太助と魔王

温水康弘

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第五章 内乱のエルフ国

その二十三 ルシフェル王の最後……そして

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「どうしたというのだ!先程から巨神の全機能が停止しておいるぞ」
「くそっ、これでは最初の目的であるエルフ国殲滅の任務が続行できんぞ」

 一方ここは伝説の巨神頭部にある操縦室。
 伝説の巨神が突然全機能停止した事に巨神を操縦していたガントとホーンは驚きを隠せない。
 幸い先程アナウンスが聞こえてきて後二時間程で再び巨神が全機能が回復するのを聞いていたけど。

「まずい、後二時間は完全に巨神は無防備状態だぞ」
「それに……どうやら何者かが巨神内部へ侵入したみたいだ。もうすぐこちらに侵入者が……」



(もう来てるわよ!)



 その時!
 操縦室の床面からドでかい穴が!
 そして床に空いた穴から大きな光の塊が飛び出した。

「な、何た!」
「うぬぬ……やはり侵入者がここに現れたか」

 床面の穴から飛来した光の塊は適当な場所へ着地して……そこから私達……魔王ヒカル・グレーズとその仲間達が姿を現したわ。

「こんばんは!救いようのない貴方達へお仕置きに来た魔王ちゃんでございま~す💛」
「「うげ~っ!お前は魔王ヒカル・グレーズ」」

 さて、私達の前にはエルフ国の大臣であるガントとホーン。
 あれ?
 もう一人……ルシフェル王はどこに?

「ん?ヒカルちゃん……あれ!」
「どうしたの太助……って、あれはルシフェル王!」

 なんと操縦室の片隅で……胸を貫かれ瀕死の状態であるルシフェル王が!
 まさか……土壇場で謀反を起こされてやられたとでも?

「!?」
「フェミー……って無理もないか。とりあえずフェミーを守るわよ」

 逆賊とはいえ自分の母親がこうなれば溜まらず飛び出すのは当然の行動。
 私達は飛び出したフェミーを守るべく瀕死のルシフェル王の元へ。

「ふん!何を利用価値のないコイツを」
「面倒だ!くらえっ」

 ホーンがルシフェル王に集まっている私達へ魔法の一撃!




 ファイヤーボール




 巨大な火の玉が私達の元へ飛んでくる!
 しかし!
 その火の玉の前にファフリーズが立ちふさがる。
 そしてファフリーズは……自身の闘気を放出!
 すると火の玉はファフリーズの闘気により、かき消されていった。
 そしてファフリーズはガントとホーンを指さして……怒鳴りつけた。

「貴方達もエルフなら……親子の語らいを邪魔するんじゃありません!無粋ですわ」

 このドスの効いたファフリーズの言葉にガントとホーンもただ驚くのみ。
 それでも、この無粋なガントとホーンは攻撃しようとするが……ファフリーズの鋭い眼光が光る!
 流石にこれでは迂闊に仕掛けられないわね。
 それにしても、こうゆう時のファフリーズって恐ろしいわね。
 さて、それはそうと……問題はこっちね。

「フェミー……か」
「母上!しっかりしてください。ヒカル!すぐに蘇生魔法を」
「わかっ……」

 私は瀕死のルシフェル王に蘇生魔法を使おうとした。
 しかし。

「魔王……それはいらぬお節介だ。私はこのまま全て……の責任を背負い……冥府へ赴こうと思う」
「!?母上、何を言ってるのですか」
「すまぬ……全ては大臣のガントとホーンの口車に乗った……私の……責任だ」

 そうか。
 ルシフェル王は大臣のガントとホーンの口車に乗って今回の巨神復活を。

「思えば……我がエルフ国は……魔王国やドワーフ国と比べて明らかに……軍事力が著しく劣っていた」
「だから巨神を復活させて我がエルフ国の軍事力増強を図ろうとしてたのですか……愚かですよ母上」
「しかし……近頃の人間国の横暴ぶりには……今のエルフ国の軍事力では到底太刀打ちできぬ……現実があるのだ」

 確かに私が見た限りエルフ国の軍事は高度な魔導士や弓が頼りで我が魔王国やドワーフ国と比べると貧相な印象だ。
 もっとも森戸森林と共に生きるエルフにしてみれば軍事は二の次だという感じなのだろう。
 ルシフェル王はそれを危惧して今回の計画を企てた訳か。
 例え、それを成す手段が間違っていたとしても。

「ゴホッゴホッ」
「死んではなりません母上!今度の件が間違いだと判れば生きて償えばいいのです!」
「いや……もう私は今助かっても……国民によって処刑されるのが……オチだ」
「そんな」

 もう……ルシフェル王は自分の死を覚悟してるみたいだ。
 多分、私の蘇生魔法も受け付ける気はないのだろう。
 そこへ太助がルシフェル王へ話しかける。

「寂しい顔をしてますね。後悔してますか?」
「魔王国の宰相か。いい目をしてる……後悔はしていないがこのような結果になったのは残念だ」
「もう一度考え直しませんか?蘇生してもう一度」
「くどいな……私の罪は私自身の命で精算する……ゴホッゴホッ]

