太助と魔王

温水康弘

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第四章 魔王国の日常 パート01

その三 クロ・ヒマワリのアイドル化計画 01

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 さて、我が魔王国には様々な魔族が働いて国を成り立たせている訳である。
 だけど……その中には裏で暗躍して色々と蔭で動いてくれている者達もいる。
 今回はその魔王国諜報員の中で最強である少女・クロにスポットを当ててみようかしら?

「己~っ!まだ城の修復が終わらんのか!」
「はっ、現在急ピッチで修復を急いでますが……」

 ここは我が魔王国と犬猿の仲である人間国。
 先日、巨大化した私が人間国の城を滅茶苦茶にした為に現在は国と城の復旧作業に忙しい。
 そして今日もバカな人間国の皇帝陛下様が配下達に当たり散らしているみたい。
 本当にこんな皇帝に人間の皆様は大変ね。

「くっ、宰相……何か食事の余興が欲しいぞ!流石に大規模なのは無理だが今の気分を間際らすのがいいぞ」

 こんな大変な時に余興とはいいご身分だ事。
 すると宰相がある提案を。

「そういえば……近頃城下町に評判のいい吟遊詩人が滞在しているとか。何でしたらその者を呼んでみたらどうでしょうか」
「吟遊詩人か。よし、すぐにその者を呼びだせ」
「ははっ」

 それから二時間後。
 皇帝陛下が大広間で昼食をとるみたい。
 それにしても皇帝陛下の献立って……見るからに豪華そうじゃないの!
 牛のステーキに豪華な料理の数々。
 少しは庶民の為に還元しなさい!
 私なんか昼食は愛しの太助と食堂で地味な献立だけなのに。

「皇帝陛下、吟遊詩人のクロでございます」
「おおっ、待っていたぞ」

 皇帝陛下と宰相の前に現れた一人の可愛い少女。
 その手には木製のギターを携えている。

「お初にお目にかかります皇帝陛下様。私は吟遊詩人のクロと申します」
「待っていたぞ。其方が近頃城下町で噂の吟遊詩人か」
「では……早速一曲目を」

 吟遊詩人クロは手にしたギターを鳴らしながら皇帝陛下とこの場にる宰相や兵士達へ一曲!
 最初の曲は……人間国の軍歌である「我等人間は市場なり」だ。

 ♪大陸制覇をいざ目指し~っ百戦錬磨の我等は行く~っ。

 流石は城下町で評判の吟遊詩人。
 これには兵士達や宰相は勿論の事、皇帝陛下も気分を良くしていた。
 最初の曲が終わり大広間中に喝采と拍手が響き渡る。
 何よりも皇帝陛下様もご満悦で食事も進んでいるみたい。
 
「素晴らしい!流石は評判の吟遊詩人だ」
「では……次の曲を」

 続いてクロが歌うは「偉大なる勇者よ」であり、人間国が召喚した勇者を称える歌だ。

 ♪その剣は点を切り裂き~っ、その足は馬よりも早く~っ!討て~っ眼前の敵を~っ。

 続くこの曲も皇帝陛下を始め大好評。
 再び喝采と拍手で大広間が響き渡る。

「素晴らしい歌だ。最高の気分だ!」
「ありがとうございます。では、そろそろ最後の曲を」
「えっ?もう次で終わりか。もっと歌って欲しいのだか」
「残念ですが……今回そこにいる宰相様との契約している演奏時間が終わりに近いので」
「宰相~っ!」
「申し訳ございません。現在我が国の財政を考えるとこれが精一杯でしたので」
「うぬぬ、致し方なしか……ではクロ殿、最後の曲をお願いしようか」
「畏まりました。では最後に……私の故郷の歌を歌います。この曲は現在城下町で一番評判のいい曲でございます」
「そうか!我が国の民が好む歌がどんなものか楽しみだな」

 吟遊詩人クロはギターを手にして本日最後の歌を皇帝陛下に疲労する。
 その歌は……なんと!




