太助と魔王

温水康弘

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第三章 ドワーフ国騒乱!

その十七 暫定国政大崩壊!

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 さて、あの大砦の大激闘から数時間ぐらい経過したかしら?
 場所は変わってドワーフ国の刻城。
 時刻はもう午後八時ぐらい。
 すっかり日も沈み月夜が綺麗。
 その国城で諸悪の根源であるヌーク大臣様が赤ワインを飲みながら伝令からの報告を受けていたわ。

「大砦の方はどうなった」
「現在も戦闘が続いております」
「膠着状態か。エルスに伝えろ。早く賊を始末しないと娘に仕掛けた爆弾を爆発させるとな」
「はっ!」

 伝令さんはすぐにその場から去っていった。
 だけど……本当はどうなっているのか全く理解してないのね。
 あのバカ大臣さん。
 ちなみに先程の伝令さんの正体は?

「――――ふっ、バカめ。あの娘に仕掛けた爆弾など既に私が外してあるわ」

 はい、嘘情報ありがとうねクロ。
 さ~て、夜も更けて来ましたし……そろそろあのバカ大臣率いる暫定国政に対してお仕置きしてあげましょうかしら。
 はい、国城の見張りがヌーク大臣へ報告してきたわ。

「た、大変です!」
「どうした?」
「ち、超移動大要塞が……こちらに向かっています!」
「なに~っ!」

 はいノーズ山脈の奥から巨大な要塞がやって参りました~っ!
 そして城下町の近くまで到着~っ。
 この超移動大要塞って本当に大きいから月夜の国城からでも確認できるぐらい目立つわね。
 そして、この要塞の艦橋を仕切るのは…復讐に燃えるエルスさんとローブさん。
 更に艦橋にはルルとボルトとマリがいる。
 エルスは要塞を動かしているドワーフの同胞達に目をギラギラさせて命じる!

「魔法縮退砲発射準備!目標は逆賊が乗っ取っている国城!」

 エルスさんの号令と共に一門の魔法縮退砲が国城へ照準を定める!
 そして「魔力充填完了しました」という報告を聞いたエルスは……!

「撃て――――っ!」

 凄まじい魔力の塊が国城の一角へ命中!
 当然、城の一角は吹き飛び瓦礫が城から崩れ落ちる。
 しかも凄まじい振動が起こり国城中は大混乱!
 勿論、ヌーク大臣本人もとんでもない不意打ちに驚きを隠せない。
 
「お。己~っ!エルスめ裏切ったな……こうなったら娘に仕掛けた爆弾を」

 ヌーク大臣は何かのスイッチを取り出した。
 そして……「思い知れ」とそのスイッチを押すが……?

「どうした!何故爆発しない?これは一体どうなっているのだ」



「爆弾ってこれの事かしら?」




 ヌーク大臣の元へ何かが投げられる。
 それは……エルス大臣の娘マリに仕込んだ筈の爆弾入りの首輪であった。
 そして、その首輪爆弾はヌーク大臣の眼前で木っ端微塵に大爆発!

「くそっ!誰だぁ、こんな事をしたのは!」
「は~っはっはっはっはっ!」

 そこへヌーク大臣の前へ一人の娘と護衛の二人、更に番頭の少年が姿を現したわ。

「き、貴様等何者だっ!」
「しがないコショウ問屋の一人娘ですわ。ただ……貴方達のようなおバカさん達を放置できないお節介な娘でして」
「くそっ、たかが商人如きが我がドワーフ国暫定国政を愚弄するつもりか?曲者だっ、出会え出会えっ!」

 はい、ある意味お約束。
 ヌーク大臣の命令で数多の兵隊さんが私達を完全に包囲しちゃったわ。

「アンナさん、リーズさん……遠慮はいりませんわ。徹底的に懲らしめてあげなさい!」

 はい、ここからは主演の私達によるチャンバラ劇場が開幕よ。
 迫る兵隊の剣や槍がアンナとリーズを襲うけど……まぁ完全に格が違うって感じね。
 ある兵士はアンナの小刀で倒されて、またある兵士はリーズの鉄拳で城の壁面へ叩きつけられたり。
 とにかく話にならない実力差。
 時々明らかに実力のない助さん狙って兵士が襲ってくるけど、そこは私が守ってあげる💛
 はい手にして杖で愛しの助さん狙う輩はぶっ飛ばしちゃうぞ!

「アンナさん、リーズさん……そろそろいいかしら?」

 とりあえず粗方の兵士達はほぼぶっ飛ばした処で……そろそろ助さん出番だよ。

「沈まれ!沈まれ~っ!」

 愛しの助さんの叫びが城中に響き渡るわ。
 そいて助さんは怯えるヌーク大臣に向けて……魔王国の旗印が記された印籠を見せつけたわ!

