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理解されて
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部活動の方針や今後の予定を聞いた後、解散までの時間を星見さんと先輩と話して過ごした。時々、他の部員が声をかけてくれたが、初対面の人間と会話をすることが苦手なので長く続くことはなかった。
「どうだった?」
踊り場の窓に映る景色を眺めつつ、星見さんが聞いた。人がいなくなった階段は、上がって来た時よりも広く感じられる。ボールを空高く飛ばす金属音が、グラウンドを超えて校舎まで届いた。今まで一度も経験したことのない、ひとけの少ない静まり返った放課後だ。
「楽しかったです」
部活動中、星見さんは僕と話しながら絵を描いていた。さすがはアニメーション部というべきか、絵のクオリティが高く、名前を挙げたキャラクターもサラッと描いてもくれた。先輩曰く、星見さんは部の中でもそうとう絵が上手いようだ。
「ならよかった」
下の階から、部員たちの声が聞こえる。相変わらず男女別々で行動していたが、みんな楽しそうにゲームやアニメや、それ以外の他愛もない会話を繰り広げていた。
「でも、なんか意外です」
「何が?」
「星見さんってオタクとは無縁の人だと思っていたから、こういう部活に入っているなんて思わなかったです」
クラスでの星見さんは、オタク文化と一切関わりがなさそうな陽気な女子高生だ。誰彼構わず声をかけて、その都度相手を笑顔にしていく。僕のような根暗には到底なることのできない、青春という言葉がぴったりの学生だろう。
そんな星見さんにも、アニメやゲームといった共通の趣味がある。同じ世代だと考えればそれほど珍しい話ではなかったが、自分の趣味が認められたようで気が楽になった。
「そうかな?」
「はい。チア部とかバレー部とか、もっと身体を動かす部活に入っているように見えます」
「無理無理。私、高校に入る前も文化部だし。運動なんて全然できないよ」
「……そうなんですね」
「絵ばっかり描いてきたからね」
「だからあんなに上手いんですね」
「まあそれもあるけど、でも上手くなったのは最近かな」
星見さんが小さく助走をつけて、三段上から飛び降りる。大きな音を昇降口に響かせて、両足同時に着地した。腕を背中に回したままこちらに振り返って、僕を待っている。
「勉強したんですか?」
「それも理由の一つかもしれないけど、答えとしては少し違うかな」
僕が隣を通り過ぎると、再び星見さんは歩み始めた。大きなガラス扉から夕日が差し込んで、星見さんの頬を紅く染める。
「私を受け入れてくれる人が増えたんだよ」
「受け入れてくれる人?」
「うん」
星見さんは大きく首を縦に振り、下駄箱の前で立ち止まった。
「誰かに求められて絵を描いてこなかったから、少し前までは一人よがりの絵しか描けなかったの。だから上手くはあっても、共感されるような絵ではなかった」
真剣に話す姿は、クラスでは見せることのない雰囲気を持っている。
「共感されることに良し悪しがあるわけじゃないけどね。ただ、リクエストを聞いたり、同じ趣味の人と話をしたりしてるうちに、自分の絵を客観的に見られるようになった」
下駄箱からローファーを取り出して雑に置き、「私はだけどね」と付け加えた。
「絵を描くにしても、人と話すのは大切だったみたい。それだけで視野が広くなって、自分以外の人の捉え方が見えてくるようになるから。評価されることだけが正義ってわけじゃないけど、他人から認められることで初めて得られるものもあるって知ったの」
「得られるもの?」
「自信とか喜びとか、気力とかかな」
星見さんがつま先を地面に二度当ててローファーを履くと、僕たちは昇降口を出た。先輩を含めた数人の部員たちは、すでに学校を出てしまっていた。校門へと続く道には、僕たちの影だけが残っている。
「去年までは、上手に描けるから絵が好きだったの。取り柄がないから励みになってたんだよね」
