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青い楽園の弓
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くすぐったい感覚を覚えて目を覚ますと、きっこが傍に座ってうちわを扇いでいた。
気持ちいい風がかこの表面をなぞっていく。
「起きた?」
きっこは微笑んで手を止める。
蝉の声、冷たい畳、太い梁、開け放たれた戸から繋がって広々とした縁側が見える。
古い家だ。それに知らない家。
それにも関わらず、かこはここを覚えている。
広い和室のなかは暗くて涼しく、縁側の向こうに見える破裂したような明るさが夢に思えた。
そう、夢。ここは夢に見た場所。かこは突然理解した。
走り出さなきゃ、と。
かこには分かった。ここにはかこを苦しめるものはない。怖いヒトの眼もぶつかったものをバラバラに壊すエネルギーを蓄えて走るくるまも。気色悪いものみんな、ここにはない。
自由なのだ。
だから、いますぐに走り出さなくちゃ。
「きっこ、行こう。きっと『海』が近いはず」
ぐずぐずしてたら、あっという間に「おとな」になってしまう。
怖い眼をした大きいばかりの動物に。光を失って迷うだけの動物に。
ふたりは立ち上がると、縁側からはだしで庭へ出た。
太陽の下へ出ると耳の中の音が変わった。
皮膚を絞り上げるような強力な日光。
それは愛のような力強さ。
きっことふたり、この陽射しの中に躍り出るのと同時に、華子穂はこの時が永遠にこころに生き続けるのだという安心のなかにも泳ぎ出た。
その時そのものは儚いものだとは知らずに。
庭にはシュロが二本生えていて、波が揺れるように穏やかに葉を風に靡かせている。
そして、確かに波音も聴こえる。さぁーん、さぁーんと。
それもそのはず、牧歌的な佇まいの町並みの向こうで海が山のように雲まで隆起しているのだ。
さながらこの町が海に囲まれた盆地であるというように。
「すごいね、海」華子穂は(おそらく)初めて見た海を食べるように見た。
「すごいんだね」きっこが驚きに痺れているのが分かる。
華子穂は庭を見回す。柔らかい芝生、等間隔に並ぶ木々たち。
ここじゃない。
華子穂は自分の倍ほどもある古びれた石塀へ向って走り出すと、手足をしなやかに動かし素早くそれを登った。
「きっこ!」
幅が二十センチメートル程の塀の上で身を翻し、身を屈めると手を伸ばす。
きっこは弾むように走り寄ると塀の前で飛び上がり、華子穂の手を掴んだ。
自分の手にぶら下がったきっこを塀へ引き上げる。思ったより重かったけど、苦労する程ではない。
華子穂は縮んだバネが伸びるように立ち上がると、塀の上を走り出す。両腕をぶんぶん振って、思いっきり。
振り返るときっこはやじろべいのように両手を伸ばして走りながら、時々独楽のようにくるくる回った。
それを見ていたら、身体がゾクゾクとくすぐったく、華子穂は思わず笑わずにはいられなかった。そして、弾けた笑いの勢いで近くの家屋の屋根へ飛び移った。
きっこも続いて跳んでくる。
きっこは屋根へ移るとそのまま、ごろりと前転をした。
瓦屋根は軋みながら、からころと鳴る。
ひとが誰もいない町に、木管楽器の演奏のようにふたりが走る音がからんころんと鳴り響く。蝉の声と重なって。
噎せ返る暑さのなか、幻のように。
屋根から塀へ、塀をなぞってまた屋根へ。
ふたりは跳ねて転がり、笑って歌いながら、海を目指した。青い野火のように瞬く海を。音を鳴らす、青い虹のようなそれを。
ふたりともに、こんなに走ったのは初めての体験だった。だからこそ限りなく力は溢れて、永遠に走ることができると信じられた。
望んだところまで走ることができる。いまは毛皮靡く青い巨獣のところまで。
引っ張られるように、押されるように、ふたりは何も頼らずに、衝動と反射にすべてを任せ続けた。
海は姿は鱗がきらめく青い虹というようだけれど、でも逃げることなく近づいたぶんだけ近づける。その麓で打ち寄せた波が白い泡となり、雲が浮かぶように青い斜面を上がっていく。
ざあーーん、ざあーーん。
音は更に大きくなる。
空が唸るように鳴ったかと思うと、しばらくあとに強風の壁が到達した。隆起した海に溢れた空気圧が、風となって岸へと吹き付けたのだ。
風は死とも生ともとれる匂いがした。
ふたりは塀の上で身を屈める。それでも、勝手に身体が後退しようとする。華子穂はきっこの手を取り抱き寄せ、留まろうとしたが風は収まる気配がなかった。