 あぁ、もう長くはないみたい。
 最後にルシフェル王がフェミーに話したい事があるみたい。

「フェミー……これからはお前がエルフ国を率いるのだ」
「母上」
「エルフ国を頼む。それから……ラリーには済まなかったと伝えてほしい」
「…………わかりました。父上にはそう伝えておきます」
「では……さらばだ。皆は私から離れるがよい」

 私達はルシフェル王の最後の常葉に従いルシフェル王から少し距離を置いた。
 すると、ルシフェル王の体が白い炎に包まれる。
 恐らくこの白い炎はルシフェル王最後の魔力によるものだろう。
 白い炎はルシフェル王の体を焼き尽くし……最後には灰すら残らず消滅していった。

「母上……」

 ある意味、国を滑る王に相応しい最後であった。
 例え、執政のやり方に問題があったにせよ潔いけじめのつけ方だった。
 フェミーが涙を流しながら母の最期を見届けながら私達も暫しの間は黙祷をしていた。

 しかし、一国の国王が亡くなったにも関わらず醜く罵声を上げる輩が約二名!

「ぎゃはははははは!所詮あのババァは用済みよ」
「所詮は我々に煽られて踊らされた道化にすぎんわ」

 なんですって。
 アンタ達仮にもエルフ国に使える大臣でしょう。
 それを何他人事みたいに侮辱するのかしら?
 これにはフェミーも大激怒!

「お前達!仮にも主君である王が亡くなったのだぞ!それを何だ、その態度は」 

 フェミーの反応は当然ね。
 私も内心ブチ切れ状態なのよね。
 多分ルシフェル王に致命傷を与えたのは間違いなくこの二人ね。
 巨神復活したタイミングで謀反たぁ、いい度胸してるわね。
 そこへ太助がガントとホーンにこう告げたわ。

「お前達……本当はエルフじゃないね。明らかに今までの行動から怪しいよ」

 えっ?
 太助、それはどうゆう事?

「ヒカルちゃん、こいつ等にディスペル使ってみて!」
「太助、どうゆう事なの」
「とにかく……お願い」

 まぁ……とりあえず。




 ディスペル




 すると……ガントとホーンの二人の体から何かの札は剥がれた。
 剥がれた札は赤赤と燃えて消滅していく。
 そして……ガントとホーンの姿が別の姿へ変貌していく。

「うげ~っ、こいつ等ってエルフじゃなくて……人間じゃないの」
「やっぱり!こいつ等は多分人間国の回し者だよ。巨神の魔法無効の中でもその変身を維持できたのは二人が身に着けていた札の能力だと思う」

 ほほう。
 あの大臣コンビ……実は人間で人間国の回し者だった訳ね。
 あ~っ、ここまで種明かしされたら私でも事の真相が理解できるわ。

「太助、多分ルシフェル王さんってエルフに化けた人間の口車に乗せられて巨神復活に加担させられた訳ですか」
「そして、巨神復活して用済みになったルシフェル王を始末して自分達は巨神を人間国の戦力にして手始めにエルフ国滅ぼして」
「はぁ~っ、それから勢いに乗って我が魔王国やドワーフ国へ攻め込む算段だった訳か」

 おや?
 化けの皮が剥がれた人間コンビ……私達の推測が図星たったのか先程からだんまりね。

「兄者、ここまで我等の使命が暴かれたら仕方がないな」
「弟よ、こうなったら相手が魔王だろうが玉砕覚悟で倒すしかあるまいな」

 あら、この二人兄弟みたいだけど……ちなみに名前はいいか。
 どっちにしても私は貴方達を生かして返す訳ないし。
 もっとも……アンタ達を血祭りに上げるのは……私より相応しいのがいたわね。

「お前達が……母を……我がエルフ国の民達を……」
「ふん!ただ長生きだけしか能がない連中が我々人間に勝てる訳がないだろう」
「兄者、まずは魔王より先にあの軟弱エルフから倒してしまおうか」

 フェミーの目は完全に真っ赤になっている。
 もはや殺す気満々だ。
 こりゃ私が出る幕はなさそうね。

「お前達を冥府へ送る前に……本物のガントとホーンはどうした?」
「あぁ、あの臭い軟弱エルフか。そいつ等ならさっさと処分して魔物の餌にしてやった」
「臭いエルフは魔物の餌がお似合いだ。俺達の前で魔物に食われる様は傑作だったぜ」

 はい、これでフェミーに一切の躊躇はなくなったわね。
 今、フェミーの心にあるのは……あの二人に対する純粋な殺意のみ!
 もう私にも止められないわ。
 とにかく私と太助とファブリーズは少し下がる事に。

「母の仇……そして我がエルフ国を荒らした逆賊!お前達はその命で償うがいい!」
「ふん!我等兄弟にたった一人でか?やはりエルフは長生きしか取り柄のないバカだな」
「一人ではないわ!私には頼もしい友がいるわ……ファミー!」

 フェミーの呼びかけに答え、フェミーの影から使い魔・ファミーが姿を現した。
 これで二体にだ。
 これより……フェミーの国の威信と母の仇討をかけた戦いが始まろうとしていた!





 フェミー!遠慮はいらないわ。
 必ず母の仇を撃ち果たしなさい。 






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