星見さんは風に吹かれた髪の毛を左手で払って言った。
枝についた葉っぱが擦れ合って音を立てる。校舎を囲む木々の影が、僕たちの足元で揺れていた。
「どうだった?」
踊り場の窓に映る景色を眺めつつ、星見さんが聞いた。人がいなくなった階段は、上がって来た時よりも広く感じられる。ボールを空高く飛ばす金属音が、グラウンドを超えて校舎まで届いた。今まで一度も経験したことのない、ひとけの少ない静まり返った放課後だ。
「楽しかったです」
部活動中、星見さんは僕と話しながら絵を描いていた。さすがはアニメーション部というべきか、絵のクオリティが高く、名前を挙げたキャラクターもサラッと描いてもくれた。先輩曰く、星見さんは部の中でもそうとう絵が上手いようだ。
「ならよかった」
下の階から、部員たちの声が聞こえる。相変わらず男女別々で行動していたが、みんな楽しそうにゲームやアニメや、それ以外の他愛もない会話を繰り広げていた。
「でも、なんか意外です」
「何が?」
「星見さんってオタクとは無縁の人だと思っていたから、こういう部活に入っているなんて思わなかったです」
クラスでの星見さんは、オタク文化と一切関わりがなさそうな陽気な女子高生だ。誰彼構わず声をかけて、その都度相手を笑顔にしていく。僕のような根暗には到底なることのできない、青春という言葉がぴったりの学生だろう。
そんな星見さんにも、アニメやゲームといった共通の趣味がある。同じ世代だと考えればそれほど珍しい話ではなかったが、自分の趣味が認められたようで気が楽になった。
「そうかな?」
「はい。チア部とかバレー部とか、もっと身体を動かす部活に入っているように見えます」
「無理無理。私、高校に入る前も文化部だし。運動なんて全然できないよ」
「……そうなんですね」
「絵ばっかり描いてきたからね」
「だからあんなに上手いんですね」
「まあそれもあるけど、でも上手くなったのは最近かな」
星見さんが小さく助走をつけて、三段上から飛び降りる。大きな音を昇降口に響かせて、両足同時に着地した。腕を背中に回したままこちらに振り返って、僕を待っている。
「勉強したんですか?」
「それも理由の一つかもしれないけど、答えとしては少し違うかな」
僕が隣を通り過ぎると、再び星見さんは歩み始めた。大きなガラス扉から夕日が差し込んで、星見さんの頬を紅く染める。
「私を受け入れてくれる人が増えたんだよ」
「受け入れてくれる人?」
「うん」
星見さんは大きく首を縦に振り、下駄箱の前で立ち止まった。
「誰かに求められて絵を描いてこなかったから、少し前までは一人よがりの絵しか描けなかったの。だから上手くはあっても、共感されるような絵ではなかった」
真剣に話す姿は、クラスでは見せることのない雰囲気を持っている。
「共感されることに良し悪しがあるわけじゃないけどね。ただ、リクエストを聞いたり、同じ趣味の人と話をしたりしてるうちに、自分の絵を客観的に見られるようになった」
下駄箱からローファーを取り出して雑に置き、「私はだけどね」と付け加えた。
「絵を描くにしても、人と話すのは大切だったみたい。それだけで視野が広くなって、自分以外の人の捉え方が見えてくるようになるから。評価されることだけが正義ってわけじゃないけど、他人から認められることで初めて得られるものもあるって知ったの」
「得られるもの?」
「自信とか喜びとか、気力とかかな」
星見さんがつま先を地面に二度当ててローファーを履くと、僕たちは昇降口を出た。先輩を含めた数人の部員たちは、すでに学校を出てしまっていた。校門へと続く道には、僕たちの影だけが残っている。
「去年までは、上手に描けるから絵が好きだったの。取り柄がないから励みになってたんだよね」
星見さんは風に吹かれた髪の毛を左手で払って言った。
枝についた葉っぱが擦れ合って音を立てる。校舎を囲む木々の影が、僕たちの足元で揺れていた。
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