「きっこ……!おりよう……!」
それは天高く聳り立つ海が放つ気配そのものだった。
「おりよう……、下に……!」
身体を密着させていても、轟音で言葉が消される。
それでもきっこは頷き、ふたりは転げて塀から降りた。
落ちた先は小さな茂みで、きっこが這いつくばってその陰へ進む。華子穂もそれに続いた。
まるで壊れた傘のように枝を振る低い木は、ほとんど風を防いではくれない。それでもぺたんと地に伏せていれば立っているよりはずっと良かった。
晴天に聳えた青い虹はもう見えない。砂や埃で空まで茶色に煙っていた。
「きっと怒ってるんだよ……!」
きっこは口を目一杯開けて言う。
「それはなあに……!「怒ってる」が分からない……!」
華子穂も大袈裟に口を開いて返す。
「ああいうことだよ……!」
きっこは少し顎をあげて吹き付ける風の先を示す。
「なんで海は怒ってるの……!?」
「分からないよ……!かこが知らないなら、ボクだって分からないっ……!」
ふたりとも口のなかが砂でじゃりじゃりで、大声を上げてるせいで喉が痛かった。
あんなにかこのこと、呼んでいるみたいな海だったのに。
突然、巨人が空の本を裂いたような凄まじい音がして、紫の光が閃光を伴い茶色い景色のなかを走った。ふたりは音に驚いて手のひらで耳を塞ぐ。(きっこは頭の上の「耳のようなもの」を手のひらで隠すように覆っている)
世界が引き裂かれているかのような、恐ろしい音が響き続ける。
かこ
きっこが顔を華子穂に向けて口を動かす。それから、近くの民家を見る。
華子穂は頷き、ふたりは世界が終わっていくような現象から逃れるため民家へ向かいだした。互いの肩を抱き合って、一歩一歩ゆっくりと足を出す。
目は風が強過ぎて開けられない。しばしの間、もしくは永遠のような時、ふたりは互いの存在感だけを見失わないようにきつく抱き合って、まぶたの裏の暗闇の中を歩き続けた。
お互いの「たどりつきたい」という思いにお互い支えられながら。
前に出そうとした華子穂の膝に鈍く感覚が広がる。半分感覚が麻痺したてしまっていたから、それが痛みだとは気づかなかった。それどころか、華子穂はもう一歩反対の足を出して、その足にも同じ感覚を覚えて初めて「たどりついた」ことに気がついた。
華子穂の変化にきっこも気づき、ふたりはまさぐるように縁側に張り付き(それでも手は繋いだままで)、転がりながら登ると、そのまま屋内へ突進していった。
ガラス戸にでも追突していたら大変なことになっていた。けれど、ふたりは何にもぶつかることなく屋内に進入することができた。
華子穂は目を開けると踵を返し、木戸にくっつき閉めようとする。きっこも向かいの戸を押している。
目に見えない風がそれでもふたりを探して、太い腕を室内に侵入させ、外へ連れ出そうと乱暴に引っ掻く。
身体中が麻痺してしまっていたからこそだったのか、ふたりはその腕を断ち切って木戸を押し閉めた。
切断された腕は一瞬だけ渦を巻き、散って消えた。
風が戸を激しく叩く。建物にぶつかり、裂ける空気が甲高く鳴く。やがて風の中から意思のようなものは消えて、ただカタカタと戸が揺れるだけになった。
ふたりは強ばっていた身体を緩め、そっと戸から離れた。
髪から雫がしたたる。海からの飛沫が風に混ざっていたのだ。身体もぐっしょりだった。
年季の入った畳が落ちる雫を吸う。
気が緩むと身体の動かし方が分からなくなってしまい華子穂は崩れ落ちてぺたんと尻もちをついた。そこにきっこが倒れかかる。
辛うじてきっこを抱きとめると、その後はどうにもできず畳の上に倒れ込んだ。
幼く小さいふたりの身体のどこにも、もう力は残っていなかった。錆び付いたように身体が硬く、指さえ動いてくれない。
すると何故か、華子穂の目頭から涙が溢れる。涙は止めどなく溢れて、肌をなぞって零れた。
身体は動かせないのに、お腹がひくひくと痙攣したように動く。合わせて閉じられない口から声が漏れる。
「どうしたの?」
きっこが動こうとしばらく力んで、その後に諦めたようにそう言った。弱々しい声。
わからない
華子穂は泣きじゃくりながらなんとか口に出す。
わからない
もう一度、そう言う。そうするしかなかったのだ。
世界はあまりに言葉が不足しているから。
「分かったよ」きっこは華子穂に優しくそう言う。
「怖かったのかな?」
そして、そう付け足す。
こわい?
