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僕と同じだった

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星見さんが街灯にぶら下がったゲームアプリの広告をチラリと見る。この道を真っ直ぐ進み、ロータリーを右折すれば駅に到着する。

「会話ですべてが解決できるとは思わないけど、それをきっかけに相手を知れば解決できることだってあるよ」
 
そう言って横目で僕を見て、僅かに首を右に傾けた。僕の表情を観察しているのか、返し言葉を待っているのかはわからない。月の光は、星見さんの顔の左半分だけを照らしている。
 
通りすがる人はたくさんいたが、不思議と騒音は聞こえない。実際に静かなのか、それとも他のことに意識が向いているせいで耳に入ってこないのか判断はできなかったが、僕たちの周りは怖いくらい静かだ。
 
溶け込むように身を任せて、無言のまま道を進んだ。落ち着いた表情でいる星見さんも口を開こうとはしない。ささやかな風が、星見さんの襟足を揺らした。
 
街灯の下を四回通過すると、ロータリーに当たった。止まっている車のほとんどがタクシーで、自家用車らしきものは三台しかない。駅から出てきたスーツ姿の男性が、手を上げてタクシーに乗り込んでいった。
 
漏れた光に引き寄せられて駅に入ると、人々の足音や話し声が束になって耳に飛び込んできた。一日の疲れを表情に出した人たちが、忙しなく歩いている。

「あの」

駅の改札の前で立ち止まる。
 
僕と星見さんの間に、二歩分の距離ができた。

「どうしたの?」

「イジメられてた女子生徒は、今はどうしてるんですか?」
 
問いを聞いた星見さんが、微かに笑う。まるでそう質問されることを待ち望んでいたようだった。

「あぁ、あの子はね」
 
通学カバンについたマスコットをじっと見つめたまま、細い左手の指先でそっと撫でた。

「今は楽しそうに学生生活送ってるよ。オシャレしたりカラオケに行ったり、同じ趣味の友だちと盛り上がったりしてね」
 
視線を僕に移して、白い歯を見せた。

「電車、来るって」
 
天井から吊るされた電光掲示板が、僕たちを急かすように点滅する。
 
構内に、電車の到着を知らせるアナウンスが鳴り響いた。周囲の人たちの歩くスピードが少しだけ早くなる。立ち止まっている僕の肩をかすめて、スーツを着た女性が改札へと向かっていった。

「早く行こ」
 
星見さんが、ポケットからICカードを取り出して駆け出した。改札を超えた先で、口を大きく動かしながら手を振っている。星見さんの声は、騒音にかき消されてこちらまで聞こえてはこない。

「……うん」
 
しっかりと目を合わせて、けれども星見さんには届くことのない小さな声で、僕は呟いた。
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