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あのお店

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「いやー、なんかお腹空いちゃったね」
 
星見さんは、腕を背中に回してグッと背筋を伸ばしていた。制服が緩やかなカーブを描いて、身体の線を強調する。

「いい時間だし、どこかでご飯食べてから帰らない?」

「もうそんな時間なんですね」
 
スマートフォンで時刻を確かめる。五時半過ぎに学校を出てから一時間半ほど経過していた。空は青藍と紅葉色が混じった色に変化して、夜を受け入れる準備をしている。
 
最後に食べたのは、母さんが作り置きしていった朝食だった。それ以降は、パンの一つも口にはしていない。電車に乗ったり長い距離を歩いたりしていたので、腹も十分減っている。

「良いですよ」

「決まりだね」
 
メッセージアプリを開き、母さんに連絡する。短い文章で、無事であることと晩御飯が必要ないことを伝えた。

「……それで、どこにしますか?」

「私、あんまり秋葉原のお店知らないんだよね」
 
買い物目的で来ることが大半なので、秋葉原で飲食店に入ることがないのだろう。お腹が減っても我慢をして、浮いたお金でグッズを買う方が有意義と考えてしまう。少ないお金でやりくりしている学生にとって、数百円する飲食店の食べ物を気軽に注文することは容易ではない。

「なんか良いお店知らない?」

「何が食べたいんですか?」

「うーんとね」
 
星見さんが眉間にシワを作って首を傾ける。特段食べたいものがあるわけでもないようで、あれでもないこれでもないと独り言を言っていた。

「何でも良いや」

「逆に難しいですよ」

「斎藤くんのオススメのお店とかない?」

「そうですね」
 
ファミレスや喫茶店が次々に思い浮かんだが、どこもありきたりでオススメとは言い難い。かといって、僕もそれほど秋葉原の飲食店について詳しくはなかった。
 
パッと思い浮かぶお店は一つしかない。

「じゃあ––––」
 
意を決して、口を開く。
 
星見さんと行く場所として適切かどうか迷いながらも、知っている店の名前を挙げた。
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