華子穂はひきつりながら返す。
「そう。強い風、大きな音、眩しい光、痛みとか寒さとか」
華子穂からはきっこが見えない。首も動かせないから。お腹のあたりから「ふあふあ」なきっこの声が届く。
「ケガをしそうだったり、病気になりそうだったり、痛そうだったり、じゃなかったらケガをすること、病気になること、痛いこと。そういうことが起こると、「怖い」になるんだ」
きっこは身体を捩って華子穂の視界のなかに入ってくる。
「自分じゃどうにもならい、そうなりたくないのになっちゃうこと。なりたいのになれないこと。みんな怖いことだよ」
華子穂とまっすぐ目線が合うところまで上がってくるときっこは優しい微笑みを浮かべ言う。
「「怖かった」、そう言ってごらん」
「怖かった……」
きっこの言葉は素直に聞くことができる。そして、口に出してみて、それが間違いのないことだと理解する。
「怖かったよ、きっこ……!」
動かなかった身体を動かして、きっこに抱きつく。
でも、と華子穂は感じている。なぜ、きっこはこんなに物知りなのだろう。
まだ自分と同じく子どもなのに。
それはちょっとした違和感。まだ疑問にもならない。
「かこ」
きっこが腕の中で動き半身を起こす。
「なに?」
華子穂もきっこと同じ格好をとる。それと同時にきっこを抱きしめながら、後ろへ跳ねる。
部屋の奥に人が立っていた。
年をとった女の人だ。おばあちゃんと同じくらい。
相対したまま黙っているとその人が言葉を発する。
「驚かせたみたいね。だけど、それは私も同じよ」
変わらず部屋の奥の暗がりに立ち続ける女の人。
(勝手に入っちゃったからかな……?)
きっこが囁く。
(でも、誰もいないと思ったのよ)
華子穂が返す。それに対して女の人が答える。「ええ」と。
「だけど、かこ。この世のどこにも誰もいないところなんてないの。そんな淋しい場所はないのよ」
なんだか、何か不思議なことが起こっている。
華子穂もきっこもそのことに関して何かを考えなくてはいけないと、強く感じる。
不思議なこと。
じゃあ、さっきまでのことは不思議じゃなかったのかな、ときっこは考えざるを得ない。
そして、その答えは「不思議とは感じなかった」というもの。
華子穂は考える。否、感じとる。あまりに膨大に身体全体から立ち上る考えは、感じとるしかない。
飛び交う声、華子穂のもの、きっこのもの、女の人のもの、いろいろな人たちのもの、映像、色、匂い、華子穂の知っているあらゆるもの。
だから、華子穂は何も言えず佇む。あまりにとりとめがなくなって。
「そうね。あなたはそうのはずだわ」
相変わらず暗がりから動かない女の人が、華子穂が「とりとめがなくなる」まで待ってそう言う。
「まだ子どもなのだし」
「かこを知っての?」
何も言えない華子穂の代わりにきっこが訊ねる。
「それはお互い様なのよ。この街の住人はみんなその子を知っていて、そして、そのことに気づかないまま眠り続ける。死ぬまでね。そのはずだったのよ」
歩み寄る女の人。日に焼けた肌が逞しさを印象づける。
「もし、目覚めたとしても、それはずっと後のはずだった」
女の人はきっこの前に立つ。
もうふたりに警戒心はなかった。
「あなたね。あなたがいたから、この子がここまで来れたのね」
少し吊り上がった目に収まった大きな黒目。女の人はそこから強いものだけが持つことのできる優しさをきっこへ注ぐ。
「ありがとう」女の人は静かにきっこの前に跪く。
きっこにしてみれば、何で感謝されたのか分からなかった。だけど、もう考えることは無駄だということは理解できた。つまり、この世界は華子穂ときっこ、それどころか誰にだって理解できるようになってはいないということ。
「どういたしまして」
なので、きっこはこころのままにそう息を出した。
それは言葉ではなくて、優しい目をした彼女へのこころと身体に任せた反射だった。
ここへ辿り着いたそれと同じものだった。
女の人は一点の曇もない信頼の表情できっこを見詰め、目の奥でもう一度「ありがとう」と言った。そして、立ち上がると華子穂ときっこを愛おしそうに眺める。
「そろそろ帰りなさい。どちらにしてもあなたが来るには早すぎるわ」
きっこは不思議なこころ持ちだった。未来を思って懐かしむ、そんな世界にありはしないこころ持ち。
「きっと」女の人はそう言いながら背を向ける。
「その木戸を開いてしまえば、ここから出られる。この世界の外へ。そして、隔壁はまた下りるでしょう」
