太助と魔王

温水康弘

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第二章 人間国の勇者と二人目の嫁

その七 勇者・紫陽花アンナと官僚長・ファブリーズ

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「ふふふ、そちらからどうぞ……性悪勇者様」
「いいのか?その一撃でお前の首が飛ぶぞ……極悪官僚」

 互いに警戒し挑発し合うファブリーズとアンナ。
 暫くの間、両者に静寂の空気。
 だが、最初に仕掛けたのは勇者アンナであった!

「きぃええええええええええええええっ!」

 アンナはその手に剣を握りしめ眼前のファブリーズを一刀両断にすべく剣を振り下ろす!
 しかし!

「!?」

 外したか!
 アンナの想定以上にファブリーズの回避能力は高かった。
 最も……勇者アンナの剣はファブリーズの赤い帽子をとらえ一刀両断に切り裂いていた。

「あ~あ、あの帽子お気に入りでしたのに」
「すぐにお前もこの帽子の後を追わせてやる」

 ファブリーズとしてはもっと楽に回避できたと思っていたが……やはりそこは勇者!

(思ったよりも剣筋が早い。さて、そうしようかしら)
(参ったな……一撃で終わると思ったが魔王国には魔王以外にもこのような猛者がいたとは)

 あっ、今度はファブリーズが仕掛けた!
 ファブリーズはその桁違いの機動力で勇者アンナへ急接近!
 これには勇者アンナも身構える前に接近を許してしまった!

「そ~れ!」

 そこへファブリーズが秒速一万発の連続拳撃が炸裂!
 これには勇者も防御ができずにただ一撃辺り十トンの破壊力を持つファブリーズの鉄拳を連続で受けてしまう。
 勇者アンナが身に着けている金色の甲冑は粉々に砕け散り徐々にはぎ取られていく!

「己~っ!はぁぁぁぁぁっ!」

 勇者アンナは自身の体から金色の闘気を放出!
 その闘気の威力は凄まじくファブリーズはその闘気により弾き飛ばされてしまった。
 だが、すぐに立ち上がるファブリーズ。
 しかし!
 ファブリーズの赤い服が勇者アンナの闘気の威力により……損傷。
 右肩より下がはだけてしまい……右の胸のおっぱいが丸出しに。
 ちなみに乳首はほんおりピンク。

「参りましたわね。この服はオリハルコンの繊維で編み上げた特注品ですのに」
「思ったよりもでかい胸だな。動き辛くないか?」
「これでもこの大きいおっぱいが私のチャームポイントですの。そうゆう貴方こそ自慢の甲冑が無くなったみたいですね」
「あんなの思いだけの代物……ここからが本番だっ」

 一方の勇者アンナも全身の甲冑を粉砕されて残るは黒いインナースーツのみ。
 こちらは露出してないけど、ま~だオッパイは小さいみたいね。

「もう遊びは終わりだ」
「それは私の台詞ですわ」

 ファブリーズはその両手に暗黒の気を集め、勇者は手にした剣に闘気を集める。
 そして……再び両者が正面から激突!

 ファブリーズの鉄拳と勇者アンナの剣が互いにぶつかり合う!
 その激突が続く度に……ファブリーズの体と福が傷つき、勇者アンナの体も打撃によるダメージが蓄積していく。
 既に二人の死闘が始まってから什分ぐらいが経過した。
 この様子を見ていたルルとララ率いる魔王国義勇兵達と人間国側で唯一生き残っている将がこの死闘を息をのんで見守っている。

「ルル!航空魔導士部隊の再出撃が可能になったわ!すぐにファブリーズの援軍に……」
「駄目!」
「えっ?どうしてなのルル」

 航空魔導士部隊による攻撃を考えるララに対してルルは制止する。

「これは……武将同士による一騎打ち。その勝負に水を差す事はあってはならないわ」
「けどルル!」
「ここはファブリーズに全てを任せましょう。今私達にできる事はこの一騎打ちを黙って見守る事よ」

 そんなルルとララが見守る中でファブリーズと勇者アンナとの一騎打ちは続く。
 既に両者の上半身は裸になっており、その上で前進傷だらけになっていた。
 ファブリーズの裸体に無数の刀傷。
 勇者アンナの裸体には複数の打撃による傷。

「アンタ……もう少し栄養のある物食べたほうがいいんじゃない?完全にペチャパイじゃないの」
「そうゆうアンタこそ、そんなに大きい胸して動き辛くないのかしら……肩がこると聞くし」

 一騎打ち開始からもう十五分経過。
 流石に両者はかなり消耗しているのか互いに息切れが激しい。

「ねぇ……そろそろ終わりにしない?」
「そうね、いい加減その貧相なペチャパイは見飽きたわ」

 両者は互いに教理を置く。
 既に両者の上半身は裸体の傷だらけ。
 下半身も互いにボロボロだ。
 そして……これが互いに最後の一撃だ。

「いくぞ」
「こちらこそ」

 互いの黒と白の闘気が放出され、その両者の闘気は点まで届いている。
 そしてファブリーズと勇者アンナは互いに構える!
 これが両者が出せる最強の技にして最終奥義!!
 


「覇王斬撃!」
「魔光波動波~っ!」



 その時!黒い闘気の波動と白い闘気による剣劇が……両者の間で激突!
 その激突による閃光はこの戦場中を照らす。
 そして……その互いの闘気の激突がとてつもない大爆発を引き起こした!!

