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エピソード001 相続問題は時間を巻き戻して
第九章 今、全てが覆る時!
しおりを挟むそれから三日後。
時刻は午前十時ぐらい、場所は中津家の本宅の大広間。
その大広間には中津家の面々、中津健一・天王寺三重・中津翔太、そして弁護士で三重の夫である天王寺庵の姿があった。
「一体なんなんだ。遺産相続に関して話があるとメールが来たんだが」
「私もこれはどうゆう事かわかりません。てっきり健一さんが読んだと思いましたが」
「私も兄さんが読んだと思ってました。一体誰からのメールかしら」
とうやら健一・三重・庵の三人は昨日届いた中津勇に仕えていた秘書から送られた電子メールを見て皆ここに集まってきたようだ。
その三人がどうゆう事か騒いでいる中でただ一人翔太君だけは黙っている。
そりゃそうだ。
翔太君は事の次第を知っているのだから。
「これは皆様、お揃いのようですね」
ここで俺と社長の登場だ。
当然、俺達が出てきた事に健一達は騒然だ。
「おい!私達を呼んだのは貴様等か。これは一体どうゆう事だ」
おうおう、健一のおっさんを筆頭に他の面々も顔が険しいぞ。
もっとも唯一、翔太君だけは何処かニヤニヤしてるがな。
「あんた達……大の大人が揃いも揃って大騒ぎだなんて見苦しいわよ」
「煩いぞ小娘!いくら三条財閥の令嬢だからって自分の立場というものを考えたらどうだ」
「ふふふ、それこそそれはこっちのセリフよ。これでも小さいながらもひとつの会社の主なのよ」
流石は社長。
おっさん相手に一歩も引かない辺りはご立派でございます。
俺も正直このおっさんは気に入らなかったしな。
そこへ弁護士である庵さんがそんな社長に問いかけてきた。
「もしかして今回私達を呼んだのは三条さんですか?ならばどうして本日私達をこの場に読んだのでしょうか」
ここは仮にも弁護士。
社長に対して礼儀正しく問いかけてくるな。
そんな庵さん、社長も結構好感を持っているようだ。
「弁護士さん。本日は中津勇さんの遺言に関する事で皆様に集まってもらいました」
「「「えっ?」」」
社長からのお言葉に翔太君と俺以外の全員が唖然。
それから社長はニヤリと笑い、この場にいる全員に対してこう告げた。
「結論から言うわ。今、弁護士さんが預かっている中津勇さんの遺言状……それもうただの紙屑よ」
「えっ?それはどうゆう事で」
「言った通りよ。その遺言は無効……つまりその遺言は一切の有効性はないという事よ」
なんと社長曰く、現在庵さんが預かっている遺言状はただの紙切れだという事だ。
「そんばバカな!遺言が無効とか冗談も休み休み言え!」
「こんなの……絶対にありえません!私も長いこと弁護士やってますがこんなのは前代未聞です」
「お嬢さん、貴方は頭がおかしいんじゃないの?」
そりゃ社長がそんな事言ったら皆様こうゆう反応を示すのは当然といえば当然ですな。
「社長」
「まっ、私が逆の立場でも普通信じる訳がないわ。でも、今私が言った事は紛れもない真実よ」
「なら、やはり”あの方”に出演依頼を出しますか」
社長は予め別室で大気中のさもなちゃんにスマートフォンでご連絡。
「じゃあ……さもな、今回のVIPさんをこちらへ」
(は~い)
社長がさもなちゃんと連絡している最中、俺は健一さん達からの非難の雨あられを受けていた。
それにしても実に煩くてウザいよ、この方々。
本当に質の悪い金の亡者だなぁ。
そのあまりの迫力に俺が追い詰められていた時であった。
「お前達!何を見苦しい事やっているのだっ」
突如、大広間中に威厳の入った怒鳴り声が響き渡る。
すると健一さん達は黙り込み、ゆっくりとその視線を怒鳴り声が聞こえた方向を向いた。
そこには……リトルメイジの制服を身に着けたさもなちゃんと、一人の威厳のありそうな初老の男が立っていた。
その威厳のある初老の男を見た一同が腰が抜けるぐらいに仰天!