再び女の人は暗がりへ。そして、振り返る。
「あなたがまた、来るべきときに来ることを楽しみにしてるわね。それまで、また眠りにつきましょう」
女の人が奥の間へ続く襖を開いた時に今まで黙っていた華子穂が声をあげた。
「待って」
敷居を跨ぎかけた女の人がぴたりと止まる。ゆっくりと振り返った顔は目を見開いていた。
「何かしら」驚きの表情のまま感情のない声を出す女の人。華子穂はお構いなしに告げる。
「ねぇ、握手したい」
穏やかな華子穂とは逆に女の人は血の気をなくしぶつぶつと独り言を漏らす。
いま、この子が自発的に私を求めるはずがない……
でもはっきりとそう言ったのがきっこには聞こえた。
しばらく黙り思い出したように穏やかな雰囲気を取り戻す女の人。
「どうして私と握手したいと考えたの?」
「大きくなれそうだから」
華子穂は間を置かずに答える。
「そう」
女の人はどこか安心したように笑みを零す。
女の人はまた華子穂の近くまで歩み寄ると手を差し出しながら「でもね」と言い置く。
「それは「大きくなる」じゃなくて、強くなる。言ってごらんなさい。「強くなりたい」って」
華子穂は手を伸ばし女の人と手を繋ぐ。
「うん。「強くなりたい」」
華子穂は大きな目でまっすぐに女の人をみつめて言う。
まさにその時、華子穂のなかに眠っていた「何か」が目を覚ます。
「ありがとう。わすれない」
手を放すふたり。
華子穂の変化をきっこは目で見て気づくことができた。いままでとは違う凛とした風が華子穂から流れてくる。
華子穂はもう十分であることを感じていた。ここへ来た理由は果たされて、いまこの瞬間に歓びと感謝を感じ、しっかり覚えて、あとは帰るだけ。
「さようなら」
華子穂は自ら別れを告げると、女の人に背を向け歩き出す。
「ええ。さようなら。また会える日を楽しみにしてるわ」
華子穂は女の人の声を背中に受けながら、木戸の外へ出ていった。きっこも女の人へお辞儀をし、外へ出る。
残された女の人はか弱い微笑を浮かべ壁に凭れた。
「もう眠る必要はなくなったわね。そのうち街のあちこちで祝福の鐘が鳴り響く」
ゆっくり、ゆっくりと開かれた木戸へ寄る。外にはもちろんふたりの姿はなく、嵐も静まっている。
「みんな、目覚めは近いわよ」
そして、じぶんへ呟く。
「もうあなたには会えない」と。
目が覚めたとき、きっこはいなかった。
包丁がまな板を叩く調子のついた音が聞こえる。
とんとんとん、とんとんとんとん
雨の気配はない。いつの間にか掛かっていたブランケットがしっとりと温かい。
どこか懐かしいところへ行っていた気がする。
懐かしいというか、「生きた感触」の痕というか、とにかく華子穂は衝き動かされるように立ち上がると、包丁の音のする台所へ向かった。
何もかもが懐かしい。もしくは「生きていという感触」を覚えさせる。
カビ臭い廊下も、薄暗い空気も、包丁の音も。
華子穂は壁を指でなぞりながら歩いた。歩くことさえ例外ではなく、久しぶりのことに感じた。
何もかもが初めてになってしまった。
シダ植物のレリーフのある磨りガラスを開けると、廊下にお味噌の香りのする湯気が流れ込み、お湯が沸く音とともに忙しなさが崩れ出る。
華子穂に気づいていないのか、美咲は料理を続ける。
「お母さん」
華子穂は美咲へ声をかけた。
はじめは見知らぬ子どもが間違って家に入ってきてしまったのかと思い、とても驚いた。
しかし、そうではないことに気づき、それを遥かに凌駕して驚いた。
「お母さん」
いや、厳密に言えば、はじめに思ったことはあながち間違いでもなかった。
だって、私はこの子を知らない。かこちゃんとよく似た知らない子ども。
いや、それすらも実は正しくはない。
かこちゃんはまるでこれまでもそうであったかのように、親しげに話しかけてくる。
「あのね」と。
私が知らないのは、私だった。もしくは私以外の世界のすべてだった。そう、それはどちらも同じ意味だった。
「私ね、怖かったの」
ムスメがワタシにだきついてくる。これまでもそうであったように。
それなのに、ワタシはしらない。これまではどうしてきたのか。もしくはセカイがどうふるまったのか。
「そうだったの」
ワタシはしらない。ムスメにたいし、なんのかんじょうもおこらない。
しらない。
「だからね、かこ、強くなるの」
しらない。
「強くなりたい」
ワタシ、よくわからない。だって、しらないから。
すべて初めてのことで、華子穂はだけど恐れなく、衝動と反射に任せて動いた。