「総員、魔法防御態勢!」

 その衝撃は魔王国側と人間国側まで届き、抵抗できなかった者はほぼ例外無しに吹き飛ばされた。
 この凄まじい衝撃は互いに遠くにある魔王国と人間国まで観測できたという。
 その衝撃が収まった時……その衝撃の中央にはファブリーズと勇者アンナが倒れていた。
 恐らく全魔力を消耗したのだろう。

「救護班!急いでファブリーズさんを回収して」

 決着がついたと判断したのかルルは義勇兵の救護班へファブリーズの回収を命じる。
 だが……その時であった。

「う、ううっ」
「あっ!勇者が立ち上がった」

 なんという事かしら!
 なんと勇者アンナが先に立ち上がったわ。
 勇者アンナは打撲傷だらけの全裸に鋭い剣を握りしめている。
 そして……その場で今だ前進傷ララ家の全裸で倒れているファブリーズの前へゆっくりと歩いていく。

「いい勝負だった……ファブリーズ。だが、これで終わりだ」

 勇者アンナは、その両手に最後の力を振り絞り高くその剣を振り上げる!
 倒れているファブリーズの脳天を一刀両断して息の根を止めるつもりだ!
 この状況にルルとララは全義勇兵にファブリーズ保護と勇者討伐を命じるが……これは明らかに間に合わない!



 「覚悟!」




 勇者の剣が無抵抗のファブリーズの頭を真っ二つにすべく振り落ろされた!
 もうダメだぁぁぁぁっ!
 しかし……!



 パキ~~~~ン!!



 なんと!剣はファブリーズの頭部へ当たった瞬間、剣が粉々に砕け散ったのだ。
 これではファブリーズの息の根を止めることは到底叶わない。

「剣の寿命が尽きたか。それともコイツの悪運が強いのか」

 勇者アンナが壊れた剣を手に少しの間呆然とする。
 だが……そこへ!

「敵勇者とファブリーズさんの存在を確認!直ちにファブリーズさんの保護と同時に敵勇者へ総攻撃を開始せよ」

 現れたのはルルとララが率いる義勇兵部隊であった。
 この状況に勇者は大きく溜息をつき呟く。

「命のやり取りでは私の価値だが……この戦いそのものはお前の勝ちだなファブリーズ」

 そして勇者アンナは迫りくるルルとララ率いる義勇兵の大群を見る。

「明らかに多勢に無勢だな。引き時か」

 勇者アンナは高らかに口笛を吹く!
 すると人間国陣営側から一頭の白い馬が疾風のように勇者の元へ。
 勇者アンナはその白い馬に乗り一目散にこの場から逃走する。

「勇者殿!」
「将よ……今回は我々の負けだ。私も魔王国の軍勢を甘く見ていたよ」
「……勇者殿、その姿はいくらなんでも。せめてマントで隠してください」
「構わぬ。それより一刻も早く撤退すべきだ」

 こうして人間国が撤退していく中でルルとララは瀕死のファブリーズを保護した。

「深追いするな!それより体勢を立て直してこちらも撤退だ」
「ファブリーズ!しっかりして」

 確かに戦いそのものには買ったわ。
 だけど……やはり勇者の実力は本物だった。
 そして場所は変わって夜の魔王城。

「そう……ファブリーズの意識はまだ」
「はい、とりあえず手術は成功しましたので後は彼女次第です」

 瀕死の重傷を受けたファブリーズは魔王城の医務室で大手術が行われた。
 とりあえず手術は成功したそうだが……まだ予断は許されない。
 それから私と太助は帰還したルルとララから今回の先頭についての報告を受けた。

「そう……ファブリーズでもあの勇者には勝てなかったのね」
「相当な剣の使い手でした。失礼ながらその実力は魔王様に匹敵すると思われます」

 かつて私と魔王の座を争ったあのファブリーズがやられるなんて。
 そこへ太助がルルとララへ訪ねてきた。

「その勇者って何か特徴は?できればリンクミラーで勇者の姿を写していないかな」
「すみません宰相様。あのファブリーズ様と勇者による闘気のぶつかり合いの影響でリンクミラーに異常が発生して」
「残念ながら画像を写す事はできませんでした」
「そうか」

 やれやれ。
 どうやら勇者がどんな奴かは実際に戦う時までおあずけか。

「ヒカルちゃん」
「太助?」

 太助ったらいつにもなく真剣な顔をしてる。
 そして太助は私にこう告げた。

「ヒカルちゃん!これでわかったよね。あの勇者……正面から戦うのは危険すぎるよ」
「ちょっと、私がその勇者より弱いとでも言うの?」
「いや、正確には互角だと思う。だけど正面から戦ったら互いに玉砕する恐れがあるよ」

 まぁ、ファブリーズが負けるぐらいだからね。
 確かに正面からぶつかるのはリスクが高すぎかぁ。

「幸いルルさんとララさんから勇者の戦法は聞いてるからね。こうなったら勇者の苦手とするやり方で攻略するしかないよ」
「苦手?」
「ふふふ……これについては僕に任せてよ!」
「なんか、卑怯な事させられそうな予感がするなぁ」





 それから三日後。
 事態は思わぬ形で進展した。







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