「この旗印が目に入らぬか!このお方こそ魔王国の魔王ヒカル・グレーズ様であらせられるぞ!」

 ここでバカなヌーク大臣へ私の正体を大暴露!
 どうだ!驚いたか。
 ふふふ、ヌーク大臣もこれには驚いてるみたいね。

「魔王様の御前である!頭が高いっ控えおろう」
「「「は、はは~っ!」」」

 流石にこの場にいた兵士達は身を弁えて頭を下げて土下座状態。
 はっはっはっ!
 この魔王の威厳はこのドワーフ国でも通用するみたいね。
 
「ヌーク大臣!」
「なっ」
「その方、ドワーフ国の先代国王を暗殺しその罪を娘のミルク王女に着せた上で権力を握り暴利をむさぼり……あまつさえ民を虐げて我が魔王国と戦いを挑むなど言語道断よ!」
「うぬぬ……」 
「おまけに国を憂うエルス大臣の娘アンにあのような爆弾を仕込み人質にして意のままにした辺り、この魔王は承知しておるぞ」
「ぬぬ」
「潔く縛につけヌーク!大人しくドワーフ国の裁きを受けるがよい」

 さぁ、これでチェックメイトよ。
 しかし!ヌークの奴まだ諦めていないわ。

「何が魔王だっ、捕まってたまるかっ」

 あっ、ヌークの奴何やら隠しスイッチを押したぞ。
 まさか、この部屋の壁面にこんな隠し扉が!
 ヌークは開いた隠し扉の中へ逃げていく。

「アンナ!ファブリーズ!」

 アンナとファブリーズが後を追いかけようとしたけど隠し扉はヌークが行った後で再び閉じてしまった。
 あちゃ~っ。
 正直壁をぶっ壊してもいいけど……それをやるとミルク王女に怒られるからなぁ。
 あ~あ、あそこまで諸悪の根源追い詰めて逃げられるなんてこの魔王とした事が不覚だったわ。
 さて、その隠し通路で逃走を図るヌーク。

「くそっ……こうなったら人間国にでも亡命するか。どれ、そろそろ出口だな」

 ヌークは城から少し離れた荒野に出てきた。
 なんとか面倒な魔王から逃げ切ったようだ。
 後は何とかしてドワーフ国の国境を抜けて……。




「何処へ行くつもりだ?ヌーク」
「!?」





 なんと!ヌークの眼前にはドワーフ国の第一王女・ミルクがその手に愛用の大斧を手にして待ち構えていた。
 
「私がこの隠し通路の事を知らぬ訳がないだろう。子供の頃はこの隠し通路でよく城を抜け出していたものだな」
「!?」

 月夜光がミルクの大斧を照らす。
 そして……ミルク王女の顔は正に獲物を捕らえた狩人そのものであった。

「バカな奴だ。大人しく魔王に捕まっていたら命だけは助かったものを……ではこれより私自らが貴様に対する裁きを与える」
「なんだと!」
「判決は……死刑だっ!」
「!?」
「父上を暗殺し我がドワーフ国を私物化、国民や臣下を迫害して非人道的な改造兵器開発を行い……あまつさえ友好国である魔王国へ進撃を企てるとは」

 あぁ、やっぱりこうなるわね。
 ヌーク!もう命乞いは不可能よ。

「ふん!それがどうした。国民が私に従うのは当然だろ!」
「お前は何様だ?国は国民あってこその国だ。国民を蔑ろにする貴様に国を治める資格はない」

 このクズ!
 言いたい事はそれだけ?
 そしてミルクの言う通り国は国民あってこその国よ!
 あっ、ヌークの奴ったら最後の悪あがきとばかりに自ら大斧を手にしてミルクに襲い掛かって来たわ。

「くたばれ!このゴリラ女っ」
「父の仇っ、覚悟!」

 それは一瞬の出来事であった。
 ミルク王女の大斧の一閃が振り下ろされた時……ヌークの体は手にした大斧と共に一刀両断に真っ二つになっていた。
 正に一撃である。
 そして、真っ二つにされたヌークの遺体を見ながら……ミルク王女は大粒の涙を流しながら言葉を出す。

「父上……仇は討ちました。どうか安らかに眠って下さい」

 そんなミルク王女を夜空の月は優しく照らす。
 まるで目的を達した彼女の心を癒すように。




 こうして、一連のドワーフ国騒乱事件は終わりを告げた。
 ただ……今回は著しい被害者が出たのは本当に残念である。





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