太助と魔王

温水康弘

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第五章 内乱のエルフ国

その四 はるばる来たぜエルフ国!

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 さて、私達がエルフ国へ旅立った頃。
 アカウント将軍率いる一団がエルフ国海岸にある神殿に入っていた。

「!?結界か」
「やはり容易く神機は入手できない訳ですな」
「ここに青の刻印があるのは間違いない。何としても入手しないと」

 そう、この神殿には伝説の巨神を復活させるのに必要な神器の一つである青の刻印がある。
 しかし、神殿には侵入者を阻止する為に入口に結界が展開されている。

「アカウント将軍、早く刻印を。さもないと貴方のご子息が……」
「わかっておる。ならば結界を突破するのみだ!」

 アカウント将軍は静かに詠唱を始める。
 するとアカウント将軍の体が淡い光に包まれる。
 そして、手にした槍を手にして神殿の結界へ突進していく!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 アカウント将軍による渾身の一撃!
 それにより……神殿の結界は割れるように砕け散った。

 それから暫くアカウント将軍の一団は神殿の中を探索する。
 するとアカウント将軍は何かが祭られている祭壇を発見する。
 そこには青色のペンダントがあった。
 間違いない。
 それこそが青の刻印だ。

「これか」

 アカウント将軍は青の刻印を取る。
 これでまずは一つ。
 残るは北の森にある神殿にある緑の刻印とルシフェル王が持つ赤の刻印。
 となると次の狙いは緑の刻印。

「僧院撤収だ。我々はすぐに北の森にある緑の刻印を取りに行くぞ」
「それでいいのです将軍。全てはご子息の為に……ふふふ」
「わかってるわホーン。行くぞ!」

 アカウント将軍の一団は神殿を後にする。
 その去り際、アカウント将軍は何か思う事があったのか小さな声で呟く。

「ブログ……今の父の行動を見たらどう思うだろうな。だが、これは仕方がない事なのだ」



 そんなアカウント将軍の背中は泣いているような気がした。




 さて、それから三日後。
 エルフ国の首都にある行商人御一行が到着した。
 その行商人一行は魔王国のコショウ問屋御一行。
 一行を率いるのはコショウ問屋の一人娘・ヒカル。
 そして同行するのは番頭の助さんに腕っぷしの立つ女傑二人のアンナとリーズ。
 本当はもう一人いるのだが今は別行動である。

「は~るばる来たわエルフ国~っ♪」
「ヒカル様ご機嫌ですね。確かヒカル様はエルフ国は初めてでしたね」
「そうよ助さん。それにしても魔王国と比べると空気が美味しいわね」

 そこへリーズがお答え。

「そりゃエルフ国は機械とかの文明の類は規制してますから。エルフ国は自然と共に生きる自給自足の国家ですから」
「リーズはエルフ国に来た事があるの?」
「子供の頃に一度だけですか。その時は色々と魔法を勉強しましたわ」
「魔法?」
「エルフ国の軍事は原則弓と槍、そして魔法が主戦力ですから。ですがエルフの魔法兵士は我が国の魔法部隊と引けを取らないぐらい強いとか」
「成程ね……それと気になったけどエルフ国の首都だというにに人が少ない感じがするわ」
「エルフは平均寿命が五百年ぐらいですから。故に他の種族と比べて繁殖する必要性が少ない事情があります」
「それで人口が少なめなのね。でもある意味つまらない国ね」
「はは……私もここにいた頃はそう感じてましたわ」

 正直、この国は私には適応できそうにないわ。
 とりあえず私達一行は商業ギルドへ。
 一応、私達はコショウ問屋なのだから香辛料の取引をしないとね。

「いらっしゃいませ」

 商業ギルドに入ると、一人のエルフの女性が受付として待っていた。
 私は受付に「香辛料の商談に来ました」と伝える。
 すると受付嬢は嬉しそうに応じる準備を始める。
 話によればアカウント将軍の内乱の影響で魔王国もドワーフ国からも行商人に出入りが皆無に近いらしく私達行商人の来訪は実にありがたいそうだ。

「じゃあ、僕は香辛料の商談をしてるからヒカル様はここで食事でも楽しんだら?」
「そうね。なら頼むわよ助さん」

 さて、商談は助さんに任せて私達は商業ギルドにある酒場でお食事だ。
 もう魔王国からの長旅で尾長ペコペコ!
 私達三人は酒場のメニューを見る事に。
 すると……私達は絶望のどん底へ落とされた。

「えっ……ナニコレ?メニューってサラダとかの野菜料理しかないじゃないの!」
「予想していたが肉料理の肉すらないな。卵すら見当たらないとは想定以上だな」
「酒も……お米から作った酒しかありませんわ。私、ワインとかウォッカとか飲みたいのに」

 肉がない。
 卵もない。
 酒も米酒しかない始末。
 おまけにパンすらないのかっ!
 私達は草食動物かっ! 

「店員さん……肉は、肉はないんですか!」

 私は店員に抗議するが転勤は全く聞く耳を持たない。
 それ処か店員は「なら……お任せメニューはどうですか?」と持ち掛けて売る始末。
 私達は怒って店を出ようとした時であった。

「なら、お任せメニューを四人前お願いしようかな」
「「「えっ?助さん」」」
「折角エルフ国に来たのに、その国の料理を食わず嫌いで食べないのは勿体ないよ」
「だけどねぇ助さん。肉がないのよ、肉が!」
「案外野菜だけの料理もおいしいと僕は思うけどね。まぁ、ここは騙されたと思って食べてみようよ」

 私達は助さんの説得に応じて、そのお任せメニューを渋々食べる事に。
 そして、注文してから数分後にやってきた料理はというと?

