太助と魔王

温水康弘

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第三章 ドワーフ国騒乱!

その十八  この章のエピローグ・嗚呼!ミルク

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 あの激闘から一週間が過ぎた。
 あれからミルクが正式にドワーフ国の王に就任、暫定国政側にいた大臣や役員を粛清。
 更に粛清した連中から財産を没収して崩壊していたドワーフ国の町々の復興資金にして随時復旧作業を開始した。
 もっとも没収した財産の一部は今回の賠償金替わりとして我が魔王国が接収させてもらったけどね。
 さて、国王になったミルクが中心になってドワーフ国の復興をやってる訳だけど。
 えっ?私達は何をしてるって。
 実は私達一行はドワーフ国城下町の商業ギルドにいるのよね。

「どうです?このコショウを始めとする香辛料をこの値段で」
「これはいい香辛料です。では……この値段で」
「毎度あり~っ」

 私達はコショウ問屋の一人娘・ヒカルとその一行を引き続き演じている訳で。
 そこで持参していた香辛料の売買をしてたのよ。
 だけど……前に商業ギルドに来た時とは決定的に違う事がある。
 それは、以前は閑古鳥が鳴いていた商業ギルドに再び様々なお客様で賑わっていた事。
 どうやらあの悪名高き暫定国政が倒れて新しい国王就任を聞きつけて各国の行商人が再び行き交うようになっていたの。
 様々な商人が来ればドワーフ国の復興も進む事は間違いないわ。

「助さん!今回は結構儲かったね」
「もうすっかり助さんか……だけど本当にこのドワーフ国に活気が戻って良かったよ」
「そうね。こうゆう交易は我が魔王国にも莫大な利益を齎すから今回助けて良かったな」

 そこへファブリーズ……いやここではリーズさんが私達へ話しかける。

「それに今度の一件で我が魔王国は莫大賠償金を得ましたし。本当に魔王国の国庫は金貨で一杯ですわ」
「それで……その賠償金で助さんはどうするの」
「それは官僚長のミクシィさんと相談かな。とりあえずドワーフ国から牛や豚の家畜提供される事もあるしね」

 そこへアンナが私達へ誘いをかける。

「おい!城下町にあるステーキ店が再開してるらしいぞ。しかも牛だぞ牛!今から一緒に食べに行こうぜ」
「えっ、牛のステーキだって!ヒカルちゃん、行こうよ」

 余程、アンナと助……じゃなかった太助も牛のステーキが食べたいのね。
 そうね、もうお昼だし食べに行きましょうかしら。
 場所は変わってそのステーキ店の中。
 営業再開したばかりなのか結構人が多かったがすぐに店の中へ入れた。
 そこで……私達は意外な人達に出会う。

「あれ?ボルトさんにエルスさんじゃないですか」
「おおっ、これは魔王……」
「すみません!ここではコショウ問屋の一人娘のヒカルです!」
「はは、正体を隠してなさるのでしたな。ではヒカル殿、宜しければ一緒にいかがですか」

 こうして私達はボルトさんとエルスさんと一緒にステーキを食べる事に。

「うおおおっ、牛だっ!これこそが牛だよな太助ちゃん💛」
「まさか……この世界で牛のステーキが食べられるなんて最高だよアンナ姉ちゃん」

 あらあら。
 太助もアンナも余程嬉しかったのかしら。
 牛のステーキを本当に美味しく食べてるわね。
 けど……それにしてもどうしてボルトさんとエルスさんが一緒にいるのかしら。

「実は……私、ボルトさんと再婚しようと思うのです」
「えっ!」
「私は娘を生んだ直後に主人を亡くしまして……これまで女手一人で娘のマリを育てていたのですが」
「実はそのマリに縁談がありまして……それを機会に私がエルスにプロポーズした訳です」
「それはおめでとうございます」