「お母さん」と呼びたかったのでそうして、お母さんに抱きたかったので、そうした。
何もかもが初めて。恐れなどない。
怖かったことがあったので、そう告げたし、それを消すために実咲のお腹に手を回して頬を押し付けた。
華子穂は手の感触を確かめて美咲に宣言する。
「かこ、強くなるの」
女の人の骨ばった手。日に焼け乾燥した肌の奥から伝わった温度。
「強くなりたい」
気持ちいい風がかこの表面をなぞっていく。
「起きた?」
きっこは微笑んで手を止める。
蝉の声、冷たい畳、太い梁、開け放たれた戸から繋がって広々とした縁側が見える。
古い家だ。それに知らない家。
それにも関わらず、かこはここを覚えている。
広い和室のなかは暗くて涼しく、縁側の向こうに見える破裂したような明るさが夢に思えた。
そう、夢。ここは夢に見た場所。かこは突然理解した。
走り出さなきゃ、と。
かこには分かった。ここにはかこを苦しめるものはない。怖いヒトの眼もぶつかったものをバラバラに壊すエネルギーを蓄えて走るくるまも。気色悪いものみんな、ここにはない。
自由なのだ。
だから、いますぐに走り出さなくちゃ。
「きっこ、行こう。きっと『海』が近いはず」
ぐずぐずしてたら、あっという間に「おとな」になってしまう。
怖い眼をした大きいばかりの動物に。光を失って迷うだけの動物に。
ふたりは立ち上がると、縁側からはだしで庭へ出た。
太陽の下へ出ると耳の中の音が変わった。
皮膚を絞り上げるような強力な日光。
それは愛のような力強さ。
きっことふたり、この陽射しの中に躍り出るのと同時に、華子穂はこの時が永遠にこころに生き続けるのだという安心のなかにも泳ぎ出た。
その時そのものは儚いものだとは知らずに。
庭にはシュロが二本生えていて、波が揺れるように穏やかに葉を風に靡かせている。
そして、確かに波音も聴こえる。さぁーん、さぁーんと。
それもそのはず、牧歌的な佇まいの町並みの向こうで海が山のように雲まで隆起しているのだ。
さながらこの町が海に囲まれた盆地であるというように。
「すごいね、海」華子穂は(おそらく)初めて見た海を食べるように見た。
「すごいんだね」きっこが驚きに痺れているのが分かる。
華子穂は庭を見回す。柔らかい芝生、等間隔に並ぶ木々たち。
ここじゃない。
華子穂は自分の倍ほどもある古びれた石塀へ向って走り出すと、手足をしなやかに動かし素早くそれを登った。
「きっこ!」
幅が二十センチメートル程の塀の上で身を翻し、身を屈めると手を伸ばす。
きっこは弾むように走り寄ると塀の前で飛び上がり、華子穂の手を掴んだ。
自分の手にぶら下がったきっこを塀へ引き上げる。思ったより重かったけど、苦労する程ではない。
華子穂は縮んだバネが伸びるように立ち上がると、塀の上を走り出す。両腕をぶんぶん振って、思いっきり。
振り返るときっこはやじろべいのように両手を伸ばして走りながら、時々独楽のようにくるくる回った。
それを見ていたら、身体がゾクゾクとくすぐったく、華子穂は思わず笑わずにはいられなかった。そして、弾けた笑いの勢いで近くの家屋の屋根へ飛び移った。
きっこも続いて跳んでくる。
きっこは屋根へ移るとそのまま、ごろりと前転をした。
瓦屋根は軋みながら、からころと鳴る。
ひとが誰もいない町に、木管楽器の演奏のようにふたりが走る音がからんころんと鳴り響く。蝉の声と重なって。
噎せ返る暑さのなか、幻のように。
屋根から塀へ、塀をなぞってまた屋根へ。
ふたりは跳ねて転がり、笑って歌いながら、海を目指した。青い野火のように瞬く海を。音を鳴らす、青い虹のようなそれを。
ふたりともに、こんなに走ったのは初めての体験だった。だからこそ限りなく力は溢れて、永遠に走ることができると信じられた。
望んだところまで走ることができる。いまは毛皮靡く青い巨獣のところまで。
引っ張られるように、押されるように、ふたりは何も頼らずに、衝動と反射にすべてを任せ続けた。
海は姿は鱗がきらめく青い虹というようだけれど、でも逃げることなく近づいたぶんだけ近づける。その麓で打ち寄せた波が白い泡となり、雲が浮かぶように青い斜面を上がっていく。
ざあーーん、ざあーーん。
音は更に大きくなる。
空が唸るように鳴ったかと思うと、しばらくあとに強風の壁が到達した。隆起した海に溢れた空気圧が、風となって岸へと吹き付けたのだ。
風は死とも生ともとれる匂いがした。
