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第二章 人間国の勇者と二人目の嫁
その三 勇者の悲しい伝説
しおりを挟むそれから、私は悠々と大空から帰還した。
義勇兵ギルドへ着陸した私は事の一部始終をルルとララに話す。
だけどルルとララの反応は!
「「魔王様のバカ~っ!生きて戻れたから良かったけどもしもの事があったらどうするの!!」」
あちゃ~っ、見事に二人から大目玉。
更に頭にきたルルが太助へリンクミラーで報告!
太助、すぐにこっちに来ると言ってたみたい。
「ここは宰相様にこってり絞られてください!」
「軽々しい行動は駄目です」
はは……これは参ったな。
そうこうしている内に太助が義勇兵ギルドへ現れた。
そして私の前に立った太助は大きく溜息をついて……。
「ヒカルちゃん……ど~して人間国に言ったならエクスプロージョンの一発撃たなかったんだい!」
「えっ?」
「今まで散々僕達の国へ攻撃してきて何の報復を受けないなんて不公平だよ!あんなクズ国なんか城をぶっ飛ばしてもよかったんじゃないの」
うわぁ、太助って意外と過激なんだね。
けど……今回は何も考えずに攻撃魔法を使わなかったのは理由があったのよ。
それから私達は義勇兵ギルドの宿舎の中へ。
そこで私は何故、人間国に行って魔法攻撃しなかった理由を話した。
「えっ?魔力切れを恐れて攻撃魔法を使わなかったの」
「うん、私って今日初めて飛行魔法を使ったでしょう。何しろ初めて使ったから、どれだけ自分の魔力を消耗するか把握できていなかったからね」
そう、いくら私の魔力が桁違いに多いといっても飛行魔法は使えば常時それなりに魔力を消耗する。
故に自分がどれだけ消耗するか目安がわからない内は迂闊に攻撃魔法を使わない方がいいと判断したのだ。
確かにあの憎たらしい人間国へ一度警告しに行くにはいい機会だったので行ってきた。
だけど無茶して魔力切れを起こして墜落したら我が国の民や太助に迷惑がかかる。
だから今回は人間国へは警告だけで済ませたのだ。
「だから今度行く時は飛行魔法を用いた時の限界を知ってからにしたい。太助も人間国が嫌いなのはわかるけど」
「わかったよ。だけど飛行魔法かぁ!これは国の義勇兵の戦術に幅が出来て面白そうだね」
太助曰く、今まで我が国の飛行手段は主にワイバーンを用いていた。
確かにワイバーンなら魔力を消耗しないが大抵のワイバーンは大型なのであまり小回りが利かず戦闘では人員や物資の輸送しか役に立たない。
悪く言えばその空飛ぶ巨体は魔導士や弓兵にとっては格好の的なのだ。
だが、魔導士達が個別に飛行魔法を用いて飛行できたら……これはかなりのアドバンテージになる。
魔族そのものが空を飛ぶのだから弓も魔法も地上からは狙い辛いしワイバーンと違い小回りも効く。
しかも人間国上空へ魔導士部隊が飛行魔法で強襲して攻撃魔法で爆撃する事もできる。
「問題は魔王氏部隊の魔力かな。飛行魔法って常時魔力を消耗するから長期作戦には向かないと思うよ」
「宰相様、それに関しては私から提案があります」
「なんだいララ」
「作戦区域まではワイバーンを移動基地にして真荘子部隊を輸送して作戦開始時に魔導士部隊はそこから出撃すればいいのでは」
「いいね!ワイバーンを空中空母にする訳か。これなら魔力消耗問題は解決するよ」
「空母?」
「いや、僕のいた世界の代物だから気にしないで」
うふふ!
これは面白くなりそうね。
これで我が国の空戦の概念が著しく変わる事間違いなしだわ!
