太助と魔王

温水康弘

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第二章 人間国の勇者と二人目の嫁

その四 市役所が出来た!

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「おおっ!これが……」

 ここは城下町に出来た新築の建造物。
 地上四階建ての堅牢そうな……太助曰くビルのような外観。
 そう、こここそが我が魔王国が誇る行政の要・市役所である。

「ありがとうございます!魔王様に宰相様。この広さなら色々な業務も捗ります」

 これには官僚の長であるファブリーズも大喜びだ。
 私と太助としても行政の要としての施設として今後の効率化に役立つと思う。
 ちなみに魔王城にあった役所は今後、仕事斡旋所と諸外国交渉施設として使う予定だ。

「では、早速お仕事に行ってまいります」

 ファブリーズはそのまま市役所の中へ。
 ま~た税金払いなさいと国民脅さないといいけど。

「ところで太助……わかってると思うけど」
「うん、あの件だね。確かに現状国民には言わない方がいいと思う」

 そう、先日太助が古い書物から判明した元々我々魔族が人間の勇者とその一派が呪いによって変貌されて誕生した存在だという事実。
 私も最初は驚いたが冷静に考えると人間と魔族との共通点があまりにも多いから今は受け入れている。
 しかし、これを我が国の国民がそれを受け入れるのは難しいと私は判断した。
 大昔の事だし今更人間と魔族が元々同じだなんて信じるとは思えない。
 だから、この事は魔王国の最高機密として認定。
 あの時この場にいたルルとララにも絶対に秘密にしろとお願いした。

「さて、僕達も市役所の中を見てみようよ」
「そうね」

 私と太助は市役所の扉を開けて中へ。
 そこには既に多数の文官と官僚が訪れた国民へ対応をしていた。
 今の市役所に移転した際に一回は納税エリアと戸籍エリア・二階は保険エリアと雑務エリアで構成されている。
 また三階は官僚や文官の仇英室と食堂があり最上階の四階は会議室・応接室・更にバファローズを始めとする幹部用の個室がある。
 それと各階層への移動は会談の他に魔力で動くエレベーターがある。
 これは太助が考案して鍛冶師ロイドが監修して作ったものだ。

「騒がしいのは前の役所と同じだけど動きがスムーズな感じがするわね」
「各役割にエリアを分けたからね。これで官僚と文官も働き易くなるよ」

 それから私は太助に誘われて市役所のエレベーターへ。
 設置されたゴンドラに乗った私達。
 本当に動くの?
 太助はゴンドラにあるスイッチを操作。
 するとゴンドラは上へゆっくりと上昇。
 そして私達は食堂・休憩エリアのある三階へ到着。

「うわぁ……これ面白いわ」
「便利だろヒカルちゃん。今度魔王城にもこのエレベーターを設置しようかと思うんだ」
「でど……城って侵入者に備えて通路をあえて複雑にしてるのよ。エレベーターなんかつけたら侵入者がねぇ」
「ははは、もし侵入者が来たらエレベーターのゴンドラは動かないように細工するつもりだよ」
「それならいいけど……便利すぎるのも不安になるなぁ」

 まぁ魔王やってると城の防御が気になるものよねぇ。
 エレベーターは便利だけど魔王城につけるのは正直不安かな。

 それから市役所の食堂で私達は少し早い昼食を食べる事に。
 ちなみに昼食はご飯にフライドチキン。

「はは……やっぱりこの国って鶏肉しかマトモに食べられないんだね」
「太助が牛や豚の飼育提案してくれてるけど……まだ色々とハードルが高いのよ」

 我が国は鶏の飼育は盛んで卵と鶏肉は潤沢にあるのだがやはり牛や豚の肉は高価故に贅沢品だ。
 一応太助の提案でドワーフ国へ牛や豚の飼育方法を教えてもらおうと思うが今は他の事で大変だ。

「あら?魔王様に宰相様ではないですか」

 そこへファブリーズが私達の元へ。
 どうやら彼女も昼食のようだ。

「あれ?ファブリーズさん……それって刺身?」
「はい!港町ウエストからの直送された鮪の刺身です」

 そういえば近頃、港町ウエストでは船による漁が始まり城下町にも海の幸が入荷するようになっていた。
 これも魔王国が海を手に入れたからだ。
 これを見た太助は「しまった」と残念がっていた。
 ゆふふ、なら今晩は海の幸で食べましょう。

