太助と魔王

温水康弘

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第五章 内乱のエルフ国

その七 刻印からの試練

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 ようやく辿り着いた緑の神殿。
 私達は少しの間、神殿の外で供促を取り十分英気を養った後で神殿の中へ。
 神殿の中は意外と広かったが入ってから侵入者排除用の罠らしきものがなかった。
 すしろ神殿の方から私達を奥へ導いている感じがした。

「フェミー、やけに静かな神殿ね」
「そうね……まるで神殿が私達を招き受けているみたい」

 ある意味不気味ね。
 罠もない。
 守護者らしい存在もない。
 外の魔境みたいな森林地帯とはえらい違いね。

「――――どうやら、あそこが神殿の最深部みたいです」

 そうこうしてる内に私達は神殿の最深部へたどり着いた。
 神殿の最深部。
 そこはかなり広い広間みたいな場所であった。

「ここが最深部か」
「見てヒカル!中央に祭壇があるわ」

 最深部の大広間中央にはいかにも立派そうな祭壇があった。
 そして、その祭壇の上には……緑色のペンダントがあった!
 間違いない。
 あれこそが私達が探している緑の刻印だ。
 
「フェミー」
「じゃあ……取りに行ってくるわヒカル」

 フェミーは祭壇の上に上がり祭壇に祭られている緑の刻印を手にしようとした。
 だけど、その時!
 何処かから声が聞こえてくる。

(緑の刻印を手にしようとする者よ。その刻印を手にする資格があるかどうか試させてもらおう)

 あらら。
 やっぱり最後はこうなるお約束か。
 上等よ!
 アンナ、ファフリーズ、クロ!
 戦闘態勢よ。
 太助は安全な場所に隠れていて。 
 だが、神殿の意思は私達の予想外の事を言ってきた。

(この場にる我が同胞は一人……故に試練を受ける資格があるのはその一人のみ!)

 えっ?
 それはどうゆう事なの。
 すると……フェミーを除く私達全員は何かの力で大広間の隅まで吹き飛ばされた!
 しかも私達の前に透明の壁が展開されて閉じ込められた。

「あ~っ!これ何なの?」
「ヒカルちゃん、僕達は神殿が展開したバリヤーに閉じ込められたみたいだよ」
「くそっ、何だ!このバリヤー固いぞ」
「あれ?フェミーさんだけは閉じ込められていないみたいですわ」

 どうやらフェミーだけはバリヤーに閉じ込められていない様子。
 いや、正確にはフェミーだけは神殿の意思が自由にしているのか。
 そして、フェミーはこの状況に何かを理解したようだ。

「そうゆう事か。この試練はエルフ族しか受ける資格がないという訳か」
「フェミー!」
「故に私達の中で試練を受ける資格があるのは私一人。ヒカル、これはエルフ族が受けるべき試練だから……そこで見ていて」

 そうか。
 ここは太古のエルフ国が作った神殿。
 故に刻印を手にする資格があるのはエルフ族のみ。
 だから私達の中で刻印の試練を受けられるのはフェミーだけという訳ね。
 確かにこのバリヤーは私でもぶち破るのは苦労しそう。
 ここはフェミーに全てを託すしかないみたいね。

(では、試練を受け市者よ、準備はいいか?)
「いいわよ!」
(では……緑の刻印を受ける資格があるか試させてもらうぞ)

 すると大広間中央の天井から巨大な魔方陣が出現した。
 そして……天井の魔方陣が輝き、そこから一人のエルフが姿を現した。
 その姿を現したエルフは……なんとフェミーと瓜二つであった。

「成程、刻印を取りたければ私自身を倒せって訳ね」
(いかにも!その複製はお前と同じ能力を有している。果たして貴殿は自分を打ち倒す事ができるかな)
「やってやるわよ!さぁ……始めましょうか」

 それにしてもなんと趣味の悪い試練なのかしら。
 自分のそっくりさんと闘えだなんて。

「フェミー、大丈夫なの?」
「ヒカル心配しないで。ここは和足に任せてくれる?」

 フェミーはこう言ってたけど正直不安だわ。
 こうなると……いざという時に備えておいたほうがいいわね。
 バリヤーか……ふふふ、そんなので私の自由を奪えると想って?
 そんな中でフェミーの試練が始まったわ。

「まずは小手調べ!」

 フェミーは様子見とばかりに無詠唱で魔法一発!