「では早速魔導士部隊の中から何百名か選抜して魔王国空戦部隊を組織します」
「魔王様、宰相様、必ず素晴らしい空戦部隊を編成してご覧に入れます」
「ルル!ララ!頼むわよ」
「空戦部隊か。確かに必要になるね。あの勇者との闘いにはね」
太助の言葉から出た勇者。
そうだ、今回の魔導書調べてたのはその勇者対策の為だった。
「実はヒカルちゃん、僕は昔の書物から色々と調べてたんだが……」
「どうしたの?太助」
「いいかい?勇者は……人間国が生み出した存在でありヒカルちゃん達と縁のある存在なんだ」
「えっ?」
太助が調べて判明した事はこうだった。
昔……人間がまだ他の種族に迫害を受けていた頃、人間のある魔導士が数十名の子供を生贄にひとりの超人を召喚したそうだ。
その超人は人間族の皆を引き連れて他の種族へ殺戮の限りを尽くした。
やがて人間達は人間だけの国を建国して勇者を召喚した魔導士が初代皇帝になった。
「成程、つまり人間国の建国にその勇者が関わっていた訳ね。それでその勇者は?」
「実は……その話には続きがあるんだ」
人間国を建国した初代皇帝だったが人間の民衆は勇者のほうが皇帝に相応しいと称えるようになった。
しかし初代皇帝へそんな勇者が邪魔になり勇者と彼を慕う人間達へ人間とは違う姿へ変化させる呪いをかけて追放した。
姿を変えられ追放された勇者達は何もない荒野を自分達の新天地と定め開拓を始めた。
勇者はその能力を駆使して荒れ地を耕し作物を育て一緒に追われた人々の家を建てた。
やがて……その荒れた大地はひとつの国となった。
勇者はその国の最初の王……魔王となった。
「ちょっと!それって」
「そうだよ。これは人間国の勇者の伝承にして我が国・魔王国の成り立ちだよ」
あれ?
それだとおかしいな。
もし伝承通りなら私達魔族ってもっと人間とかけ離れた外見してる筈よね?
現に人間と魔族の外見の違いなんて耳が尖ってるのと牙がある他はないのよ。
ならどうして?と太助に尋ねた。
「多分、長い弦月の経過と共に呪いが薄れているんじゃないかな。だから外見は人間とそんなに変わってないんだと思う」
「そうか」
「ただし!長い年月と共に勇者の血筋が庶民にも広がったせいで庶民でもチート級の能力を有しているよ」
「そういえば」
「何しろ義勇兵一人一人が人間と比べると桁違いの能力を有してるからね。そして、その極めつけはヒカルちゃんだね」
「???」
「はっきり言ってヒカルちゃんの桁違いの能力は古代の勇者……初代魔王の地を濃く受け継いでいると思うんだ」
「……」
「僕としてもどうしてヒカルちゃんが常識外に強い理由も理解できたよ。ヒカルちゃんは魔王であり勇者でもあるんだ」
「う~ん、実感がないなぁ」
太助曰く我々魔族が元々人間が呪いによって異形の姿にされたのが始まり。
つあり……私達ってある意味同族と長年戦っていた事になるじゃないの!
「そして問題はっこから。恐らく人間国が召喚した勇者は……桁違いの能力を有していると思われるよ」
「……」
「下手したらヒカルちゃんよりも強いかも。何しろ人間国はまた勇者そのものを召喚したのだから」
太助、本当に不安そうな顔をしている。
そうよね。
ある意味私達魔族のオリジナルが召喚されたのだから。
「大丈夫だよ!」
「ヒカルちゃん」
「私は無敵だもの!例え相手が私達魔族のオリジナルでも私は絶対に負けたりはしないわ」
「でも!」
「それに私は一人じゃないわ。ルルとララもいるし頼りになる義勇兵もいるわ。そして私には太助!貴方がいるもの」
そうよ。
私には魔王国の国民がいるもの!
そして私には太助がいるもの。
だから絶対に負けたりはしないわ。
「ヒカルちゃん」
「はっはっはっ!私を誰だと思っているの。私は魔王ヒカル・グレーズよ!」
そうよ!
私は魔王。
天下無敵の国士無双!
黙って私に着いてこ~い!
「はは……こりゃ何言っても無駄だね。まぁ、それこそヒカルちゃんだけど」
「大昔の事とかは今じゃどうでもいいじゃない!私達の邪魔をする奴は誰だろうとぶっ飛ばすまでよ!」
あ~っ、今まで悩んでたら腹が減ったな。
よし、今夜は知ってる店で骨付き肉を食べようかな。
太助!勿論付き合うよね💛
「太助、今夜パーッと食べに行くわよ!いい店知ってるから」
「はは……でもお酒はやめてよね」
今は食べよう!
その後の事はそれから考えたらいい!
そう、今夜は楽しい事をやろう!
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