「それにしても宰相様が我が国に来てから……著しく発展してます。本当に感謝します」
「いや、これもヒカルちゃんや皆の頑張りがあったからだよ」

 あらあら、太助ったら遠慮しちゃって。
 でも私を含めて我が国の国民が太助に感謝している筈よ。
 それから昼食を終えた私達は四階にあるファブリーズの個室へ。
 ファブリーズは私達に官僚が考えた今後の開発計画を提示してきた。

「どうです魔王様!これが今後の計画です」
「成程、城下町の市場を改築する訳ね」
「近頃は港町ウエストからの海産物が入るようになりましたから現状での市場では対処できずにいます」
「そこで海産物の販売し易いように改築する訳ね」
「はい!それで魔王様と宰相様にお願いがあるのですが……」
「税金上げるのは却下よ」
「うっ、どうして」

 あ~っ、やっぱりね。
 城下町の市場を改築するのはいいけど折角現状我が国の景気がいいのに税金上げて水を差すのはねぇ。
 それは太助も大反対。

「資金なら今景気がいいから今の税率で資金が得られるよ。けど海産物に対応する為の市場改築は必要だと思うね」
「ファブリーズ!」
「はい」
「貴方事あるごとに税金上げろという考えはやめなさい。いくら経費が苦しいからって我が国の国民を苦しめては意味がないわよ」

 さ~て、とりあえず市役所の視察は終わり。
 今日はこれで帰りましょうか!

「太助!今日は市場に立ち寄って何か買って帰ろうか」
「僕は鮪かカツオが欲しいな。今夜は刺身がいいね」

 さて、一路私達は市場へ行こうとしたのだが……?

「ん?」
「ヒカルちゃん?」

 風を切り裂く音が聞こえてくる。
 しかもはるか上空から。

「!?危ない、太助離れて」

 私は太助をお姫様だっこして即この場から離れる。
 それと同時に上空から何かが飛んできた!

「げげ~~~っ!」

 突如飛んできた物体!
 なんと……それは市役所の天井へ激突!!
 流石に最新の建築技術で建造された市役所だけあって全壊はしなかったが……最上階の一部がぶっ飛んだ!
 あ~っ!
 折角建てたばかりなのに!

「ヒカルちゃん」
「うん!」

 私と太助はすぐに市役所の中へ。
 幸い、この非常事態で国民と官僚達の避難は進んでいる。
 私と太助は会談で急ぎ最上階へ。

「うわぁ……これは」
「直撃したのはファブリーズの部屋みたい!」

 私達はファブリーズの部屋へ。
 だけど……部屋は完全に破壊されて瓦礫が崩れている状況だ。
 そうだ!ファブリーズは無事?
 だけど、その時。

「ふんがあああああああああああああああああっ!」

 なんと瓦礫の中からファブリーズが雄叫びと共に出現した。
 良かった、無事だったみたい。

「くおおおらあああああっ!誰だぁっ、私に恨みのある奴かっ!」
「こりゃ問題なさそうね」
「ヒカルちゃん見て!何かが突き刺さっているよ」

 太助は瓦礫の中から一本の槍を見つけた。
 私はその槍を引き抜き槍を見てみる。

「!?」
「どうしたのヒカルちゃん」
「見て、この槍にある紋章……これは人間国の紋章よ」

 人間国の紋章がある処……これは人間国の誰かの仕業?
 だとしたら何処から槍を投げてきたのかしら?
 私はリンクミラーでルルへ連絡。
 我が国に侵入者がいなかったかを確認するが……なんと現在怪しい侵入者はないとの事!

「まさか……この槍は我が国の外側から投げたのでは?」
「太助、いくらなんでも城下町の外から槍を投げるなんて魔族でも私ぐらいしか……」
「いるよ。今の人間国に」
「まさか」
「間違いない、これは人間国の勇者の仕業だよ。そしてこれは明らかな僕達魔王国への宣戦布告だよ」

 確かにあの勇者ならやり兼ねない。
 これは面倒な事になったな。
 ある意味私達魔族のオリジナルといえる勇者。
 まさかここまでの能力を有しているとは私も油断はできない。

 そして、魔王国と人間国との国境付近では金色の甲冑の少女が魔王国の方を見ていた。
 少女は去り際にこう呟いた。




「これは挨拶代わりだ。首を洗って待っていろ……魔王」





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