 ファイヤーボール



 うわぁ。
 無詠唱であんな巨大なファイヤーボールを出せるなんてフェミーもやるじゃないの。
 でど……一方の文進も無詠唱でファイヤーボールを発射!
 結果、両者のファイヤーボールはたがいに激突して大爆発!
 更に分身は無詠唱で魔王を繰り出してきた!
 あれはアイスアローだっ。

「あら?自分の思考でも動けるのね」

 フェミーは無詠唱で自分の前に炎の壁を展開!
 分身が放ったアイスアローは炎の壁により溶けて消滅!
 この状況を見ていた太助はこう分析した。

「多分あの分身はフェミーさんが出来る事は全部できると思うよ」
「どうゆう事なの太助」
「あの分身はフェミーさんの全ての能力や技能をコピーした存在。則ちフェミーさんそのものだよ」
「えっ!じゃあフェミーは自分自身と闘ってるのと同じじゃないの」

 うわぁ。
 自分自身そのものが相手とは厄介そのものね。
 そうだとすると……これは面倒ね。
 けど、太助はこうも分析してるわ。

「いや、案外フェミーさんにも勝機はあると思う」
「どうゆう事?」
「あの分身の思考パターンは何処かフェミーさんとは違うような感じがするんだ。もしフェミーさんがそこに気付けばあるいは」

 一方でフェミーと分身との戦いは続いていたわ。
 フェミーと分身はたがいにシミターを手にして必死の鍔迫り合いを繰り広げていたわ。
 なまじ互いの技量は互角だから一向に戦いは進展しないわ。

「参ったな……これではまずいわね」

 フェミーもこれは苦しいみたい。
 そんな時だった。
 ふと、フェミーは昔の事を思い出していた。
 それは……以前魔王国へ留学して私と一緒に学んでいた頃。
 フェミーと私は先代魔王から剣技の教えを受けていた。

「フェミー、ヒカル」
「「はい!」」
「戦いにおいて最も厄介なのは自分より技量の高い相手と闘わなければならなくなった時だ」

 仙台魔王様は私とフェミーに自分より格上の相手と闘う場合の心得を教えてもらっていた。

「正直こうゆう相手に正々堂々闘うのは愚の骨頂だ。ならどうするべきか……それは裏技だ」
「「裏技?」」
「そうだ。どんな些細な動作でもいい。相手の意表を突く行動や技……それが裏技だ」

 そして仙台魔王様はその裏技は誰かに教えを請いて得るものではない。
 自分の能力と特製を理解して自分だけの研鑽で得るものだと言っていた。
 私とフェミーはその仙台魔王様の言葉に従い自分だけの裏技を会得した。

「そうか……多分、今がその時ね」

 フェミーは少し微笑んだ後に何やら無詠唱で魔法を行使した。
 そんなフェミーに分身は手にしたシミターを振り下ろしてくる!




 だが、そのシミターの一撃は……どうゆう訳か外れた。
 そしt、その一瞬の隙を突きフェミーは分身の腹部へ手にしたシミターで切りつけた!




「よし!」

 分身の腹部から黒い液体が出てくる。
 間違いない。
 これはクリーンヒットだ!
 
「よし!今がチャンスよ」
「攻めろ!叩くなら今だ」
「よかった。どうやらフェミーさん相手の思考パターンが思ったより単調な事に気付いたみたいだ」

 太助曰く、あの分身は能力はフェミーをコピーしてるが行動パターンが思ったより単調だと見抜いていたそうだ。
 それをフェミー本人も気付いて何か仕掛けたみたいだ。

「さぁ、これで終わりよ」

 フェミーは瀕死の文進へ止めを刺すべくシミターを手にして分身へゆっくりと接近。
 これで終わりね……と思った時であった。
 突如、分身の体から魔力が放出!
 そして分身の姿は別の姿へと変貌していく。

「え……えええええええええっ!」
「ど、ドラゴンだと」
「まさか、これはドラゴンへの変身魔法」

 なんと!
 分身は最後の手段として自ら赤いドラゴンへ変貌を遂げた!
 そして赤いドラゴンはフェミーへ強烈なブレスを発射した。
 だけど……何故か当のフェミーはニヤリと笑う。

「なんだ……それを最後の手段にねぇ。これで私の勝利は決まったようなものね」

 フェミーは赤いドラゴンのブレスを回避した後に静かに何かの魔法詠唱を始めた。
 すると、赤いドラゴンの真下に巨大な魔方陣が出現した!
 同時にフェミーは詠唱していた魔法を起動!