「お、お父上!」
「い……勇さん!!!」
「なっ……なんですって」
この場にさもなちゃんと一緒に現れた初老の男。
そう、彼こそが先日亡くなった筈の中津家の主・中津勇さん本人であった。
「ほ、本当に父上なのですか」
「おう健一、私の姿に豆鉄砲食らったような面してる。私はこの通り元気だぞ」
「げ、げげ~っ!」
当然の反応というべきか死んだ筈の父親がこうしてまた生きているのを見たらそりゃ錯乱するわな。
何しろ死んだ筈の人間が五体満足で元気な姿を見せられたのだからな。
思考が追い付かないのも無理はないなぁ。
「そんな……確か蘇生魔法を用いたにしてはもう死後から随分経過してる筈。ならどうやって蘇生を?」
「ハッハッハッ!流石は私の顧問弁護士。冷静な発言をしてくるわい。だが実際はこうして生きておるぞ」
「その発言と雰囲気……あなたは本当に勇さんだ。間違いない……しかし、勇さんはどうやって蘇生してここにいるんだ?」
一方の天王寺庵はというと意外と冷静を保ってる感じ。
流石は優秀な弁護士と評判なだけの事はあるな。
あれ?残る三重さんが先程からだんまりだぞ。
しかも表情が真っ青だな。
「三重、私がこうやぅて生きてるのだぞ。何か言う事はないのか」
「…………」
「おかしいな、お前は男遊びが好きなのは関心せんが他はこうゆう時、素直に喜ぶいい娘の筈だがな」
「そんな……バカな」
「三重、気分が悪いのか?」
「…………」
あれ?三重さんの様子がおかしいなぁ。
折角自分の父親が生き返ったというのにやけに素っ気ない態度だな。
これには勇さんも困惑してるみたいだな。
「お爺様、本当に良かったです」
「翔太、今回の事で色々と迷惑をかけたな。お前だけだよ、素直に喜んでくれるのは」
「そりゃそうですよ、家族ですから」
いやぁ本当に翔太君はいい感じだな。
勇さんの復活を素直に喜んでいるのだからね。
さて、皆様はどうやって中津勇さんが見事に蘇ったのか?
無論これは俺と社長の仕業という訳であるが、ここでどうやって蘇生させたかを種明かしといきますか。
では今から三日前午後7時ぐらいに話を戻そう。
場所はここ……中津家の本宅。
「宗吾さん。お爺様の遺骨を持ってきました」
「おっ、それそれ」
中津翔太君が持参してきたのは先日亡くなった中津勇さんの遺骨入りの壺。
「本当に……これでお爺様が復活できるのですか?」
「ははは!それはウチの社長に全てを任せれば問題ありません」
俺は本宅の大きな庭で直径1.5メートルの魔法陣、更にその周囲には俺がアイテムボックスから出した大型電力車を2台設置してある。
本当は俺と社長は電力車をもう1台出したかったが庭の大きさに収まらないので断念した。
まぁ社長曰くこれでも十二分だと言うがね。
「では翔太君、そのお骨をここへ」
俺は翔太君に中津勇さんの遺骨を魔法陣の中央に置くようにお願い。
翔太君は半信半疑で中津勇さんの遺骨を魔法陣の中央へ。
その一方で社長が電力車から出力しているケーブルを自分の魔具であるスマートフォンに接続。
「こちらの準備は完了よ。宗吾、電力車の発電を始めてくれる?」
「アイアイサー!」
俺は2台の電力車の発電を開始するようにシステムを操作。
2台の発電車から耳障りのいい音が響き渡る。
「そういえば翔太さん、勇さんの体調がおかしくなったのはいつぐらい前かしら」
「確か三か月前ぐらいからでしょうか。その頃からジョギングの走る距離も少なくなりました上に食事の量も少なくなりましたから」
「亡くなる三か月前か。なら巻き戻すのは五か月前ぐらいでいいかしら」
「えっ?巻き戻すってどうゆう事ですか」
不可解に感じる翔太君を後目に社長は魔具のスマートフォンを操作。
そしてスマートフォンの画面に3600時間と記されている。
「ではそろそろやるわ。翔太さんは少し離れていて。それと宗吾、電力の管理をお願い」
「アイアイサー社長!」
「わかりました。全てお二方にお任せします」
社長は淡く光る魔法陣の前へ立ち、少し精神統一をした後に詠唱を始めた。
それと同時に魔法陣が輝き出し電力車が社長のスマートフォンへの電力供給が始まった。
「光善寺さん、蘇生魔法にしてはかなり大がかりですがこれから何が始まるのですか?」
「まぁ……これから世紀の大魔法ショータイムが始まりますからね。翔太君はこの特等席でお楽しみくださいな」
「は、はぁ」
「よし、電力供給は順調だ。社長!ドーンとやっちゃってください」
万物の理よ、今こそその理が我の祈りにより覆る時なり。
さぁ、あの物体が刻む時の巡りよ……今こそ流れに逆らい巻き戻れ。
戻れ、戻れ、時の流れよ巻き戻れ。
社長の思いを込めた詠唱は続く。
その最中で魔法陣中央に設置した遺骨入りの壺の蓋が飛び出した。
そして、壺の中から無数の遺灰がまるで煙のように舞い上がる。
時よ戻れ、理に逆らえ、我は万能なり。
全ての時の流れは我だけのもの。
さぁ、時の理よ……今こそ我に従い我が成し遂げたい願いを叶えよ!
