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真面目さ
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星見さんは僕をじっと見つめたまま、指先を口元に当てて少しの間考え込んでいた。
「そんな深い理由なんてないよ」
口を開いたのと同時に、ガタンと電車が揺れた。保科さんがバランスを崩す。考えるよりも先に身体が動いて、気がついた頃には手を伸ばして支える体制に入っていた。
「……すみません」
意味もなく謝りながら、細い腕に触れた右手をそっと引いた。
「大丈夫、ありがとね」
「……はい」
今度はむず痒さが襲ってきた。様々な感情が出入りしているせいで、頭の中がオーバーヒートを起こしている。
仕切り直すように、星見さんが手のひらをたたき合わせた。ぴしゃりと音が鳴り、正面で座っていたスーツ姿の男性の視線を引く。マナーの悪い学生に向ける冷淡な目をしていた。
「斎藤くんなら真面目に部活動に参加してくれる気がしたからだよ」
雰囲気を察した星見さんは、声を抑えて言った。
「私だって先輩と一緒で、全力で活動と向き合ってくれる人が良かったの」
「……それで僕を誘ってくれたんですか?」
「うん。だから楽しそうに先輩と話してるの見た時は嬉しかったよ」
言い切った後、星見さんはつり革から手を離して反対側の乗車口を見た。外の景色は、夜の都会から人々が長い列を作って電車の到着を待つ駅構内へと変化している。
駅に入った電車は、徐々に速度を落としていった。電車待ちの列の先頭で待っている人たちの顔がしっかりと認識できるほどまで走行速度は遅くなっている。
星見さんがつり革から手を離してカバンに手を伸ばした瞬間、僕たちの会話はこれ以上続くことがないと悟った。
「じゃあ、私ここで––––」
声をかき消して、反対側の扉が開いた。座っていた人たちが一斉に立ち上がって、乗降口の先へと向かっていく。人の流れに乗って、星見さんも電車から降りていった。
「またね」
電車を降りた先で背伸びをして手を振って笑っている。けっして高くはないその影は、たくさんの人たちに隠れてはっきりと見えない。僕たちの間を行き来する人のせいで、言葉も動きも伝えることができなくなった。
「……また」
扉が閉じてから言っても、聞こえるはずがない。手を振ったとしても、僕の身長が低いせいで気付いてもらうことはできないだろう。
乗客の肩と肩の間から、窓の外の景色が見えた。星見さんがエスカレーターの横で立ち止まっている。乗っていた車両が遠のいていくのを眺めているみたいだ。
僕は小さくなっていく星見さんの姿を、見えなくなるまで目で追っていた。背伸びをしたり身体を不自然に動かしたりして、一秒でも長く視界の中に収め続けた。
別れた後でも、話したい話題が浮かび上がってくる。アニメやゲームの話もしたがったが、彼女がどういった人なのかも興味があった。
「……部活か」
星見さんやと交わした会話を思い出しながら、乗客に揉みくちゃにされながらつり革に手を伸ばす。
目を閉じて、部員たちに混ざって趣味を語る自分の姿を思い浮かべた。
「そんな深い理由なんてないよ」
口を開いたのと同時に、ガタンと電車が揺れた。保科さんがバランスを崩す。考えるよりも先に身体が動いて、気がついた頃には手を伸ばして支える体制に入っていた。
「……すみません」
意味もなく謝りながら、細い腕に触れた右手をそっと引いた。
「大丈夫、ありがとね」
「……はい」
今度はむず痒さが襲ってきた。様々な感情が出入りしているせいで、頭の中がオーバーヒートを起こしている。
仕切り直すように、星見さんが手のひらをたたき合わせた。ぴしゃりと音が鳴り、正面で座っていたスーツ姿の男性の視線を引く。マナーの悪い学生に向ける冷淡な目をしていた。
「斎藤くんなら真面目に部活動に参加してくれる気がしたからだよ」
雰囲気を察した星見さんは、声を抑えて言った。
「私だって先輩と一緒で、全力で活動と向き合ってくれる人が良かったの」
「……それで僕を誘ってくれたんですか?」
「うん。だから楽しそうに先輩と話してるの見た時は嬉しかったよ」
言い切った後、星見さんはつり革から手を離して反対側の乗車口を見た。外の景色は、夜の都会から人々が長い列を作って電車の到着を待つ駅構内へと変化している。
駅に入った電車は、徐々に速度を落としていった。電車待ちの列の先頭で待っている人たちの顔がしっかりと認識できるほどまで走行速度は遅くなっている。
星見さんがつり革から手を離してカバンに手を伸ばした瞬間、僕たちの会話はこれ以上続くことがないと悟った。
「じゃあ、私ここで––––」
声をかき消して、反対側の扉が開いた。座っていた人たちが一斉に立ち上がって、乗降口の先へと向かっていく。人の流れに乗って、星見さんも電車から降りていった。
「またね」
電車を降りた先で背伸びをして手を振って笑っている。けっして高くはないその影は、たくさんの人たちに隠れてはっきりと見えない。僕たちの間を行き来する人のせいで、言葉も動きも伝えることができなくなった。
「……また」
扉が閉じてから言っても、聞こえるはずがない。手を振ったとしても、僕の身長が低いせいで気付いてもらうことはできないだろう。
乗客の肩と肩の間から、窓の外の景色が見えた。星見さんがエスカレーターの横で立ち止まっている。乗っていた車両が遠のいていくのを眺めているみたいだ。
僕は小さくなっていく星見さんの姿を、見えなくなるまで目で追っていた。背伸びをしたり身体を不自然に動かしたりして、一秒でも長く視界の中に収め続けた。
別れた後でも、話したい話題が浮かび上がってくる。アニメやゲームの話もしたがったが、彼女がどういった人なのかも興味があった。
「……部活か」
星見さんやと交わした会話を思い出しながら、乗客に揉みくちゃにされながらつり革に手を伸ばす。
目を閉じて、部員たちに混ざって趣味を語る自分の姿を思い浮かべた。
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