太助と魔王

温水康弘

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第二章 人間国の勇者と二人目の嫁

その十四 二人目の嫁

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 あの人間国での大騒動から一週間。
 紫陽花アンナの体調はすっかり元通りになり、病室から退院。
 今日は私と太助とアンナと一緒に城下町を視察を兼ねたお散歩だ。

「まさか、こんな形で太助ちゃんと一緒に散歩できるとは思わなかったな」
「僕もアンナ姉ちゃんとこうなるなんて思いもしなかったよ」
「あ~あ、これで自称魔王がいなかったら最高なんだけど」
「おい、それは聞き捨てならんぞ!私は正真正銘この国の魔王だぞ」
「ほぅ……決闘で散々卑怯な事ばかりしてきたのが魔王とは片腹痛いわね」
「なんなら今ここで決着をつけるか?脳筋エセ勇者」
「いいだろう、今度こそ貴様をギタギタにしてやろう!」
「あ~っ!二人共やめてよ。こんな処で二人が暴れたら魔王国が壊滅しちゃうよ」
「……」
「……」
「とにかく、二人共落ち着いて!」
「まぁ、太助の頼みならね」
「だが……いずれは決着をつけてやるからな、このチビ魔王!」

 どうも私、このアンナとは何処かそりが合わないみたいね。
 自分で言うのもなんだけど犬猿の仲というか水と油というか。
 しかも私とは違って救いようのない脳筋バカなのが厄介なのよねぇ。

「じゃあ、あそこでアイスクリーム売ってるから買ってくるよ。ちょっと待っててね」
「「は~い💛……ん!」」

 しかも……好みの男に関しては一緒だから質が悪いわ。
 太助も太助でアンナの事を気に入ってるみたいだし。

「はい狩って来たよ。確かヒカルちゃんはバニラでアンナ姉ちゃんはストロベリーだったね」
「「うんうん!」」

 ああっ、しかも私達の意中の男って呆れるぐらい気が利くんだからね。
 だから、太助は私にとっえ最高の夫なのよねぇ💛
 ただ時折キレて何しでかすかわからないのが怖いけど。

 それから私達三人は先日半壊した市役所を見に行く事に。
 そういえばあの市役所半壊させたのアンナだったわね。

「うわぁ、すっかり戻通りになってる」
「てっきりまだ修繕工事やってると思ったけど」

 なんと市役所は昨日に修繕工事が完了して今日から平常業務を再開したそうだ。
 これには市役所を半壊させたアンナも困惑してる。

「おい……魔王国の建築技術は神か?もう完全に直ってるぞ」
「どう?我が魔王国の技術力は世界一~っ!」
「確かにこの国の技術力は異常だよ、全く」

 そうだ。
 折角市役所に来たのだからファブリーズに会いに行きましょう。
 アンナと一緒ならきっと喜ぶわね。
 では早速市役所内のエレベーターでファブリーズの私室へ!

「あっ、これは魔王様に宰相様……それにアンナじゃない!」
「ご機嫌そうねファブリーズ。どう?修繕された部屋の居心地は」
「最高ですよ。もっとも……今度の栄転ですぐにここを出る事になりましたが」

 そうである。
 実はファブリーズは先日の人間国との闘いにおける功績が認められ官僚職から軍属へ栄転となったのだ。
 そりゃ人間国の兵士一万を一人で殲滅、しかも勇者であったアンナと互角の勝負を繰り広げたとなってはねぇ。
 その武勇を私達幹部一同が官僚にしとくには勿体ないと今度の栄転となったのである。
 しかも太助曰く。

「当然だね。ファブリーズさん官僚や文官の中では評判が最悪だったしね。事あるごとに税金アップとか言ってる辺り」
「さっ、宰相様~っ!」
「それに比べて義勇兵の皆からは逆に評判がいいよ。あの一騎当千の戦いぶりに人気が出たみたいだしね」
「ううっ」
「だから僕やヒカルちゃんとしてもファブリーズさんには軍属に置いたほうがいいと結論を出したんだ」
「宰相様、それは皮肉ですか?」

 あらあら、当のファブリーズは複雑な心境みたいね。

「気にするな強敵(とも)よ!何処かの卑怯者と違って正々堂々とした武勇を持つファブリーズなら心配ないだろう」
「アンナさん……貴方だけです、私の事を気にかけてくれるのは」

 あらら、流石はファブリーズを強敵(とも)として認めたアンナ。
 ファブリーズも結構素直に聞き入れてるみたい。

「とにかく今度の幹部会で正式に詳細な任命が降りると思うから後少しの間、官僚長としての職務を全うしなさい」
「畏まりました魔王様」

 さて、市役所を出た私達三人。
 とりあえず何処かの喫茶店でお茶にしようとするが。
 あれ?
 アンナったらどうしたの?
 城下町の人達を見て何を?
 