社長の詠唱は続く。
そんな中、魔法陣の上で舞い上がっている遺骨が何かの形を形成していく。
やがて、それは一人の人間の姿形を形成していく。
よし、あと一息だ。
そして……社長の詠唱が今、終わりを告げる!
リバース・タイム!
社長の詠唱終了と共に魔法陣が輝きが最高潮に!
俺と社長は魔法の成功を確信し、一方の翔太君は一体何が起こったのか全く理解できない様子。
それから、魔法陣の輝きが徐々に小さくなっていく。
そして……魔法陣の輝きが完全に消えた時、魔法陣の中央には死に装束姿の初老の男が立っていた。
「お、お爺様!」
そう、その初老の男こそ先日亡くなった筈の中津勇さんご本人である。
その姿を見た翔太君は驚き、その瞳から涙が零れ落ちる。
この直後、中津勇さんの瞳がゆっくりと開く。
そして、翔太君の姿を見た勇さんは口を開いて話し始める。
「お前……翔太か」
「は……はい!お爺様」
おやおや年甲斐もなく翔太君、復活したばかりの勇さんに抱き着いた。
余程嬉しかったのだな。
ただ当の勇さん何だか困惑している様子。
「お取込み中失礼ですが……」
「ん?お前は何者だぁ?」
「はい、私はこうゆう者でして」
俺は勇さんに自分の名刺を手渡した。
「なに……三条スイーパーカンパニーって、お前三条財閥の関係者か」
「はい、私は三条財閥の系列会社の者です。そしてこちらは我が社の社長でございます」
「初めまして中津勇さん。私は三条司といいます。貴方の事はお爺様から伺っておりますわ」
「司……ってお嬢さんはまさか剛三様の孫娘か?」
「その通りです」
「そうか……どうやら怪しい連中ではなさそうだな。だが気のせいか今日は十一月にしてはやけに暖かいな。それに何じゃ何故私はこんな格好をしているのだ!」
そりゃそうだ。
何しろ今の勇さんの記憶は社長の魔法の影響で記憶が五か月程巻き戻っているのだから。
だから勇さんは今の状況に違和感を感じる訳だな。
皆様はもう気付きでしょう。
うちの社長は自分の得意魔法リバース・タイムを用いて中津勇さんの遺骨の時間を巻き戻して見事生きている状態まで時間を巻き戻したのだ。
無論、決して蘇生魔法ではないので万能ではないが上手く使えば御覧の通り蘇生魔法の蘇生制限時間を超えていても蘇生が可能である。
それと結構デメリットもある。
まず時間の理に逆らう魔法故に魔法行使には大量の電力が必要。
だから五か月前まで対象の時間を巻き戻すのに高出力の電力車を使った訳。
更に残念な事に今回のように死者を巻き戻して復活した際、巻き戻した時間分、対象者の記憶とかまで巻き戻してしまうという欠点もある。
だから今回蘇生した勇さんは蘇生の代償として五か月前までの記憶がなくなった訳。
それから勇さんには着替えてもらい抜け落ちた記憶を補う為に俺と社長は翔太君と一緒に現状起こってる事を説明した。
最初は勇さんも困惑していたが、やがて現状を受け入れた様子。
「そうか、私は本来もう死んでいた訳か。しかも遺産相続で面倒な事になっていたとは」
「驚かせて申し訳ございません。ですがこの状況を打開するにはどうしても勇さんに生き返ってもらう必要がありましたので」
「いいよ司ちゃん。君のお陰でこうしてまた孫と話ができるのだからな」
「お爺様」
いやぁ本当に微笑ましい光景だ事。
俺も気分がいいし社長も「生き返らせてよかった」と子供らしく嬉しそうだ。
おや?何やら足音が聞こえてくるぞ。
一体誰が来たのか。
「勇!本当に勇なのか!!」
「お、お爺様じゃないですか」
「会長!こうしてここに?」
なんと突然現れたのは社長の祖父で三条財閥の会長でもある三条剛三。
「ご、剛三様!」
「勇……私は嬉しいぞ。またこうやって合う事ができたのだからな」
「その言葉、誠に嬉しい言葉でございます」
そういえば勇さんってうちの会長が現役の総裁だった頃の重鎮で片腕だったな。
だから今回の再会は事実上互いに苦楽を共にした戦友同士の再会な訳で。
けど一体誰がうちの会長をここに連れてきたんだ?