 そうか。
 エルスさんの娘であるマリさんに縁談か。 
 それでエルスさんの子育てがひと段落したのでボルトさんがプロポーズした訳か。

「それで娘さんは何方と結婚を……」
「それは……」

 この時、私達はマリの結婚相手の名前を聞いた瞬間……瞬時に青ざめた。
 そして……ある人物の事を思い出し「お気の毒」と心で呟いた。




 それから更に三日後。
 



 今日はミルク王女が国王になる戴冠式。
 すっかり綺麗な姿に戻った国城で盛大に行われる事になった。
 勿論、私も魔王国の魔王ヒカル・グレーズとして戴冠式に参加。
 そして太助も魔王国の宰相としてアンナとファブリーズも魔王国将軍として本来の身分を明かして出席だ。
 いつもとは違う美しきお姫様らしい正装をしたミルクが同じく将軍らしい正装をしたボルトさんから王の証である王冠を受け取り頭につける。
 その瞬間、出席していた人々から大韓機の声が響き渡る。
 新たなるドワーフ国の国王の誕生である。
 こうして儀式が終わり、この後は国城の会場でパーティーだ。
 そこで私は太助を誘い一緒に踊る。
 更に少し踊った後はアンナに交代。
 少しの間、太助のダンス相手はアンナに任せて私は少し一息だ。
 そこで私は明らかに誰かを探しているミルク国王を見かける。

「あらヒカルじゃないの。処でローブは何処にいるの」
「えっ、ローブさん」
「実は……私、ローブにプロポーズしようと思うの。これからは二人でドワーフ国を盛り上げようと思って」
「……」
「どうしたのヒカル。何か顔色が悪いわよ」
「ローブさんだったら……あれ」

 私はダンス会場のある個所を指差した。
 そこには……ドワーフ国宰相のローブとマリが一緒に微笑ましく踊っている姿があった。
 これを見たミルク国王は唖然として私に話しかける。

「これって……どうゆう事なの?」
「あの二人、今度結婚するって。エルスさんとボルトさんが言っていたわ」

 あれ?
 ミルク国王様が全く硬直して動かない。
 私が「お~い」と問いかけると……ミルク国王は私を鷲掴みにして問い詰めてきた!

「嘘でしょ!あの幼い頃から一緒だったローブが私以外の女と結婚ですって!」
「はは……けど、あれが現実ですからね」
「どうして!どうしてこうなったのっ!ローブっ、説明しなさ~い」

 ミルク国王はローブの元へ行こうとするが、そこは私が取り押さえる。
 愛し合う二人が一緒にダンスを楽しんでるのにそれは野暮ですよ国王様。

「ミルク国王様、私から提案がありますが」
「何よ!」
「いっそ……ミルク王もローブ殿と重婚したらどうです?私と太助とアンナみたいに💛」
「できるか――っ、我が国は古来から結婚は一夫一妻制だぁ~っ!」

 この後、ミルク国王様が完全いご乱心!
 自ら愛用の大斧を振り回して大粒の涙を流しながら大暴れ!
 嗚呼……哀れミルク国王の大失恋による八つ当たりにパーティー会場は騒然。
 それから乱心していた国王を私達が取り押さえるのに苦労したわ。
 こりゃ、ドワーフ国の先は暗いわね。

 それから二日後。
 私達は懐かしの魔王国への帰路へ。
 勿論帰りもコショウ問屋の一人娘のヒカルとしてだ。
 宰相ローブと妻のマリ、ボルトさんとエルスさんが見送りに来てくれた。
 ちなみにミルク国王は……あれから完全に引き籠り国城から出てこない。
 余程あの失恋の傷が深かったのだろう。

「では魔王様お元気で。今度魔王国へお邪魔しますがよろしくお願いします」
「いつでもいらっしゃい。奥さんと一緒に魔王国を見てみるといいわ宰相さん」
「はい、妻と一緒に参ります」

 あ~あ。
 失恋したミルク国王を後目にこのローブ宰相とマリさんの仲の良さには私としても羨ましいわ。
 じゃあ、見返りと賠償金はキッチリお願いね。

「本当にありがとうございました。今度復興したドワーフ国に来てください魔王様」
「楽しみにしているわボルト将軍様。きっと良い国になっている事を祈っているわ」
「では皆様お元気で」

 最後にミルク国王と別れを告げられないのが残念だけど……今はそっとしておいた方がいいわね。

「では……アンナさん、リーズさん、それに助さん!参りましょうか」

 こうして私達一行は色々あったドワーフ国を後にした。
 本当はワイバーンか馬車にでも乗って帰るべきなのだろうが今の私はコショウ問屋の一人娘。
 ゆっくりと徒歩で旅を楽しみながら楽しく帰りましょう。
 そして、ドワーフ国を出て三日後。
 私達はようやく懐かしの魔王国へ帰って来た!

「「お帰りなさい、魔王様!」」

 魔王国の城門では先に帰っていたルルと留守番をしていたララに官僚長ミクシィにロイドを始め幹部達が迎えに来ていた。
 私は迎えに来ていた配下達に対して大きく手を振りながら……。




「只今~っ!」






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 第四章 魔王国の日常 パート01


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