ふたりは塀の上で身を屈める。それでも、勝手に身体が後退しようとする。華子穂はきっこの手を取り抱き寄せ、留まろうとしたが風は収まる気配がなかった。
「きっこ……!おりよう……!」
それは天高く聳り立つ海が放つ気配そのものだった。
「おりよう……、下に……!」
身体を密着させていても、轟音で言葉が消される。
それでもきっこは頷き、ふたりは転げて塀から降りた。
落ちた先は小さな茂みで、きっこが這いつくばってその陰へ進む。華子穂もそれに続いた。
まるで壊れた傘のように枝を振る低い木は、ほとんど風を防いではくれない。それでもぺたんと地に伏せていれば立っているよりはずっと良かった。
晴天に聳えた青い虹はもう見えない。砂や埃で空まで茶色に煙っていた。
「きっと怒ってるんだよ……!」
きっこは口を目一杯開けて言う。
「それはなあに……!「怒ってる」が分からない……!」
華子穂も大袈裟に口を開いて返す。
「ああいうことだよ……!」
きっこは少し顎をあげて吹き付ける風の先を示す。
「なんで海は怒ってるの……!?」
「分からないよ……!かこが知らないなら、ボクだって分からないっ……!」
ふたりとも口のなかが砂でじゃりじゃりで、大声を上げてるせいで喉が痛かった。
あんなにかこのこと、呼んでいるみたいな海だったのに。
突然、巨人が空の本を裂いたような凄まじい音がして、紫の光が閃光を伴い茶色い景色のなかを走った。ふたりは音に驚いて手のひらで耳を塞ぐ。(きっこは頭の上の「耳のようなもの」を手のひらで隠すように覆っている)
世界が引き裂かれているかのような、恐ろしい音が響き続ける。
かこ
きっこが顔を華子穂に向けて口を動かす。それから、近くの民家を見る。
華子穂は頷き、ふたりは世界が終わっていくような現象から逃れるため民家へ向かいだした。互いの肩を抱き合って、一歩一歩ゆっくりと足を出す。
目は風が強過ぎて開けられない。しばしの間、もしくは永遠のような時、ふたりは互いの存在感だけを見失わないようにきつく抱き合って、まぶたの裏の暗闇の中を歩き続けた。
お互いの「たどりつきたい」という思いにお互い支えられながら。
前に出そうとした華子穂の膝に鈍く感覚が広がる。半分感覚が麻痺したてしまっていたから、それが痛みだとは気づかなかった。それどころか、華子穂はもう一歩反対の足を出して、その足にも同じ感覚を覚えて初めて「たどりついた」ことに気がついた。
華子穂の変化にきっこも気づき、ふたりはまさぐるように縁側に張り付き(それでも手は繋いだままで)、転がりながら登ると、そのまま屋内へ突進していった。
ガラス戸にでも追突していたら大変なことになっていた。けれど、ふたりは何にもぶつかることなく屋内に進入することができた。
華子穂は目を開けると踵を返し、木戸にくっつき閉めようとする。きっこも向かいの戸を押している。
目に見えない風がそれでもふたりを探して、太い腕を室内に侵入させ、外へ連れ出そうと乱暴に引っ掻く。
身体中が麻痺してしまっていたからこそだったのか、ふたりはその腕を断ち切って木戸を押し閉めた。
切断された腕は一瞬だけ渦を巻き、散って消えた。
風が戸を激しく叩く。建物にぶつかり、裂ける空気が甲高く鳴く。やがて風の中から意思のようなものは消えて、ただカタカタと戸が揺れるだけになった。
ふたりは強ばっていた身体を緩め、そっと戸から離れた。
髪から雫がしたたる。海からの飛沫が風に混ざっていたのだ。身体もぐっしょりだった。
年季の入った畳が落ちる雫を吸う。
気が緩むと身体の動かし方が分からなくなってしまい華子穂は崩れ落ちてぺたんと尻もちをついた。そこにきっこが倒れかかる。
辛うじてきっこを抱きとめると、その後はどうにもできず畳の上に倒れ込んだ。
幼く小さいふたりの身体のどこにも、もう力は残っていなかった。錆び付いたように身体が硬く、指さえ動いてくれない。
すると何故か、華子穂の目頭から涙が溢れる。涙は止めどなく溢れて、肌をなぞって零れた。
身体は動かせないのに、お腹がひくひくと痙攣したように動く。合わせて閉じられない口から声が漏れる。
「どうしたの?」
きっこが動こうとしばらく力んで、その後に諦めたようにそう言った。弱々しい声。
わからない
華子穂は泣きじゃくりながらなんとか口に出す。
わからない
もう一度、そう言う。そうするしかなかったのだ。
世界はあまりに言葉が不足しているから。
「分かったよ」きっこは華子穂に優しくそう言う。
「怖かったのかな?」
そして、そう付け足す。
こわい?
