つまり勝手に中身が見られない上、検認を受けなければ当該遺言書に基づく不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができないのである。
だがこの制度を利用すれば検認が不要となり、相続人等が速やかに遺言書の内容を実行できると言うのが大きな利点だった。
弁護士が兄と藤子の委任状を持ってその遺言書を取り寄せた所、先に述べた驚くべき事実が書かれていると判明したのだ。それを知った美奈代は激怒した。
少なくとも一億円以上は受け取れると期待していた所、一銭も貰えないと分かったからだろう。何故なら両親や配偶者または子供がおらず兄妹のみが遺産を受け取る場合、異議を唱えることで法定相続分の二分の一は保障される遺留分が、遺言書のあるケースだと一切認められないからだ。
しかも目録等によれば、遺産の総額は予想をやや超えた三億円弱あると明らかになった。その為彼女はこれまでの苦労や目論見が全て無駄になり、馬鹿らしくなったらしい。よって兄と相談した結果、今後全ての手続きは藤子に託すと決め、これ以上の調査を放棄すると宣言したのである。
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