太助と魔王

温水康弘

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第四章 魔王国の日常 パート01

その十三 魔王様の夏休み 03

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「たっ大変だ!」
「う、海に化け物が!」

 何よ朝っぱらから騒がしい。
 同じ部屋に泊まっていた私と太助とアンナは部屋を出て宿の職員に聞いてみる。

「魔王様!海に得体のしれない化け物が!」
「化け物?」

 職員からの話によれば今朝から得体のしれない化け物が浜辺に現れ漁に出ようとした漁師達を襲っているそうだ。
 幸い頑丈で有名な魔族だけあって死亡者は出ていないが、思ったよりも化け物は手強くて負傷者が多数出ているそうだ。
 
「それで……その化け物の特徴は?」
「とにかく巨大で青かったと思います。そういえば何か刃物みたいなのが飛び出ているような」

 やれやれ、せっかうの奴休みを邪魔するなんて馬鹿な化け物ね。
 そんな化け物なんか私が直々に対峙してくれるわ。
 あれ?
 太助とアンナ……その化け物の特徴を聞いた途端に何やらヒソヒソと話してるみたい。

「太助ちゃん……その化け物ってまさか」
「うん、正直この世界にもサメがいたいんんだね。大きさは僕たちの世界のサメよりも大きいみたいだけど」

 えっ、サメ?
 どうやら化け物の詳細は太助とアンナが知ってるみたいだから聞いてみる事に。

「あぁサメね。僕たちのいた世界にもいた海の生物で危険な肉食生物だよ」
「成程ね。で、そのサメって魔物じゃないなら食べられる?」
「正直食べるのはお勧めしないわ。サメって死ぬとアンモニア臭が酷いからとても食べられる生き物じゃないわ」
「うわぁ、アンナも敬遠する生き物か」

 共謀な上に倒しても食用にできないサメという生き物。
 あぁ食べられるのなら共謀な生き物相手でもやる気出るんだけどなぁ。
 そして私達が浜辺に行ってみると?

「うわぁ……軽く三十匹はいるね」
「しかも僕が知るサメよりも大きいな」

 もう、すっかり港町ウエストの浜辺の中は大きいサメが軽く三十匹う~ろうろ。
 これじゃあ、私達は安心して泳げないし港町の漁師も漁に出られないので大損害だ。

「あ~っ、夏休みに仕事したくなかったけど仕方がないわ。アンナ、ファフリーズ、クロ!あのサメどもを駆除するわよ」

 という訳で夏休み二日目はサメ退治という、ある意味最悪の展開。
 当然、私とファブリーズとクロはいつもの戦闘服、アンナはお馴染みの甲冑を身に着けている。
 更に今回はもう一人、協力な助っ人が。

「ヒカル、水臭いぞ。まさかこんな処でサメに出くわすとはなぁ」
「えっ?ミルクいいの」
「丁度大暴れしたいと思ってたんだ。今日はサメ退治と行こうじゃないか」

 はい、これは頼もしい助っ人だ事。
 ドワーフ国国王のミルクもサメ退治に参戦だ。

「はぁ……僕達は完全に足手まといですね」
「僕達は男なのに非力だからね。正確にはヒカルちゃん達がけた違いに強い女傑揃いなんだよね」
「内心悲しくなりますね」
「こうゆう時は辛いね。男二人が何もできないなんて」

 あらら。
 太助とライト君は完全に蚊帳の外。
 まぁ二人は頭脳労働担当とスイーツ作り担当だからね。

「太助!」
「ライト君!」
「ヒカルちゃん」
「ミルク様」

 内心暗くなってる太助とライト君を心配して私とミルクが駆け寄る。
 そして、私は太助に抱き着いた。
 一方、ミルクもライト君に抱き着いた。

「大丈夫だよ太助。今回は海の畜生だから私達が負ける事はないからね」
「ヒカルちゃん」
「ライト君、待つ事も大事な男の仕事だよ。ただ私の帰りを待っていてほしいの」
「ミルク様」

 そうよ。
 今回は決して得体の知れない魔物や人間国の軍勢ではないのだから心配はいらないわ。
 確かに油断は禁物だけど、そんなに不安にならないで。
 ただ、私を信じて待っていてほしい。

「じゃあ……行ってくるね」
「ライト君!美味しいスイーツ作って待っていて」

 という訳で……いざ!浜辺のサメ退治へ参りましょうか。
 私とミルクが浜辺に駆け付けると既にアンナとファフリーズとクロが多くの巨大サメ相手に奮闘している最中であった。
 しかし、やはり地上とは勝手が誓うのか百戦錬磨のファフリーズとアンナも苦戦しているみたい。
 そんな中でクロだけは水中での戦いに慣れているのか巨大サメの群れに後れを取っていない。

「――――動き自体は遅るるに足りない。しかし私の武器ではあのサメに致命傷を与えられない」

 う~ん。
 どうも、あのサメの肌は普通の武器では通じないみたいね。
 ん?
 ミルク、自分の無限バックから何やら槍を出してきたわ。

「水中だと思い斧では動き辛いからね。だから今回はこれで戦うわ」

 まぁ確かにミルクが普段使ってる大野は十トンもあるから水中だと沈むからね。
 あっ、その槍を私にも貸して。
 では……私とミルクもいざ水中へ!