華子穂はひきつりながら返す。
「そう。強い風、大きな音、眩しい光、痛みとか寒さとか」
華子穂からはきっこが見えない。首も動かせないから。お腹のあたりから「ふあふあ」なきっこの声が届く。
「ケガをしそうだったり、病気になりそうだったり、痛そうだったり、じゃなかったらケガをすること、病気になること、痛いこと。そういうことが起こると、「怖い」になるんだ」
きっこは身体を捩って華子穂の視界のなかに入ってくる。
「自分じゃどうにもならい、そうなりたくないのになっちゃうこと。なりたいのになれないこと。みんな怖いことだよ」
華子穂とまっすぐ目線が合うところまで上がってくるときっこは優しい微笑みを浮かべ言う。
「「怖かった」、そう言ってごらん」
「怖かった……」
きっこの言葉は素直に聞くことができる。そして、口に出してみて、それが間違いのないことだと理解する。
「怖かったよ、きっこ……!」
動かなかった身体を動かして、きっこに抱きつく。
でも、と華子穂は感じている。なぜ、きっこはこんなに物知りなのだろう。
まだ自分と同じく子どもなのに。
それはちょっとした違和感。まだ疑問にもならない。
「かこ」
きっこが腕の中で動き半身を起こす。
「なに?」
華子穂もきっこと同じ格好をとる。それと同時にきっこを抱きしめながら、後ろへ跳ねる。
部屋の奥に人が立っていた。
年をとった女の人だ。おばあちゃんと同じくらい。
相対したまま黙っているとその人が言葉を発する。
「驚かせたみたいね。だけど、それは私も同じよ」
変わらず部屋の奥の暗がりに立ち続ける女の人。
(勝手に入っちゃったからかな……?)
きっこが囁く。
(でも、誰もいないと思ったのよ)
華子穂が返す。それに対して女の人が答える。「ええ」と。
「だけど、かこ。この世のどこにも誰もいないところなんてないの。そんな淋しい場所はないのよ」
なんだか、何か不思議なことが起こっている。
華子穂もきっこもそのことに関して何かを考えなくてはいけないと、強く感じる。
不思議なこと。
じゃあ、さっきまでのことは不思議じゃなかったのかな、ときっこは考えざるを得ない。
そして、その答えは「不思議とは感じなかった」というもの。
華子穂は考える。否、感じとる。あまりに膨大に身体全体から立ち上る考えは、感じとるしかない。
飛び交う声、華子穂のもの、きっこのもの、女の人のもの、いろいろな人たちのもの、映像、色、匂い、華子穂の知っているあらゆるもの。
だから、華子穂は何も言えず佇む。あまりにとりとめがなくなって。
「そうね。あなたはそうのはずだわ」
相変わらず暗がりから動かない女の人が、華子穂が「とりとめがなくなる」まで待ってそう言う。
「まだ子どもなのだし」
「かこを知っての?」
何も言えない華子穂の代わりにきっこが訊ねる。
「それはお互い様なのよ。この街の住人はみんなその子を知っていて、そして、そのことに気づかないまま眠り続ける。死ぬまでね。そのはずだったのよ」
歩み寄る女の人。日に焼けた肌が逞しさを印象づける。
「もし、目覚めたとしても、それはずっと後のはずだった」
女の人はきっこの前に立つ。
もうふたりに警戒心はなかった。
「あなたね。あなたがいたから、この子がここまで来れたのね」
少し吊り上がった目に収まった大きな黒目。女の人はそこから強いものだけが持つことのできる優しさをきっこへ注ぐ。
「ありがとう」女の人は静かにきっこの前に跪く。
きっこにしてみれば、何で感謝されたのか分からなかった。だけど、もう考えることは無駄だということは理解できた。つまり、この世界は華子穂ときっこ、それどころか誰にだって理解できるようになってはいないということ。
「どういたしまして」
なので、きっこはこころのままにそう息を出した。
それは言葉ではなくて、優しい目をした彼女へのこころと身体に任せた反射だった。
ここへ辿り着いたそれと同じものだった。
女の人は一点の曇もない信頼の表情できっこを見詰め、目の奥でもう一度「ありがとう」と言った。そして、立ち上がると華子穂ときっこを愛おしそうに眺める。
「そろそろ帰りなさい。どちらにしてもあなたが来るには早すぎるわ」
きっこは不思議なこころ持ちだった。未来を思って懐かしむ、そんな世界にありはしないこころ持ち。
「きっと」女の人はそう言いながら背を向ける。
「その木戸を開いてしまえば、ここから出られる。この世界の外へ。そして、隔壁はまた下りるでしょう」
再び女の人は暗がりへ。そして、振り返る。
「あなたがまた、来るべきときに来ることを楽しみにしてるわね。それまで、また眠りにつきましょう」
女の人が奥の間へ続く襖を開いた時に今まで黙っていた華子穂が声をあげた。
「待って」