「笑顔があるな。この町は」
「えっ?」

 なんかアンナの奴、達観したような表情をしてる。
 私と太助はふと不思議そうになった。

「ここの人々は笑顔でいっぱいだ。しかも屈託のない笑顔で溢れている」
「そりゃ、私が皆と力を合わせて治めている町だもの。当然と言えば当然よ」
「人間国には……あのような笑顔は無かった。何処か表情に活気が無い印象だった」

 あぁ、確かにあの独裁クソ皇帝が政やってると私も容易に想像がつくわね。
 自分さえ良ければいい政治やればそりゃ笑顔が無いのも納得ね。

「アンナ姉ちゃん、この国は好き?」
「うん!ここは人も食べ物も文化も最高だっ」
「そうだよ、この魔王国は僕とアンナ姉ちゃんにとって第二の故郷だよ」

 そうか。
 太助もアンナも我が魔王国を故郷と言ってくれるのか。
 これは素直に嬉しいな。

「魔王、お前に頼みがある」
「何かしら」
「私を軍属に入れてくれ。私は戦う事しか能がない女だ……だから私を義勇軍にでも入れて欲しいのだが」
「義勇兵ねぇ……正直アンタの戦闘力だと義勇兵では勿体ないわ」
「えっ?」
「安心しなさい。太助の知り合いなら決して悪いようにはしないわ」

 この脳筋勇者が我が軍隊にねぇ。
 正直あれだけの戦闘力なら一兵卒では勿体ないからなぁ。
 後でアンナの扱いは太助と相談してみるかな。

 それから楽しく喫茶店でお茶をしてからロイドが仕切る国営工場へ。

「これは魔王様に宰相様、今日は何の用で?」
「今日はそこにいる脳筋勇者に似合う装備について色々と」
「えっ……あの人って確か」
「紫陽花アンナだ。今宵は私に見合う装備が欲しくてな」

 あれ?
 ロイドったら顔を青くして……大丈夫!この脳筋勇者は私達の仲間よ。
 ん?
 太助、ロイドに何か話があるみたいだけど。

「ロイドさん、例のアレ出来てる」
「あぁ、あれですね宰相様。遂に二人目を迎えるつもりですか?」

 えっ、二人目?
 太助~っ、まさかいつの間に第二夫人を決めてたの?
 しかも私に黙って!

「はい宰相様。ご注文の結婚指輪です」
「ありがとう。では早速……」

 ええええっ!
 まさか太助が見染めた第二夫人がこの工場に?

「太助!私に黙って二人目決めるんじゃないわよ。まず……私にその第二夫人になる人を紹介するのが筋よ」
「ははは……協会か。もうその必要はないよヒカルちゃん」
「えっ?」

 ま、まさか。
 その第二夫人になる人って私が知ってる人?
 じゃあ、一体誰なのよ太助!

「アンナ姉ちゃん……いいえアンナさん」
「何よ……改めて畏まって」
「僕と……結婚してください」

 は……はああああああああああああああああああああああああああっ!
 あ、アンナだって!
 まさかこの脳みそ筋肉のバカ女が太助の第二夫人だって!
 そりゃ太助の事を古くから知ってるからって結婚だぁって!!

「意義あり~っ!太助、第一婦人として異議あり~っ」
「どうしたんだいヒカルちゃん。僕としてはアンナ姉ちゃんが僕の二人目として相応しいと思うけどな」
「い、い、い、いくら元のいた世界の幼馴染だからってそうあっさりと結婚決めちゃう気?」
「そうだよ。アンナ姉ちゃんとまた出会ってから絶対にこうしようと決めていたんだ」
「う、うううっ」
「それに早く二人目と結婚したほうがいいと言ったのはヒカルちゃんだよ」

 それに関しては確かに。
 だけど、よりによってこんな脳筋バカが二人目だなんて……ぶっちゃけありえない!

「アンナ!まさか太助のプロポーズ真に受けてるんじゃないでしょうね」
「結婚……太助ちゃんと結婚……ふあぁぁぁぁぁっ」
「あっ、脳みそが完全にショートしてる」

 まぁ、当然の反応か。
 アンナの要領の少ない脳みそが完全に処理能力が追い付かずにショートしてるみたいだし。
 ややっ、アンナが頭から煙を出しながら太助に抱き着いてきたぞ。

「お嫁さん……私は太助ちゃんのお嫁さん……最高に嬉しいよぉぉぉぉぉっ💛」
「ははは、アンナ姉ちゃん!これからは夫婦として宜しくね」

 そして太助はアンナの口に濃厚キス!
 更に太助は私を誘ってきた。
 私は渋々太助の傍へ。
 すると太助ったら私にも抱き着いて濃厚キス。

「ヒカルちゃんにアンナ姉ちゃん!僕の大事なお嫁さん達……絶対に大切にするからね」
「太助💛」
「太助ちゃん💛」

 こうなると完全に惚れた弱みだ。
 絶対に私達の旦那様は超絶レベルの大物になるわね。
 何しろ無敵の魔王と不死身の勇者を自分のお嫁さんにしたのだから。
 しかも、この一部始終を見ていたロイドは拍手しながら「おめでとうございます宰相様」と祝福する始末。




 この後、アンナが太助の第二夫人になった事は魔王国中に広まった。
 私的には……もうどうにでもなれっ!

 



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