「あの~っ、社長に宗吾さん」
「えっ?調さん!」
なんと会長をこの場に連れてきたのは意外にも調さんであった。
そういえば勇さんの蘇生した直後に定期連絡を兼ねて調さんに伝えていたっけ。
調さんの話によれば俺が勇さんを社長が蘇生した事を伝えた際に偶然会長が会社を訪れていたらしく勇さんが蘇生したのを知って居ても立ってもいられなかったとか。
「本当に大変だったんですよ。私、車の運転なんか滅多にしないのに」
「それは大変だったね調さん。今度一緒に飲みに行こうか」
「十二歳以下の少年と一緒なら考えておきます。それよりも社長と宗吾さんに見てもらいたいものが」
「!?どうやら調べがついたみたいね、バカ調!」
「バカは余計です社長、はい例の件全て調べ上げました!」
調さんは手にしたノートパソコンを立ち上げてから俺と社長に色々とご報告。
無論、その報告は会長に勇さん、それに翔太君も成り行きで聞く事に。
「まずは慈善団体・難波事業団ですが……やはり真っ黒でした」
あぁ、それに関しては「やっぱりな」と俺と社長は口走る。
更に調さんの報告は続く。
「難波事業団の本社ビルのある場所を調べたらこれがとんだ偽装団体で実際に仕切ってるのがどの団体か調べた結果、浮かんだのは指定暴力団・関東難波組でした」
関東難波組といえば近頃関東中で勢力を伸ばしている指定暴力団だったな。
この間も別の暴力団と抗争になって周辺に被害が出ているそうだ。
調さんは俺達にノートパソコンの画面を見せる。
その画面にはいかにも悪そうな顔をした男と女の姿が映っている。
「この男が関東難波組の組長で難波正人。そしてその隣にいる性格悪そうな女は長堀町あけみ。関東難波組の若頭です」
「ふ~ん、この連中が今回の黒幕という訳ね。さしずめ狙いは勇さんの莫大な遺産といった処かしら」
「こりゃ、こいつ等に遺産取られたら益々図に乗るぞ」
これで今回の一件について大方の筋書きが見えてきたな。
今回の首謀者は関東難波組。
大方弁護士の庵さんを何等かの手段で脅してあの遺言状を捏造して遺産を奪い取ろうとしていた訳だ。
となると遺言状を持っていた三重さんも怪しいな。
もしかして夫婦揃って脅されて利用されている可能性もあり得るぞ。
「すみません勇さん。貴方は一年前……といっても勇さんにとっては七か月前ぐらいに遺言状を書いたりしてませんか?」
「遺言?私はそんなの残す気はさらさらないぞ。もし私が死んだ場合は息子達で好きにしろって感じだな」
はい、これで散々俺達が振り回された遺言状は真っ赤な偽物確定です。
となると残るは?
「実は宗吾さんに頼まれていたあの人物の監視についてですが……とんでもない事が判明しました」
「流石は調さん。で、何がわかりましたか」
「これは実際に映像を見てもらったほうが早いので……社長も会長もよかったらどうぞ」
調さんはノートパソコンを通じて……これは衝撃的な映像を俺達に見せてきた!
その映像は……ある人物が関東難波組の組長である難波正人を始めとする幹部達に囲まれて会員制の超高級バーで会食している様子であった。
これを見た俺と社長、更に会長に勇さんと翔太君は衝撃を受けた。
「これは昨日夜の映像です。残念ながら音声までは撮れませんでしたが恐らく中津家の遺産を奪う計画に関する打ち合わせだと思われます」
「決定的な証拠ね」
「こいつ等……」
これを見た俺と社長はもうブチ切れそうな心境だ。
同じくこれを見ていた勇さんと翔太君は唖然茫然となっていて言葉も出ないみたいだ。
流石に自分達が知るあの人物が自分達を脅かしている悪漢達と一緒にいるのが余程信じられないのだろう。
そんな勇さんに会長が肩を優しく叩いてこう語る。
「ここは私の孫娘に全てを任せてくれないか」
「総裁」
「心配するな、悪いようにはせん。それと今の私は総裁ではなくただの名誉職にすぎんよ」
さて、残るはその人物がどうしてこんな事をやっているかだ。
おっと!もう一つ調べておきたい事があったな。
「調さん。ついでというか……もう一つお願いがあるんだけど」
「なんですか宗吾さん」
俺は勇さんの遺骨が入っていた壺を調さんに手渡した。
「悪いけど、この壺を分析頼めないかな」
「いいですよ。私も大方何が出てくるか察しがついてますが」
「頼むよ。俺は真実が知りたいんだ」
これで三日前の回想はおしまいだ。
ではそろそろ元の状況に戻るとするか。
場所は中津家の本宅は大広間。
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