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フラワーチャイルズ
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仕事へ戻って数日たったある日、幸介は仕事場で不思議なものを見た。
不思議なもの。いや、有り得ないものと不思議なものの二つだ。
幸介は場違いにも仕事場に華子穂を見たのだ。それだけじゃない。華子穂の隣には黒い幽霊のようなものが一緒になって歩いていた。
見たのはほんの一瞬だ。しかも、遠い。開いたドアの向こうの廊下を歩いていた。
しかし、幸介は妙な悪寒を覚え、休憩スペースへ向かい携帯電話で華子穂を預けている施設に連絡を入れた。なぜか、その影を追おうとはしなかった。「追えない」ことが余りにも確かに分かっていたのだ。
「あの、ごめんなさい。私、そちらに面倒を見てもらってる雨立華子穂の父です。あの、確認したいのですが、華子穂、いまそちらにいますよね?」
語尾は上げたが、自分でも質問ではなく、断定に響いたことに驚いた。
(そうだ。華子穂は施設にいる)
職員からの返答を待たずにそう確信が持てた。
「ありがとうございます。急にごめんなさい」
しばらくして「います」との返答を聞いて通話をやめる。
なぜだろう。今度は幸介の中に、「さっきの少女を追え」という命令が膨らみながら浮かんでくる。
幸介は考える。恐らく、奴は死神だ。
華子穂のいのちを奪いにきたのだ。
それもまた、確信であった。
壁に向けた視線を廊下へ向けると、幸介はぞっとした。開かれたドアをくぐって、今まさにさっきの「死神」が入ってきたところだった。
華子穂そっくりの子ども。しかし、髪色が向日葵のような黄色で所々が赤茶けている。
隣のものはなんだか分からなかった。ただ、小さいくせに黒のハットにロングコートという出で立ちが威圧感を放っている。
「死神……か?」
しばらく向かい合った状態が続き、拍子抜けした気持ちで幸介は訊いた。
「いや、違うね。僕らは与えるものさ」
ハットの方が安心感を覚えるほど、落ち着いた声を出す。
「『与えるもの』?」
幸介は危機感を失わないように、切羽詰まった声を出す。
ふいにハットの方がその顔を上げる。ハットの鍔からその顔を覗け、幸介はいのちに危機を覚えるほど吃驚し、飛び退く。
「え?」
ふいに周りに現実感を失くし、足がもたついた。
それは、確かに何か、動物だ。熊か、ラッコのようなもの。
しかし、目。目が放つ意志、インテリジェンスがそれが知的な生命体であることを幸介に伝えていた。
「そう。与えるもの。そして、僕らは羊追いでもあるのさ」
その生命がすっと指をさす。背後を振り返れというように。
迷うこともなく、幸介は振り返ってしまう。そして、羊は追われてしまった。
不思議なもの。いや、有り得ないものと不思議なものの二つだ。
幸介は場違いにも仕事場に華子穂を見たのだ。それだけじゃない。華子穂の隣には黒い幽霊のようなものが一緒になって歩いていた。
見たのはほんの一瞬だ。しかも、遠い。開いたドアの向こうの廊下を歩いていた。
しかし、幸介は妙な悪寒を覚え、休憩スペースへ向かい携帯電話で華子穂を預けている施設に連絡を入れた。なぜか、その影を追おうとはしなかった。「追えない」ことが余りにも確かに分かっていたのだ。
「あの、ごめんなさい。私、そちらに面倒を見てもらってる雨立華子穂の父です。あの、確認したいのですが、華子穂、いまそちらにいますよね?」
語尾は上げたが、自分でも質問ではなく、断定に響いたことに驚いた。
(そうだ。華子穂は施設にいる)
職員からの返答を待たずにそう確信が持てた。
「ありがとうございます。急にごめんなさい」
しばらくして「います」との返答を聞いて通話をやめる。
なぜだろう。今度は幸介の中に、「さっきの少女を追え」という命令が膨らみながら浮かんでくる。
幸介は考える。恐らく、奴は死神だ。
華子穂のいのちを奪いにきたのだ。
それもまた、確信であった。
壁に向けた視線を廊下へ向けると、幸介はぞっとした。開かれたドアをくぐって、今まさにさっきの「死神」が入ってきたところだった。
華子穂そっくりの子ども。しかし、髪色が向日葵のような黄色で所々が赤茶けている。
隣のものはなんだか分からなかった。ただ、小さいくせに黒のハットにロングコートという出で立ちが威圧感を放っている。
「死神……か?」
しばらく向かい合った状態が続き、拍子抜けした気持ちで幸介は訊いた。
「いや、違うね。僕らは与えるものさ」
ハットの方が安心感を覚えるほど、落ち着いた声を出す。
「『与えるもの』?」
幸介は危機感を失わないように、切羽詰まった声を出す。
ふいにハットの方がその顔を上げる。ハットの鍔からその顔を覗け、幸介はいのちに危機を覚えるほど吃驚し、飛び退く。
「え?」
ふいに周りに現実感を失くし、足がもたついた。
それは、確かに何か、動物だ。熊か、ラッコのようなもの。
しかし、目。目が放つ意志、インテリジェンスがそれが知的な生命体であることを幸介に伝えていた。
「そう。与えるもの。そして、僕らは羊追いでもあるのさ」
その生命がすっと指をさす。背後を振り返れというように。
迷うこともなく、幸介は振り返ってしまう。そして、羊は追われてしまった。
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