「はい!エルフ国名物である珍味・ナットウご飯でございます」

 なんと出てきたのは大森の炊き立てご飯に何か大豆の腐ったようなのが出てきた。
 私とリーズは思わずドン引きしたけど……一方のアンナと太助は?

「おおっ!これは」
「ま、まさか納豆が!!」

 あれ/
 助さんとアンナったら目から涙が出ているわ。
 そして助さんとアンナは大豆の腐ったようなもの同時に用意していた醤油を入れてからハシで懸命にかき回してきたわ。

「そろそろいいかな?」
「後はご飯にかけるだけ!」

 げげっ、助さんとアンナったら大豆の腐ったようなのをあろう事かご飯の上にかけちゃった!

「「では……いただきま~す!」」
 
 うわぁ、助さんとアンナ……大豆の腐ったのをかけたご飯を食べちゃった!
 しかも……二人の感想は?

「ああっ、美味しい!まさか、この世界で納豆ご飯が食べられるなんて思ってもみなかったよ」
「美味い美味い!おい店主、おかわりはあるか!」

 しかも二人曰く大絶賛。
 これ……本当に大丈夫なの?

「ヒカル様もリーズさんも食べたら?醤油を少しいれてかき混ぜるのがいいんだよね」

 私とリーズは助さんからの勧めで助さんとアンナがやってた事と同じことをやってみる。
 そして恐る恐るご飯にかけて……食べてみる。

「!?これは」
「……気のせいでしょうか、癖になりそうな味と味わいですわ」

 う~ん、これは珍味だわ!
 そして癖になりそうな味。
 確かに助さんとアンナが気に入る訳だわ。

 それから私達はエルフ国の料理を楽しんでいたわ。 
 肉がないと不安だったけど、いざ食べてみれば結構いけるじゃない。
 肉はないけど調味料で味付けした野菜炒めに野菜スープが絶品だったわ。
 また野菜だけのカレーライスも美味しかったな。
 それに意外だったのがお米から作ったという米酒。
 結構飲みやすくてあっさりしている。
 それに何といってもあの酒乱である助さんが暴走する事なく美味しく飲んでいる。
 まぁ多分飲みすぎたら暴走しそうだけど。

「ふぅ、意外な結果になったわね」
「うむ!素晴らしかったぞ」
「野菜だけの料理も中々でしたわ」
「はは……ヒカル様も気に入ったみたいだね」

 さて、お腹も一杯になった事だし私達は商業ギルドを出る。
 この後は……とりあえず周囲のエルフの皆様へ聞き込みかな?
 それから暫く私達は聞き込みをしてたけど……やはり例の反乱のせいで首都にいるダークエルフは肩身が狭いみたい。
 もっとも首都にいるダークエルフは今度のアカウント将軍のやり方には反感を抱いているみたい。
 まぁ、全てのダークエルフが今度の反乱を支持してる訳ではないみたいね。
 もっとも……近頃のルシフェル王ったらダークエルフに対する差別意識があるという噂。
 正直そうゆう噂が広まると世間が不安になるのは当然かしら。
 そして、今夜はどうしようかと皆で話し合っていた時であった。

「よぉ!そこの魔族さん達」

 私達の周囲にガラの悪いエルフの皆様が。
 森と共に生きるエルフにもこんな輩もいるのね。
 そのガラの悪いエルフの皆様はそれぞれ刃物を手にして私達を脅してきたわ。

「有り金全部置いていきな。痛い目を見たくなければな」

 はぁ、こいつ等救いようのないバカじゃないの?
 仮にもこいつ等って私達よりも長く生きてる筈よね。
 それなのに……なんて品性の欠片の無いのやら。
 当然……私の返答はこれ一択よ!

「アンナさん、リーズさん、懲らしめてやりなさい!」
「「へい!」」

 はい、お約束の大乱闘の開幕でございます。
 当然その大乱闘の展開は……はい一方的ですわ。
 アンナとリーズがエルフのチンピラどもを片っ端からぶんなぐって大処分祭り。
 はい、ほんの数秒でエルフのチンピラどもは残らず地面に倒されていました💛

「ふん、準備運動にすらならん!」
「エルフって本当は木の枝よりも軽いんじゃないかしら?」

 流石は屈強の女傑のお二人さん。
 本当に楽勝だったみたいね。
 だけど……そこへエルフの警備兵達が駆け付けてきたわ。

「お前達!こんな場所で乱闘とはどうゆう所存だ」

 あちゃ~っ。
 警備兵の体調らしき女性が私達を問い詰めてきた。
 あの~っ、先に襲ってきたのは現在倒れているこいつ等なんですけど。

「とにかく、お前達の身柄を拘束……って、貴方まさか!」

 おや?
 この警備兵の女隊長……私の事を知ってる。
 というか私も彼女の事を知ってるわ!

「ヒカル……ヒカルなんでしょう」
「フェミーなの。貴方は本当にフェミーなの?」

 なんと警備兵の女隊長はエルフ国の王女様であるフェミーであった。
 そして彼女は私にとっても大事な友達。
 フェミーは思わず私に抱き着く。




「どうしたのよ!このエルフ国まで……」
「友達が困ってたら助けにいくのが友達でしょう!来ちゃった」






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