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希少な感情
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「私もああいう先生になりたいな」
星見さんは羨望の眼差しで先生を見ている。クラスで授業を受けていた生徒が見せなかったひたむきでまっすぐな視線だ。
「将来は先生になるんですか?」
「うん」
「意外です」
昨日の話に引っ張られていたせいか、てっきりイラスト関連の仕事につくのだとばかり思っていた。
「大学に行って教員免許を取るんだ。私、こう見えても国語得意なんだよね」
得意げに言った後、「だから、わからないことあったら聞いてくれていいから」と加えた。美術の先生を志望しないのは、顧問の先生に憧れているからなのだろうか。
「すごいですね、僕なんてやりたいことすら見つかってないです」
二年の時点で進路が確定していることに驚いた。自分にあった大学に入学して学んでいれば、漠然と目標が見つかると思っていた。数年後、社会に出た自分がどんな姿で何をしているのかなんて見当もつかない。
「そんなことないよ。たまたまやりたいことが見つかっただけだもん。偶然、目指す機会に出くわしただけだよ」
「でも、絶対いい先生になると思います」
僕が言うと、星見さんは少し視線を下げて「そうかな」と照れた笑顔を見せた。
見た目こそ派手だが、根はすごく真面目で思いやりのある人だ。小学生から高校までのどの学校に就職しても、生徒に好かれる先生になるに決まっている。楽しそうに授業を受ける生徒たちの姿が目に浮かんだ。
「でも、どうして先生になろうと思ったんですか?」
こんなにも早く進路が見つかっているのだから、何かきっかけがあったはずだ。国語が得意だということの他に、教えるのが好きだとか、憧れの先生がいるだとか、様々な理由があるのかもしれない。
「先生に色々と助けてもらったことがあるんだよね。その時に、教師って職業にしかできないことがわかったの」
「できないこと?」
「うん。勉強を教えるだけなら塾の先生でもできるでしょ? 学校の先生がやらないといけないことはもっと違うことだと思うんだ」
星見さんは、再び先生を見た。視線に気がついた先生は、「何?」とわざとらしく睨んだ後、ニヤッと笑った。
あの先生が、そんな表情を見せるのが以外で笑いがこみ上げてくる。星見さんも「なんでもないですよ」と白い歯を見せて言った。
「学校でしか学べない大切な感情を教えたいの。些細な幸せとか、大勢で何かを成し遂げる大変さとか、他人だけが持っている痛みとか、勉強以外にも大人になるまでに知っておかないといけないことがたくさんあるでしょ。そういうのを学べるのが学校なんだよ」
「そうですね」
学校に来るようになったからこそ、その言葉がより一層心に沁みた。数日前まで不登校だったが、短い期間で大切な感情をたくさんもらった。登校しなければ知り得なかった些細な幸せを、今もなお実感している。小さな幸せが蓄積していくこの感覚は、人と関わらなければ味わうことのできないものだ。
「だから、一人でも多くの人にそういうことを知って欲しいの。将来大人になった時に後悔しないためにも、私が率先して教えてあげたいんだ」
星見さんの視線には、熱がこもっている。
なんとなく、この部活に招待された本当の理由がわかった気がした。星見さんが先生だとするならば、僕は無知の生徒なのだ。理由はどうであれ、青春から脱落して成長が止まってしまった。そんなまっさらな僕の青春に、色をつけて華やかにしようとしたに違いない。星見さんに根付いている真実の優しさが、孤独だった僕に手を差し伸べた。
星見さんは羨望の眼差しで先生を見ている。クラスで授業を受けていた生徒が見せなかったひたむきでまっすぐな視線だ。
「将来は先生になるんですか?」
「うん」
「意外です」
昨日の話に引っ張られていたせいか、てっきりイラスト関連の仕事につくのだとばかり思っていた。
「大学に行って教員免許を取るんだ。私、こう見えても国語得意なんだよね」
得意げに言った後、「だから、わからないことあったら聞いてくれていいから」と加えた。美術の先生を志望しないのは、顧問の先生に憧れているからなのだろうか。
「すごいですね、僕なんてやりたいことすら見つかってないです」
二年の時点で進路が確定していることに驚いた。自分にあった大学に入学して学んでいれば、漠然と目標が見つかると思っていた。数年後、社会に出た自分がどんな姿で何をしているのかなんて見当もつかない。
「そんなことないよ。たまたまやりたいことが見つかっただけだもん。偶然、目指す機会に出くわしただけだよ」
「でも、絶対いい先生になると思います」
僕が言うと、星見さんは少し視線を下げて「そうかな」と照れた笑顔を見せた。
見た目こそ派手だが、根はすごく真面目で思いやりのある人だ。小学生から高校までのどの学校に就職しても、生徒に好かれる先生になるに決まっている。楽しそうに授業を受ける生徒たちの姿が目に浮かんだ。
「でも、どうして先生になろうと思ったんですか?」
こんなにも早く進路が見つかっているのだから、何かきっかけがあったはずだ。国語が得意だということの他に、教えるのが好きだとか、憧れの先生がいるだとか、様々な理由があるのかもしれない。
「先生に色々と助けてもらったことがあるんだよね。その時に、教師って職業にしかできないことがわかったの」
「できないこと?」
「うん。勉強を教えるだけなら塾の先生でもできるでしょ? 学校の先生がやらないといけないことはもっと違うことだと思うんだ」
星見さんは、再び先生を見た。視線に気がついた先生は、「何?」とわざとらしく睨んだ後、ニヤッと笑った。
あの先生が、そんな表情を見せるのが以外で笑いがこみ上げてくる。星見さんも「なんでもないですよ」と白い歯を見せて言った。
「学校でしか学べない大切な感情を教えたいの。些細な幸せとか、大勢で何かを成し遂げる大変さとか、他人だけが持っている痛みとか、勉強以外にも大人になるまでに知っておかないといけないことがたくさんあるでしょ。そういうのを学べるのが学校なんだよ」
「そうですね」
学校に来るようになったからこそ、その言葉がより一層心に沁みた。数日前まで不登校だったが、短い期間で大切な感情をたくさんもらった。登校しなければ知り得なかった些細な幸せを、今もなお実感している。小さな幸せが蓄積していくこの感覚は、人と関わらなければ味わうことのできないものだ。
「だから、一人でも多くの人にそういうことを知って欲しいの。将来大人になった時に後悔しないためにも、私が率先して教えてあげたいんだ」
星見さんの視線には、熱がこもっている。
なんとなく、この部活に招待された本当の理由がわかった気がした。星見さんが先生だとするならば、僕は無知の生徒なのだ。理由はどうであれ、青春から脱落して成長が止まってしまった。そんなまっさらな僕の青春に、色をつけて華やかにしようとしたに違いない。星見さんに根付いている真実の優しさが、孤独だった僕に手を差し伸べた。
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