 ♪魔王国に住まう魔王様は~史上最強国士無双!無能な皇帝をぶん殴れ~っ、さっさと皇帝やてめまえ~っ。




「なっ、何だと!」

 これには皇帝陛下も大激怒!
 そりゃそうよね。
 これって魔王である私を称える歌にして人間国の皇帝を酷評してる歌ですもの。

「や、やめんか~っ!すぐにその歌をやめろ~っ」

 だけど吟遊詩人の歌は止まらない。




 ♪いっそこの国魔王に支配された方が素晴らしい~っ、魔王様万歳!魔王様万歳!




 はい、これで最後の曲が終了。
 これで皇帝陛下の気分はぶち壊しになり大激怒!
 しかし……怒り心頭になっているのは皇帝陛下一人だけで、他の兵士達や宰相は意外にも拍手こそないが大好評。
 アンタ相当人望が無いわよ。

「いかがですか……私の故郷の歌である”魔王ヒカル賛歌”の感想は」
「何っ、魔王だと!もしや……貴様は魔族だな」

 皇帝陛下のその私的に吟遊詩人クロは不敵に笑う。

「――――ようやく気付いたか。この最低君主が」
「!?そ、その声……まさか」

 吟遊詩人クロはその身に着けている衣服を脱ぎ捨てる!
 すると、皇帝陛下の眼前に黒装束の魔族少女が姿を現した。

「やはり貴様はあの時の魔族!」
「―――いかがでしたか?我が魔王国からの余興は」

 そして……正体を現したクロは予め大広間に設置していた小型配信装置を回収した。

「――――なお、この茶番劇はこの配信装置を通じて人間国の領地内は勿論の事、我が魔王国やドワーフ国に生配信されていましたのであしからず」

 はい、場所は変わって魔王国の魔王城。
 そこで私や太助、それにアンナとファブリーズが大広間でこの一部始終を設置してある大型リンクミラーで視聴させて頂きました!

「ぎゃはははははははっ!これは傑作だわ。見た?あの無能皇帝の間抜け顔」
「今回は意図的にこの大陸中に届くように配信してるからね。これであの皇帝は大陸中の恥さらしだね」
「駄目だ……笑いが止まらねぇ!」
「クロさん、素晴らしい歌でしたわ。そして皇帝……ざまぁ」

 そこへ私のリンクミラーから着信音。
 応答すると出てきたのはドワーフ国のミルク国王。

(ヒカル!やってくれたわね。これは傑作だわ!最初からこうゆうのを流しなさいよね)
「これはどうも!魔王国国営配信局は近日正式開局になるから楽しみにしてねミルク」
(楽しみにしてるけど……頼むからこの間のような裸ラインダンスはやめて頂戴ね)

 どうやら今回はミルク国王にも大評判みたい。
 そりゃミルク国王も人間国の皇帝陛下は生理的に嫌いだと言ってたし。
 そうだ!
 再び舞台は人間国のお城へ。

「おのれ~っ!この曲者を捕らえよ……いや抹殺しろ!」

 まぁ、これは当然というかブチ切れの皇帝陛下様はクロの抹殺を命じる。
 しかし……肝心の兵士達は全く動く気配はない。
 それ処か兵士達はクロに対して拍手と喝采の嵐。
 これって間違いなく今の皇帝陛下に対して不満あるみたい。

「――――本日お越しになられたお客様。今宵は本当にありがとうございました」
「こら~っ!さっさとあいつを殺さんか」
「――――それでは本日のショーはこれでお開きとさせて頂きます。では、また機会があればお会いしましょう」

 するとクロの体から黒い煙幕が噴き出してきた。
 その黒い煙幕は大広間中を覆い隠す。
 その煙幕が消えた頃には……クロは大広間から完全に姿を消していた。
 そして、大広間に黒の声が響き渡る。

(――――そうだ、魔王様からの置き土産をあるから……受け取るがいい)

 その直後、城の数か所が凄まじい大爆発を起こした!
 これでは城の修復がまた著しく遅れる事間違いないだろう。
 本当、皇帝陛下にとっては最低最悪の食事になった事は間違いないわね。

「魔王め~っ!覚えていろよっ、今に人間国の恐ろしさを思い知らせてやるからな!」




 ちなみにこの一部始終の再生回数は約三十億回を超えたとか。
 昔から他人の不幸は蜜の味と言ったものだけど……あのバカ皇帝だと同情する奴なんか誰もいないわよね💛

 




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