敷居を跨ぎかけた女の人がぴたりと止まる。ゆっくりと振り返った顔は目を見開いていた。
「何かしら」驚きの表情のまま感情のない声を出す女の人。華子穂はお構いなしに告げる。
「ねぇ、握手したい」
穏やかな華子穂とは逆に女の人は血の気をなくしぶつぶつと独り言を漏らす。
いま、この子が自発的に私を求めるはずがない……
でもはっきりとそう言ったのがきっこには聞こえた。
しばらく黙り思い出したように穏やかな雰囲気を取り戻す女の人。
「どうして私と握手したいと考えたの?」
「大きくなれそうだから」
華子穂は間を置かずに答える。
「そう」
女の人はどこか安心したように笑みを零す。
女の人はまた華子穂の近くまで歩み寄ると手を差し出しながら「でもね」と言い置く。
「それは「大きくなる」じゃなくて、強くなる。言ってごらんなさい。「強くなりたい」って」
華子穂は手を伸ばし女の人と手を繋ぐ。
「うん。「強くなりたい」」
華子穂は大きな目でまっすぐに女の人をみつめて言う。
まさにその時、華子穂のなかに眠っていた「何か」が目を覚ます。
「ありがとう。わすれない」
手を放すふたり。
華子穂の変化をきっこは目で見て気づくことができた。いままでとは違う凛とした風が華子穂から流れてくる。
華子穂はもう十分であることを感じていた。ここへ来た理由は果たされて、いまこの瞬間に歓びと感謝を感じ、しっかり覚えて、あとは帰るだけ。
「さようなら」
華子穂は自ら別れを告げると、女の人に背を向け歩き出す。
「ええ。さようなら。また会える日を楽しみにしてるわ」
華子穂は女の人の声を背中に受けながら、木戸の外へ出ていった。きっこも女の人へお辞儀をし、外へ出る。
残された女の人はか弱い微笑を浮かべ壁に凭れた。
「もう眠る必要はなくなったわね。そのうち街のあちこちで祝福の鐘が鳴り響く」
ゆっくり、ゆっくりと開かれた木戸へ寄る。外にはもちろんふたりの姿はなく、嵐も静まっている。
「みんな、目覚めは近いわよ」
そして、じぶんへ呟く。
「もうあなたには会えない」と。
目が覚めたとき、きっこはいなかった。
包丁がまな板を叩く調子のついた音が聞こえる。
とんとんとん、とんとんとんとん
雨の気配はない。いつの間にか掛かっていたブランケットがしっとりと温かい。
どこか懐かしいところへ行っていた気がする。
懐かしいというか、「生きた感触」の痕というか、とにかく華子穂は衝き動かされるように立ち上がると、包丁の音のする台所へ向かった。
何もかもが懐かしい。もしくは「生きていという感触」を覚えさせる。
カビ臭い廊下も、薄暗い空気も、包丁の音も。
華子穂は壁を指でなぞりながら歩いた。歩くことさえ例外ではなく、久しぶりのことに感じた。
何もかもが初めてになってしまった。
シダ植物のレリーフのある磨りガラスを開けると、廊下にお味噌の香りのする湯気が流れ込み、お湯が沸く音とともに忙しなさが崩れ出る。
華子穂に気づいていないのか、美咲は料理を続ける。
「お母さん」
華子穂は美咲へ声をかけた。
はじめは見知らぬ子どもが間違って家に入ってきてしまったのかと思い、とても驚いた。
しかし、そうではないことに気づき、それを遥かに凌駕して驚いた。
「お母さん」
いや、厳密に言えば、はじめに思ったことはあながち間違いでもなかった。
だって、私はこの子を知らない。かこちゃんとよく似た知らない子ども。
いや、それすらも実は正しくはない。
かこちゃんはまるでこれまでもそうであったかのように、親しげに話しかけてくる。
「あのね」と。
私が知らないのは、私だった。もしくは私以外の世界のすべてだった。そう、それはどちらも同じ意味だった。
「私ね、怖かったの」
ムスメがワタシにだきついてくる。これまでもそうであったように。
それなのに、ワタシはしらない。これまではどうしてきたのか。もしくはセカイがどうふるまったのか。
「そうだったの」
ワタシはしらない。ムスメにたいし、なんのかんじょうもおこらない。
しらない。
「だからね、かこ、強くなるの」
しらない。
「強くなりたい」
ワタシ、よくわからない。だって、しらないから。
すべて初めてのことで、華子穂はだけど恐れなく、衝動と反射に任せて動いた。
「お母さん」と呼びたかったのでそうして、お母さんに抱きたかったので、そうした。
何もかもが初めて。恐れなどない。
怖かったことがあったので、そう告げたし、それを消すために実咲のお腹に手を回して頬を押し付けた。
華子穂は手の感触を確かめて美咲に宣言する。
「かこ、強くなるの」
女の人の骨ばった手。日に焼け乾燥した肌の奥から伝わった温度。
「強くなりたい」
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