 
 ディスペル




 魔方陣から凄まじい輝きが!
 その輝きは赤いドラゴンの全身を包み込み……なんと自分の文進体を元の姿へ戻してしまった。

「やった!上手いっ」
「成程、ドラゴン変身の魔法を魔法解除の魔法で強制解除か」
「今だっ、とどめを刺せ」

 だが……フェミーは瀕死の文進に対して何か考えていた。
 なんと……フェミーは虫の息の文進に何を考えてるのか手を差し伸べてきた。

「ねぇ、貴方……私の使い魔にならない?」
「!?」

 えっ?
 何考えてるのフェミー!
 相手は神殿の意思が作った貴方の文進なのよ。

「貴方をこのまま試練突破の理由で消滅させるのは惜しいわ。だから私と一緒に神殿を出て一緒に過ごさない?」

 分身は暫しの間沈黙していた。
 そして……分身はフェミーの手を取り「我は其方と共に」と言った。
 それと同時に神殿の意思が大広間中に響き渡る。

(見事だ。貴殿は割れの試練を乗り越えた。さぁ、祭壇にある緑の刻印を受け取るがよい)

 フェミーはゆっくりと祭壇の上に向かい、その手に緑の刻印を手にした。
 同時に私達を捕えていたバリヤーは消滅した。
 まぁ、こんなバリヤーなど私ならぶち破る事は簡単だったけどね。

「じゃあ……分身さんじゃあ味気ないから貴方に名前を付けましょうか」
「よろしいのですか」
「いいのよ。そうね……ならファミーはどうかしら?」
「ファミー?」
「そうよ!私がフェミーだから貴方はファミー。これからはずっと一緒よ」
「ありがたき幸せ。このファミー、貴方を主として仕えさせて頂きます」

 そう言うとファミーはフェミーの影の中へと消えていった。

「えっ?」
「御用があればいつでも申し付けてください。このファミーいつでも貴方と共にあります」

 これでフェミーは神殿の試練を乗り越えて緑の刻印を手に入れたわ。
 ついでにフェミーにとって頼りになる使い魔も仲間になったしね。

「やったじゃないフェミー」
「なんとか試練を乗り越えたわヒカル」

 とにかく目的である緑の刻印は手に入った。
 さて、今後はどうしようかしら?
 その時、フェミーが私達に提案いてきたわ。

「とりあえず首都に戻って母上……ルシフェル王に謁見しましょう」
「えっ?王様に会うの」
「私は緑の刻印を手に入れた事を報告しないと。それと、ヒカルも魔王国の魔王だと身分を明かしてね」
「え~っ!それ面倒くさいな」
「もうこれはエルフ国だけの問題ではないわ。ヒカルもルシフェル王と謁見して今後の事を話し合うべきよ」
「正直身分を隠していたほうが都合がいいんだけど」

 あ~っ、魔王としてエルフ国の王と会うなんて面倒ね。
 仕方がないわ。
 とにかく、この神殿から出ましょう。
 はぁ、またあの魔境のような森林を抜けないといけないのか。




 だが、その時だった。





「どうやら一足遅かったみたいだな」
「!?」

 そんな私達の前に……いかにも屈強そうなダークエルフ率いる一団が神殿内へ現れた!
 そして、そのダークエルフにフェミーは見覚えがあった。

「アカウント将軍」
「ほう、誰かと思えばルシフェル王の娘か。そうか……お前が緑mの刻印を手にしたか」
「そうよ!」
「ならば、その刻印……私がもらい受ける!」

 あらら、よりによってアカウント将軍の一団とエンカウントしちゃったわ。
 しかも向こう側はやる気みたいね。
 上等じゃないの!
 今度の首謀者が直々に来たのだからね。

「アンナさん!リーズさん!徹底的に懲らしめてやりなさい。クロ、助さんの事はお願いね」

 ははは!
 やっぱりこうゆう展開は大歓迎よ!
 ここでアカウント将軍の一団をせん滅すれば事態は収拾する可能性があるしね!




 さぁ、これから楽しい戦いの始まりよ!
 これで一気にケリとつけてあげるわ。 

 





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