「うりゃ~っ!」

 早速私はミルクから借りた槍で巨大サメを攻撃!
 すると思ったよりも通じるみたいで槍はサメの体を貫いたわ!
 そして何度かサメを貫いて何とか一体目を倒したわ。

「うわぁ……この槍凄いわね」
「ははは!ドワーフ国の鍛冶技術を甘く見ないでよ。よしっ、私も一体撃破!」

 恐るべきドワーフ国の鍛冶技術。
 近頃は我が魔王国もロイド達鍛冶師が頑張ってるお陰で技術が向上してるけど、やはり根本的な出来はドワーフ国には敵わないか。
 だけど……我が魔王国の精鋭も負けてないわよ。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 なんとファブリーズは両手に魔力を込めて両手を魔法剣に!
 そしてファフリーズの魔法剣が巨大サメの固い肌を一刀両断に切り裂く!
 一方のアンナも負けてはいない。





 アンナ・マリナー




 アンナは身に着けた甲冑に闘気を込めて新たな姿へ変身!
 これを見た太助曰く「小さな潜水艦みたい」と言ってた。
 多分これは水中戦に適した変身形態だと思われる。
 アンナ・マリナーへ変身したアンナはそのまま水中で自由自在に動き回る。
 まるで生きのいい魚の如くだ。
 更にアンナ・マリナーは闘気の塊を発射!
 その闘気の塊は巨大サメの一体に命中し、そのまま巨大サメは見事に粉砕!
 
 そうこうしている内にあれだけいた巨大サメの大群は見事私達により全滅!
 勝利!これぞ完全勝利である。

「これで全部ね。所詮は畜生、これなら人間軍の軍勢の方がまだ歯応えがあるわ」
「だけど残念なのはアンナ曰くこのサメ原則として食べられないそうね。アンモニア臭くなるし」
「一応料理方法はあるけど、せいぜい蒲鉾の材料にしかならないわよ」

 あ~あ。
 これが食べられたら今夜の夕食になったのにな。
 仕方がないからサメの死体は漁師に処分してもらう事に。
 それと今回のサメについては今後の再発防止を考えないと。

 はぁ、今日は本当に疲れたわ。
 今夜の夕食はミルクのリクエストで寿司を食べる事に。
 当然、寿司を握るにはアンナだ。
 私達は宿のカウンター席のある食堂へ。
 そこにはアンナと太助が白い服装で待っていたわ。

「では……そろそろ握りますので皆様は何が欲しいですか」
「メニューはそこに書いているからね」

 メニューにはマグロやサンマを始め様々な海の幸が記されていた。
 中には卵焼きや鉄火巻きとかのメニューもあるが。

「じゃあ私は定番のマグロを」
「私は……あまり魚は好きではありませんので卵焼きを」
「――――イクラを頼む。そしてビールも」

 こらクロはまだビールは早すぎるわよ!
 それとファブリーズって魚が苦手なのは意外だったわね。
 さて続いてはミルクとライト君ね。

「私はやはり中トロ一択!」
「僕はイカをお願い。あの甘さがいいんだよね」

 さて、それぞれの注文を受けてアンナが太助のサポートを受けて寿司を握る。
 それと後でミルクから聞いたけどドワーフ国にも寿司があるみたい。
 もっともアンナが握る寿司とは少し違うそうだけど。
 まぁ、ドワーフ国には昔から海があるからね。

「へい、お待ち!」

 アンナが私達へそれぞれのネタを入れた寿司を握ってきた。
 私とファフリーズとクロは大満足して食べて……美味しいと絶賛!
 だけど……ミルクとライト君は何処かアンナが握った寿司に違和感を感じてるみたい。

「……」
「どうしたのミルク」
「小さい。ネタもシャリも小さい気がする」
「えっ?」
「ドワーフ国の寿司ってのは……もっとネタとシャリが大きくて豪快なんだよ。しかし、この寿司は何処か小さいんだよな」

 あらら。
 ドワーフ国の寿司はどうもネタもシャリも大きく豪快なのが主流みたいね。
 それをバーガーみたいに両手で食べるのがドワーフ国の寿司だそうだ。

「はは……これは参ったな。ですがミルク様にライト君……私と太助ちゃんがいた世界の寿司はあえて小さくして色々なネタを楽しむのが主流ですよ」
「そうか……では食べるか」

 そしてミルクとライト君もアンナが握った寿司を食べる。
 すると?

「これはこれで美味い。小さいが口の中で味が広がっていく感じだ」
「うん!こうゆう寿司もあるんだね」

 良かった。
 ミルクとライト君も評判がいいみたい。
 それから私達は次々と色々なネタをアンナに名飲んで握ってもらった。
 
「あ~っ、もうお腹一杯!」
「私も気が付けば二十は食べましたわ」
「――――素晴らしい。いずれも美味であった」
「しkし魔王国の寿司も大したものね。ブラボー!」
「アンナ様に宰相太助様、本日は素晴らしいご馳走をありがとうございました」

 本当に私達はアンナの寿司に大満足。
 実に楽しい夕食だったわ。
 では後片付けはアンナと太助に任せて私達は部屋に戻ってトランプでもやりますか。
 まだ夏休みは数日ある訳だしね。
 だけど……気のせいか食堂を出る私達に冷たい視線を感じたけど……気のせいかな?

「はは……ヒカルちゃん達も酷いね」
「アイツ等……ネタもシャリも根こそぎ食べつくしやがって。私と太助ちゃんの分が残ってないじゃないの!」
「もう追加で作るにしても材料が残ってないよ」

 なんと私達は太助とアンナの分まで食べてしまったみたい。
 太助とアンナ曰く今夜は夕食無し確定となり二人は泣きなgら食器とかの後片付けをしていたわ。




「アイツ等っ!もう二度と寿司握ってやらねぇからな!こん畜生め!」
「あ~あ、お腹が空いたな」







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